ロボットのうた。(後篇) | 今週の俺が俺が

ロボットのうた。(後篇)

川鉄ネオンのくるぶし劇場。(物語篇)



「ロボットのうた。」(後篇)



あるときM国と隣りのN国のあいだで戦争がはじまりました。

青や黄色の山を越えて黒い飛行機がいくつも飛んできました。

虹色の川の川原や野原や町のあちこちでは銃や剣をもった兵隊たちが

くる日もくる日も傷つけあいました。

町は焼かれ花は踏みつぶされひとびとの顔からは笑顔がなくなりました。




   


ロボットは悲しみました。

ぼくの大好きな山がなくなっちゃう。

ぼくの大好きな川がなくなっちゃう。

ぼくの大好きな笑顔がなくなっちゃう。

けれどもロボットには飛行機や戦車をおしとめることも、銃や剣を折ることもできません。

ロボットにできることは、そう、歌うことだけでした。


ロボットは歌いました。

くる日もくる日も歌いました。

朝も昼も夜も力の限り歌いつづけました。

宇宙合金のボディがぎちぎち震えました。

ロボットののどに入れられた月の石は赤く燃えはじめました。


世界じゅうのやさしい歌がロボットのもとに集まりました。

世界じゅうの美しい歌がロボットの口から流れだしました。


その歌声はきんいろの温かい霧のように国じゅうに振りそそぎました。

いつしか兵士たちは戦うことをやめロボットの歌にききいっていました。

銃を捨て、剣を捨て、ロボットの歌にあわせて歌いはじめました。

M国の兵士もN国の兵士も歌いました。

町の若者も年寄りも、大人も子供も歌いました。

大合唱は大きな光になって国じゅうを包みこみ、戦争はおわりました。


M国にはまた平和な毎日がかえってきました。

木々はまた緑を生いしげらせ、野には花が咲き、川は虹色の輝きをとりもどしました。

でも、丘のうえのロボットはもう歌を歌うことはできませんでした。

何日も何日も休まず歌い続けたのどの月の石はすっかり燃えてなくなってしまったからです。


歌えなくなってしまったロボットのかわりに、いまでは町の人たちが丘で歌を歌います。

人びとはロボットのまわりに集まり、輪になって、歌をうたいます。

丘のうえにはロボットが大好きなみんなの笑顔があふれています。


この丘のうえから毎日新しい歌が生まれ、風にのって世界に流れていきます。

いまあなたが口ずさんでいるその歌も、この丘で生まれた歌かもしれません。



   


(おわり)


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二日間にわたっておつきあいいただきありがとうございました。


たいていのロボットはある特定の仕事をするためだけに生まれてきて、

その仕事だけを一生懸命やりつづけます。

ロボットのそんな愚直なひたむきさと悲しさが好きです。


吉田戦車の「一生懸命機械」はそんな世界を描ききった傑作ですね。

もし読んだことがないという人はぜひ読んでみてください。