釣った魚
土曜の朝9時……不意に店の電話が鳴りました。
(まぁ電話なんてのはだいたいが「不意」ですがね……「今から鳴りますよー」なんてアナウンスは
未だかつて聞いたことがありませんし……。)
声の主は常連でお友達の鈴木さんです。
鈴木 「今、岸に上がったんだけどさ~~~。オレ今日メジ釣っちゃってさ~~~。」
と上機嫌。
鈴木 「家に帰らずに今日のメンバーで、そのままお前の店に行くからさ~~~捌いてくんない?」
と……。
タロウ 「はいはい~。」
と二つ返事でOK。
釣り好き太公望の中には……釣るのは好きだけど、その後は無関心って人が結構います。
UFOキャッチャーは大好きだけど、景品はそのまま人にあげちゃうって人と同じ心理です。
あの海賊コブラも
「金庫を開けるのが楽しいんだ。中にお宝があるかどうかなんて関係ないさ。」なんて仰っています。
ご多分に漏れず、この「太公望鈴木さん」もそんな一人。
釣った魚で一杯やればそれでOK。
残りは「捌き賃」として山田屋の仕入れになります。
さて……包丁を研ぎながら、今日の釣果を待ちます。
「メジマグロって言ってたな……。」
メジマグロ……高級魚といわれるクロマグロの幼魚で、体長30~100cm体重5~10kgほど。
でも、いくらクロマグロの子とはいえ……所詮子供。
脂のノリ具合もイマイチでトロ・中トロ箇所でも味は薄め。
市場で買えばキロ400~600円ってところでしょうか……。
「まぁ4~5人で一杯やるには半身で充分だな。月曜のランチはマグロのフライか……。」
などと見積りしながら待ちます。
12時少し前……。
鈴木さん到着。
鈴木 「お待たせ~~。コレだよコレっ!!早くやっちゃってくれよ。」
と……お連れの人と3人で、重そうにブルーシートのようなものを引きずって来ます。
タロウ 「え?なにそれ?」
鈴木 「だからメジだよ。メジっ!!」
そう言って、ドッサリと降ろされたシートをめくると……魚が一匹。
イチロウサイズのお魚ちゃんが寝てます……。
聞くと、体長150cm……体重45kg……。
メジの域を超えてますけど……。((;゚Д゚)ガクガクブルブル
鈴木 「今日、コレ一匹なのよぉ~。」
とうれしそうな顔……
2匹も3匹もいたら、それこそエラい事なんですけど……。
鈴木 「いやぁ~~船頭さんもビックリしてたよ。」
そんな事よりどうやって捌くんですか?
乗るまな板ありません……。
背中から脊椎まで届く包丁ありません……。
いやね……卸市場で2mくらいのマグロはゴロゴロしてますよ……ええ……。
マグロ捌きの本職さん達は、日本刀かと間違えるような包丁持ってますよ。
それで体重掛けてグイグイ捌いてますよ……ええ……。
でもまさか自分が捌くハメになるとは……
((;゚Д゚)ガクガクブルブル
普通の出刃と柳では歯が立ちそうにもないんですけど……
((;゚Д゚)ガクガクブルブル
立ち尽くすワタシを見て……
鈴木 「大きくても骨のある場所は一緒だろ?」
と肩を叩く鈴木さん……。
ええ……仰ることは間違ってませんけどね……。
だからってあーた象が捌けますか?
そんなワタシを無視するかのように……持ってきたブルーシートのがカウンターに無理矢理広げられ……
マグロ解体ショーの始まり……☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ
一番デカい出刃だって刃渡り20cm程ですからね……解体しながら不謹慎にも思っちゃいましたよ。
このマグロをやっつけられたらオレ……
「イチコもイチロウも捌けるんじゃないか?」と……。
魚を押さえる人……身を持ち上げる人……必死こいて包丁入れるオレ……。
小一時間過かって、なんとか終了。( ´ー`)フゥー...
そしてマグロ祭りは日が暮れるまで続きました。
いつもは「残りはお店で使ってね」という鈴木さん達ですが……さすがに今回に限っては
ブロックにしたマグロを持って帰って頂きました。
いや……半身約20kg……山田屋でやっつけるにしても十二分に多過ぎますから……。
鈴木さんと関係のない常連さんにも配りまくっちゃいましたよ。
勿論、細川家にも。
当分山田屋周辺のスーパーでは、マグロの売れ行きが悪いかも……。
ええ、今晩もツマミはマグロです。
明日は本編……「タダ飯」