タダ飯 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

タダ飯

2006-05-08 18:22:55


店は夕御飯のサラリーマン・作業員……それと一杯飲みに来た近所のおっちゃんで、

そこそこの忙しさの中を漂っていた。


そんな中……


ガラガラガラ~~~


芝田      「横井庄一、恥ずかしながら……。」

タロウ     「もうそれはいいよ……。」


ピシャリと叩き落とす。

二度目は聞かない。


タロウ     「いやぁ……それにしても学校終わった後にありがとね……。」

芝田      「いえいえ……タダ飯の魅力は大きいですわ。」


そう言いながらカウンターの一番端に腰掛ける。


タロウ     「今ちょっと忙しいからさ……先に御飯食べてくれる?」

芝田      「いやぁ~~~そんなん言われると……ご馳走になります。」


ご満悦でカウンターのメニューを手に取ると……何にしようか物色している。


芝田      「じゃあオレ……一口トンカツ定食で……。」

タロウ     「……なに?」

芝田      「……せやから一口トンカツ定食で……。」

タロウ     「……残念……。」

芝田      「え?無いの?」

タロウ     「無いの。」


ちょっぴりションボリ顔で、次のメニューを選ぶ芝田君……。


芝田      「じゃあミックスフライ定食で……。」

タロウ     「残念……。」

芝田      「え……これも……。」


少々驚きの表情……。

「ええのんか?何でもあるはずの定食屋が……ツーストライクノーボールでええのんか?」とでも言いたげ。

いえいえ……一口カツもミックスフライもシッカリ仕込んであります……ただ……


タロウ     「いや……キミには『選択権』が無いの……

         タダ飯は有り合わせで作る『賄い飯』と決まってるの。」

芝田      「えぇ~~~っ!!」


うなだれる芝田君……。


タロウ     「まぁ黙ってそこに座ってなさい。……隙みて作ってあげるから。」

芝田      「……はい。」


寂しそうに「お客さんメニュー」をしげしげと眺める芝田君……。

あまりに可哀想に見えたので……。


タロウ     「はい……。」


小さめのグラスに一杯、生ビールを注いでやる。

これでご機嫌回復だ。


タロウ     「そこのカウンターの端っこに……ホラ……マルザカヤの紙袋があるだろ……。」

芝田      「はい?」

タロウ     「そこの中に、オレの裁判の時の全部の資料と……更に中の紙袋の中には、

         今回の訴状・答弁書の写し……それと次回弁論の際に活躍しそうな写真とかが

         入ってるから見といて。」

芝田      「了解です。」


身を乗り出して紙袋を取ると……


芝田      「エッライ重たいですなぁ……。」


と膝の上に抱え込む。


グラスのビールをチビチビと飲みながら……真剣なまなざしで書面を追う。


芝田      「いやぁ……実際他人の訴状を直接見るなんて……。」


随分と感慨深げ……。


まぁ訴えられた本人にしてみれば……そんなに有り難がられるモノでも無いのだが……。


タロウ     「それからコレも見とく?」


と……ぶ厚めの透明な袋に入った上質紙の束を棚から取って渡す……。


芝田      「何ですの?……コレ……。」

タロウ     「いや……もうブログで読んでるだろうけど……オレの書いてた【実録】ネコ裁判の最終原稿。」

芝田      「ほっほ~~~っ!!」


爛々と目を輝かせて袋から取り出す。


タロウ     「ホラ……パソコンより紙のほうが読みやすいだろ……一応まとまってるし……。」

芝田      「……………。」


既に最終原稿のレア度に虜になっている様子。

大きく押されたマル秘・最終稿のスタンプや、時々書き込まれている赤字が珍しくて仕方ないようだ。


タロウ     「それ……門外不出だから……頼むよ。」

芝田      「……………はいはい……。」


返事はするが気持ちは在らず……。


正直、本の内容云々ではなくて……

「出ていない物を人より先に手にできる珍しさ」が彼を夢中にさせているのだろう。



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7時過ぎ……魚のアラ……骨付きの鶏肉……山のような野菜……適当な材料で芝田君用に一人鍋を作る。

ドップリと原稿を読むのに夢中になっている。


タロウ     「お待たせ……汚さないようにちょっと原稿片付けて……それから喰っちゃって。」


と……白い御飯と小さな鍋を差し出す。


芝田      「おぉ~~~っ!!鍋っすかぁ……。

         独り暮らしのオレには夢のメニューっす……。」


と大喜び……。

さっきまで好きなメニューが喰えなくて、落ち込んでいたのがウソのようだ。


芝田      「タロウさん……申し訳ないんですが……。」


本当に申し訳なさそうに空になったグラスを差し出す。


タロウ     「本当に申し訳ないな……もう一杯だけだぞ。」


と苦笑いでおかわりを受諾。
旨そうにハフハフホフホフと平らげる芝田君は、とても幸せそうに見えた。



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8時を回り……店のお客も随分と落ち着いてきた。

時々常連さんがおつまみを一品二品、オーダーする位だ。


カウンターを挟んで芝田君の前にドッカリと陣取ると……


タロウ     「どう?」


と声をかける。


芝田      「いや……結構旨かったっすよ……。」


とご飯の感想……。


芝田      「こんな旨いモンばっかり喰うてちゃタロウさんも太るはずですって……。」

タロウ     「いや……そうじゃなくてさ……。」


……大きなお世話だ。


芝田      「ああ……結構おもろいっすよ……。」


と原稿の感想……。

ほとんど読み終わった様子の原稿の束を指し示す。


タロウ     「いや……それでもなくてさ……。」

芝田      「ああ…………。」


「ああ」とは言ったものの……次の言葉が出ない様子……。


芝田      「……………。」


芝田      「……………。」


芝田      「……………。」

タロウ     「おいっ!!……裁判で何をどう……どの書証をどう主張するかの方針は見えたのかっ!?」

芝田      「え……あ……はぁ……。」


タダ飯喰って……タダビール飲んで……タダ最終原稿読みふけって……

今日はそれで終わりじゃあるまいな!?


少しのイラ立ちと「何やってんの!?」の気持ちを「最近の若モンはっ!」と言わんばかりにぶつけてみる。


ちょっぴり涙目になりながら……


芝田      「そんなん昨日の晩に、カナコとシッカリ話し合うてますよ……。」


え?なに?




以下次号……「戦法」


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