◎番外◎ 春遠からじ | ねこバナ。

◎番外◎ 春遠からじ

【一覧】 【続き物】【御休処】 【番外】

-------------------------------

冬が好きなのだ。

雪に閉ざされた静寂の夜が。
美しく恐ろしいその季節が。

ひとは生きるために懸命になる。
働き、食べ、飲み、眠る。
光と熱を求めて。

冷たさと寒さに苛まれるたび。
記憶はくっきりと輪郭をなしてゆく。


$ねこバナ。


冬から春へと移ろうとき。
世界はぞわぞわと動き出す。
地面の奥で何かが裂けて、ちいさな音がはじけ出す。
雪解け水が長靴の中に飛び込む。
ぼんやりした湿気が、地上を支配する。
土の匂いが、鼻腔に沁み込んでくる。

そわそわした、名残惜しくも忙しいひととき。


ねこバナ。


ぐいぐいと空に向かって伸びる。
何もかも空を目指すのだ。
届くはずもないのに。

春の陽気にあてられて。
ねじが一本ゆるんでしまったように。
そうなのだ。
春は何かを弛緩させる。

緩めば緩むほど、ぐいぐいと。
きらきらと。
もぞもぞと。

咲く。
散る。
伸びる。
ひらく。


ねこバナ。


憂鬱と焦燥が入り交じった季節。
明るさのなかには。
冬のあいだに置き忘れてしまった、何かが潜んでいるような気がする。


おしまい




ねこバナ。-nekobana_rank

→携帯の方はこちらから←

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

いつも読んでくだすって、ありがとうございます

$ねこバナ。-キニナル第二弾
アンケート企画
「この「ねこバナ。」が、キニナル!第二弾」
開催中です。ぜひご参加ください。





トップにもどる