カッコいい男 | フィリピンで働くシリアル・アントレプレナーの日記

カッコいい男

僕は大学生のときに、休学してフルタイムでベンチャーで働いた。
で、そのときの上司と先日久しぶりにお会いした。

その上司は、数年前別会社を立ち上げ、見事上場を果たした。
今は、その企業の役員をやってらっしゃる。

いろいろお話をお聞きし、たいへんためになった。
なかでもいちばん嬉しかったのは、成功しても全然昔と変わらなかったことだった。
・すごく低姿勢で、笑顔を絶やさず、周りに気を使ってくださっていた。
・そして、将来に対する挑戦を忘れていなかった。

それはすごくうれしかった。



で、共通の知人何人かの話も聞いた。

その中の1人、名前を、仮にAさんとしよう。

Aさんは、そのベンチャーで、僕とその元上司と、一緒に仕事をした人だった。
Aさんは、僕の5歳上。
本当にカッコよかった。
仕事ができて、遊びもうまくて、女性にもモテモテ。
友達は多く、色々な人から頻繁に遊びの誘いがかかる。
一緒に飲んでいるとAさんの携帯は常に鳴りっぱなしだった。

会社では、上司によく歯向かっていたが、同時に頼りにもされ、
僕のような後輩には、粗っぽい言葉を使いながらも対等に接してくれ、すごく優しかった。

Aさんのバイクの後ろに乗り、Aさんが学生時代によく行っていた食堂に連れて行ってもらい、
その後Aさんの家で僕の悩みを朝まで聞いてもらったこともあった。

Aさんは、本当にカッコ良かった。
当時、僕は二十歳。
僕にとって、Aさんはまさに理想の男、カッコいい男No.1だった。



その後、僕はそのベンチャーをやめて大学に戻った。
Aさんは、そのベンチャーをやめて自分の会社を立ち上げた。

Aさんの会社は、時代の波にうまく乗り、業績をどんどん伸ばした。
周りは皆当然だと思った。

だがAさんは、成功すればするほど、だんだんカッコいい人ではなくなってきていた。

Aさんは前から冗談はキツイ人だったが、
冗談が冗談にとどまらず、悪意さえ感じるほどしつこいものになってきた。
僕がものすごく忙しいときに無意味に時間を拘束するなど、
本当に勘弁してほしいと思ったことも何度もあった。

「Aさんは変わった」
「Aさんは、もはや僕の都合なんて考えられなくなってしまったのだろう」
「もはや、一緒にいたくない」

成功すると、人は変わるのかな、と思った。
だから、成功しても変わらない人が好きだった。



で、そのAさんの近況について、今日お会いした元上司にお聞きした。
元上司は、一瞬言い淀んで、それから、「Aは・・・死んだんだよ」 と言った。

僕はショックだった。
頭をガンと殴られた感じがした。

Aさんは、半年ほど前に、亡くなったそうだ。



聞いた話だから、その経緯は詳しく書けない。
だが、Aさんがどうして人変わりしたのか、ようやくわかった。
成功するとはどういうことなのか、孤独とは何なのかを、
Aさんの気持ちを想像し、悲しくなった。



大河ドラマの「龍馬伝」を見ていて、
幕末の志士は死ぬけれど、起業家は死なない。
向うに比べれば、こっちの方がヌルいよなぁ。 
と思っていた。

でも、そんなことはない、死ぬこともあるんだ。

「Aさん、成功しなかった方が、絶対に幸せでしたよね?」 とその元上司に言うと、
元上司も大きくうなずいた。



今でもずっと覚えている光景がある。

ずっと前、Aさんが自分の会社を始めたばかりのとき、
Aさんは忘年会を開き、僕を呼んでくれた。

まだ会社はAさん1人だった。
忘年会には、税理士や友人など、会社外でAさんを支えてくれている人たちが来ていた。
Aさんはみんなにこう言った。

「会社を立ち上げて、無事こうやって、年末を迎えることができました。」
「これも、皆さんのおかげだと思います。」
「ありがとうございます。」

Aさんはそう言って皆に頭を下げた。
その場にいたみんなはニコニコしていた。
8人くらいのこじんまりとした忘年会だったが、
僕は、「Aさん、やっぱりカッコいいな」 と思った。

この光景を、僕はずっと忘れない。



Aさんは、今も僕にとってヒーローです。
Aさんは、本当にカッコよかったです。
ご冥福をお祈り申し上げます。