大田(テジョン)地方法院 瑞山(ソサン)支援
判 決


事件
2008年刑事1審単独事件11
A.海洋汚染防止法違反
B.業務上過失船舶破壊
C.船員法違反

被告人
1.A.B.C. Seung Min Cho、船員(三星T-5号船長)
住居 東海市(トンヘシ)
2.A.B. Yi Hyun Kim、船員(三星1号(クレーン艀船)船長)
住居 巨済市(コジェシ)新県邑(シンヒョンウプ)
3.A.B. Jasprit Singh Chawla、船員(Hebei Spirit号船長)
住居 インド国
4.A.B. Gan Tae Kim、船員(三湖T-3号船長)
住居 釜山(プサン)、釜山鎮区(プサンジング)
5.A.B. Syan Chetan、船員(Hebei Spirit号航海士)
住居 インド国
6.A. 三星(サムスン)重工業株式会社
所在地 ソウル瑞草区(ソチョグ)
7.A. Hebei Spirit船舶株式会社
所在地 香港

検事
パク・ハヨン、イ・スンヒョン

弁護人
法務法人廣場(Lee&Ko)(被告人Seung Min Cho、Yi Hyun Kim、Gan Tae Kim、三星(サムスン)重工業株式会社のため)担当弁護士 高元錫(コ・ウォンソク)、徐昌熙(ソ・チャンヒ)、ヒョン・ドッキュ、黄仁奎(ファン・インギュ)、徐宗洙(ソ・ジョンス)、金栽煥(キム・ジェファン)、金汎洙(キム・ボムス)
弁護士 ホン・ソクボム、イ・ジノン、イ・ウンネ、イ・ソンギュ、キム・ソンジン、イ・ドヒョン(被告人Jasprit Singh Chawla、Syan Chetan、Hebei Spirit船舶株式会社のため)

判決宣告
2008.6.23

主文

被告人Seung Min Choを懲役3年および罰金2,000,000ウォンに、被告人Gan Tae Kimを懲役1年に、被告人三星(サムスン)重工業株式会社を罰金30,000,000ウォンに各処する。
被告人Seung Min Choが上の罰金を納入しない場合、50,000ウォンを1日で換算した期間、被告人Seung Min Choを労役場に留置する。
この判決宣告前の拘禁日数182日を被告人Seung Min Choに対する上の懲役刑に算入する。
被告人Yi Hyun Kim、Syan Chetan、Jasprit Singh Chawla、Hebei Spirit船舶株式会社は、各無罪、訴訟費用中、鑑定に関する費用は被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kim、三星(サムスン)重工業株式会社の連帯負担でする。

理由

犯罪事実

被告人Seung Min Choは、3,000t級海上クレーンを積載した艀船、総トン数11,828トンの三星(サムスン)1号(以下‘艀船’という)を引く総トン数292トンの三星(サムスン)T-5号(以下‘T-5号’という)の船長として艀船を目的地まで安全に引く責任者であり、被告人Gan Tae KimはT-5号とともに上の艀船を引く総トン数213トンの三湖(サムホ)T-3号(以下‘T-3号’という)の船長であり、上被告人のYi Hyun Kimは上の艀船の船頭だ。
被告人Seung Min Choは、被告人三星(サムスン)重工業株式会社(以下‘三星重工業’という)の協力業者のBoram株式会社(以下‘Boram’という)の職員として三星重工業とBoramとの用役(サービス)管理委託契約によって、被告人Gan Tae Kimは、株式会社三湖(サムホ)I&D(以下‘三湖I&D’という)の職員として上の会社と株式会社三星(サムスン)物産(以下‘三星物産’という)との引き船賃貸借契約および三星物産と三星重工業との船団賃貸借契約によって、各三星重工業の指揮・監督を受ける人だ。
被告人三星重工業は、船舶建造およびこれに伴う業務などを目的に設立された法人だ。

1.被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kimの共同犯行
被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kimは2007.12.6.14:50頃、仁川(インチョン)延寿区(ヨンスグ)松島洞(ソンドドン)所在、仁川(インチョン)大橋建設工事現場で互いに気象状態に対する情報を交換し、狭水路通過時の曳航方法などを議論した後、巨済市(コジェシ)所在三星重工業三星造船所を目的地に引き船団を導いて出港することになったところ、上の被告人らは共同して下のような誤りを犯した。

A.被告人Seung Min Cho
被告人は、大型海上クレーン積載艀船を引く主引き船の船長として2007.12.6.22:30頃、仁川(インチョン)西水道地域を通過する当時、引きワイヤーの長さを200mから約400mほどで伸ばし、引き船と艀船後尾に連結した三星(サムスン)A-1号(以下‘A-1号’という)までの全体引き船団の長さを約700mの状態で長距離曳航航海をするにおいて、全体航海期間の気象状態を常に綿密に把握し、気象状態の悪化可否を速かに確認して船団の各船長らに伝播またはそれに伴う対策を講じるべきで、艀船の規模が引き船の規模に比べて顕著に大きいため強風などの気象状態によって曳航能力が制限、喪失になるのかどうかに留意して航海するものの、曳航能力の制限または喪失時、上被告人のGan Tae Kim、Yi Hyun Kimは、避航、非常投錨、操船制限ないし操船不能灯火など適切な非常措置を協議して施行しなければならないだけでなく、針路を急激に変更する場合には曳航ワイヤーに無理を与える恐れがあり大角度変針をしてならないし、船団間の相互交信に万全を期して近接距離にある危険船舶を発見する場合、船内に設置されている超短波無線電話機(VHF)を使用し管制所および相手船舶と速かに交信を取り、衝突の危険が発生する前にあらかじめ衝突を避ける措置を講じなければならない業務上注意義務がある。
それにもかかわらず、被告人は上のような注意義務を疎かにしたあげく2007.12.7.02:00頃、忠南(チュンナム)泰安郡(テアングン)遠北面(ウォンブクミョン)信島北西方海上(北緯36-56.1、東経126-02.7)を航海している間、最大風速19.0m/s、波高3.4mなどの気象悪化で航海に困難を経験し始め同日04:45頃、信島南西方約5.7マイル海上で、T-3号の1等航海士キム(フルネーム不明、以下‘キム1’という)と無線交信を通じて仁川(インチョン)西水道方面避航放棄で協議しこのために右変針を試みたがより一層悪化した気象によって船団が同水路に流され避航に失敗した後、引き船と艀船の前後位置が逆さまになるなど曳航能力を喪失した状態に達することになり、上のように東に流されていた同日05:23頃、引き船団の非正常的な運航状況を認知した大山(テサン)地方海洋水産庁海上交通管制センター(以下‘港務大山(テサン)’という)担当者チェから超短波無線電話機(VHF)チャンネル16で2回呼び出しを受けたのにこれに応じず、被告人は継続して同日05:30頃、同海域信島南西方約5.7マイル海上に達し、避航を諦めたままT-3号キム1に無線交信で針路を270度で右変針を指示し当初の予定航路方向に航海を試みて、艀船から南東側方向約1.4マイル距離に停泊中だったHebei Spirit号(146,868t)に向かって進行することになったが、超短波無線電話機(VHF)を利用して管制所およびHebei Spirit号側に曳航能力喪失可否を知らせたり具体的に衝突を避けるための交信を試みず上のように衝突の危険がより差し迫る以前に近隣の適切な投錨地を探して投錨など非常措置を取ることせず、上被告人Yi Hyun Kim、被告人Gan Tae Kimとも上のような危急状況とそれにともなう措置を協議・施行をせず、同日06:14頃、危険を感じたHebei Spirit号から交信呼び出しを受けたのに応答をせず、継続してHebei Spirit号側に流され相互間の距離が約0.36マイルになる時点の同日06:30頃、Hebei Spirit号の船首左側に避けることを決心、T-3号船長の被告人Gan Tae Kimに300度で変針することを指示した後、大角度で右変針して進行して同日06:52頃、悪天候中の無理な航行で曳航ワイヤーに動的荷重がかかり疲労強度も累積した状況に、波高などで船体が動揺し曳航ワイヤーの破断力を越える過度な張力が瞬間的にかかって切れ、艀船がHebei Spirit号方向に流され適切な事故防止の措置を取っていない業務上過失がある。

B.被告人Gan Tae Kim
被告人は副引き船(T-3号)の船長であり、引き船団の一員として気象状態を予め綿密に把握し風浪注意報発効など気象状態悪化可否に対し速かに確認して船団の各船長らと相談するべきで、強風などによって曳航能力が制限、喪失になるのかどうかを常に留意して航海をしなければならなくて、気象悪化によって危険が予想される場合、船長が直接操舵室に臨んで操船するべきで、超短波無線電話機(VHF)で相互交信に万全を期しなければならなく、また近接通りにある危険船舶発見時、管制所および相手船舶と速かに交信を取り衝突の危険が発生する前にあらかじめ互いに具体的にいかなる方法で衝突を避ける措置を取るのかに対し協議および施行するべきで、警戒義務を忠実に履行して予想される危険要素らを予め把握することによって適切な時点に避航または投錨、操船制限ないし操船不能灯火など必要な措置を取らなければならなく、主引き船T-5号に緊急事項発生時、機関最大稼動など積極的な措置を取り船舶の衝突を防止しなければならない業務上注意義務がある。
それにもかかわらず、被告人は上のような注意義務を違反して2007.12.6.23:50頃、寝室に降りて行った後、同じ月7.01:10頃、当直員の2等航海士Seung Min Choから気象悪化などの問題で呼び出しを受けて操舵室に上がり同日02:00頃また寝室に戻り、引き船団が避航に失敗したまま東に継続して流された同日操舵室に臨む05:30等、危険状況の中で船長として直接操船しなかっただけでなく、その時引き船団と約1.4マイル距離に停泊していたHebei Spirit号との衝突危険性を認識できないが同日06:14頃にはHebei Spirit号の交信呼び出しに応答せず、同日06:29頃、自らHebei Spirit号を呼び出ししたのに引き船団の曳航能力喪失事実を正確知らせず、同日06:52頃、T-5号の曳航ワイヤーが切れてやむを得ず単独で艀船を引っ張ることになり機関出力を最大にして艀船がHebei Spirit号にそのまま流されないように最善を尽くしていなければならないことにも機関出力を最大回転毎分数(rpm)750に及ばない回転毎分数(rpm)650程度で使うなど事故を防止するための適切な措置を取っていない業務上過失がある。
結局、上のような被告人らの個人および共同過失によって2007.12.7.06:52頃、T-5号と連結した曳航ワイヤーが切れ艀船がHebei Spirit号方向約600m流され、07:06頃、忠南(チュンナム)泰安郡(テアングン)遠北面(ウォンブクミョン)信島南西方6マイル海上(北緯36-52.1、東経126-03.1)針路350度で停泊中だったHebei Spirit号の船主マストの部分を艀船船首のクレーンブーム下段フック部分で衝突した後、継続してHebei Spirit号の左舷側に押しかけ上の船舶左舷船体部分を艀船の船首左舷隅の部分で順次ぶつかるなど総9ヶ所に衝突して、2等航海士など船員27人が現存するHebei Spirit号の船主マスト、衛星通信アンテナ、航海灯などを破損して左舷1番、3番、5番原油タンク3ヶ所に破孔を発生させ、上の船舶を破壊することと同時に上のHebei Spirit号に積載中だった原油約12,547kl(10,900t)を近隣海上に排出させた。

2.被告人Seung Min Choの単独犯行
被告人は2007.12.7.事故地点付近に投錨されていたT-5号内で航海日誌を記載、事実は衝突事故切迫頃になって管制所と交信を試みただけ、事故以前には交信を行った事実がないことにも‘05:50頃、港務大山(テサン)と交信、Spirit号S/b eng要請’という趣旨で記載し航海日誌を偽り記載した。

3.被告人三星重工業の両罰責任
被告人は、従業員の被告人Seung Min ChoおよびGan Tae Kimが上の第1項記載とともに被告人の業務に関して違反行為をした。


法令の適用

1.犯罪事実に対する該当法条
A.被告人Seung Min Cho:海洋環境管理法付則(2007.1.19.)第22条※1、旧海洋汚染防止法(2007.1.19.法律第8260号海洋環境管理法付則第2条で廃止)第71条第2項第1号※2、第5条第1項※3(過失で船舶から油を排出した点)、刑法第189条第2項※4、第187条※5(業務上過失船舶破壊の点)、船員法第135条第6号※6、第20条第1項第3号※7(偽りで航海日誌を記載した点)
B.被告人Gan Tae Kim:海洋環境管理法付則(2007.1.19.)第22条※1、旧海洋汚染防止法(2007.1.19.法律第8260号海洋環境管理法付則第2条で廃止)第71条第2項第1号※2、第5条第1項※3(過失で船舶から油を排出した点)、刑法第189条第2項※4、第187条※5(業務上過失船舶破壊の点)
C.被告人三星重工業株式会社:海洋環境管理法付則(2007.1.19.)第22条※1、旧海洋汚染防止法(2007.1.19.法律第8260号海洋環境管理法付則第2条で廃止)第77条※8、第71条第2項第1号※2、第5条第1項※3

1.想像的競合
A.被告人Seung Min Cho:刑法第40条※9、第50条※10(海洋汚染防止法違反罪と業務上過失船舶破壊罪相互で刑がさらに重い海洋汚染防止法違反罪に定めた刑で処罰)
B.被告人Gan Tae Kim:刑法第40条※9、第50条※10(海洋汚染防止法違反罪と業務上過失船舶破壊罪相互で刑がさらに重い海洋汚染防止法違反罪に定めた刑で処罰)

1.刑の選択
被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kim:各懲役刑選択

1.競合犯加重(被告人Seung Min Choに対し)
刑法第37条全段※11、第38条第1項第3号※12(海洋汚染防止法違反罪に定めた懲役刑と船員法違反罪に定めた罰金刑を併科)

1.労役場留置(被告人Seung Min Choに対し)
刑法第70条※13、第69条第2項※14

1.未決拘禁日数の算入(被告人Seung Min Choに対し)
刑法第57条※15

1.訴訟費用の負担
刑事訴訟法第186条第1項※16、第187条※17


被告人および弁護人の主張に対する判断

1.被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kimの海洋汚染防止法違反の点および業務上過失船舶破壊の点に対し
A.気象状況確認および航海継続と関連した注意義務違反に関して
(1)主張要旨
弁護人は上の被告人らが仁川(インチョン)港出港当日、仁川(インチョン)気象台の自動応答サービス案内等を通して出港当日から3日間の気象情報を確認したが、出港当日の2007.12.6.仁川(インチョン)気象台自動応答サービス案内に入力された気象情報によれば、出港する当時まで予定航路の西海(ソヘ)中部近海地域にはいかなる注意報や特報も発令されていなく、西海(ソヘ)中部近海の気象は少しずつ好転することと予報され、出港当時の実際の気象は予報に比べてさらに良好で出港には何の問題がなく、仁川(インチョン)海上交通管制センターで入出港を統制することもなかったので上の被告人らが気象状態をまともに確認しなかったと見ることができなく、出港以後、航海が難しくなるほど気象が悪化されると予想することができなく、西海(ソヘ)中部近海にはこの事件衝突事故が発生する頃の2007.12.7.07:00ではじめて風浪注意報が発表されると同時に発効されるほど気象異変に近い急激な気象変化があったため、継続して航海したり非常投錨をしないのは誤りということができないという趣旨で主張する。

(2)判断
先んじた各証拠によれば、①仁川(インチョン)気象台は、2007.12.6.09:00から16:50頃まで自動応答サービスを通じて仁川(インチョン)など京畿(キョンギ)南部西海岸(ソヘアン)海上天気に関して2007.12.6.夜から2007.12.7.まで海上に突風と共に風が強く吹き、波が高くなるため海上安全などに留意すること、西海(ソヘ)中部近海の風は2007.12.6.午後9-13m/s、2007.12.7.午前9-13m/s、午後8-12m/s、2007.12.8.7-11m/s程度で吹くという気象情報を提供した事実、②風速8-10.7m/sはビューフォート風力階級5、風速10.8-13.8m/sはビューフォート風力階級6に各該当する事実、③引き船団が保険加入のために受けた保険調査証明書には、ビューフォート風力階級が5を超過する場合、出発のための曳航をしないようにする勧告事項と、ビューフォート風力階級6を避航しなければならない最大ビューフォート風力階級だと記載されている事実、④仁川(インチョン)地方海洋水産庁海上交通管制室では2007.12.7.01:30頃、超短波無線電話機(VHF)で同日03:00西海(ソヘ)中部遠海に風浪注意報が発効される予定という放送をし、この放送を聞いたT-5号の航海当直士官のカク(フルネーム不明)は被告人Seung Min Choを呼び出しその内容を伝えられた事実、⑤引き船団は2007.12.7.00:30頃からは以前と同じように一定の針路を維持できなく、実際航跡の針路がいつも変動し、03:00頃からは風速が増加して波高が高まり曳航航海に困難を経験した事実、⑥引き船団の全長が700mほどで艀船は総トン数11,828tで引き船のT-5号とT-3号の総トン数合計505tに比べて顕著に大きく、艀船には高さ140m程度の海上クレーンが設置されている事実が認められる。
上認定事実によれば、この事件引き船団は航海時、船列が700mに達し艀船と引き船の総トン数差が大きく、艀船に大型海上クレーンが設置され航海時操縦能力が制限され、高さ140mに達する大型海上クレーンが設置され航海時、風の影響を顕著受け狂風が吹く場合、操縦能力が喪失になる可能性が高く、出港当時、保険調査証明書で継続しての航海を許さない程度の強風が吹くため海上安全などに格別に留意しろとの内容の気象予報があった状況だったことからこのような場合、長距離曳航航海に従事する被告人らは出港以前に予定航海期間中の気象状況に対し綿密に把握し、これを土台に実際の気象が悪化される場合に備えて避航常時期、避航地、避航方法などを含んだ対策を予め講じて実際に気象が悪化される場合、安全に避航するなどして衝突事故を防止しなければならない業務上の注意義務があるにも関わらず、上の被告人らは気象状況を綿密に把握せず、仁川(インチョン)気象台の海上に突風と共に風が強く吹いて波が高くなるため海上安全などに留意するこという予報内容を確認せず、操縦能力が優秀でなく強風にぜい弱な引き船団の特性を十分に考慮しないまま出港、当時の実際の気象が予報とは違い良くて出港に問題がなくなるや、気象予報とは違い実際の気象は悪くない場合があるということだけを考えて気象悪化に対する対策を講じなくて出港し、また、航海中に西海(ソヘ)中部遠海に風浪注意報が発効され航海していた所の気象も悪化し海上の気象状況は急変するも、西海(ソヘ)中部近海に気像特報が発効されはしなかったということだけで予定航路を離脱する時まで継続して航海することによって避航時期を遅延させた業務上過失がある。


B.避航のための非常投錨を行わなかった注意義務違反に関して
(1)主張要旨
弁護人は、被告人Seung Min Choは避航を試みたが失敗、東側方向で引き船団が流され泰安(テアン)半島の方に停泊中の船舶らと衝突する急で差し迫った危険がある状態で、その危険を抜け出すために西側方向で曳航を継続しなければならなかったが、避航のための非常投錨は当時の海底の底質が砂のため、艀船が投錨にもかかわらず走錨になる危険があり、投錨で艀船が停泊しても引き船の転覆や引き船間の衝突の危険があり、引き船列が他の船舶の通航路を遮ることになり他の危険な状況を招く、何より艀船の乾舷が2.4m程度に過ぎず、当時4m以上の波が打つ状況で艀船の船員らが投錨のため揚錨機に接近するのが難しく下手すると船員が波に巻きこまれる可能性があり、避航のための非常投錨を期待することはできないという趣旨で主張する。

(2)判断
先んじた各証拠によれば、
①T-5号の曳航ワイヤーが破断になった後、艀船は非常投錨を実施したし、非常投錨でT-3号に特別な問題が発生しない事実、②艀船の甲板長イ(フルネーム不明)と甲板員イム(フルネーム不明)、クォン(フルネーム不明)は特別な作業なしで投錨作業を実施したし、イ(フルネーム不明)は投錨後からHebei Spirit号との衝突頃まで揚錨機で待機していた事実、③揚錨機は艀船の船尾甲板の上に設置され、構造物として甲板に比べて高く位置し、欄干が設置されている事実、④引き船団が東に流されていた頃と、艀船が非常投錨を実施した時の有意波高は0.1-0.2m程度の差しかなかった事実が認められ、これに加え、艀船が引き船らを引っ張って引き船団が東に流された時には、引き船らが艀船を引く時に比べて揚錨機が位置した艀船船尾が受ける波の影響が少なかった点、曳航ワイヤーの長さが二つの引き船の間に20mほど違いが生じる点などを考慮してみれば、非常投錨時、弁護人の上の主張と同じ危険が発生する可能性が高いと見えなく、引き船団が他の船舶の通航路を遮る結果になる時は、灯火や交信等を通して他の船舶らに危険を認識させることができ、海底の底質が砂という理由だけで走錨になるとは断定できないのため、非常投錨が不可能だったと見ることはできない。


C.交信義務を履行しない注意義務違反に関して
(1)主張要旨
弁護人は、被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kimが大山(テサン)港務およびHebei Spirit号の交信に応じることができなかったのは、当時の気象状況、引き船船橋での騒音、呼び出しの回数や音声の大きさ、混線と雑音が激しい超短波無線電話機(VHF)の特性および避航や泰安(テアン)半島停泊船との衝突危険を避けるための死闘を行った状況のためであったし、引き船間の衝突または周囲船舶や陸地との衝突を防ぐための操船が至急で大山(テサン)港務やHebei Spirit号に航海上の困難を知らせることができなかったため、これに対して交信義務を履行しなかったと非難することはできないと主張する。

(2)判断
超短波無線電話機(VHF)チャンネル16は海上交通安全のために常に聴取することが要求され、しかも操船の困難で衝突や座礁などの危険がある時ならば危険を認識した海上交通管制センターや周囲の船舶らから呼び出しがあることが予想されるためより一層聴取に注意を注がなければならないことで、衝突の危険がある場合、海上交通管制センターや危険関係にある船舶を呼び出し、これを知らせ適切な避航協力動作を講じる必要があるということであり、操船の困難があったとしても、当直士官とは同じ操舵室で勤めたので当直士官との適時適切な業務分担ないし指示を通じて十分に大山(テサン)港務やHebei Spirit号の呼び出しに応じたり彼らに航海上の困難を知らせることができたため、交信義務を履行することが出来なかったと見られない。


D.ワイヤー破断と関連した注意義務違反に関して
(1)主張要旨
弁護人はT-5号の曳航ワイヤーが破断になったことは、引き船団が避航を試みている間に、引き船のT-5号とT-3号が近接したし、その過程でT-3号の船尾スクリューノズル部分がT-5号曳航ワイヤーに接触、接触した部分の曳航ワイヤーの破断強度が弱くなり、その後T-3号と艀船がピッチング(pitching:船が前後に揺れること)を体験して曳航ワイヤーに強い動的荷重が掛かり、破断強度が弱くなった部分が破断になったことのため、引き船らの接近状況の発生やピッチングによって曳航ワイヤーに強い動的荷重がかかったことは、強い風と高い波で引き船団を操船するために最善を尽くす過程で不可抗力的に発生したものと主張する。

(2)判断
引き船団が避航を試みている間、T-5号とT-3号が接近し、その過程でT-3号の船体とT-5号の曳航ワイヤーが接触、接触した部分の曳航ワイヤーがその衝撃で破断強度が弱くなったことは、避航路設定や避航方法と関連して、操船上の誤りによったものということであるから、これを不可抗力によったこととは見られない。


E.操縦制限灯火を行わなかった注意義務違反に関して
(1)主張要旨
弁護人は、艀船およびT-3号で操縦制限灯火を行ったため、操縦制限灯火表示義務を違反しなかったと主張する。

(2)判断
まず艀船に操縦制限灯火を行ったことで灯火規定に伴う義務を履行したと見られるのかどうかに関してみたところ、海上交通安全法第34条第3項※18は、動力船が進路からの離脱能力に非常に制限受ける曳航作業に従事している場合には、同じ法第31条第1項※19に規定した灯火に加え、操縦制限灯火をしなければならないことで規定しているところ、海上交通安全法第31条第1項が、動力船が違う船舶を引っ張っている場合にしなければならない灯火を定めていることに照らして、操縦制限灯火はやはり動力船の引き船がしなければならないこととして、たとえ艀船に操縦制限灯火をしたとしても、灯火規定を違反した誤りを免じることはできないだろう。
次に被告人Gan Tae KimがT-3号の操縦制限灯火をしたという主張に関して、これに符合するようなキム1の警察での陳述があるが、被告人Gan Tae Kimは、捜査機関で灯火に対する海上交通安全法および船舶衝突予防規則の規定を遵守したかに関して、T-3号の場合マストに曳航などの白灯3ヶ所、両舷に舷灯、船尾灯を灯火したし、T-5号もこれと同一で、艀船の場合、曳航など、舷灯、船尾灯および作業などを灯火したと述べたし、引き続き曳航などが何なのかに関して、引き船の曳航などは白灯3ヶ所で曳航をしているという表示で、艀船の曳航などは操縦制限船を意味し、縦で紅-白-紅の電装等で表わすと述べた点(第1回検察被疑者訊問調書)、被告人Seung Min Choも捜査機関で、夜間にT-5号は航海灯、船尾灯およびマストに白色電装など3ヶ所灯火したし、T-3号も同じで、艀船には航海灯、船尾灯およびマストに紅-白-紅の電装などを灯火したと述べた点(第2回警察被疑者訊問調書)に照らして、信じることが難しく、別にこれを認める資料がなく、この部分主張は受け入れることはできない。


F.直接操船義務違反に関して
(1)主張要旨
弁護人は、被告人Gan Tae Kimが当直士官の呼び出しを受けて船橋に上がってきてまた船室に降りて行った2007.12.7.02:00頃の気象状態は、直ちに船長が直接操船する必要があるほど悪くなかったため、上の被告人は直接操船義務を違反しなかったと主張する。

(2)判断
船員法第9条※20は、船長は船舶が港を出入りする時、または船舶が狭い水路を過ぎ去る時、その他に船舶に危険が発生する可能性がある時には、船舶の操縦を直接指揮しなければならないと規定していて、船舶に危険が発生する可能性がある場合とは、気象および海上の条件、他の船舶の状況などから危険が発生するということだが、先んじた証拠によれば、2007.12.7.00:30頃からは引き船団がその以前と同じように一定の針路を維持することができず、実際航跡の針路はいつも変動した事実、当直航海士のSeung Min Choは2007.12.7.03:00を期して西海(ソヘ)中部遠海に風浪注意報が発効されるという放送を聞いて被告人Gan Tae Kimを呼び出しした事実、引き船らは同日03:00頃から気象状態が悪化して操船に困難を経験することになった事実、同日04:45頃、避航を試みたが05:30までが艀船が東に流され、引き船団も流され避航に失敗した事実、上の被告人は避航が失敗した後、当直士官のキム1から呼び出しを受けて船橋に上がってきた事実が認められるところ、上の被告人が船室に降りて行った2007.12.7.02:00頃にも気象悪化によって船舶に危険が発生する可能性が認められ、そうでなくとも、当直士官に対し徹底して指示をせず、避航に失敗してはじめて直接操船することになったため、上の被告人は直接操船義務を違反した。


G.緊急避難に関して
(1)主張要旨
弁護人は、上の被告人らが悪天候の中、継続して航海することによってこの事件衝突事故が発生したことであっても、これは引き船団と船員らの安全およびまた他の事故を防止するための最善の措置として緊急避難に該当して違法性がないと主張する。

(2)判断
刑法第22条第1項※21の緊急避難とは、自分または他人の法益に対する現在の危難を避けるための相当な理由がある行為を指すが、ここでの‘現在の危難’とは、法益侵害の発生が近接した状態、すなわち法益侵害が直ちにまたはまもなく発生することと予想される場合を意味して、‘相当な理由がある行為’に該当しようとするなら、最初の避難行為は危難に処した法益を保護するための唯一の手段であってこそして、二番目、被害者に最も軽微な損害をあたえる方法を選ぶべきで、三番目、避難行為によって保全される利益はこれによって侵害される利益より優れなければならなく、四番目、避難行為は、それ自体が社会倫理や法秩序全体の精神に照らして適合した手段であることを要するなどの要件をそろえなければならない。
弁護人の上の主張によれば、保全しようとする利益が船員の安全、引き船団を構成する船舶の安全、他の事故で発生する他の船舶の安全ということのため、引き船団船員の生命や身体に対する侵害の発生が直ちにまたはまもなく発生することと予想される事情がなく、引き船団を構成する船舶でも他の船舶の安全がこの事件衝突で発生したHebei Spirit号の損傷や油排出にともなう海洋汚染被害に比べて本質的に優越だと見られないため、弁護人の上の主張は受け入れない。


2.被告人三星重工業の海洋汚染防止法違反の点に関して
A.主張要旨
弁護人は、引き船団の出港決定および航海の継続可否は船長らの独自の判断に従ったことで、その過程に被告人会社が関与したことがなく、被告人会社は被告人Seung Min Cho・Gan Tae Kimと間に直接的な使用者関係がないため、被告人会社を両罰規定により処罰できないという趣旨で主張する。

B.判断
従業員などの行政法規違反行為に対し両罰規定で営業主の責任を問うのは、従業員などに対する営業主の選任監督上の過失責任を根拠とすることで、その従業員は営業主の事業経営過程において、直接または間接で営業主の監督統制の下、その事業に従事する者を称することであるから、営業主自ら雇用した者ではなく他人の雇用人として他人から報酬を受けていたとしても、客観的外形上で営業主の業務を処理して営業主の従業員を通じて間接的に監督統制を受ける者ならば上に含まれる(大法院2007.7.26.宣告2006度43376判決など参照)。
先んじた証拠によれば、被告人会社は造船所を運営している事実、被告人会社は、Boramに艀船三星5号、三星A-1号で構成された起重機船団の管理を委託したが、起重機船団は被告人会社の造船所で被告人会社の日程により、全面的に上の被告人会社の業務に提供され、Boramは他の営業を全くしない事実、被告人会社は三星物産に期間2007.11.26.付きから同じ年12.9.(1航海)および2008.2.1.付きから2008.2.29.(2航海)に決め、起重機船団を三星物産が施工する仁川大橋(インチョン)床板引き揚げ作業のために賃貸した事実、三星物産は上の賃貸借契約の内容により、仁川(インチョン)と巨済(コジェ)の間の曳航航海支援のために、三湖I&DからT-3号を賃借りして被告人会社に提供した事実、被告人会社が引き船団の曳航航海と関連した曳航検査を申請した事実、起重機船団が仁川大橋(インチョン)現場で作業する時に、被告人会社の職員のシン(フルネーム不明)、チェ(フルネーム不明)が現場に派遣された事実、三星物産と被告人会社の間で曳航航海に関する責任は被告人会社にあった事実、被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kimは、仁川大橋(インチョン)現場の作業が完了するや被告人会社の造船所に復帰するために艀船を引いて航海した事実、シン(フルネーム不明)は仁川大橋(インチョン)現場の作業終了を確認した後、引き船団が出港準備をするのを見て現場を離れた事実、チェ(フルネーム不明)はGan Tae Kimから出港報告を受けた事実が認められるところ、上認定事実に両罰規定に対する上のような法理を総合してみれば、被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kimが被告人会社と直接的な雇用関係になかったとしても、これらは被告人会社事業活動過程の起重機船団の賃貸契約履行業務に従事したが曳航航海もその業務に含まれることで、これらもまた、被告人会社の職員のシン(フルネーム不明)もチェ(フルネーム不明)を通じて間接的に被告人会社の監督統制を受けて曳航航海を遂行したということであるから、結局、被告人Seung Min Cho、Gan Tae Kimは海洋汚染防止法第77条※8で定めた被告人会社の‘代理人・使用人その他従業員’に該当すると見ることが相当する。

大田地裁瑞山支部による一審判決その2(改訂第二版)へ続く

※補足編はこちら→http://ameblo.jp/neko-guruma/entry-10356699318.html