第二百二話 <童話風>ながぐつねこの おまもり | ねこバナ。

第二百二話 <童話風>ながぐつねこの おまもり

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みつちやんは けふも げんきに おつかひに いきました
ちよいと おゝきな かいものかごを ぶらさげて
おとうさんに かつて もらつた ながぐつを はいて
ちつちやな あかい かさを さして

さらさらあ さらさらあ
ぴつちやん ぴつちやん

みづたまりの あひだを はねながら
やをやさんまで おつかひに いきました

「おばちやん おなすと きゆうりを ちやうだいな」
「はいはい いつも ごくろうさん」

やをやの おばちやんは にこにこして かごに おなすと きゆうりを いれて くれました

「ありがたう」

みつちやんは おばちやんに おれいを いつて

さらさらあ さらさらあ
ぴつちやん ぴつちやん

みづたまりの あひだを はねながら
おうちへ かへつて ゆきました


ちいさな あきちに さしかゝつた ころ

「あのう あのう」

あきちに つまれた ざいもくの かげから
ちいさな こゑが きこへました
みつちやんが ちらと のぞいて みると

「あのう おぢやうさん」

しろい ねこが いつぴき
くろい こねこが いつぴき
ざいもくの かげに うづくまつて をりました

「なあに」

みつちやんは しやがんで ねこに いひました

「わたしの むすこが あめを しのげずに さむがつて をるのです なにか あめを よけるものを おもちでは ござゐませんか」

しろいねこは ていねいに いひました

「さあ どうかしら」

みつちやんは もつてゐる かさを みながら いひました

「これは おやくに たつかしら」
「いゝえ それは あまりに おほきくて」

みつちやんは もつてゐる かごを みながら いひました

「これは おやくに たつかしら」
「いゝえ それは あめが もつて しまひます」

「こまつたわねえ」

くろい こねこは ぶるぶる ふるえて いるのです

「あのう おぢやうさん」

しろい ねこは おずおずと いひました

「あなたの その ながぐつを かして いたゞく わけには いきませんでしやうか」
「あら この ながぐつ」

みつちやんは すこし とまどひました
この ながぐつは なんぽうに おしごとに いつた おとうさんが おくつて くれた たいせつな ながぐつなのです

「ぴやう」

くろい こねこが なきました
ぶるぶる ふるえて なきました

「いいわ かしてあげる」

みつちやんは かたほうの ながぐつを ぬぎました
そうして けんけんを して こねこに ちかづき
てぬぐいで からだを ぬぐつて あげて
よこむきに おいた ながぐつの なかに そうつと いれて あげました

「さあ これで だいぢやうぶ」
「ああ おぢやうさん ありがたう」

しろいねこは なみだを ながして よろこびました

「あめが あがつたら きつと おかへし いたします」
「わかつたわ ぢや またね」

みつちやんは けんけん しながら

さらさらあ さらさらあ
ぴつちやん ぴつちやん

おうちへ かへつて ゆきました

  *   *   *   *   *

そのひの よるの ことです

「こんばんは」

ぐつすり ねむつてゐた みつちやんの みゝもとで こへが しました
めを あけて みてみると なんとそこには

「ほんじつは おせわに なりました」

あの しろい ねこと くろい こねこが なかよく すわつて ゐたのです

「あらまあ なんでせう こんな よなかに」

みつちやんは となりで ねてゐる おかあさんを おこさないやうに ちいさな こへで いひました

「すつかり あめは あがりました ながぐつを おかへしに あがつたのです ほんたうに ありがたうござゐました」

ぺこりと しろいねこは あたまを さげました
くろいこねこも おんなじやうに あたまを さげました

「さうなの よかつたわ」

しろいねこの となりには
きれいに みがかれた ながぐつが ありました

「これは ほんの おれいです」

しろいねこは こしの あたりから なにか とりだして
みつちやんの おひざの うへに おきました

「あら なにかしら」

めを こらして ようく みてみると
それは ちいさな おまもりでした

「ねこがへしの おまもりです」
「ねこがへし」
「はい おかいこを まもる ねこが いなくなつたとき かへつて きますやうにと おいのりする かみさまが いるのです これは その おまもりです」

あかい ちいさな おまもりを みつちやんは じいつと みてゐました

「ぶじに かへつて きて ほしい ひとの ところに おくつて おあげなさい」
「かへつて きて ほしい ひと」
「かならず ねがひは かなふでせう」

みつちやんは すぐに おもひつきました

「ぢや なんぽうに いつてゐる おとうさんに おくつて あげませう」
「あゝ それはとてもよい おもひつきです」
「ねこさん ありがたう」
「いゝえ それでは ごきげんやう」

しろいねこと くろいこねこは ぺこりと おじぎを しました
すると どうでせう
にひきは すうと よるの やみに きへて しまひました

みつちやんの てのひらの なかには
ちいさな おまもりだけが のこつて ゐました

  *   *   *   *   *

つぎのひ
みつちやんは おとうさんに てがみを かきました

「コノ オマモリ ハ ナガグツ ヲ カシテ アゲタ ネコ ガ クレタノデス
 オトウサン ガ オクツテ クレタ ナガグツデス
 ハヤク ゲンキデ カヘツテ キテ クダサイ」

おまもりを ていねいに つゝんで てがみと いつしよに ふうとうに いれました
さうして ゆうびんきよくまで もつて いきました

「おじさん きつと とどけてね」
「はいはい まかせて ください」

ゆうびんきよくの おじさんは さう わらつて うけあひました


ところが

おとうさんから へんじは こなかつたのです

おかあさんは いひました

「おとうさんは いそがしいのよ」

かなしそうな かおを して さう いひました
みつちやんは なんども てがみを かきました
でも やつぱり へんじは こなかつたのです

  *   *   *   *   *

それから すうねんが たちました
せんそうが はげしく なりました
おとうさんは やつぱり かへつて きません
みつちやんと おかあさんは いなかに そかい することに なりました

すつかり おねえさんに なつた みつちやんは
いなかの こうばを てつだつたり
たんぼの くさとりを したりして
まいにち いそがしく すごしました

あるひ
おかあさんへ あてた てがみが とどきました
てがみを よんだ おかあさんは なきました
みつちやんは あわてて その てがみを みました

「中佐はビルマにて行方不明と成りました 部隊は全滅し 帰還者は在りません」

みつちやんは おかあさんに いひました

「だいぢやうぶ ゆくへしれず なんだもの まだ しんでは ゐないかも しれないもの」

さういつて おかあさんの せなかを さすりました

「きつと かへつて くるわよ だつて」

ねこの おまもりが あるんだもの

みつちやんは おかあさんの せなかに すがつて なきました

  *   *   *   *   *

せんそうが おわりました

おかあさんと みつちやんは いえに かへりました
あちこち くうしゆうで やけて ゐましたが
みつちやんの おうちは のこつて ゐました

「さあ そうじを しませう」

みつちやんは げんきよく ぞうきんがけを はじめました

さらさらあ さらさらあ
さらさらあ さらさらあ

かぜが ふきぬけて ゆきました

ろうかを ふいて あせを ぬぐつた そのとき

「にやあお」

ねこの こへが きこへた
やうな きが しました

ふと にわに でて みると

くたびれた ぼうしを かぶつて
おほきな ふくろを かついだ おとこの ひとが
げんかんに たつて ゐました

おとこの ひとの わきには
しろい ねこと
くろい ねこが
すわつて をりました

「おとうさん」

うすよごれた ふくを きて
やせつぽちに なつた その おとこの ひとは
たしかに おとうさんでした

みつちやんは おとうさんに とびつきました
さうして おかあさんを おほきな こへで よびました
おかあさんも おとうさんに とびつきました
さうして さんにんで なきました

さらさらあ さらさらあ
さらさらあ さらさらあ

かぜが ふきぬけて ゆきました

「にやあお」

おとうさんの せなかの ふくろには

あかい ちいさな おまもりが

ゆらゆら ゆれて をりました



おしまい




いつも読んでくだすって、ありがとうございます

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