第二百四十五話 空から来たドウブツ | ねこバナ。

第二百四十五話 空から来たドウブツ

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ある日、おれの畑に、でっかくてぎらぎら光る、へんなものが落ちて来た。

「なんだなんだ」
「どうしたんだ」

近所のみんなが集まって、そのへんなものを見ていると、ぱっかりふたが開いて、中から、へんなドウブツが出て来た。

「うわ、なんだあれ」
「気味が悪いな」
「とってくわれるかな」
「おうい、ケイサツを呼んでこいよう」

おかげで辺りは大騒ぎ。ケイサツやグンタイも駆けつけて、へんなものの周りを取り囲んだ。
しかし、そのドウブツたちは、別になにをするでもなく、のろのろとこちらに歩いて来る。

「へえ、おとなしいじゃないか」
「へんな声で鳴いてるなあ」
「あ、ダッピし始めたぞ、あいつら」
「まるでトカゲだな」
「ああ、中身はあんなに細いのか。ヨロヨロだな」

白くてごつい皮をダッピしたやつらは、オレンジ色の皮をまとって、おれたちに向かってキャアキャアと鳴いている。

「何か訴えてるな」
「腹が空いてるんじゃねえの」
「おうい、誰か食うもの持って来い」

おれは、畑で採れたヤサイを持って行ってみた。するとやつらは、それをつかんでもりもり食い始めたんだ。

「なあんだ、ヤサイを食うのか。おとなしいドウブツだな」
「何匹いるんだ」
「全部で五匹だ。おれ、家で飼おうかな」
「あたしも」
「ちょっと待てよ、あいつら変なビョウキでも持ってたらどうする」
「そうかあ」

みんなはそれぞれ勝手なことを言う。するとグンタイのやつらは、ドウブツたちをクルマに乗せて、町まで運んで行ってしまった。

「なんだ、つまんねえの」
「でも、かわいかったわねえ」
「ああ。おれ、ほしいなあ、あれ」

みんなは名残惜しそうに、自分の家へと、帰っていった。

  *   *   *   *   *

それからというもの、ニュースはそのドウブツの話題でもちきりだ。
ケンサの結果、特別変なビョウキは持っていないらしく、そのドウブツのオス三匹とメス二匹は、しばらくグンタイの施設で飼われることになった。
やつらは頭がいいらしく、命令するとなんでもそのとおりにする。たまにやつら同士でキャアキャアと鳴いているので、もしかすると簡単なことばをしゃべるのかも知れない。
やつらはオレンジの皮を脱ぐと、ほんとうに弱そうで、ひょろひょろだ。それ以上ダッピはしないようだ。
その様子からやつらは「ツルツルハダ」という名前で呼ばれるようになった。
半年もたつと、ツルツルハダはドウブツエンで飼われるようになった。檻の前は毎日長蛇の列だ。
おれも、子供といっしょに見に行ったさ。あいつら、きょとんとして、不思議そうにこっちを見ていた。
まるで、おれたちのほうがカンサツされてるみたいだ。そんな気になったね。

  *   *   *   *   *

三年ほどして、なんと、おれの家に、ツルツルハダがやって来ることになった。
第一発見者のおれに、グンタイが特別にくれるというのだ。子供たちは喜んださ。
しかしこのドウブツ、なかなかに頭がいいと聞いていたが、うちのはずっとキャアキャア鳴くばかりで、あまり役に立たない。畑仕事に使ってやろうと思ったが、子供たちが可哀想だからやめろと言う。それをいいことにツルツルハダは、食っちゃ寝るを繰り返して過ごすようになり、何時の間にかブクブク太りだしたんだ。
おれは正直、あんまり可愛いとは思わないんだが...。

  *   *   *   *   *

「パパ、ベイブを連れて遊びに行ってくるね」

子供たちがそう言って、うちのツルツルハダと出かけてしまうと、おれはテレビをつけた。

「次のニュースです。ツルツルハダの繁殖に成功したと、ドウブツエンが発表しました。これによると...」

最近はこのニュースが多い。どうやら繁殖にはさほど苦労しないようだ。
そのうち、ドウブツエンだけでなく、ペットショップでも売られるようになるだろう。
しかしそうすると、ノラ・ツルツルハダなんていうのも出てくるかも知れないな。飼い主のモラルの問題だが。

「続いて...。農業省のミケ報道官は、将来的にツルツルハダを食用に転換すべしとの声明を発表しました。これに対しドウブツ愛護団体からは...」

なるほど食用か。それは考えなかったが、まあ、あれだけぶくぶく太るんだから、食えないこともないだろうな。
そんなことを考えながら、おれは顔をごしごしと洗った。三角の耳までていねいに。これがおれの、毎日の習慣だ。

「パパ! ベイブが転んで怪我しちゃったよう」

子供たちが、ツルツルハダを抱きかかえて帰って来た。

「やれやれ。ちょっと待てよ、すぐ手当てしてやるからな」

そう言っておれは、ツルツルハダの前にかがみ込んだ。
こいつはおれにキャアキャアと何か訴えている。柔らかくて毛のない身体、ぶよぶよした肉、頭にしか生えてない毛。見れば見るほど不細工なドウブツだ。そして二本足で立って、さかんに手を動かして、何かを訴えているんだ。

「オウイ、デッカイ、ネコサンヨ、ソロソロ、オレタチヲ、ジユウニ、シテクレヨ。オレタチハ、チキュウトイウ、ホシカラ、ウチュウセンデ、ヤッテキタ...」

おれにはやつが何を訴えているのか、よくわからない。ともかくも傷口を拭いてやって、メシのところへ連れていってやった。
しかしやつは、おれに恨みがましい視線を投げ掛けて、もりもりとメシを食うんだ。

「まったく、不思議なドウブツだな、おまえは」

俺はふさふさの尻尾を揺らして、そう、ひとりごとを言った。

おしまい




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