第1部
判決
事件 2008刑事上告事件11921
A.海洋汚染防止法違反
B.業務上過失船舶破壊
C.船員法違反
被告人
被告人Seung Min Cho他5人
(訳注:Seung Min ChoはT-5号船長、Yi Hyun Kimはクレーン船船長、Jasprit ChawlaはHebei Spirit号船長、Syan ChetanはHebei Spirit号航海士)
上告人
被告人ら
弁護人
法務法人SAENAL-LAW 担当弁護士チョ・ヨンム、ユン・ビョング、イ・ヒョンジュ、イ・カンフン、ナム・サンスク(被告人Seung Min Choのため)
弁護士カク・ギョンチョク、ソン・ジヨル、ハン・サンホ、キム・スヒョン、イ・ジンホン、ホン・ソクポム、イ・ウンネ、リュ・ヨンホ(被告人Jasprit Chawla、Syan Chetan、Hebei Spirit船舶株式会社のため)
法務法人HANKYUL担当弁護士、イム・ソニョン、チャン・ヒョジョン、イ・ヘミ(被告人Seung Min Cho、Yi Hyun Kim、三星重工業株式会社のため)
原審判決
大田(テジョン)地方法院2008.12.10.宣告2008刑事控訴事件1644判決
判決宣告 2009.4.23.
原審判決中、被告人Yi Hyun Kimに対する部分、被告人Seung Min Choに対する業務上過失船舶破壊罪と海洋汚染防止法違反および訴訟費用負担の部分、被告人Jasprit Chawla、Syan Chetanに対する業務上過失船舶破壊罪の部分を皆破棄しこの部分事件を大田(テジョン)地方法院合議部に還送する。
被告人Seung Min Cho、Jasprit Chawla、Syan Chetanの残り上告および被告人三星重工業株式会社、Hebei Spirit船舶株式会社の上告を皆棄却する。
上告理由を判断する。
1.海洋汚染防止法違反および船員法違反の部分に関する上告理由に対し
A.被告人Seung Min Cho、Yi Hyun Kim、三星重工業株式会社の上告理由の部分
(1)結果発生を予想できまたそれを回避できることにもかかわらず、正常の注意義務を怠慢にすることで結果発生を引き起こしたとすれば過失犯の罪責を免じることができなく、上のような注意義務は必ず個別的な法令でその根拠や内容が明示されていなければならないことでなく、結果発生に際した具体的な状況でこれと関連した諸般事情らを総合的に評価して結果発生に対する予想および回避の可能性を基準としてその結果発生を防止しなければならない注意義務を認められることだ。
上の法理に照らして調べれば、この事件引き船団が遵守しなければならない船内安全運航規則遵守に航海中特に非常状況発生時、船団長の被告人Yi Hyun Kimの指示を遵守するように規定している事情と被告人Yi Hyun Kimの会社組織内での地位および航海経験、実際航海にあっての介入の程度およびその影響力など判示のような色々理由を挙げて、原審が被告人Yi Hyun Kimのこの事件引き船団の安全な運航に関して判示のような色々な注意義務を負担すると判断したことは正当で、そこに過失犯の成立要件に関する法理を誤解した違法がない。
(2)旧海上交通安全法(2007.1.19.法律第8260号で改正され2008.1.20.施行される前のこと)第46条第2項は、操縦制限船が表わさなければならない灯火や形状物に関して規定した後、第3項で“動力船が進路から離脱能力を非常に制限受ける曳航作業に従事している場合には第43条第1項にともなう登花や形状物に付け加えて、第2項第1号と第2号にともなう灯火や形状物を表わさなければならない。”と決めている。これによれば、引き船この進路から離脱能力を非常に制限受ける曳航作業に従事している場合には、引き船自体に上のような灯火や形状物を表わさなければならなく曳航対象である他の船舶または物体に上のような灯火や形状物を表わすのは上の条項による適法な灯火や形状物表示方法だと見られない。
原審が同じ趣旨でこの事件主引き船と副引き船には操縦制限灯火を表させず、曳航対象である艀船に操縦制限灯火をしたことは旧海上交通安全法による適法な灯火表示方法ではなく、またこの事件衝突の原因になったと判断したことは正当で、そこに上告理由で主張するところのような操縦制限灯火表示方法、因果関係に関する法理誤解などの違法がない。
(3)刑法第17条※1は“どんな行為でも罪の要素になる危険発生に連結しない時には、その結果によって罰しない。”と決めているところ、自身の行為でもたらされた危険がそのまままたはその一部が犯罪結果で現実化された場合ならば、たとえその結果発生に第三者の行為が一部寄与したとしても、その結果に対する罪責を免じることができないことだ(大法院1984.6.26.宣告84刑事上告事件831、84治療監護上告事件129判決など参照)。
原審が適法に採択した証拠らによれば、この事件引き船団とHebei Spirit号の衝突で、Hebei Spirit号左舷1、3、5番油類タンクに各一ヶ所ずつ穴ができ、その穴からこの事件油が漏れ出たが、その漏出程度は上のようなタンク破損によって追加要因がない場合にも物理法則により自然的に現実化されることが予想される範囲内のことで、Hebei Spirit号の船員らの追加的な行為によって通常予想される範囲を超過する程度にまでなったことではない事実が認められる。
それなら上の法理に照らしてみる時、たとえHebei Spirit号船員らが油類タンク破損以後、汚染防止注意義務を怠らなかったならば、この事件衝突による油漏出の程度を減らすことができたといっても、この事件引き船団がHebei Spirit号の油類タンクに穴を開けこの事件油漏出の危険を招いた行為と実際発生したこの事件油漏出という結果間に因果関係が断絶すると見ることはできない。
同じ趣旨の原審判断は正当で、そこに上告理由で主張するところのような因果関係などに関する法理誤解の違法がない。
(4)刑法第22条第1項※2は“自分または他人の法益に対する現在の危難を避けるための行為は相当な理由がある時には罰しない。”とするのに、ここで相当な理由ある行為に該当しようとするなら、最初の避難行為は危難に処した法益を保護するための唯一の手段であって、二番目の被害者に最も軽微な損害をあたえる方法を選ぶべきで、三番目の避難行為によって保全される利益はこれによって侵害される利益より優れなければならなく、四番目の避難行為はそれ自体が社会倫理や法秩序全体の精神に照らして適合した手段であることを要するなどの要件をそろえなければならない(大法院2006.4.13.宣告2005刑事上告事件9396判決など)。
また、職場上司の指示によってその部下が法律違反行為に加担した場合、たとえ職務上指揮服従関係が認められるといっても、それのために法律違反行為に加担しない期待可能性が否定されると見ることはできない(大法院1999.7.23.宣告99刑事上告事件1911判決など参照)。
原審が判示のような理由を挙げて、この事件引き船団の無理な運航が緊急避難に該当するとか上司の航海指示に従わなければならなかったために適法な運航に対する期待可能性がないという主張を皆排斥したことは上の法理に照らして皆正当で、そこに上告理由で主張するところのような緊急避難、期待不可能性などに関する法理誤解の違法がない。
(5)旧海洋汚染防止法(2007.4.11.法律第8371号で海洋環境管理法が制定され2008.1.20.施行されることによって廃止される前のこと)第77条※3は“法人の代表者または法人や個人の代理人、使用人その他の従業員がその法人または個人の業務に関して第71条※4ないし第76条※5の違反行為をした時には、行為者を罰する他にその法人または個人に対しも各該当組の罰金刑を科する。”と規定している。
このような両罰条項の趣旨は、法人など業務主義処罰を通じて罰則条項の実効性を確保するところにあることで、ここで話す法人の使用人には法人と正式雇用契約が締結されて勤める者だけでなく、その法人の業務を直接または間接で遂行して法人の統制・監督下にある者も含まれるというだろう(大法院2004.3.12.宣告2002刑事上告事件2298判決、大法院2006.2.24.宣告2003刑事上告事件4966判決など参照)。
原審が適法に採択した証拠らによれば、被告人Seung Min Cho、Yi Hyun Kimがたとえ控訴外株式会社所属職員ではあるが、上の会社は被告人三星重工業株式会社の協力業者としてこの事件引き船団用役(サービス)管理委託契約により、被告人三星重工業株式会社のためでこの事件引き船団を管理運営する他には他の営業を全くしない会社であり、上の被告人らは被告人三星重工業株式会社所属職員らの統制監督を受けてこの事件引き船団を運航する方法で被告人三星重工業株式会社のこの事件引き船団使用業務を直接または間接で遂行してきた事実が認められるため、原審が被告人三星重工業株式会社に上の両罰条項を適用したことは上の法理に照らして正当で、そこに上告理由で主張するところのような両罰条項の適用範囲に関する法理誤解の違法がない。
(6)原審が判示のような色々理由を挙げて、この事件主引き船の船長の被告人Seung Min Choは気象状態をいつも綿密に把握して、気象悪化で曳航能力が制限または喪失になる場合、避航、非常投錨、調整制限灯火など適切な非常措置を協議して施行することと同時に近接距離にある危険船舶を発見する場合、船内に設置されている超短波無線電話機(VHF)を利用して管制所および相手船舶と速かに交信を取って衝突の危険が発生する前にあらかじめ衝突を避ける措置を講じることにもこれを怠り一歩遅れて衝突を避けるという理由で無理に大角度変針は過失などが認められて、この事件引き船団の船団長の被告人Yi Hyun Kimは気象状態をいつも綿密に把握して気象悪化で曳航能力が制限または喪失になる場合、引き船団の通信設備を使用して引き船船長らといつも交信して予想される危険要素らをあらかじめ把握して避航、非常投錨のような非常措置などを協議して適切な時点で施行するようにすることにもこれを怠り、主引き船の曳航ワイヤーが切れた後には、艀船の錨を十分な杷駐力を発揮できるほど投錨することにもこれを誤らせた過失などが認められると判断した措置に証拠によらなかったり合理的な疑いがない程度の証明に達しなかったのに、控訴事実を認めた違法または証拠評価に関する論理法則経験法則を違反して自由心証の限界を越えた違法は見えない。
これは原審が、被告人Seung Min Choが大山(テサン)地方海洋水産庁海産交通管制センターとの交信に関して航海日誌を偽り記載したと認めた部分と同じことだ。その他に被告人らが原審の事実認定に関して前に出す理由らは結局具体的な論理法則経験法則違反事実を特定しないまま原審の事実認定を争う趣旨に過ぎないのでこれは適法な上告理由に該当しない。
また、被告人Seung Min Choの量刑不当主張は懲役2年6月および罰金刑が宣告されたこの事件では適法な上告理由に該当しない。
(7)結局、海洋汚染防止法違反および船員法違反の部分に関する被告人Seung Min Cho、Yi Hyun Kim、三星重工業株式会社の上告理由は皆受け入れない。
B.被告人Jasprit Chawla、Syan Chetan、Hebei Spirit号船舶株式会社の上告理由の部分
(1)刑事訴訟法第298条第1項※6は“検事は裁判所の許可を得て控訴状に記載した控訴事実または適用法曹の追加撤回または変更ができる。この場合に裁判所は控訴事実の同一性を害しない限度で許可しなければならない。”と決めているところ、控訴事実の同一性可否は事実の同一性が持つ法律的機能を念頭に置いて被告人の行為とその社会的な事実関係を基本でするものの、その規範的要素も考慮に入れて判断しなければならない(大法院1996.6.28.宣告95刑事上告事件1270判決など参照)。
この事件訴訟記録によれば、検事はこの事件引き船団とHebei Spirit号の衝突でもたらされた多量の油漏出に対する刑事責任を問うために被告人Jasprit Chawla、Syan Chetanに対し業務上過失船舶破壊罪と海洋汚染防止法違反の想像的競合犯で控訴提起して(Hebei Spirit号船舶株式会社に対しは海洋汚染防止法違反だけ適用)、初めには衝突防止のための注意義務違反だけを控訴事実で特定して原審に達して、上二つの罪の関係を実体的競合犯に変更して衝突防止のための注意義務違反の具体的な内容を一部変更して衝突後油漏出を防ぐための汚染防止関連注意義務違反を控訴事実に追加し、すでにこの事件捜査および1審審理過程でも汚染防止関連注意義務違反可否が論議になって相当部分審理が進行されてきた事実が認められるところ、上のようにすでに控訴提起された数個の罪に対する囚人評価を変更することでも単純一罪の過失犯の注意義務違反内容を一部補完するのは既存の控訴事実の同一性を害するケースに該当しない。
同じ趣旨の原審は正当で、そこに上告理由で主張するところと同じ控訴状変更許容範囲に関する法理誤解の違法がない。
(2)海上交通安全法などによれば、船舶は周囲の状況および他の船舶と衝突することができる危険性を十分に把握できるように視覚、聴覚および当時の状況に合うように利用することができるすべての手段を利用して適切な警戒をしなければならなくて、原則的に停泊船が航行船との衝突危険を回避するために先に積極的に避航措置をしなければならない注意義務を負担するのではないが、すでに衝突危険が発生した状況で航行船が自ら避航することはできない状態に置かれているならば停泊船としても衝突危険を回避するのに要求される適切な避航措置をしなければならない注意義務が認められることだ(大法院1984.1.17.宣告83刑事上告事件2746判決など参照)。
また、過失犯に関するいわゆる信頼の原則は、相手方がすでに非正常的な形態を見せている場合には適用される余地がないことで、これは行為者が警戒義務を怠ったせいで相手方の非正常的な形態をあらかじめ認識することが出来ない場合にも同じことだ。
進んで、結果発生に際した具体的な状況で要求される正常の注意義務をつくしたというためには単純に法規や内部指針などに羅列されている事項を形式的に履行したとのことだけでは不足して、具体的な状況で結果発生を回避するために一般的に要求される合理的で適切な措置をしたことと評価するべきだ。
原審が判示のような色々理由を挙げて、気象が継続して悪化している状況で、船舶の通航が頻繁な遮蔽な遮蔽されなかった海上に原油約302,640kl(約263,994t)を積んだ単一船体船舶のHebei Spirit号を停泊させた以上、1等航海士であり事故当時当直士官だった被告人Syan Chetanとしては、肉眼およびアルファレーダーなど航海装備を利用し、近接して進行する船舶があるかをよく見回してHebei Spirit号との衝突危険性などを把握して、交信を通じて相手船舶でとって十分な距離をおいて安全に通過するようにしたり、相手船舶が航海能力を失ったり深刻に制限されていることで疑われる場合には、迅速にHebei Spirit号の機関を稼動して錨を上げて停泊場所から移動するなど衝突を避けられるように直ちに船長を呼び出しすることにもこれを怠った過失があり、船長の被告人Jasprit Chawlaとしては、停泊中にも主機関を準備状態に置くように措置して、当直士官の適切な任務遂行を促して、呼び出しを受けて船橋に上がってきた後には正確に状況を把握して相手船舶との交信衝突を防ぐために協力することはもちろん相手船舶の航海能力障害によって衝突危険が発生した時には迅速に強い後進機関を使うなど衝突を避けるための積極的措置を取ることにもこれを怠った過失があり、上被告人らの上のような過失がこの事件引き船団船員らの過失と競合して、引き船団とHebei Spirit号が衝突するに至ったし、また上の被告人らは衝突以後油漏出を最小化するために損傷したタンクの油を損傷しなかったタンクで最大限移送して油流出タンクの内部圧力を降下して平衡水槽節などで油の追加流出防止のための最適の状態を作ることにもこれを怠った過失などが認められると判断したことは上の法理に照らして正当で、そこに証拠によらなかったり合理的な疑いがない程度の証明に達しなかったのに控訴事実を認めた違法または証拠評価に関する論理法則経験法則を違反して、自由心証の限界を越えた違法は見えない。その他に被告人らが原審の事実認定に関して前に出す理由らは結局具体的な論理法則、経験法則、違反事実を特定しないまま原審の事実認定を争う趣旨に過ぎないので、これは適法な上告理由に該当しない。
(3)原審判決理由によれば、原審が判示のような被告人Jasprit Chawla、Syan Chetanの汚染防止措置の不備を認めて、ただし彼らによって漏れ出た油の量が正確にいくらなのか算定することは難しいと説示しているだけで汚染防止措置の不備自体が認められないと判示したことはないことが分かる。原審が汚染防止措置の不備自体が認められないと判示したことを前提として原審判決に理由矛盾があるという主張は原審判決趣旨を間違って理解したことから始まったことであるから受け入れることはできない。残り原審判決の理由矛盾を指摘する主張らも皆原審判決を間違って理解したことだとか原審の事実認定および判断とは違った前提で原審を非難する趣旨に過ぎなくて皆受け入れることはできない。
(4)この事件訴訟記録によれば、原審の証拠調査過程で一部証拠能力ない証拠が現出されたことは大部分この事件引き船団とHebei Spirit号側が防御権行使の方法でこの事件衝突および海洋汚染の主な責任が自身ではく相手方にあると主張して、自身に有利で相手方に不利な資料を積極的に浮上させる過程から始まったことが分かるので、そういう事情だけでまさに原審の審理手続きに判決に影響を及ぼした違法があると断定することはできない。
進んで、原審の事実認定中一部は検事が作成した控訴外因に対する陳述調書などと同じように証拠能力が認められない証拠に基づいて成り立ったと見られたりもするか、これを除いて原審が適法に採択したあげく証拠らだけによっても被告人Jasprit Chawla、Syan Chetanの衝突および汚染防止注意義務違反を認めた原審結論を後押しするのに充分なのでこれは原審判決に影響を及ぼした理由に該当しない。
残り原審審理手続きの違法を争う主張は、皆その採否や実施可否が原審議裁量に属する事項に関してその要請を指摘する趣旨に過ぎないので受け入れない。
(5)量刑の基礎事実に関して、事実を誤認したか量刑の条件になる正常に関して審理を正しくしなかったという主張などは結局量刑不当を主張することなので、この事件で適法な上告理由になれない。
(6)結局、海洋汚染防止法違反の部分に関する被告人Jasprit Chawla、Syan Chetan、Hebei Spirit号船舶株式会社の上告理由はやはり皆受け入れない。
2.業務上過失船舶破壊罪の部分に関する上告理由に対し
刑法第15章交通妨害の罪に属する刑法第187条※7は“人の現存する汽車、電車、自動車、船舶または航空機を転覆、埋没、墜落または破壊した者は、無期または3年以上の懲役に処する。”として、第190条※8は未遂犯を、第191条※9は予備または陰謀した者を処罰するように決めている。刑法が第187条を交通妨害の罪の中の一つとしてその法定刑を高く決める一方未遂、予備陰謀までも処罰対象としている事情に付け加えて‘破壊’他に他の構成要件行為の転覆、埋没、墜落行為が一般的に相当な程度の損壊を伴うことが当然予想される事情などを考慮してみる時、刑法第187条で定めた‘破壊’とは他の構成要件行為の転覆、埋没、墜落などと同じ水準と認定できる程交通機関としての機能用法の全部や一部を不可能にするほどの破損を意味して、その程度に達しない単純な損壊は含まれないと解釈される(大法院1970.10.23.宣告70刑事上告事件1611判決、大法院1983.9.27.宣告82刑事上告事件671判決など参照)。
原審が適法に採択した証拠らによれば、Hebei Spirit号は総長さ338m、甲板高さ28.9m、総トン数146,848トン、油類タンク13個、平衡数タンク4個の大型タンカーなのに、この事件衝突による損傷は左舷1、3、5番油類タンクに各一ヶ所ずつ穴(1番タンク0.3m×0.03m、3番タンク1.2m×0.1m、5番タンク1.6m×2m)ができ、船首マスト、衛星通信アンテナ、航海灯などが破損した程度に過ぎない事実が認められる。
先立ってみた法理に上認定事実を照らしてみれば、この事件衝突でHebei Spirit号に発生した損傷は刑法第187条で定めた船舶の‘破壊’と見にくくて、これは油類タンクにできた穴で油が漏れ出てこれを修理する時まで油を運送するタンカーとしての機能を正常に遂行できなかったといって別に見るものでもない。
これとは違い、この事件衝突でHebei Spirit号に発生した損傷が刑法第187条で定めた船舶の‘破壊’に該当すると見た原審は、上の条項の解釈適用に関する法理を誤解した違法がある。これを指摘する被告人Seung Min Cho、Jasprit Chawla、Syan Chetanの上告理由は正しくて、上のような原審判決の違法理由は共に上告した共同被告人の被告人Yi Hyun Kimに対しも共通するので被告人Yi Hyun Kimに対するこの部門原審判決やはり破棄を免じることはできない。
したがって、被告人Seung Min Cho、Yi Hyun Kim、Jasprit Chawla、Syan Chetanに対する業務上過失船舶破壊罪や上の罪が成立することを前提にした残り罪らとの囚人および処断刑罰算定方法などに関する原審の他の判断部分に対し、争う趣旨の残り上告理由に対しは進んで見回す必要はなく、上の被告人らに対し業務上過失船舶破壊罪を認めた原審判断の部分はそのまま維持されることはできない。
3.破棄の範囲
原審は被告人Seung Min Choの業務上果過失船舶破壊罪と海洋汚染防止法違反および船員法違反(一部)を有罪と認定した後、これらを実体的競合犯で業務上過失船舶破壊罪と海洋汚染防止法違反に対しは一つの懲役刑を宣告して船員法違反に対しはこれと別個で罰金刑を併科した。
この場合、一つの懲役刑が宣告された業務上過失船舶破壊罪と海洋汚染防止法違反は訴訟上一体で取り扱いされなければならないので、業務上過失船舶破壊罪に関する原審判断に違法がある以上海洋汚染防止法違反の部分まで共に破棄を免じることはできない。ただし、別個の罰金刑が併科された船員法違反の部分は訴訟上別個で分離取り扱いされなければならないのでこの部分は破棄範囲に属しない(原審は被告人Seung Min Choに対する1審判決中本案に対する部分を破棄しながらも訴訟費用負担に対する部分は破棄しなかった。ところで訴訟費用負担の部分は本案の部分と一度に審判されなければならなくて、分離確定することができないことであるから、1審本案の部分を破棄する場合には当然訴訟費用負担の部分まで共に破棄していなければならないだろう。したがって被告人Seung Min Choに対する訴訟費用負担の部分まで共に破棄することにする)。
原審は被告人Yi Hyun Kimの業務上過失船舶破壊罪と海洋汚染防止法違反に対しも一つの刑を宣告したので被告人Yi Hyun Kimに対する原審判決は皆破棄を免じることはできない。
一方、原審はこの事件業務上過失船舶破壊罪と海洋汚染防止法違反が実体的競合犯だと判断して被告人Jasprit Chawla、Syan Chetanに対し業務上過失船舶破壊罪に対しは禁固刑を海洋汚染防止法違反に対しは罰金刑を各選択した後これを併科した。この場合も、つかむ訴訟上別個で分離取り扱いされなければならないので、破棄範囲は業務上過失船舶破壊罪に限定されて海洋汚染防止法違反に対しは及ぼさない。
4.結論
したがって、原審判決中、被告人Yi Hyun Kimに対する部分、被告人Seung Min Choに対する業務上過失船舶破壊罪と海洋汚染防止法違反および訴訟費用負担の部分、被告人Jasprit Chawla、Syan Chetanに対する業務上過失船舶破壊罪の部分を皆破棄して、この部分事件をまた審理判断するようにするために原審裁判所に還送することにして、被告人Seung Min Cho、Jasprit Chawla、Syan Chetanの残り上告および被告人三星重工業株式会社、Hebei Spirit号船舶株式会社の上告を皆棄却することにして、関与最高裁判事の一致した意見で主文のとおり判決する。
裁判長 大法官 李鴻薫(イ・ホンフン)※10
大法官 金英蘭(キム・ヨンナン)※11
大法官 金能煥(キム・ヌンファン)※12
主審 大法官 車漢成(チャ・ハンソン)※13
・補足
※1.刑法第17条
第17条(因果関係)
どんな行為でも罪の要素になる危険発生に連結しない時にはその結果によって罰しない。
※2.刑法第22条第1項
第22条(緊急避難)
①自己または他人の法益に対ある現在の危難を避けるための行為は相当ある理由がある時には罰しない。
※3.旧海洋汚染防止法77条
第77条(両罰規定)
法人の代表者または法人や個人の代理人・使用人その他の従業員が、その法人または個人の業務に関して第71条ないし第76条の違反行為をした時には、行為者を罰する他にその法人または個人に対しも各該当条の罰金刑を科する。
※4.旧海洋汚染防止法71条
第71条(罰則)
①第5条第1項の規定に違反して,油を排出した者は5年以下の懲役または5千万ウォン以下の罰金に処する。
②次の各号の1つに該当する者は3年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金に処する。 <改正95.12.29>
1.過失に因って第5条第1項の規定に違反して油を排出した者
2.第11条第1項の規定に違反して有害液体物質を排出した者
3.削除<99.2.8>
4.第15条の3の規定に違反して包装有害物質を排出した者
※5.旧海洋汚染防止法76条
第76条(罰則)
次の各号の1つに該当する者は200万ウォン以下の罰金に処する。<改正99.2.8>
1.第6条第2項または第17条第2項の規定に違反して形式承認および検定または認められない油汚染防止設備または廃棄物汚染防止設備を設置した者
2.第15条の2の規定に違反して包装有害物質を運送した者
3.第48条の2の規定による措置をしない者
4.第49条第1項の規定に違反して資材および薬剤を備えつけない者
5.削除<99.2.8>
6.第53条第4項の規定による申告をせず船舶を解体した者
7.第56条第3項の規定による出入り検事・報告要求などを正当な理由なしに拒否・妨害または忌避した者[全文改正95.12.29]
※6.刑事訴訟法第298条第1項
第298条(控訴状の変更)
①検事は裁判所の許可を得て,控訴状に記載した控訴事実または適用法曹の追加、撤回または変更ができる。この場合に裁判所は控訴事実の同一性を害しない限度で許可しなければならない。
※7.刑法187条
第18条(汽車等の転覆等)
人の現存する汽車、電車、自動車、船舶または航空機を転覆、埋没、墜落または破壊した者は無期または3年以上の懲役に処する。
※8.刑法190条
第190条(未遂犯)
第185条ないし第187条の未遂犯は処罰する。
※9.刑法191条
第191条(予備、陰謀)
第186条または第187条の罪を犯す目的で予備または陰謀した者は3年以下の懲役に処する。
※10.李鴻薫(イ・ホンフン)
名前:李鴻薫(イ・ホンフン)
出生:1946年06月01日(全北(チョンブク)高敞(コチャン))
職業:法曹人(判事)
学歴:ソウル大大学院法学修士・ソウル大法科大法学科卒業
経歴:大法院最高裁判事・ソウル中央地方法院長・水原地裁法院長
※11.金英蘭(キム・ヨンナン)
名前:金英蘭(キム・ヨンナン)
出生:1956年11月10日(釜山(プサン))
職業:法曹人(判事)
学歴:ソウル大大学院法学修士・ソウル大法科大法学科卒業
経歴:大法院最高裁判事(~2010.8)・大田(テジョン)高裁部長判事・鍾路区(チョンノグ)選挙管理委員会委員長
※12.金能煥(キム・ヌンファン)
名前:金能煥(キム・ヌンファン)
出生:1951年10月23日(忠北(チュンブク)鎮川(ジンチョン))
職業:法曹人(判事)
学歴:ソウル大法科大法学科卒業・京畿(キョンギ)高卒業
経歴:大法院最高裁判事・蔚山(ウルサン)地方裁判所法院長・ソウル高裁部長判事
※13.車漢成(チャ・ハンソン)
名前:車漢成(チャ・ハンソン)
出生:1954年11月26日(慶北(キョンブク)高麗)
職業:法曹人(判事)
学歴:フランス国立司法官学校国際部研修・ソウル大法大法科卒業
経歴:大法院最高裁判事・法院行政処次長・清州(チョンジュ)地方裁判所法院長