【インタビュー:時事通信 湯川鶴章氏 後編「インターネットのこれから」】 | CAネットトレンド研究室ブログ

【インタビュー:時事通信 湯川鶴章氏 後編「インターネットのこれから」】

■第3回 ネットとメディアのこれから

 

Q:ソーシャルメディアのマネタイズについて仮説がありますか?

 

そんなの言ったら、盗まれるじゃないですか(笑)。うそですけど・・・。

 

広告は「エンターテイメントとしての広告」か「役に立つ広告」かの2つしか究極的にはないと思います。

ソーシャルメディアの中でこの2つの情報をどう出していくか。という考え方じゃないかと思います。

 

後者の「役に立つ」の代表例が、adwordsだったり、行動ターゲティングだったりだと思います。

adwordsもいうなれば行動ターゲティングです。

「検索する」という行動に対してのターゲティングですから。

 

だから、「ネットサーフィンという行動」へのターゲティングだったり。

「人とつながるという行動」へのターゲティングだったり。

いろんな人の行動をとらまえて、マッチした情報を提供していくという方法がこれから開発されていくんでしょうね。

 

というか、検索以外の行動からターゲティングする広告手法を編み出したところが、次のネットの覇者になるのだと思います。

ネットの商業利用が始まって最初のころは、ポータルに人が集まった。情報を収集するにはそれが効率的だったからです。それでポータルがバナー広告で売り上げを伸ばし、ネットの覇者になった。



でもユーザーがネットに慣れてくると、ポータルにない情報にアクセスしたくなった。そこで検索エンジンの役割が増した。しかも検索に広告を連動させる手法が開発され、大きな収益を上げた。

つまり、人を集め、その上で効率的な広告手法を手中に収めたところが覇者になってきたわけです。


今、 人はソーシャルメディアに集まり始めています。人々のネット利用時間の中で検索に当てる時間はわずか5%といわれます。残りの95%は、検索以外のことをしている。中でも大半の時間が、SNSや動画共有サイト、マイスペースなどのソーシャルメディアに費やされ始めているわけです。


人々がソーシャルメディアに集まり始めた。あとは集まった人向けに、有効な広告手段を開発するだけです。そうなればネットは次の段階に進化する。わたしが近著「爆発するソーシャルメディア」のサブタイトルを「グーグルを超えるウェブの新潮流」としてのは、そういう意味です。


「グーグルを超える」としたことに疑問を呈する読者が多かった。「妄想がかっている」というレビューもありました。でも10年前にネットが登場した際に「マイクロソフトの牙城が崩れる」と書いたときにも、読者から同じような反応を受けました。数年前に米ヤフーの全盛期が終わりグーグルの時代になると予測すれば、同様の反発を受けていたと思います。覇者の力が余りに強いと、その覇者の覇権が永遠に続くような気がするものです。でも次の時代は必ずきます。それも多くの人が予想しているより、ずっと早い時期にくるでしょう。

 

今のネットは図書館のようなものだと考えています。

「必要な情報は存在していて、膨大な中からいかに効率よく探すか」という場所です。

 

次は公民館になるのだと思います。

「情報を集める為にネットを使う」から「みんなが集まるのが楽しいからネットをやる」という変化です。

 

Q:「エンターテイメントとしての広告」でいくとどうですか?

 

「メントス×コーラ」とか。みんなが楽しめるネタをどれだけ用意できるかにかかっているのでしょう。

 

Q:テレビCMに代表される従来のマス広告はどちらかと言えば「エンターテイメントとしての広告」によっている気がします。ネットは「役に立つ」に強い印象がありますよね。

 

確かにそうです。ネットはターゲティングに向いたメディアですからね。

 

Q:いろいろなネットメディアやソーシャルメディアが登場していますが、どこが最終的に勝ち残るのでしょう?


わたしは、すべてのメディアは、ソーシャルメディアになっていくのだと思っています。そしてメディア間の争いの中で、ロイヤリティの高いコミュニティを持っているところが有利になるのだと思っています。

 

 

アメリカでYouTubeが登場したときに、最大のソーシャルメディアはMyspaceだったんですけど、YouTubeの伸びが速く、Myspaceの時代は終わったという論調が出たんです。でもMyspace 幹部は、「YouTubeMyspaceの背中におんぶされているだけ」と、こうした論調を一蹴しました。


ユーザーはYouTube上の動画の話を Myspace上で議論し、YouTubeへは動画を見に行くだけ。つまりYouTubeは、Myspaceの動画のストレージ場所になっているのだと言うのです。「YouTubeを超えるサービスを提供する必要はない。同等のサービスをMyspace上で提供するだけでYouTubeなんてだめになる」 と言ってましたが、確かにその可能性は否定できないと思います。iTunesやアマゾンでさえ、強大なソーシャルメディアの力を怖れるようになると思います。

 

「爆発するソーシャルメディア」の書評が気になってネット上でよく読むんですが、アマゾンにはこの本の書評は3本しかない。ところがミクシィには22本もある。書評のコミュニティはアマゾンからミクシィに移行したんじゃないでしょうか。


力を持つのはコミュニティを抱えるソーシャルメディアで、それ以外のサイトは、ストレージやEコマースといった機能をソーシャルメディアに提供するサービスプロバイダーでしかない、という時代になりつつあるのだと思います。

 

Q:テクノラティやKIZASIなどを見てみると、ネット上のコミュニティの話題の多くが既存メディアのものです。

 

既存メディアに情報が集まってくるのは、既存メディアに情報を提供すればその情報が広く伝播するという期待があるからです。読者、視聴者という既存メディアの周りのコミュニティに期待されているわけです。



ところがネット上では、報道機関とは別の場所にコミュニティが形成され始めた。そしてそのコミュニティ向けに情報が流れ始めています。

ただオフラインでの情報伝播力という点で、既存メディアの周辺のコミュニティはまだまだ有効だということです。



もしそのオフラインのコミュニティがオンラインに移行していけば、既存メディアの情報収集力が低下する可能性があります。

 

Q:そういう意味では既存メディアも「人が集まっている」ソーシャルだから価値がある。

 

そうですね。新聞でもテレビでも、受け手のコミュニティは存在してきました。そういう意味で、一種のソーシャルメディアだったわけですね。ロイヤリティの強い読者、視聴者コミュニティを持っているところが強い、というのは以前から真理なわけです。

ネット上にメディアが移行する中で、それがますます重要になるということなんだと思います。



(了)


【関連】
湯川鶴章のIT潮流

爆発するソーシャルメディア


【インタビュー:時事通信 湯川鶴章氏 前編】|CAネットトレンド研究室ブログ


【インタビュー:湯川鶴章氏 中編 「日本人特殊論はおかしい」】|CAネットトレンド研究室ブログ