第二百三十一話 金猫と銀猫のあらそい | ねこバナ。

第二百三十一話 金猫と銀猫のあらそい

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昔むかし、あるところに、金猫の国と銀猫の国がありました。
どちらの国もたいそう信心深く、金猫は太陽の神さまを、銀猫は月の神さまをあがめておりました。
そしてどちらも、自分の神さまがいちばんだ、と信じて疑いませんでした。

あるとき、銀猫の国で、とってもおいしい魚がたくさんとれる湖が見つかりました。
銀猫たちは「これは神さまがさずけてくだすった、たいせつなものだ。おかげで国がゆたかになるぞ」と、喜びました。
すると金猫は、「そこはもともと、おれたちの土地なんだぞ。おまえらだけで魚をとるのはまちがいだ」と怒りました。
どちらも、自分の神さまをひきあいに出して、相手をののしりました。

「夜空にぼんやり光ってるだけの、気味悪いやつだ、月なんて」
「なんだと。じりじり砂漠を焼け焦がすだけじゃないか、太陽なんて」
「やるかこのやろう」
「のぞむところだ」

とうとう、金猫と銀猫は、あらそいをはじめてしまいました。

  *   *   *   *   *

「神よ、太陽の神よ」

金猫の国で、ひとりの牧師が、神さまにいのっていました。

「あのろくでもない銀猫をまかしてしまいたまえ。わたしたちに力を与えたまえ。わたしはあいつらのだいじにしている教えの本を、火にくべて燃やしてやるつもりなんです」

「何をふざけたことを」

とつぜん、神の声が牧師に聞こえたのです。

「はっ、神さま」
「あのねえ、太陽も月も、金猫も銀猫も、もともとはひとつなんだよ。それは教えのなかにも書いてあるはずじゃないか。なのにどうして君たちは、そうやっていつもあらそってばかりいるんだね」

うんざりした神の声に、牧師はあわてて応えました。

「でっ、でも、あいつらは、わたしたちのくらしをめちゃめちゃにしようとたくらんでいます。今あいつらをやっつけてしまわないと、のんびりミルクも飲めません」
「それは銀猫の国だっておんなじじゃないか」
「あいつらには何を話したってむだなんです。聞く耳を持っていないんですから」
「それは君らの国だっておんなじだよ。全く君らは、似たものどうしさ。だからおたがいに意地を張り合うんだ」

神の声は、強い口調でそう言いました。牧師はびっくりして、目をまんまるにしました。

「似たものどうしですって!」
「そうさ。だから互いに話し合ってなんとかするしかないね。そうしなければ、君たちの国は、どちらも長くは続かないだろうよ」
「そんな、そんなことがあってはいけないんです。神さま、なにとぞお力を」
「つごうのいい時だけたよったってだめだよ。もうぼくたち神にはどうすることもできない。だいいち、ぼくも月さんも、君らのやりようにはあきれているんだ。勝手にするがいいさ」
「そんなあ」
「ぼくが今君に言えるのはこれだけだ。ばかばかしいあらそいはやめにしなさい」
「えっ」
「じゃあね。もう君のところに来ることはあるまいよ」
「神さまああああ」

神の声は、それっきり、聞こえなくなってしまいました。

  *   *   *   *   *

「神よ、月の神よ」

銀猫の国で、ひとりの司祭が、神さまにいのっていました。

「あのとんちきな金猫をこてんぱんにやっつけさせたまえ。わたしたちに力を与えたまえ。わたしはあいつらが建てたでっかな塔に体当たりして、わたしたちの力をみせつけてやるんです」

「くだらないことはおやめなさいな」

とつぜん、神の声が司祭に聞こえたのです。

「うわ、神さま」
「まったく、月も太陽も、銀猫も金猫も、もともとはひとつなのよ。それは教えのなかにも書いてあるはずでしょ。なのにどうしてあんたたちは、そうやっていつもあらそってばかりいるのかしらねえ」

げんなりした神の声に、司祭はあわてて応えました。

「でっ、でも、あいつらは、わたしたちの魚を横取りしようとしているんです。今あいつらをこらしめてやらないと、わたしたちのくらしがたいへんなことになってしまうんです」
「魚はみんなのものでしょう。あんたたちだけのものじゃないのよ」
「でもあいつら、魚をひとりじめして、お金もうけをすることばかり考えているんです」
「それはあんたたちの国だっておんなじよ。全くあんたたちは、似たものどうしね。だからおたがいにわかりあえないんでしょ」

神の声は、あきれたような口調でそう言いました。司祭はびっくりして、ひげをびよよんと震わせました。

「似たものどうしですって!」
「そうよ。だから互いに話し合ってなんとかしなさいな。そうしなければ、あんたたちの国は、どちらもほろんでしまうでしょうよ」
「そんな、そんなことがあってはいけないんです。神さま、なにとぞお力を」
「そっちが勝手に始めたことじゃないの。もうあたしたち神にはどうすることもできないんだもの。だいいち、あたしも太陽さんも、あんたたちのやりようにはあきれているんだから。勝手にするがいいわ」
「そんな、そんなあ」
「あたしが今あんたに言えるのはこれだけね。くだらないあらそいはやめにしなさい」
「ええっ」
「じゃあね。もうあんたのところに来ることはないでしょう」
「神さまああああ」

神の声は、それっきり、聞こえなくなってしまいました。

  *   *   *   *   *

「ばかばかしいだって」

金猫の牧師は、考えながら歩いていました。

「くだらないだって」

銀猫の司祭は、悩みながら歩いていました。

「牧師さま、危ないからさがって!」
「司祭さま、そんなとこにいちゃいけません!」

牧師と司祭は、いつのまにか、鉄砲のたまが飛び交う戦場を歩いていたのです。

「うちかたやめ!」
「うつな!うつな!」

おたがいの軍隊は、撃つのをやめて、じいっと牧師と司祭が歩くのを見ていました。

「何がばかばかしいんだろう」
「何がくだらないんだろう」

とうとうふたりは、戦場のまんなかで、

「おや」
「あら」

ばったり出会ってしまいました。

「おや銀猫の司祭さん、何をしていなさる」
「それを言うなら金猫の牧師さん、こんなところでいったい何を」
「いや、考えごとをね、ちょっと」
「実はわたしもなんです」

そうして、おたがいに、つかれた顔を見合わせて、

「つかれましたな」
「つかれました」
「くだらないですかね」
「ばかばかしいですな」

その場にごろーんと、ねっころがりました。

「ごろにゃーん」
「ぐるみゃーん」

それを見た、おたがいの軍隊の猫たちは、

「ああつかれた」
「もうやめだ」
「ごろにゃーん」
「ぐるみゃーん」

そこいらじゅうに、ねっころがりました。
猫らしく、ごろごろ、ぐるぐると。

こうして、あっけなく、あらそいは終わりました。

  *   *   *   *   *

今でも、金猫と銀猫の国には、あるのです。
ごろにゃんとねっころがって、おなかを出した、牧師と司祭の記念写真が。
これがあれば、ふたつの国は、あらそうことはないでしょう。
だって、ばかばかしくて、くだらないですもの。ねえ。



おしまい





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