第二十話 ひとりごと(17歳+α オス) | ねこバナ。

第二十話 ひとりごと(17歳+α オス)

今日の供え物も又「プレミヤムフード」とかいう風情の無い物か。
しかも、あの新参猫が悪戯をせぬ様に「タッパ」に入っている。
これでは供え物の意味を成さぬ様に思うのだがどうだろう。
...まあいい。どうせ本当に喰う訳では無いのだ。

儂が死んでから半年。この家の下僕達は矢鱈と悲しむのを止めにして、新しい主を迎えることに決めた。
やって来たのは、儂の様な日本猫とは違い、毛足の長いハタキの様な不思議な猫だ。
窮屈な祭壇から眺めて居ると、第一の下僕がその猫を抱え上げ、儂の写真に近づけて何やらぼそぼそ話している。
「どうぞよろしく」ということらしいが、そんな事を儂に言われても何の仕様も無い。
おまけにその新参猫は、玩具だの「ハウス」だの「タワー」だの、儂がチビだった頃には買って貰った事など無い豪勢な物を与えられている。
儂が幼少のみぎり、第一の下僕は貧乏のどん底に在ったから、そんな物を買う余裕など無かったことは判るが、やはり気分の良いものではない、

当たり前の事だが、仔猫というのは、信じられぬ悪戯をするものだ。仔猫を十八年ぶりに育てる下僕達は、あれが何かしでかす度に大慌てでそこら中を走り回っている。
昨日も、儂の祭壇の中身を全部床にひっくり返した。儂の骨が入っている瓶もだ。幸い蓋がネジ式で外れなかったから良かったものの、第二の下僕などは蒼白になって、新参猫を叱りつけた。
そうなのだ。叱ったところで悪戯が止む訳ではない。仔猫は好奇心の塊だ。ただ問題だったのは、あれは胃腸が酷く弱いらしく、普通の「フード」を食べるとすぐ下痢をしてしまう。だから儂の祭壇をひっくり返して供え物の「プレミヤムフード」を囓ったりすると、翌日には粘液質の便をして下僕達を慌てさせ、医者の世話になる。毎度それではかなわないというので、儂の供え物はやむなく「タッパ」に入れられることになってしまった。これもまた、やはり気分の良いものではない。

新参猫は幸せ者だ。消化の良い特別処方食を喰わせてもらい、朝夕はブラッシングもして貰える。おまけに今は第一の下僕が病気療養中だから、一日中家に居て、何やかやと世話をやいてくれる。
「みゃう」とだけ鳴いて足許に擦り寄ろうものなら、全身を大きな手で撫で回してもらえる。羨ましい限りだ。
然し、儂も晩年は平穏で、実に快適に過ごせたものだと思う。下僕達は儂の生活を第一に考え、家を空けることも少なくなり、身体が冷えて困るような時には、暖かい「だんぼうきぐ」を適度に調節して傍に置いてくれた。緩やかに時間が流れていた。下僕達の働きぶりには、及第点を付けても良いのではないだろうか。
あの新参猫も、そのうち年をとって、儂の様に看病されるのだろうか。儂は「目指せハタチ」などとハッパをかけられていたのだから、あれにはもう少し長生きして貰いたいものだ。
そう、儂との生活で得た教訓を活かして、失敗を犯さぬように...。

...と、少しばかり不平を鳴らしたのが聞こえたかどうか知らぬが、明日は儂の大好物だった「しらす」が供えられるらしい。
形ばかりとは言え、これはこれで、気分の良いものだ。

おしまい





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