猫木の変な挑戦『いろんな敦賀さんを書いてみよう。』
困惑混沌の朝。から派生する続きのひとつ秘める私。の続きとなっております。


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いじめてしまおうと、そう言ったひと……



シーツに押さえ付けられていた手首から離れた大きな手が、私の手に優しく重ねられる。
指と指が絡められ、その少しかさついた手のひらの暖かさと包み込まれるみたいな安心感に落ちていきそうな気持ちになる。
見上げたまま、何かを試すような探るような面持ちだったそれがふわりと綻ぶように甘やかになっていくのを呆然と見ていた。


「キョーコ」
ただ、名前を呼ばれた。本当にただそれだけの事なのに、頬が熱くなる。
「キョーコ……キョーコ、キョーコ」
その名しか口にするものなどないみたいに繰り返し、低い声で呼ばれる。
その甘い甘い声とまっすぐに私を見るその眼に灯る熱に溶かされてしまいそうで、ぎゅっと目を瞑りいやいやと首をふる。


頬にさらさらの柔らかな髪が降ってきて、敦賀さんが私の首元に顔を埋めたのを知る。
「おや、つれないな。肌を合わせたのに呼び捨ても許さないんだ?………つめたいんだね。」
さっきの私の吐いた言葉を揶揄するように囁いて、クスクスと笑う。
でも、でもダメなの………名前をただ呼ばれる、それだけの事に貼り付けた役が剥がれ落ちそうになる。
それでも、悪足掻きにも必死に顔を逸らし目を瞑り役を……戯れを柔軟に受け止める事の出来る大人の女性を呼び戻そうとする。
「そんなにダメなんだ?………じゃぁ、最上さん?」
いつもの………いつも通りの敦賀さんの呼び方、なのに……耳に吹き込まれたそれを、とろりと滴る蜂蜜のように甘く感じてしまう。背骨にぞわりと覚えたての感覚が走る。


あぁ、ただ、呼ぶだけ………ただそれだけでこんなにも私は………
決して見せないと決めた筈の涙が込み上げて来てしまう。


「真っ赤になってるよ?……最上さん?」
追い討ちを掛けるように、首元から顔を上げた敦賀さんが私を見下ろして言う。
重ねられていた手が片方解かれ、指先がつぅっと頬から首すじへと撫でるようになぞる。
その手がくれる熱がなくなってしまった手が寂しい………この人は、私のものにはならないひとなのに。


瞳の奥が熱くてたまらない。
きゅっと眉がを寄せて目を瞑り頑なに、もうこれ以上この人の声を熱を気配を感じてしまわないように身をかたくしていると、不意に鼻先をがぶりと噛まれた。
小さな痛みにびっくりして目を開けると、すぐそばでいたずらっ子のように笑う敦賀さんが


「いつまで隠すつもりかな?がんばってるのもかわいいけど、そろそろもっとかわいい最上さんが見たいな………俺の事の好きなんでしょ?」
さらりと告げられた絶望的なひとこと。
愕然と見上げているとにやりと笑う男。
「俺の知ってる最上キョーコさんは、好きでもない男にあんな破廉恥な事を許す女の子じゃないよ。」
答えることなど出来ずに、ただはくはくと口を開け閉めしていると………
「……俺の自惚れなのかな?」
にやにやと、笑みを隠さない敦賀さんが獲物をいたぶる猫みたいに見えた。
「違うの?キョーコ………呼ぶだけで林檎みたいに真っ赤にかわいくなってるんだけどね?」


「ねぇ、言って?言ってくれたら、べたべたに溶けるくらいに甘やかして大事にしてあげるから」
甘く唆す声を落とすその人の真剣な眼差しに絡め取られたように目を離すことが出来ずに、かと言って隠していた恋心を告げることなど出来ずにいると彼が言った。
「言ってくれるまで、キョーコって呼び続けようか?………それも、楽しそうだね?」




にこやかに神々しく己の勝機を疑うことなく笑う、その人の笑みを誑かす悪魔のそれのように感じていた。







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んー?
限定に行かないように脅す蓮さんを書いてみたら、なんだかバッドエンドっぽいのに向かい出したから書き直してみたら、嫌な感じに自惚れた人が出てきた。

9つ目の敦賀さんは、さぁ吐け、吐いたら楽になるぞ?的ないじめっ子ってことで。




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