飼い主は誰? | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

飼い主は誰?

2006-03-14 15:28:04


とりあえずケータイのムービーデータをワタシのケータイのメモリーカードにコピーする事にする。


その作業をしつつ、ヨメさんに聞いてみる。


タロウ     「この白いネコなんだけど……多分さっき見かけたネコだと思うんだよね。」

ヨメさん    「タロちゃん見たのかい?」


見た。

覚えがある。


タロウ     「うん……あの後、駐車場を見に行って……

         その帰り道に裏の工場の塀の上にいるのを見た。」
ヨメさん    「へぇ~~~。あそこにいたのかい……。」

タロウ     「この後、移動したのかな?」

ヨメさん    「多分そうだろう……。」


そう……多分さっき見た塀の上の白いネコが、この車の上にいたネコだろう。

間違いない。


なぜか……。


シロクロやシマのネコは結構見るが、真っ白なネコと言うのはなかなかいない。

遺伝的な要因なのかはわからないが……今まで沢山、ウロウロしているネコを見ていても

真っ白なネコにはなかなか遭遇しないものなのだ。


黒ネコがネコ100匹のうちに1~2匹いるとしたら……真っ白なネコは1000匹に1~2匹くらいだろう。


それくらい白ネコは珍しい。


ヨメさん    「若かったかい?」

タロウ     「若かったと思う。」

ヨメさん    「大人しかったかい?」

タロウ     「大人しかったと思う。塀の上で寝てて……横を通り過ぎても知らん顔だったから。」

ヨメさん    「じゃあ間違いない……それだ。」

タロウ     「やっぱり……。」


コピーしていたケータイのメモリーカードを返しながら答える。


タロウ     「ヨメさんさぁ……。」

ヨメさん    「ん?」

タロウ     「この白いネコの飼い主って……知ってる?」


返されたメモリーカードを四苦八苦と戻しながら聞いている。


ヨメさん    「うぅ~~~ん……。」

タロウ     「どうなの?」

ヨメさん    「それがねぇ……。」


やっと収まった模様。


ヨメさん    「このネコは見かけるんだけどね……ココ最近……。」

タロウ     「うん……。」

ヨメさん    「飼い主が誰かはわからないんだよね……。」

タロウ     「ふむ……。」


この川畑の行動は、間違いなく証拠写真を集めている。

……つまり、この白ネコの飼い主を訴える準備をしていると言う事だ。


飼い主にこの事を教えないと、第二の「山田タロウ」が生産されてしまう。

これは由々しき問題だ。


なんとかしなくては……。


ヨメさん    「ほらさ……イヌならヒモつけて散歩してるから……

         イヌと飼い主がすぐに結び付くんだけどさ……ネコは勝手に一人で歩いてるだろ?」

タロウ     「そりゃそうだね。」


確かに……ネコにヒモつけて散歩している光景は、見た事が無い。


ヨメさん    「そこが問題なのよ。」

タロウ     「なるほど。」

ヨメさん    「まぁ……飼いネコである事には間違いないだろうね……うちの商品狙ったりしないから。」


ヨメさんの八百屋は「八百屋」とはいえ、ちょっとした惣菜や干物・乾物も置いている。

時々野良ネコに狙われるものだから、この町内のネコの顔と性格は良く知っているのだ。


ヨメさん    「お客さんにも聞いとくよ。すぐに分かると思うからさ。」


立ち上がってケータイをエプロンのポケットにしまうと、取り出す手で伝票を引っ張り出した。


ヨメさん    「じゃ。タロちゃんこれ。」


ニンジンとゴボウの伝票である。


タロウ     「あ……それは母さんに……。」

ヨメさん    「あ……そう。」


クルリとヨシコの方に振り返ると、何食わぬ顔で伝票を差し出す。


ヨシコ     「なにこれ?」

ヨメさん    「今の仕入れの伝票。」


伝票を受け取り、しかめっ面で見つめるヨシコ……。


タロウ     「……………。」


イヤな空気が漂う。


ヨメさん    「……………。」


どうしていいかわからない様子。


ヨシコ     「……………。」


暫く黙って考えた後……無言のまま伝票をヨメさんに押し返すと……


ヨシコ     「キンピラ・ゴボウサラダ・豚肉のロール巻フライ・エビと野菜のかき揚げ・ゴボウハンバーグ」

ヨメさん    「はい?」

ヨシコ     「あと、筑前煮と炊き込み御飯。」

ヨメさん    「えっ?」


有無を言わさず続ける。


ヨシコ     「アンタんところ4人家族だろ?」

ヨメさん    「そうだけど……。」

ヨシコ     「この材料使って毎日4人分のおかず作ってやるからさ……

         この伝票は無かった事にしない?」
ヨメさん    「はっ?なにっ?」


事態が飲み込めていない様子。


ヨシコ     「うちはタダで材料を頂く。ヨメさんのところは、うちで作ったおかずを毎日持って帰る。

         一週間、晩の献立を考えなくても良いって寸法さ。

         どうだい?お互い損な取り引じゃ無いと思うけど?」


少し考えてヨメさん……。


ヨメさん    「…………乗った。」


と伝票をクシャリ。


ヨシコ     「よっしゃ。」


ポンッとヨメさんの肩を叩く。


ヨシコ     「じゃあ後でキュウリ・レタス・タマネギ持ってきて頂戴。」

ヨメさん    「えっ!?」

ヨシコ     「だって足らないだろう?ニンジンとゴボウだけじゃ……。」

ヨメさん    「えっ!?……それもタダで?」

ヨシコ     「勿論じゃないかぁ~~っ!」


と……もう一度、今度は両手で肩をポンッと叩く。


ヨシコ     「アンタんところは育ち盛りの男の子が二人もいるんだろ?

         普通の6人前だよねぇ~~~。」

ヨメさん    「……まぁ……ねぇ……。」

ヨシコ     「なにもムキエビやら挽肉やらまで持って来いって言ってるんじゃないんだからさぁ!!」


叩いたまま置いた両肩の手で、ヨメさんを揺さぶる。


ヨメさん    「あ……はぁ……はい……。」


満面の笑みを浮かべると……


ヨシコ     「交渉成立だねっ!!」


と無理矢理握手。


「さすが母さん……」と思うと同時に……

「母さんがヨメさんでヨメさんが母さんじゃなくて良かった」と……心の底から思った。




以下次号……「【続】ネコ裁判」