「トミ黒」ができるまで~10年間公園で暮らした猫 | 日々是ねこパト (sakki が繋ぐ地域猫活動)

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野良猫1匹を巡って、いろんな人が関わっている。
それを繋げていくと、町がそのまま「形のないシェルター」になるよ。
小さな町で、sakkiが紡いだ“猫を巡るコミュニティ”のお話



今日は、自慢話をしますにひひ


私は、他人の自慢話を聞くのが結構好きな方です。

でも、中には、他人の自慢話など御免だ、という方もいるでしょう。


人はそれぞれですけれど、我が家のトミ黒」のお話をすればきっと自慢話になってしまうな~と思ってべーっだ!。 


よろしければどうぞ、お付き合いください~ニコニコ



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            トミ黒。3.8キロ。オス

            公園時代はトミー、黒ちゃん、マル、などたくさん名前を持っていたが

            何と呼ばれても意に介さぬようだった。

            公園の黒ちゃんとトミ黒が同じ猫だということを、不思議に感じることがある


トミ黒を昨年12月3日に我が家に迎えてから、はや3ヶ月近くになります。


左目周辺に大量の膿が溜まったトミ黒を捕まえて、通院させたのは11月のことでした。

そのまま3週間近く入院。 休診日は我が家にステイさせました。


退院した後トミ黒をどうするか?   …散々悩みましたが、結局私には、

11歳のトミ黒を公園に返すことはできませんでした。(→「ターニング・ポイントの迎え方 」)。



今、トミ黒は我が家でのんびりと暮らしています。

一時お岩さん状態だった左目は、いまだに少し鬱陶しそうです。


日中はキャットタワーでひたすら、眠る、眠る。

ワケあって、0時を過ぎてからリビングに出て、トミ黒の運動タイムが始まります。


猫ジャラシを振ると、リビング中を駆け回り、飛び上がり。しかし、11歳の体力では3分が限度です。

サッシを開けてやると、網戸越しに美味しそうに冷気を吸い込みます。

窓から外を眺めますが、外に出たいとは言いません。


その後は膝の上でアンモナイトになって、PC作業が終わるまでゆっくりもみもみを繰り返しています。

そんなトミ黒を見ていると、一日の疲れがゆっくり解きほぐされていきます。



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        深夜のアニマルプラネットに猫が出て来て、猛烈に反応したトミ黒。

        裏側に回り、猫を捜す。それから画面にキス。

        我が家の先住犬には見られない行動。猫と犬とでは、認識の仕方が違うのだろうか?



これまたワケあって私は猫部屋で寝るのですが、暗闇の中、しばらくネズミ相手にドリブルをしています。

動き回る気配と首輪の鈴の音を感じながら、眠りに落ちる過労の飼い主。


何時間かしてふと目覚めると、枕の左側に座って、私の顔を見下ろしています。

「入りますか?」と布団を開けると、するっと潜り込み。


すべすべであったかいトミ黒を脇に抱いて寝るのは、至福です。 ぐるるる…と低音のBGM付き。



ところがふと目覚めると、また枕の左に座っています。やり直しです。朝まで、やり直しが何回か続きます。


こうして、飼い主は慢性的な寝不足に陥りますガーン。 トミ黒はいまだに、完全夜行性動物です。

公園でもこうして、浅い眠りと活動を繰り返しながら、夜明けまで過ごしていたのでしょう。



はじめの内は、ウンチタイムも真夜中でした。 これには正直困りました。

拾わずにいると、狭い猫部屋は窒息しそうになるのです。

なので砂の音がしたら、ふらふらしながらもとにかく起きあがります。


…試練でした。 トミ黒は下痢しやすい体質なので、便の状態を見逃したくなかったのです。


「ああ、今日は良いウンチですね~上出来ですグッド! など語りながら、

寝ぼけ眼をこすって片付ける私の横で、トミ黒は神妙な顔をして作業を見ています。



か、可愛い過ぎる…ラブラブ!ドキドキ


まるで、何年も一緒に暮らしていたかのように、リラックスして私を包み込む我が家のトミ黒。



そういうトミ黒を見ていると、何とも言えない感情に捉われます。


あなたは10回、東京の乾いた寒さと、うだるような暑さを、公園で凌いできたんだね。

エアコンに守られた私には、その厳しさがわかりません。


その間、人懐こいあなたの背中を優しく撫でてくれた人が、たくさんいたでしょう。

一方で、邪(よこしま)な気持ちを抱いて、あなたに近づいた人も、きっといたでしょう。


乱暴な犬に追いかけられ、必死で逃げたこともあったでしょう。

それとも、犬なんかあなたにとっては、ちょろい相手だったでしょうか?


公園に住み着いた顔なじみの猫たちが、病気になり、衰弱し、あの世に旅立っていく様子を、

何度も何度も見たでしょう。

あなたのことだから、花ちゃんの時と同じように 、寄り添ったことでしょう。



そうやって、長い長いあなたの10年が、猫崎公園で過ぎました。


よく、生き延びてくれましたね。 そしてあなたは、我が家に来てくれた。


トミ黒の、シニアらしい穏やかさや賢さ、逆に年齢を疑わせるほど若々しい身のこなしを見るたびに、


私は、説明の付けがたい気持ちに捉われ、胸が一杯になってしまい、

思わずトミ黒を抱きしめてしまうのでした。



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                    触られるとうっとりして、決まって2回、私を舐める



「外で暮らす猫は例外なく可哀想」と言う人から見れば、トミ黒の半生は決して幸せとはいえません。



子猫だったトミ黒が猫崎公園に現れたのは、2002年。 色柄の似た4匹の兄弟と一緒でした。


当時、公園の角に「猫屋敷」と呼ばれる家がありましたえっ

1人暮らしのおばあちゃんは、恐ろしくたくさんの「飼い猫」を世話していました。


「飼い猫」と言っても、手術もせず、出入りも自由だったのでしょう。

トミ黒の母猫もきっとそのうちの一匹で、おばあちゃんに可愛がられていたのではないかと思います。



人を怖がらない母猫に育てられたことが、トミ黒の根っこを作ったのではないでしょうか?

「野良の母猫の警戒心は、24時間、母猫の皮膚を通じて子猫に伝わる」 という話を以前しました

(→「野良猫の遺伝子」)。


それと反対の「飼い猫の遺伝子」が、母猫からトミ黒に引き継がれ、彼の一生を決めたように思います。



しかしやがて、おばあちゃんは亡くなりました。猫屋敷は、跡形なく取り壊されてしまいました。

可哀想に、飼い猫たちは居場所を失いました。


母猫は兄弟を猫崎公園に移動させた後、姿を消しました。

次の妊娠のために姿を消したのでしょうか。あるいは人の保護が得られないため衰弱したのかもしれません。



兄弟の中で、トミ黒は一番のへなちょこでした。

気の荒いのが1匹いたそうで、横合いから食べ物を奪われてばかりいたそうです。



やがて、兄弟は1匹、また1匹と姿を消し、結局トミ黒だけが公園に残りました。


生後2年までの外猫の出奔率は、非常に高いのです。

繁殖期の遠出。ケンカ。不慮の事故。身の回りの危険に、自ら飛び込んでいくような年頃です。


公園周辺では、増えすぎた野良猫を疎ましく思った人物が毒入りの餌を撒きました。

その犠牲になった兄弟もいたかもしれません。


当時、公園は猫だらけ、猫の糞だらけ、ゴミだらけだったそうです叫びあせる

飢えて荒んだ猫達に囲まれるのが辛くて、公園に行く気がしなかったと複数の人から聞きました。


しかし一方で、公園猫の惨状に手を差し伸べる人もいたのです。


M女さん(→「60匹の手術」)。 や、シンペイくん(→はっちゃんとしんぺい君と、片目の猫)

自分にできる形で猫を見守っていた人が他にもいました。



トミ黒は、ヒトの助けをあちこちで受けて、子猫時代を生き抜いたのです。


公園を訪れる人に愛され、よそ者のオス猫の侵入に立ち向かい、メス猫にも絶大な支持を受けて、

小さいけれど偉大な「公園キング」に成長していきました。



こういうトミ黒の半生を、「可哀想だ」とは思いません。

たくさんの幸運な偶然とヒトの手助けに支えられ、エネルギッシュに、またどこか飄々と、

トミ黒は公園での生活を受け入れ楽しんでいるように見えました。


「可哀想」という言葉ではなく、「大した猫生だ。あなたは立派な猫だ合格」という言葉こそ、

トミ黒に送るべき言葉だと私は思うのです。



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         公園時代のトミ黒は飄々として、外暮らしの達人のようだった。

         他の猫たちも彼の行動を真似ていたと思う。彼は公園を穏やかに掌握していた


私がトミ黒に初めて会ったのは2009年の5月でした。


GWに東京に引っ越してきたばかりでした。

三日月その夜、迷路のような駅からの帰り道、私は酔っ払って猫崎公園にたどり着きました。


酔い覚ましをするためにベンチに座った私の膝に、トミ黒は当然の権利のように座り込みました。

そして、なんの警戒もなく、居眠りを始めたのです。 私はその天真爛漫さに驚きました。



それから、私のねこパトが始まりました。

後に猫崎公園に本気で着手するまでの一年間、私は徹底的に公園の猫を観察したのです。



観察していると、トミ黒は猫崎公園に訪れる人の間では有名な猫のようでした。


お昼休みには、「あ~ん、あ~んにゃー」と鳴きながら “営業” に行きます。

ベンチでお弁当を広げる人にアピールして、唐揚げや、焼き鮭を分けてもらうのです。


他の猫たちもそれを真似ていました。そうやって、猫達は命を繋いできたのでしょう。


「あんな物ばかり食べていて、体に悪いなガーンと思った私が、一番に水飲みボールを設置したのは、

この光景を見ていたからでした(→猫崎公園 野良猫事情)。


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                   はっちゃんの膝の上で。

                   トミ黒に会いたくて公園に来る人も多かった


その年の夏のある日、私は、何匹かが一斉に耳カットされたのに気付きました。


当時公園には、お兄ちゃん縞ちゃんという半年位の子猫がいました。

前年に猫崎公園最後の大繁殖があり、保護されて公園を離れた子猫が複数いたことを、後から知りました。


前年生まれの子猫を手術するのには、ちょうど良いタイミングでした。



しかし、その時耳カットされた猫のうち何匹かは、明らかに手術済みだと私が認識していた猫でした。


誰かが、きちんと観察をせずに 「流れのTNR」 をしたのですえっ



おっとりした猫崎猫たちは、餌に釣られ疑いもなくトラップに入り、病院で麻酔を打たれたのです。

去勢済みのオスは耳カットだけ。メスはひょっとしたら開腹され、耳をカットされて公園に戻されたのです。


猫たちは、必要のない恐怖に再度晒されたのでした。


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       同じ頃耳カットされた桃ちゃん(右)とトミ黒。 桃ちゃんの熱烈アタックにトミ黒は困り顔


その中の1匹が、トミ黒でした。

去勢済みのオス猫」の見本のようなお尻をしているトミ黒を、「未去勢のオス」として病院へ送り込んだ、

正体のわからぬボランティアの、無自覚・不勉強に、怒りを覚えました爆弾



その時トミ黒は、一週間ほど公園に戻ってきませんでした。

戻ってきてからも、ヒトを見ると逃げ回り、しばらく近づかなかったそうです。


シンペイくんはその時のことを、「とても辛かったしょぼんダウン」 と言っています。


生まれてからずっと、ニンゲンを信じて生きてきたトミ黒の心の中に、傷が付いたのです。



トミ黒のそんな様子を、私もこの目で見ていました。そして、行き場のない怒りを感じました。

手術済みの猫を捕らえ、ムダな恐怖や不安に晒すような人間本位の行動がどうしても許せなかったのですプンプン



TNRは地域猫活動のスタートに過ぎず、最終的な目的はその後の猫生を地域でどう支えるかにあるはずです。


それを成就するためには、とにかく現場を観察し、観察し、観察する

猫と人を巡る環境の徹底的な観察なくして、地域猫活動は成り立ちません。


その時のボランティアは何故それを省いたのか? 一体誰で、どんな経緯で公園に入ったのか?


その後張り付きで公園の活動をしていても、それらしい人物が訪れることはありませんでしたむっむかっ



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          オスメスに関わらず、公園猫のすべてとトミ黒は良い関係を築いていた。

          メス猫にそっと触れるトミ黒


2010年秋から、私は猫崎公園に本格的に関わり始めました。


公園の猫達の中で、トミ黒を特別扱いする気持ちはありませんでした。

1匹1匹の個性が私を魅了しました。



トミ黒はいつも熱烈に私達のデリを歓迎してくれました。


食べ物に対する情熱は人一倍で、それが彼の健康を支えていましたが、

便が緩みやすく、夏になると痩せる傾向がありました。


私達は彼の年齢を考え、ワクチンを打ったり、フードの質を上げリジンを飲ませたり、ハウスを置いたりして、

一日でも健康でいられるように気を配りました(→「シニアの猫に寄り添う」)



私たち公園仲間にとってトミ黒は猫崎公園のシンボルであり、彼のいない公園など想像できませんでした。




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                     入院中のトミ黒。窓から通りを眺める。

                     満足すると自分からケージに戻って爆睡

11月にその彼の顔がパンパンに腫れ、左目が潰れているのを見て、私は狼狽しました。

すでに、11歳です。 体調を崩したら、坂道を転げ落ちるように弱る可能性もあります。


迷わず病院へ連れて行きました。


入院生活に入っても、トミ黒は淡々としていました。

首輪に長い紐を通されて、病院の一室の窓際に乗って、通りを走る車や人の姿を面白そうに見ています。

そして、誰に抱かれても、辛い治療の間でさえも、威嚇や乱暴をすることは一度もありませんでした。


治療が終わると、診察台を飛び降りて引き戸を開け、自分でケージに飛び込みます。

まるで、ここが今のボクの場所、と信じているようでしたニコニコ合格



最初は完治したら公園に返すつもりでいた私は、その様子を見て迷い始めました。

これほど家猫気質に富んだトミ黒を、再び公園に返すべきなのか?


公園に戻っても、彼はきっと以前のように幸せそうにやるだろうとも思いました。


しかし、すでに10年です。彼の折り返し地点は、すでに過ぎているでしょう。


もう、公園を卒業させてやっても良いのではないか…。 今回の入院は、良い機会だと思いました。



我が家の家庭事情は、飼い主として最適であるとはとても言えません。

私が元親だったら、こんな里親希望者に保護猫を渡すことはないでしょうむっNG


しかし、どんなに問題があっても、私はそのハードルを越える努力をする。


そしてトミ黒はきっと、そのハードルを乗り越える力を私にくれる猫だろう、と感じ始めていました。


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              トミ黒が私を頼ったのではなく、私がトミ黒を必要としたのだ。

              この先、一日でも長く、一緒にいてね



こうして私は、「猫を飼ったことのない猫ボラ」の名前を、とうとう返上することになったのです。



どうしても猫が飼えない。 でも、そんな私にもできることはある。

「保護をしないで、外に置いたまま、ギリギリまで私に出来ることをするグッド!」。


メモ「日々是ねこパト」は、私がそんな気持ちで町を駆け回った記録なのです。



しかしこれからは、傍らにトミ黒がいてくれますニコニコ合格



10年間も公園で暮らしながら、家猫への転身を成し遂げたトミ黒は、


地域の人に守られ、人を信じながら外で長く暮らしている猫たちにも、

同じように第二の猫生を歩み出す可能性があることを、私達に示してくれます。



トミ黒の過去と、そしていずれはやってくる別れの瞬間をそばにいてしっかり見つめてやることが、


私に、新たな価値観を与え、針路を示してくれるに違いない。




…私は今、そんなことを予感しているのです。







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