◎番外◎ 絵
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自分の描く絵が好きになれない。
ずっと昔からそうだった。
なのに、描くことだけは好きなのだ。
気に入らなくてもやもやしながらも、鉛筆やクレヨンや筆やサインペンを走らせること自体は、堪らなく好きなのだ。
どうも精神衛生上、よくない傾向のように思う。
* * * * *
自分の絵のどこが嫌なのか、自分なりに考えたいと思った。
水彩絵の具を取り出して、気の赴くままに絵の具を紙の上に置いてみた。
ここに点を打って、そこから線を延ばして...と、深く考えないまま描いてみたが。
やがて気が付いた。
「どれもこれも、なにかを説明しようとしてるじゃないか」
なにに見えるか。
これはどういう位置関係か。
やたらと説明的なのだ。
それは自身のこころのありようそのものだ。
情景描写は出来ても、皮膚感覚や観念のテクスチャに至ることは、なかなか出来ない。
私の文章と、やはり通ずるところがあるようだ。
* * * * *
線は線であり、面は面である。
色は色であり、質感はしっかりとそこにある。
そんな絵を描ける人に、私は憧れる。
ことば自体が躍動し、精神のはざまにぎりぎりと
入り込んで来る。
そんな文を書ける人を、私は羨む。
そして嫉妬する。
どうにも手の届かない世界へ連れていって欲しいのだが。
それに意地を張って乗ろうとしない私がいる。
意地っ張りなのも、私の悪いところだ。
* * * * *
アンリ・ルッソオの絵が好きだ。
マーク・ロスコやジョセフ・アルバースからは顔を背けつつ、ちらと見たくなる。
フィリップ・ガストンには羨望の眼差しを向ける。
ダリに辟易しながら、エルンストに感心する。
岡本太郎に頭を悩ませ、山下菊二に悶々とする。
野見山暁治にため息をつき、近年の丸山直文にがっかりする。
私の嗜好はこんなもんだ。
* * * * *
一度でいいから。
部屋にはいりきらないくらいの巨大なキャンバスに、思い切り絵筆を走らせてみたいと思う。
そうしたら、少しはこころが晴れるだろうか。
何も説明せず、何も反省せずに、塗りたくったことに満足出来るだろうか。
いやいや。
思う存分描ききったあとに。
たぶん私は、巨大なキャンバスを眺めるため、十メートルくらい下がって振り向き、こう言うのだ。
「なんだこれ」
おしまい
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