◎番外◎ ＜随筆＞珈琲あれこれ（其三）
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珈琲にまつわるあれこれを書いてゆこうと思い立ち、早速手許にあった関連本を読んでみた。「事典」と称するものの、絵や写真が豊富に入った手軽な読み物である。
植物としての珈琲、その歴史、淹れ方や器具の解説などが平易に書かれているだけでなく、フルカラーの図版が賑やかで、ぺらぺらめくっているだけでも楽しい。
最初は上機嫌で本を眺めていたものの、ふとあることを思い出して、段々と私の心は沈んできてしまった。
私達が日々ウマイウマイと言って飲んでいる珈琲。このひと粒ごとに、農園労働者達の並々ならぬ苦悩が詰まっている。
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珈琲のもととなるコーヒーノキは、別名「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道から南北に25度までのエリアで多く栽培される。特に低緯度で標高が高く、年を通じで温暖な地域で産出される珈琲は、品質が良く、高値で取引されることが多い。
こうした地域の多くは、植民地時代、つまり西欧列強に支配されていた時代に、コーヒーノキの大規模な栽培を始めた。それが現在でも各国の外貨獲得のために重要な役割を果たしている。所謂プランテーションである。珈琲発祥の地といわれ、長きに亘って列強からの独立を守ったエチオピアもまた、珈琲は最も重要な輸出品目のひとつである。しかしそのせいで、農業従事者の割合が多いにもかかわらず、同国は自国で食糧をまかなうことが出来ず、多くを輸入に頼らざるを得ない。
また、いずれの国家も政情不安や先進国の大企業との確執、隣接する国々との紛争問題を抱えており、貧富の格差は激しく、教育・福祉の水準も低いままである。イエメン、ラオス、エチオピア、ケニア、タンザニア、ウガンダなどの、アジア及びアフリカの珈琲栽培に特化した諸国は、軒並みLDC（後発開発途上国）に分類されている。こうした国々のコーヒーノキ栽培に従事する人々の労働環境・経済状況は総じて劣悪で、低い賃金、衛生管理の不徹底、子供の就労などが問題となっている。いや、珈琲に限った問題ではない。紅茶、カカオ、綿花など、貧しい国々で生産される農産物・工業製品に関わる多くの人々が、同様に困難な状況にあるのだ。彼等の働きなしに、私達は安価な商品・製品を手に入れることは出来ない。わかりきっているはずなのに、忘れてしまう。いや、観ないふりをしてしまう。豊かな生活の裏にある犠牲。
Coffee, Tana lake Photo by zz77 (flickir)
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外貨獲得のためには、珈琲生産各国は安価で大量に豆を供給しなければならない。だから農場で生産された豆は仲買人に買い叩かれる。マージンを搾取する仲買人達がなくならないのは何故か。政治家や大企業との結びつきは容易に想像がつく。こうした問題を解決しようというフェア・トレードの運動でさえ、効果はまだまだ限定的で、多くの問題点を抱えている。
生産者、仲買人、政治、南北問題、貿易摩擦、企業紛争、フェア・トレード。この珈琲という褐色の粒を巡って、怖ろしいほど複雑な線が絡み合っている。それほどまでに人間を魅了する珈琲というものの力に、私は驚嘆する。と同時に、珈琲のほろ苦さに混じったかの国の人々の苦悩をじわりと感じて、少々沈んだ気持ちになる。
今の私に出来ることといえば、ようやく見つけた信頼のおける珈琲店から、店主が現地で買い付けた美味しい豆をちまちまと買うことくらいである。正直高い。だから我が家で消費する豆全部をそこで買うことは出来ない。
いつかそう出来る日がやって来るだろか。そうしたら、もう少しかの国々の人々のためになれるだろうか。いや、そう考えることすら、豊かな国に住む者の思い上がりなのかも知れない。じっさい彼等の生活の何が私如きに判るというのだ。いま自国でおこっている困難にすら、私はただおろおろするばかりではないか。ちからとは何だ。金とは政治とはニンゲンとは。
そんな情けない思考と妄想を、私は今日も繰り広げ、ひとり消耗してゆくのである。
呆れながらも自覚する。
決して無駄な消耗ではないと。
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珈琲の本分は「ハイになること」である。それを飲んで気分が沈んでしまっては話にならない。だから今回のような暗い話はあまり書かないほうがよいのかも知れない。ただ、大事なことはこっそりと、和やかな話のあいだに挟んでおくのがいい。そんなふうに思った次第である。
次回はもう少し、ニヤリとしていただけそうな話題を選んで、書いてみることにしよう。
おしまい
珈琲にまつわるあれこれ もちっと綴ってまいります どうぞお楽しみに
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