11日のエントリーの続きです。内容的にはちょっと地味かも
(2009/03/18 明らかな誤訳(巨済島を済州島と誤訳)を訂正)

London Offshore Consultants“HEBEI SPIRIT”COMMENTS ON THE INCHEON MARITIME SAFETY TRIBUNAL (SPECAIL TRIBUNAL) DECISION - 4TH SEPTEMBER 2008(pdf注意) より
 LOC側の見解を黒で、IMST側の見解を青のイタリックで表記します。以下訳文
巡る因果の猫車-LOCロゴ
海洋安全審判院仁川支部に対するLOCの見解(7P~14P)
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論理的根拠
1.事実関係

巡る因果の猫車-7P表改
(訳注:クリックして拡大して御覧くだいさいませ)
事故日時 2007年12月7日 7時6分頃
事故位置 北緯36度52分東経126度03分
(泰安郡遠北面の信島灯台から252度の方向、約5.1海里の沖合い)

 重大な海難事故である本件は、それぞれの船尾から曳索を伸ばして並走しつつ、大型海上クレーン船を牽引する二隻のタグボートからなる船団が、海岸線沿いを航行中に悪天候に遭遇した事に関係がある。船団は風と波に揉まれ、最終的に総トン数146,848MTの超大型原油タンカーに衝突、深刻な海洋汚染を引き起こした。

 海洋安全審判院による裁定は、類似事故の再発防止を目的として、海事技術の観点から事故に至った様々な要因を特定した上で、特別行政裁決として発表された。裁決の対象は人的過失に限定されない、事故そのものを対象としており、従って直接的、あるいは間接的に事故発生へ影響を及ぼした要因の一つ一つに、事故との因果関係を明確にしなければならない。

 この目的達成のため事故に繋がった状況を説明する前に、原因究明に不可欠な事故当時の当該船舶の操船性能、および事実の報告と構成、機材、行動、そして運用者の詳細な説明(抜粋)を提示する。


 上記の事実は、船団における第4の船である『SAMSUNG A1』について言及していない。後知恵で当該船『SAMSUNG A1』には、平均的気象下においても衝突前のあらゆる行動に、責任を負うべき能力を有してなかったとIMSTは後述している。例えこの記述の通りであったとしても、VLCCの船上からの視点で、このタグボートが曳航を補助することが不可能だと判断することは出来なかった。視覚・レーダー双方で捉えることが出来た、クレーン船の後方に繋がれているタグボートは、操舵補助タグボートを連想させる物であった。

 このような事故の再発防止を目的とする、事故原因に繋がる要素の特定をしなければならないという、IMSTの主張は正しい。しかし、彼らは事故の根本原因である『SAMSUNG T-5』の曳航ワイヤ切断と、この要素を取り巻く状況を忘れてはならない。韓国沿岸周辺での船団の運行管理について述べることは、このような事故の再発を避けるための、最善の方策でなければならない。私はIMSTの語る、船団が関係した韓国沿岸周辺での被害者の増加について、裁決の第五項『関連事項』と表題された後の項で注釈する。船団の運用管理の過失において、問題がどこにあるのか、そしてIMSTがこの事故原因調査の、どこに焦点を当てるべきかを明らかにする。


A.   船団の詳細

1)   船団の構成
 この事件における曳航船団(以下『曳航船団』)は、以下の4隻の船舶で編成されている:(i)『Samsung No.1』11,828M/T総トンの大型海上クレーンバージ。装備されているクレーンは3,000総トンの吊り上げ能力。(ii)2隻のタグボート『Samsung T-5』及び『Samho T-3』先述したバージの船尾両舷側に、それぞれの船尾から伸ばした曳索を繋いでバージを後ろ向きに曳航。(iii)『Samsung A-1』Samsung No.1の揚錨船。バージの船首中央部から伸ばした曳索を繋ぎ、追尾する形でSamsung No.1の進行方向制御を補助する。([図1~5]、[表1])

 『Samsung A-1』は『Samsung No.1』の港内での海上クレーン操作の際、位置固定錨の揚げ降ろしを主要業務としている作業船である。
巡る因果の猫車-10P画像1
[画像1] 曳航船団の通常航行時の位置(バージの舳先にクレーンブームが設置されている。そのため、バージは事故時船尾側から曳航されていた)

巡る因果の猫車-10P画像2・3
 [画像2] Samsung No.1の右舷側  [画像3]Samsung No.1の船尾
巡る因果の猫車-10P画像4・5
      [画像4] Samsung T-5       [画像5] Samho T-3

[表1]事故時に曳航船団を構成していた船舶の主要諸元
巡る因果の猫車-11P表1改

 IMSTはここで『SAMSUNG A1』が錨の操作に加え、操舵補助タグボートとして繋がれていたことを認めた。これは曳航船団における重要な役割であり、他の船舶からもそのように観測される事をも認めたことになる。

2)   曳航船団を構成する船舶の船主と運用者
 船団を構成する船舶の所有権、運用及び安全管理に対し、4つの契約が完全に結ばれている。

A)   建設機械の管理業務契約:サムスン建設株式会社(『サムスン建設』)と、海難事故の関係当事者であるSHIとの間に長期リース契約
 曳航船団を構成する4隻の船のうち『Samho T-3』を除外した、『Samsung No.1』と『SamsungT-5』及び『Samsung A-1』の3隻に対する『建設機械の管理業務契約』は、1995年12月29日に結ばれた。前述のSHIのリース契約において、当時の所有者であるサムスン建設に対し、1996年1月1日から2007年12月31日の12年間、原則的に毎年一定の合計金額を支払う事で合意されていた。本契約の第8条(事故における責任)によると、借主のSHIは、これらの船舶が故意もしくは重過失によって引き起こした事故に対し、ありとあらゆる責任を負うことを合意している。さらに、契約名は『建設機械の管理業務契約』であるが、船主であるサムスン建設に賃貸料をSHIが支払うことに合意しているため、契約は一種の用船契約として看做す事が出来る。

B)   機材管理業務契約:SHIと海難事故関係当事者であるBoramとの間に結ばれた管理業務契約
 サムスン建設から3隻以上の船舶を長期間チャーターしたSHIは、2007年3月1日にBoramとの『機材管理業務契約』を結び、契約に従い先述の日付から2008年2月29日まで、これらの船舶の管理を委任した。契約によれば、Boramが曳航船団と建設計画、SHIが建設工事を実行するために必要とされる、追加のタグボートの傭船、安全点検及び施工に必要とされる、機器の管理とメンテナンス、その他を担当することとなっている。特に安全管理に関し、先述の契約の4条は、BoramがSHIの安全管理規定に従い安全管理に責任を負うと定めている。

C)   船団リース契約:SHIによるサムスン建設の船団リース契約
 先述したように、サムスン建設から3隻の船舶の長期間リース契約を結んでいるSHIとBoramとの間に、船舶の『機器管理業務契約』が発効した後、サムスン社との間に『船団リース契約』が発効し、それに従い2007年11月26日から2007年12月9日までの14日間の契約期間の間、船団所属船舶は貸与された。このリース契約書において、サムスン建設とサムスン社の双方は単一の賃借契約者として記載されているが、船籍証明書にはサムスン社は三隻の船舶の船主として記載されている。したがってサムスン建設とサムスン社は、先述のリース契約において同一であり、3隻の船舶はSHIによってサムスン建設(サムスン社)へと賃貸された。

D)   『Samho T-3』のリース契約:サムスン建設は『Samho T-3』をSamho I&Dから賃借
 2007年11月26日から2007年12月12日まで、巨済島のSHIから仁川港内の仁川大橋建設現場へと『Samsung T-5』とともに『Samsung No.1』を曳航する作業に就かせるため、サムスン建設は2007年11月19日にSamho I&Dから賃借した『Samho T-3』を曳航船団に加えた。

 私は上記のパラグラフA~Dから、Boramには船団の4隻の船舶のうち3隻に安全管理責任があり、『SAMHO T-3』に対する責任をも負っている事に加え、彼らとSHIの間に結ばれた契約において、SHIの安全管理規定に従うと定められている点に注目する。これはIMSTによって強調されているにもかかわらず、その後の船団の安全管理と運用における数多くの失敗に対する解説において、BoramもしくはSHIの安全管理手順は、証拠の一部として調査されていない。にもかかわらず、『HEBEI SPIRIT』の内部安全手順指針はIMSTによって証拠の一部として扱われた。海事調査員なら誰でも知っている事だが、安全管理システムが海難事故に関係する全ての船舶において認知され、十分かつ正しく遵守されているかどうか、調査されなければならない。IMSTが述べたように、この裁決の目的はこのような事故の再発を防止にあるにもかかわらず、『HEBEI SPIRIT』への調査とは違い、船団の安全管理システムについては公平に調査することを怠った。
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 とりあえずここまで。手間かかってる割に内容が地味にorz
 それはさておき、この段階でも突っ込みどころありますね~。紛らわしい位置にいた揚錨船の存在を無視してたり、契約もなんか紛らわしい記載みたいですし…
 これ書いた人、頭抱えてたんだろうなぁ…w;

 ともあれ、まだまだ先は長いですが、気長にお付き合いお願いします。

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