◎番外◎ <随筆>珈琲あれこれ(其五) | ねこバナ。

◎番外◎ <随筆>珈琲あれこれ(其五)

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♪ 昔、アラブの偉いお坊さんが~ ♪
♪ 恋を忘れた哀れな男に~ ♪
♪ 痺れるような香りいっぱいの~ ♪
♪ 琥珀色した飲み物を教えて あ・げ・ました ♪

…西田佐和子の歌唱でご存知の方、あるいはYO-KO(荻野目洋子)の歌唱でご存知の方。きっと多いのではなかろうか。近年は井上陽水もカバーしていた。
「コーヒー・ルンバ」というこの曲。「ルンバ」と「コーヒー」を結びつけ、中南米ムードたっぷりの楽曲にも拘わらず、歌詞は「アラブの~」である。どうもミスマッチで満たされたような印象。一体ぜんたい、この曲の実像はどんなものだろう。



  *   *   *   *   *

「コーヒー・ルンバ」の原曲は「Moliendo café(コーヒーを挽きながら)」という。ベネズエラの作曲家ホセ・マンソ・ペローニによって作られ、アルパ(ハープ)奏者のウーゴ・ブランコによる編曲・演奏で世界的ヒットをとばした。その後ミーナ、ロス・パンチョス、フリオ・イグレシアスなどの著名な歌手によってカバーされ、哀愁溢れる歌詞とメロディーは多くの人々の記憶に残っている。
実はこの曲のリズムは所謂ルンバではなく、「オルキデア」というリズム形式に依っている。オルキデア(Orquidea)とはベネズエラの国花ラン(Orchid)のことで、ウーゴ・ブランコによって生み出された、ベネズエラ音楽の一形式なのだそうだ。
そして歌詞も日本の曲とは全く違う。原曲の歌詞を日本語訳したブログ記事やHPは多いが、私はスペイン語に疎いので、どの日本語訳がより近い解釈なのかは判らない。最もよく目につくものをここで紹介しよう。

■ □ ■ □ ■

日が暮れていく頃
闇が再び姿を現す
静けさの中 珈琲農園はその珈琲を挽く音に
悲しい愛の歌を再び感じ始める
それはまるで無気力な夜の中
嘆き悲しんでいるかのよう

一つの愛の苦しみ
一つの悲しみ
それは給仕のマヌエルが持ってくる珈琲の苦味の中にある
珈琲を挽きながら
終わることのない夜が過ぎていく

■ □ ■ □ ■

いずれの訳にも共通しているのは、暮れなずむコーヒー農園で、挽き臼の音に悲恋を重ねるという情景である。ウーゴ・ブランコの演奏やロス・パンチョスの歌唱を聴くならば、ベネズエラの山中、農園で夕陽を見つめて佇むひとりの男の姿が、ありありと眼前に立ち上がってきそうではないか。
この楽曲が作られた1950年代、ベネズエラは豊富な石油資源の輸出により好景気に沸いていた。しかし貧富の格差は依然として大きく、田舎のカカオやコーヒーの農園では貧しい労働者達が搾取されていた。「Moliendo café」には、田舎から出稼ぎに都会へと出て来た人々の、若き日の哀愁と故郷への思いが塗り込められているのかも知れない。




だから、原曲と「コーヒー・ルンバ」を繋ぐものはただひとつ、「コーヒー(café)」という単語だけ、ということになる。

♪ コンガ マラカス 楽しいルンバのリズム ♪
♪ 南の国の情熱のアロマ ♪
♪ それは素敵な飲み物 コーヒー モカ・マタリ ♪
♪ みんな陽気に飲んで踊ろう 愛のコーヒー・ルンバ ♪

コンガとマラカスは南米音楽に欠かせない。ルンバもラテン音楽を代表するリズムだ。
しかしここに出て来るコーヒーは、モカ・マタリ。中東イエメンを代表する珈琲豆の銘柄である。なんというミスマッチ。
アラブのお坊さんの話はいいとして、せめて豆はベネズエラ・コーヒーにしてほしかった。嗚呼。
そう思って悲嘆にくれるのは、私だけだろうか。
いや、このミスマッチこそが、なんでもごちゃまぜに取り入れる日本らしさを、象徴しているのかも知れない。などと思い直し、私は少し冷めた珈琲を啜ることにしよう。

  *   *   *   *   *

ちなみに、「Moliendo café」はインドネシアで「Kopi Dangdut(コピ・ダンドゥット)」という曲に生まれ変わり、1991年にメガヒットを飛ばしたそうだ。同国は言わずと知れたロブスタ種コーヒーの大生産国。かの国の人々になじみ深いコーヒーが、地元の大衆音楽ダンドゥットと融合し、なんとも陽気な曲に変貌した。



歌詞の意味はよく判らないけれど、どうやら純粋なラヴ・ソング、しかも悲恋の歌らしい。雑踏と喧噪のイメージ、そしてビートの効いた音楽は、アジア版「Moliendo café」としては、なかなかの出来ではないだろうか。

  *   *   *   *   *

バッハの「コーヒー・カンタータ(Kaffe-Kantate)」以来、珈琲という飲み物は多くの楽曲に取り入れられてきた。とりとめもなく思いつきだけで書いてきたこの駄文を締めくくるのは、せめて日本人の手によるオリジナルの、少々へなちょこな曲にしてみようと思うのである。




奥田民生「コーヒー」




おしまい







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