マグロ屋勝負 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

マグロ屋勝負

ヤイコ     「コレと……コレなんか良いかしら?」


「本マグロ中トロ」と書かれた列のパックを物色しています。


女バイト    「そうですねぇ……それなんか良いんじゃないでしょうか?」

ヤイコ     「そうねぇ……コレ良いわよねぇ……。」


もう既に買う気満々です。

借りてきたようなシロウトバイトの営業スマイル&営業トークに真顔で答えています。


おや?


見ると「本マグロ中トロ」と書かれた紙には値段も書いてあるじゃないですか……。


「1500円」


ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~っっっっっっ!!!!!!!


先週ワタシが買った時は1000円だったのに……。

しかも3パック買うからって800円に値切ったのに……。


1500円って……約2倍じゃないですかっ!!




なぜ年末のこのクソ忙しい時に、一般のおっちゃん・おばちゃんがウロウロしても市場の人達が優しいか……

その理由の一端が垣間見えた気がします。


(一応このマグロ屋さんの名誉の為に断っておきますが……

 この「本マグロ中トロ」のパックは、スーパーで買ったら3000円弱は間違いなくするシロモノです。)



おや?


臨時バイトのお姉ちゃんの後ろ……いつもの梅干ばあさんおばちゃんが監督してるじゃありませんか。


タロウ     「お母ちゃんっ!!お~いお母ちゃんっ!!」


ええ……間違ってもヤイコさんを呼んでいるわけじゃありません。

マグロ屋のおばちゃんを呼んでいるのです。


バイトのお姉ちゃんに値切りトークをかましても、値切る事なんか出来ません。

バイトちゃんにはそんな権限ありませんからね。


倒すならボスキャラです。

ボスと直接対決です。


ワタシに気付いたおばちゃんが寄って来ます。


おばちゃん  「毎度、いらっしゃい。」

タロウ     「毎度毎度。」


バイト2人も入れてるせいか……いつもより忙しいはずなのに、おばちゃんは余裕です。


タロウ     「市場はすっかり正月だねぇ……。」

おばちゃん  「そうだろ?もうひっちゃかめっちゃかさ……。」


そう言いながらも嬉しそうです。

そりゃあ儲かってますからね。普段1000円のマグロが1500円ですから。


さて……


タロウ     「マグロもすっかり正月だねぇ……。」


普通のお客さんには聞かれても見えないジャブを打ち込みます。


おばちゃん  「……っ!!」


ピクリと目がマジになりました。

通じた様子です。


おばちゃん  「まぁ……いつも兄ちゃんが買ってくヤツより『ちょっと』良いヤツだからねぇ……。」


いや……そんな事はありません。

どう見てもいつもと同じランクの中トロです。


タロウ     「『いつものヤツ』は無いの?」

おばちゃん  「え?……『いつも』の?……………いつものはねぇ……。」


冷蔵ケースを一周探すおばちゃん。


おばちゃん  「『いつも』の無いわ。」


ええ。

そりゃ無いでしょ。


「いつも」のが「いつも」の場所に置いてありますから……。

違うのは値札だけですから。


タロウ     「まぁいいわ……じゃあコレと……。」


ヤイコさんが手に持っている本マグロ中トロ(1500円)2パックを奪い取り……

自分で選んだ1パックを足しておばちゃんに差し出して……矢継ぎ早に続けます。


タロウ     「本マのもうちょっと赤いトコ無いの?」

おばちゃん  「赤いトコかぁ……。」


と……その会話を聞いていたバイト姉ちゃんが……


女バイト   「赤身ならココにありますよぉ。」


と……いつもは500円(今日は1000円)のパックの山を指差します。


いや問題外。

……だいたいそれキハダだから。


おばちゃん  「……………。」

タロウ     「……………。」

おばちゃん  「本マの赤かぁ……。」

タロウ     「そう本マの。」

おばちゃん  「いくつ要るの?」

タロウ     「パックなら5個くらい。」

おばちゃん  「ちょっと待ってな。」


そう言うとちょっと渋そうな顔をして、奥のゴッツイ冷蔵庫に体ごと消えていきます。


タロウ     「お母ちゃんっ!!『いつも』のヤツなぁ~っ!!」


そのやり取りの一部始終を、不思議そうな顔をして見ているヤイコ義母さん。


ヤイコ     「で……タロちゃん買ったの?」


と首を傾げています。


タロウ     「今交渉中。」

ヤイコ     「え?……交渉してたの?」

タロウ     「うん。」


水面下ですから。


おばちゃん戻ってきました。

マグロの赤いの5パック抱えて戻ってきました。


タロウ     「ああ……コレコレ。」


同じ赤身でも、キハダのそれとは赤具合が違います。


おばちゃん  「本マの赤は本当は注文分しか無いんだけどね……。」

タロウ     「悪いね……お母ちゃん。」


トロ身と違って赤身は色が変わりにくいので、仕入れの止まる正月前なんかは人気商品なのです。


タロウ     「じゃあいつもの『コレ』で……。」


右手で「コレ」の合図を送ります。

(市場では独自の指の格好で、片手で1~10までの数を表す「暗号」のようなものがあります。

 詳しくは書けませんが)


それを見ておばちゃん……


おばちゃん  「まぁ……しゃあないわ……。」


そう呟くと中トロ3パックと赤身5パックを袋に詰めます。


タロウ     「じゃあ一万円からでお願い。」

おばちゃん  「ああ……ちょっと待って……。」


電卓を取り出して……


おばちゃん  「中トロが3……本マの赤が5……と……。」


手持金庫からお札を数えると……


おばちゃん  「じゃ……これおつりね……。」


とワタシの手の中にねじ込むように突っ込みます。


それを確認しておばちゃんに「アリガト」の合図をして足早に立ち去ります。

その後をヤイコ義母さんとイチコを抱かえたユミコが続きます。


タロウ     「じゃあお義母さん……後で1600円頂戴ね。」

ヤイコ     「え?」


とりあえずマグロ屋では完全勝利です。




さて……次は魚屋へレッツゴー。




続く