第一回口頭弁論---その6---書証3 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

第一回口頭弁論---その6---書証3

2006-05-07 14:19:49


書記官     「このテープを書き起こしたものが、書証3ですね……。」


手元の書類を見ながら、裁判官と司法委員に説明する書記官。

裁判官は、書証3と見られる書面を取り出すと、ザザッと目を通している様子。


その作業が終わると原告:川畑の方を向き……


裁判官     「コレ……書面で提出されてますから、音読しなくても良いですね。」


と一言。


「良いですね?」の「はい・いいえ」選択の疑問文ではなく……

この「良いですね。」は「はい」しか選択肢のない確認の聞き方だった。


川畑      「……ぁ。」


一瞬何かを言おうとする川畑。

だが、メガネ越しに壇上からガン見する裁判官の目は……。


川畑      「はい。」


と言う素直な返事を、半ば強引に誘い出した。


川畑      「……………ぁ……ぁ。」


「はい」と返事をした直後の川畑だが……激しく後悔をしている様子。

どうやら音読して強調したかったに違いない。


川畑      「……………ぁ……ぁ。」


何かを言いたそうに原告席に座ったままキョロキョロソワソワ……。

ペンを持っていない左手が挙手しようかどうか迷っているような感じだ。


裁判官     「えー。この書証3ですが……原告が記録・書き起こしたものに間違いありませんか?」


だが、そんな川畑の現状など……感じながらも全く無視した様子で話し始める裁判官。


ひょっとしたらハンコの一件で、奇想天外な川畑の言動と……

これから起こるであろう破天荒な審理を予感したのかもしれない。


川畑      「ぁ……はい……間違いありません。」

裁判官     「そうですか……。」


そう短く言うと、もう一度書証3に目を通す裁判官。





……………。





その微妙な沈黙に耐えられなくなったのか……ついに……


川畑      「あっ!!あのっ!!その書証についてなんですけど……。」


と痺れを切らせて堰を切る。


その様子を書証を読む横目でチラリと確認しつつも……


裁判官     「あ……後で聞きますから、とりあえず……。」


と受け流しの制御をする裁判官。


川畑       「………ぁ……はい……。」


ピタリと止まる川畑。

まるで愛犬ポチが「マテッ」と言われたようだ。


裁判官……開廷して30分も経っていないのに、実に見事な扱いである。


裁判官     「この書証は原告……アナタと被告の妻との会話の記録なんですね?」


そして何事も無かったような流れで進める。


川畑      「え……ええ……そうです。」


流れに逆らわずに返答する川畑。

今の素早い「クギ」が効果バツグンの様子で刺さっているようだ。


川畑、ある意味……しおらしい。


裁判官は、川畑の返事を受けると……クルリと被告席の細川さんを見て……


裁判官     「被告……この会話の中の『被告妻』と記されている部分は、

          被告の奥さんの発言で間違いなんでしょうか?」


そう質問した。


急に呼ばれて一瞬「はっ!!」っとした細川さん。

だが、すぐに気を取り直して……


細川ヨシヒロ 「ええ……間違いありません……。

         妻がそのような電話を受けて……そのような会話をしたと言っておりました。」


と返す。


裁判官     「ふむ……。」


ボールペンの後ろで、右のモミアゲを掻きながら裁判官は小さく呟いた。

そして再々度、書証に目を通すと……


裁判官     「原告……。」


と向き直る。


裁判官     「この書証の記録が原告と被告の妻のものであるとして……。」

川畑      「はい……。」

裁判官     「これが何か?」

川畑      「?????……………。」


「これが何か?」

英語で言えば「So What?」


川畑最大級の書証を「で?」と言われたようなものだ。


その裁判官の問いを理解しているのかいないのか……

鳩豆な表情になる川畑。


そしてさっきと同じようにメガネ越しに壇上から川畑をガン見する裁判官。




波乱万丈は必至である。




以下次号……「第一回口頭弁論---その7---空転」