しゅるりと帯を解く音がする。
襦袢一つになった女の項を、ただ黙って見ていた。
緩く結い上げた生え際から溢れる後れ毛に透けて、薄い小さな黒子が見えている。
どこかの隙間から薄く光が差し、ぼんやりと項だけが白く浮き上がっていた。
フッと微かに笑う気配がして、細く靭やかな手が手招く。
長い指が頬に触れた。
ほんの少し体を捻って、腕を伸ばすその顔は妙にぼやけて色がない。
指に紅を取り、その唇にすうっと載せてやる。
弧を描いて朱色の唇が動いた。
「――」
何を言っているのだろう。よく聞き取れない。
女が肩を竦めたその刹那、ドカドカと荒々しい足音とともに襖が開け放たれた。
視界が白く染まり、何も見えなくなった。
気付くと暗闇の中にいた。
「――」
女の声を掻き消すように雷鳴が轟く。
閃光に浮かび上がったのは、転がる男と包丁を手にした女。
身体に浴びた赤と唇の朱色が鮮やかで、そんな殺伐とした光景さえ美しいと思った。
言葉リスト 2
No.26 「朱色」「殺伐」「閃光」
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更新は相変わらず不定期ですが、どうぞよしなに。