Full Tosa: Demanding a systemic response to criminalisation
『土佐』事件:濡れ衣に対する業界全体での対応を

 アジマル・カサブ(※1)が公正な裁判を保証されているにも拘わらず、Gren Aroza船長はその保証を受けることが出来ない。これは彼にとって破滅的な告発であり異常な事態ではあるが、告発自体が目的であるわけではない。

 Aroza船長、バングラディッシュ出身のMohammed Rizaul Karim二等航海士、そして船員であるEduwardo Mallorca氏は台湾において過失致死容疑を受けている。Aroza船長と彼の同僚は台湾のトロール漁船を転覆させ、二名の船員を死に至らしめた事故の責任を問われているこの訴訟は、1996年に国内でおきたRaj Kumar Goel船長の三年間の勾留を思い起こさせる。事故当時、船長は船橋に居らず、衝突を示す痕跡もVLCC『土佐』からは発見されなかった。これらの事実を無視して行われた、Aroza船長と乗組員達の勾留と、差し迫った公判に注目が集まっている。どうすれば、再び恥知らずな迫害から船員を逃れさせることが出来るであろうか。

 最近起きた別の事件では、座礁の危機にあることを沿岸当局に通告しなかった事を理由として、コスコ所有の『Full City』の船長がノルウェーの警察に起訴された。Full Cityは最終的に、ノルウェー南部の鳥獣保護区に近い海岸線で起きた、同国最大級の石油流出事故の一つに対し責任を負うこととなっている。ノルウェーの法がここでどのように適用されるかについて興味をもって見ているが、もし有罪宣告を受けるのであれば、船長は最大二年の懲役刑を受けることとなるだろう。

 合衆国で起きたコスコ釜山(コスコは世界中でちょっとした石油流出パーティを開催してるように思える(※2))の災厄と、それに続くHebei Spirit船員の韓国による長い勾留と開放は決して同じような事件とはいえない。そして土佐の一件は、船乗り達に適用すべき海事裁判制度が、再び失敗した事を私に対し指摘しているかのように思える。海洋汚染防止法が欧州連合とカナダ全域を含む多くの国々で厳格化していく雰囲気の中で、我々が現在見せ付けられている物が、故意ではない犯罪が原因による船員達に対する定例的に行われる迫害の始まりである事を私は恐れている。
 このような状況下における、船員達への犯罪的な告発行為は止められねばならない。しかし、現行の司法制度ではこうした行為を制止する事が出来ず、全ての法を守る船乗り達はこうした制度に対し恐れをなしている。それらが何を物語るかといえば、外国で起きた事故のために、船乗り達が犯罪者に仕立て上げられた上に投獄される可能性があるという事であり、そうした動きに対し彼らが抵抗できないという事である。

 業界が団結した実例としてHebei Spiritの事件を挙げる時、我々は単純化と誇張という罪を犯している。業界全体が事件の余波の中で大見得を切っても、強力な企業家達の強要による物と思われる制度操作によって司法が破壊された国に、無実のインド人船員二名が一年半もの間勾留され続けていた事実を隠し通す事は出来ない。Hebei Twoの開放を語る時、国際的な業界の抗議にも拘らず、彼らに対する有罪判決が韓国によって固定された事実を我々は無視している。

 海難事故とそれに伴う船長や乗組員に対する必然的な迫害について、もはや各国の善意に依存し続けられないのは、私にとってきわめて明瞭な事である。一定の利益とスケープゴートを見出すための人質を確保するために、制度そのものが不正に運営されているのに、現在の制度を強化するために船乗り達の公正な取り扱いに関するガイドラインを整備しようというのは不合理な事と言えるだろう。IMOはここで見当違いな事をしている。

 ここで本当に必要な事は、船乗り達の人権に対する組織的保護である。ある国で海難事故後に船乗りが勾留された場合、自動的にIMOやILOのような頂点にある機構が専門家による調査を行う事が必要であろう。これらの機関が行う調査は、当該国が行う調査の影となる物でなくてはならず、調査結果は公式に発表されなければならない。また、必要があらば勾留を行っている国に調査結果に基づく勧告を行うべきでもある。

 この独立した調査によって船員側を有罪とすべき一定の証拠すらないと評価されるならば、必要があれば出頭するとの約束と引き換えに当該国は船員が帰国する事を許可すべきである。いずれにせよ国際社会は、全ての過程が公平かつ迅速に実施される事を確実なものとしなければならない。独自調査の結果による勧告に当該国が従わなかった場合に備え、『ブラックリストへの記載』と貿易及び海運分野における罰を課す事をも考えなくてはならないだろう。

船員はおろか業界の問題についてインド政府が気骨を示すと思うのは、おそらく期待のしすぎではあるだろう。とは言え、インドやフィリピンのような主要船員供給国の政府は力を誇示すべきであるし、民間業界の関係者も圧力を見せ付けた上で協調した要求を発していくべきであろう。インドは新興の超大国としての地位にふさわしい働きをしているようには見えない。紳士的に振舞うだけでなく、行動を起こす時である。Aroza船長を自由にし、公正かつ迅速な裁判を行わない場合、台湾に貿易制裁で圧力をかける事を私は提案する。いずれにせよ、彼は有罪を裏付ける一応の証拠によって告訴されているわけではない。

 友人が語るところによると、海事業界は私の提案を推進できる体勢になく、民間企業やIMO、インド政府のいずれもが提案を実行するだけの熱意、人材、予算あるいは組織力に欠けているという。それに対し、私はこう答えるしかない。海事業界に属する者の多くは、蜜に集まる蜂のように金銭の匂いを嗅ぎ付けて事故現場に殺到する。これらの情況を鑑みるに、資金や意思、人材、そして熱意に不足しているようにも思えない。これらの熱意のいくらかを変革のために振り向けるのであれば、無実の船乗りの利益になるよう情勢を簡単に変えられると私は確信している。意思の不足というのは言い訳に過ぎない。

 我々は事件後に発生した濡れ衣のような問題に、単独では戦うことは出来ない。業界全体による対応がない場合、我々は消し止めることの出来ない火災に挑む、消防士の立場に立たされる事になるだろう。

 勝利の意思無くして、戦いの場に出るべきではない。

※1:2008年11月のムンバイ同時襲撃事件で唯一生存していた実行犯
※2:コスコと名前はついてますが、韓進の船です
 foxtrot氏が紹介してくれたブログ記事、ようやく翻訳できました。
 『土佐』の話ではありますが、Hebei号の顛末と関係者の動向にもイラついてるのが見て取れます。実際、Hebei号ではお二人とも有罪のままでしたし、今また、土佐乗組員の言いがかりとしか思えないような告発騒動が持ち上がっていて、怒るのも無理はないところだと思います。
 ただ…Hebei号の事案考えると、即座の貿易制裁が可能とも思えません。この記事によるとインド自身も似たような真似(詳細がちょっと不明ですが)してたようですし、その辺忘れた振りして相手国を一方的に責めるのも難しいのかな~などと思います。というか、今ひとつインド政府の動きが鈍かったのは、これが原因だったのかななどとも思ってみたり。
 それでも独立した調査機関の設立や、調査結果に基づく勧告に従わなかった場合の罰則規定というのは必要だとは思います。Hebei号の時もそれがあったのなら、あそこまで酷い結果を招かなかったと思いますし。
 一方で、船舶側のデータ記録機器の改良も必要でしょう。半島船の悪事に見られますように、いくらデータを記録していたとしても、改竄されることが前提であれば各国政府に調査結果が受け入れられるとは思えません。ブラックボックス化の更なる促進と、改竄した場合の重い罰則適用も必要かと思われます。
 …って、もしかしたら、土佐の拘束も、航海データの改竄を疑われてるのかな…地球の裏側氏によると、中国人船員も質が悪いみたいな話聞きますし。下朝鮮が持ってるような改竄用機器、中国で出回ってないとも思えませんしね…

 ともあれ、半島船の悪事によって船員全体の質が疑われてる可能性があります。逆風の中大変ですが、調査機関設立への努力と平行して、不良船員・船会社のパージを進めて欲しいものです。
 あたいみたいな部外者の素人が、利いた風な口を叩くなとか言われそうですけどねorz

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