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第十八回『猪名山門士くん』(作家コース)


『作劇的人々』
高田:本日は猪名山門士くんに来ていただきました。


門士:どうも、作劇塾 の“お祭り野郎”、モンシイナヤマでございます。


高田:門士くんが塾に入られたのは、いつでしたっけ?


門士:二年前の十月ですね。ちょうど塾の受講が月単位に変わった時でした。同期には、ファミ通でデビューされた武層新木朗さん もいらっしゃいましたね。


高田:どういう経緯で作劇塾をお知りになったんですか?


門士:僕は三、四年前から同人活動をやっていて、その関係でよく日本橋をぶらついていたんです。よく行くショップに立ち寄ると、一枚のチラシが視界に入ったんです。それが作劇塾のチラシだったんです。今から思えばあのチラシが完全に僕の運命を変えました。しかも最後の一枚だったんですよ!


高田:すごい偶然ですね。塾に興味を持ったという事は、クリエイターになりたいという考えが以前からあったんですか?


門士:漠然とですが、そういう考えは持っていましたね。ただ、どうすればいいのかというのが分からなかったんで、チラシを見た瞬間、「これだ!」と思いました。


高田:門士くんが入塾した当初、「すごい奴が入ってきた」と実は噂になってましてね。


門士:それは存じ上げない話ですね。一体どんな噂が?


高田:塾に入る前だったと思うんですけど、塾長との面接時に自著を渡しましたよね。確かバーコード入りの。


門士:ああ、これの事ですか。


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高田:用意がいいですね。いつも持ち歩いてるんですか?


門士:ほらこういう諺もあるじゃないですか?


高田:ことわざ?

門士:備えあれば、うれしいな……。


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高田:はあ?


門士:あっ間違えました。“備えあれば、憂い無し”でしたね(笑)。


高田:ああ、ギャグを言ってたんですね。すいません。気づかなくて(笑)。


門士:いいんです! 今のような反応には慣れてますから。ちなみにこれは同人で出した物なんですが、どうせなら凝ってやろうと思いまして、こういう作りになったんですよ。


高田:なかなかの力作ですね。入塾してからの事をお聞きしたいんですが。


門士:まず業界の人と接する機会がたくさんある事に驚きました。入塾して二ヶ月もしないうちに、『世界不思議発見!』の構成作家である古嶌宇市さんが、特別講義でお越しになりましたから。しかもその後、飲み会にも参加していただいたので、感動しました。


高田:他には何かありましたか?


門士:あとは時間とともに、塾長の器の大きさをひしひしと感じるようになりました。自宅で飲み会を開いてくれますし、志願すればプロの現場にも連れて行ってもらえますからね。


高田:小説の合評に関してはどうでしたか?


門士:包み隠さずに言ってくれるので、それが嬉しかったです。それまで自分の作品に対して、率直な批評をしてくれる人が、あまりいませんでしたからね。作劇塾の合評では核心をつく意見を言ってくれるのが何より嬉しい。

「痛いけど、気持ちいい」って感じですよ。あっ、この表現まずかったかな(笑)。


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高田:……(笑)。


門士:苦い笑いを浮かべてないで、何か言って下さいよ。高田さーん!!!


高田:では気を取り直しまして、質問を続けます。多くの人に自分の作品を批評してもらう機会って、こういう場以外だとほとんどないと思うんですけど、中にはそれが厳しいと感じる人もいますよね?


門士:同人上がりの僕がこういう事を言うのはおかしいのかもしれませんが、プロを目指している以上は仕方がないんじゃないでしょうか。


高田:どういう事でしょう。


門士:みなさん「この作品はどうすれば良くなるのか?」の一点を考えて発言してると思うんです。だからこの段階でへこたれていては、デビューした後、持たないと思いますね。プロになってから容赦のない世間の波にさらされる訳ですから。塾の人たちは、優しい言い方をしてくれている、と僕は思いますよ。言いたい事を言ってあげないというのは、本当の意味での優しさではないですからね。


高田:入塾してから感じた事って他にありましたか?


門士:あとは、いかに周囲の人たちと比べて自分が作品を見ていないかという事でしたね。一時期は落ち込みましたけど、自分の無知を知るという意味では、いい転機になりました。さすがに「これじゃあ、いかん!」と思いましたから。


高田:門士くんとは顔を合わす機会が多いのに、意外とこういう話をした事がなかったんですが、今までに自分に影響を与えたクリエイター、もしくは作品ってありますか?


門士:同人という流れで小説を読み始めたので、奈須きのこ先生や谷川流先生の作品はよく読んでいましたね。漫画では犬威赤彦先生の『こみっくパーティー』とか『MURDER PRINCESS』や『RATMAN』はかなり読み込んでいます。


高田:先週でしたか、塾に来たとたん時代劇フリークである塾生の小島雪くん(漫画コース)から、莫大な量のVHSを渡されていましたね。


門士:ありがたい限りです。僕があまりにも映画を知らないんで、見かねた小島さんが「これを見ろ!」とばかりに、映画のVHSを持ってきてくれました。半ば強制的に(笑)。

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高田:もらった映画はちゃんと見ていますか?


門士:ええ。毎日見るようにしています。やっぱり物語を書くには、いろいろな物語に触れていないといけないですからね。“インプットなしのアウトプットはあり得ない”。これは塾に来てから痛感しました。そうそう、最近、黒澤監督の『天国と地獄』を見たんですけど、あれは感動しましたね。


高田:どのあたりがよかったですか?


門士:犯人にすごく感情移入しながら見ていました。「人間、追い詰められたら、ああなるよな」と非常に納得する部分がありました。最後に行くほど犯人の気持ちに入り込んでいって、最後には鳥肌が立ちました。


高田:黒澤映画は非常に勉強になりますので、全作品、観るのをお勧めします。映画といえば、山田誠二監督の現場にお手伝いに行った時、腰が軽いと監督から褒められていましたね。


門士:僕としては邪魔にならないようにと、それだけを心がけていたんですが、意外にもお褒めの言葉をいただきまして、驚きましたね。


高田:門士君は飲み会の場でも、率先して動いてくれていますので、相手の行動を察知して動くという習慣がついているのかもしれませんね。


門士:ありがとうございます。


高田:さてそろそろこの辺りで門士君が小説の合評で出している小説、『オタク戦記』の話をしたいと思います。初稿は、塾長を含めいろんな人から絶賛されていましたよね?


門士:同人活動の場を舞台にした話なんですが、実は僕グロ描写が苦手なんです。この小説を書く少し前に塾長から“嫌い”“苦手”というものは、どこかでそれを意識しているんだから、そこを突き詰めていけば面白い作品ができる。そういう話をお聞きしたんで、あえて苦手なグロの部分を入れてみようと思ったんです。


高田:『オタク戦記』に出てくる主人公は、門士君を彷彿とさせるような熱血キャラですよね。


門士:先ほど名前を挙げた犬威赤彦先生や、あとは島本和彦先生もそうなんですが、非常に熱い方なんですよ。そういう人たちに憧れる部分は大いにありますね。だから、そういう自分の熱い部分を主人公に投影して、あの小説を書きました。僕ね。書いていて凄い感情移入するタイプなんで、どうしても一人称になっちゃうんですよ。主人公と一体化するって言うんですかね。


高田:それは読んでいて伝わってきます。


門士:遡ると、僕が同人の世界にはまったのも、同人界にいる先輩方の情熱に惚れ込んで「俺も熱くなりてえ!」と思ったのがきっかけでしたからね。とにかく僕はもっと熱い男になりたいんです!

高田:では最後に今後の目標を教えて下さい。


門士:身近なところではまず、圧倒的な知識不足を直すのと、そして何より遅筆を改善する事です!


高田:そういえば門士君が中心となって『怪怪怪3出版プロジェクト』が動いているようですが、それについて少し教えていただけますか?


門士:現時点では怪異に出会うべく、僕が調べてきた心霊スポットへ、塾生と一緒に赴くというのをやっています。ここでは明かせませんが、実は結構、怪現象に遭遇してるんですよ。まあ、その辺りは『怪怪怪3』が出版されたら、作品の中で発表されると思いますので、その時を心待ちにしておいて下さい。




第十七回『木下将司くん』(作家コース)

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高田:まずどのような経緯で作劇塾 の存在を知ったのか、教えて下さい。


木下:僕は小学生時代から、ずっと小説を書いていたんです。だから家族も僕が小説家を目指している事を知っていました。それで父が「こんなところあるよ」と作劇塾の事を教えてくれたんです。


高田:一度、見学に来られていましたよね。


木下:はい。作劇ゼミだったんですが、面白かったですね。塾長の話を聞いているうちにどんどん好奇心が沸いてきたのを覚えています。


高田:木下君は18歳と作劇塾内では最年少ですが、年上の人たちと一緒に授業を受けてみてどんな感じですか?


木下:学校だと同年代の人以外と話す機会ってそれほどないと思うんですけど、作劇塾はお仕事をしながら通われている人とか、お仕事と子育てをされながら通われえる人がおられたりと、自分の知らない世界の事を知っている方々が多いので、刺激を受けますね。


高田:小説の合評に対してはどうでした? 普通に生活していると、こんなにたくさんの人に自分の作品を読んでもらう機会って中々ないと思うんですが。


木下:正直言って、ここへ来るまで自分の小説に対して「いけるんじゃないか?」と少し自信を持っていたんですよ。でもそれが無残に打ち砕かれました(笑)。やっぱり周りの友達から返ってくる意見とは全然違いましたね。


高田:それによって落ち込んだというのはありましたか?


木下:最初はありましたけど、合評を続けるうちに段々とタフになってきました。通い出した頃は高校生だったんで、学校の方と両立するのが大変でしたね。今年の四月から大学に通い始めたんですが、時間的にはだいぶ余裕が出てきました。


高田:なるほど、書ける環境が整ったと。木下君はアクション系の小説を合評の授業に出していましたよね。


木下:はい。サバイバルゲームが好きで、よくやっていたんですけど、その経験を元に書こうと思ったんです。作家コースの山本さん の出している作品は、僕の書きたいジャンルと少し似ている部分があるんですが、凄く達者だったので負けたくないと思いましたね。


高田:先ほどの話では、かなり小さい頃から小説を書いていたんですか?


木下:そうですね。アニメが好きで見ていたんですけど、自分でも物語を作ってみたいなと思ったのがきっかけでした。で気がつけば書くようになっていたという感じですね。


高田:その時は、どんなジャンルを書いていたんですか?


木下:SFとかホラーとか、ミステリーとか、結構、いろんなジャンルの物を書きましたね。今まで書いた物を残しているんですけど、ダンボールで数箱分くらいはあります。


高田:凄い量ですね。昔の作品を残しておくのは、自分の進歩を実感できるという意味でもいい事だと思います。読書をするのも好きだったんですか?


木下:はい。小学校三年生ぐらいの時から、図書館へ頻繁に通うようになりました。
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高田:これは印象に残っているという作家さん、もしくは作品があれば教えてもらえますか?


木下:著名な児童文学の作家さんで、蜂屋誠一先生のという方がいらっしゃるんですけど、この方の作品で『妖精戦士フェアリーナイト』というのがあるんです。これが大好きで二十回以上読んでますね。この本を読んでからどんどん読書にはまっていきましたので、今、思うと大きな経験でした。


高田:木下君は小学生の頃からずっと今まで小説を書き続けているんですか?


木下:はい。書くのが好きなんで、続いているんだと思います。


高田:書いていてどの瞬間が一番楽しいですか?


木下:やっぱりどんな事でも自由に書けるのがいいですね。空想がどんどん膨らんでいくのでたまらないです。


高田:じゃあ、普段から空想をよくしている?


木下:はい。たまに空想しすぎて、学校の授業に集中できない事もあるぐらいです(笑)。


高田:今まで書いた小説をどこかの賞に投稿したというご経験は?


木下:それはまだないんです。ひたすら楽しくて小説を書いていたという感じなので、そういう考えになっていなかったですね。


高田:今後、小説を書く上で“ここを改善したい”というのはどこですか?


木下:書くのが楽しくて、ついつい筆が乗ってしまい説明不足になってしまうんですよ。だから、もう少し客観的に自分の作品を見られるようになりたいですね。


高田:エンターテインメント作品を生み出すという事は、まず読み手を楽しませるという大前提があると思うんですが、その点はどのように考えておられますか?


木下:そこが今までの自分に足りなかったところなんだと、作劇塾に入ってから痛感しました。合評で僕の小説を読んだいろんな方から「自分ばかり楽しんでいる印象がある」というご指摘をいただいたんですね。その事を意識してから、ちょっと煮詰まっていた時期があったんですよ。


高田:書くのが億劫になったという事ですか?


木下:そこまではいなかったんですが、入塾するまでは全く何も考えず、思うがままに書いていたんです。だから読者を意識しながら書こうとすると、どうしていいかわからなくなってしまい、執筆に時間がかかるようになったんですよ。


高田:でもそれは、ある意味での成長なのかなと思うんですよ。がむしゃらに書いているだけでは自己満足に陥ってしまって、読者にその作品の面白さを伝える事って難しいですからね。


木下:同じ事を書いているのに、その表現手段いかんによって、伝わったり伝わらなかったりする、というのは最近、痛感していますね。


高田:今おっしゃった弱点を克服するために、何かされている事ってありますか?


木下:最近やっているのが『ドラえもん』とか、有名な漫画を文章で表現したらどうなるんだろうと思って、漫画の文章化するという作業をしています。あと“古典から学ぼう”という事で、夏目漱石の小説をよく読んでいます。それによって少しは、欠点が改善されつつあるのかなという実感がありますね。


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高田:最後に今後の目標を教えて下さい。


木下:身近なところでは、小説の合評で度肝を抜くような作品を書いてきて、みなさんに認めていただきたいですね。あと投稿作を完成させて賞に送りたいです。


高田:投稿用の小説を別に書いておられるんですか?


木下:はい。合評用のものと並行しながら書いています。


高田:もしよければどの賞に送るか、教えていただいてもいいですか?


木下:電撃文庫の賞です。あとはですね。これ言っちゃっていいのかなあ。


高田:大丈夫ですよ。何でも言って下さい。


木下:あくまで将来の夢という風に捉えていただきたいのですけど、学園物なら、あさのあつこさんを、推理小説なら江戸川乱歩を、SF小説を書くのならH.G.ウェルズや小松左京さんを越えるような作品を書いてみたいですね。


高田:壮大な目標ですが、実現できるようにがんばって下さい。


※次回の更新は、7月2日(木)の予定。ゲストは作家コースの猪名山門士 くんです。



第十六回『坂本十三さん』(作家コース)


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高田:坂本さんが作劇塾 に入られたのは、去年の九月頃でしたっけ?


坂本:はい。実は短期間ですが、四年ほど前にも塾にいたんですよ。家庭の事情で数ヶ月しかいられなかったんですけどね。その後の数年間は、塾から遠ざかっていました。


高田:四年前の塾と、今とではかなり違ってるんじゃないですか?


坂本:そうですね。多分、あの頃は塾全体が模索している状態だったと思うんですけど、授業のシステムから、講師陣まで大分変わってましたね。


高田:塾生に対してはどうでしたか? ここが前と違っているというのがあれば、教えていただきたいんですが。


坂本:考え方もそうですし、発言にしてもそうなんですが、“これをやりたい”というのがみなさん明確にあるんですよ。それぞれの色みたいなものも出てるように思いました。だからここにいればプラスのエネルギーもらえる、という実感がありましたね。


高田:少し話は戻りますが、そもそも四年前に塾に入られたきっかけは何だったんでしょう?


坂本:僕は『サイキック青年団』の大ファンなんですけど、北野誠さんと中山先生が怪談イベントをやるというのを聞きまして、そこへ出向いたのがきっかけでしたね。イベントの時に先生とお話をさせていただいた後、作劇塾のホームページを見てみたら、“専門学校と作劇塾との違い”について、わかりやすく書かれてあったんです。それを読んで「これは、行かなあかんやろ!」と思い、入塾したという流れでしたね。


高田:その“違い”というのを詳しく教えてもらえますか?


坂本:中山先生が体験談を語っておられたのですが、専門学校で講師をされていた頃に、先生が塾生を現場に連れていかれたらしいんですね。それに対して学校からクレームがついたと。学校側からすれば、何か生徒による不手際があったら、それを被る可能性が高いから余計な事はしてくれるな、という事だったと思うんです。だから「専門学校という所は生徒を就職させる事だから」という事でしたね。


高田:他の学科だったらそれでもいいでしょうけど、クリエイターの場合、就職ってありませんからね。僕も専門学校出身だからだから、それはよくわかりますね。


坂本:その辺りの矛盾点について、非常に丁寧に書かれてありました。


高田:塾から離れた後、また復帰された訳ですが、それは何か理由があったんですか?


坂本:実は作劇塾戻ってくるまで、かなり精神的に落ち込んでいたんですよ。未来に希望を見出せない状態が続いて、自分でもこれはやばいなと思っていたんです。一昨年に『エヴァンゲリヲン・新・劇場版』が公開されたんですけど、ある意味ではあれがきっかけになったんですよ。


高田:ガイナックスにかなりお詳しいようですね。


坂本:ガイナックスの母体となったDAICON FILMの頃から、あの方たちに関心を持っておりまして、大阪芸大の学生であったDAICOM FILMの人たちが、ガイナックスに進化していく過程に強く興味を惹かれておりました。新・劇場版は震えましたね。あの映画を見てなかったら、塾には復帰していなかったもかもしれないです。あとこれは前から思っていた事なんですが、例えば庵野監督のサイン会とかに行って、サインをもらって喜んでいるような関係は嫌だなと。


高田:単なるクリエイターのファンでは終わりたくなかったという事ですか?


坂本:はい。だから同業者であるクリエイターになりたいというので、漫画家を選んだというのはありましたね。ただ漫画を描くにしても、凄く中途半端なスタンスだったんです。


高田:と言いますと?


坂本:自分の中で、漫画を描いている事を言い訳にしていたんですよ。仕事をしていても、「どうせ漫画家としてデビューしたら、やめるんだし……」と、腰掛けみたいな感じでやっていましたし、だからと言って物凄く漫画を描いていた訳ではなかったんです。実は最近、シフトチェンジをしたんです。漫画家よりもプロデューサー業の方を重点的にやっていく事にしたんです。


高田:という事は漫画をもう描かれない?


坂本:完全に描かないという訳ではないんですが、ストーリー漫画を描くことはもうないと思いますね。前々から中山先生や他の方から「お前はプロデューサーに向いているんやから、なったらどうや?」と、言っていただいていたんですよ。正直言うと漫画を描いていても、苦しいという思いが強かったですし、こんなんじゃ漫画家になれないよなというのはあったんです。自分を無理にごまかしている部分がありましたね。


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高田:そこを吹っ切れたのは、どうしてですか?


坂本:ブログへのコメントです。ある方からコメントをいただいたんですが、ブログを読んでいるだけで自分が漫画から逃げ続けているという事が、こうも伝わってしまうのかと。コメントをいただいたその日のうちに、中山先生のお宅にお邪魔して「プロデューサーとしてやって行きたいんです」というお話をさせていただきました。


高田:プロデューサー業っていうのは、わかりやすくいうとどういう仕事なんですか?


坂本:一言で言うならば“クリエイターの仕事をお金に変える”という事ですね。例えば、塾生で有能な人がいたとしますよね。でもその人は自分の才能をどうやれば発揮できるのか悩んでいた場合、僕がその間に入って営業をかけて売り込めば、その人にも喜んでもらえるし、営業先の方にも喜んでいただける。そして僕も嬉しい。


高田:なるほど、みんなが幸せになれますね。一口にプロデューサーと言っても、色々なタイプがありますよね。


坂本:はい。例えば予算的な成功を最優先するプロデューサーと、作品の成功を一番に考えるプロデューサーがいると思うんです。やっぱり現場の人がどれだけ、楽しく生き生きと創作できるかによって、作品の質が変わってくるはずなので、現場を察した上での采配ができるプロデューサーは強いんじゃないかなと思いますね。ただまだ金銭面の感覚というのが甘い部分があると思いますので、その辺の能力を向上させて上手くバランスを取れるようになりたいです。


高田:坂本さんは中山先生と著名なクリエイターの方とを引き合わせてイベントをしようというのも考えておられましたよね? それに今年の冬に大阪芸大の学生さんを引き連れて、塾の飲み会に来られていました。ああいうスタンスを見て、僕も「この人はプロデューサーとしての適性があるんじゃないかな」と思ったんですよ。


坂本:ありがとうございます。確かに誰かと誰かを繋げる事によって、何かを生み出す事ができたら楽しいという考えは、昔から持っていましたね。あと僕は凄く飲み会を重視してるんですよ。


高田:作劇塾では頻繁に飲み会が行われますよね。


坂本:飲み会に参加して、クリエイティブな話から下らない話まで、いろんな事を語り合う事で、クリエイターの血に入れ替わっていくのではないかと思っています。だから芸大生の人たちにも、それをわかって欲しかったんで連れてきたんです。


高田:今、塾内で“商業作品として通用する映画を作れるようになろう”と盛り上がっていますよね。そのためにはプロデューサーという立場が、絶対に必要となってくると思うんです。


坂本:そうですね。かなり大変な事だと覚悟はしていますが、そのためならどんな事でもしようという気持ちは強くあります。


高田:坂本さんにとっての作劇塾はどんな所ですか?


坂本:包み隠さず本音を言ってくれる所ですね。映画制作の時もいろいろあって、僕の行動でみなさんに迷惑を掛けてしまいましたよね?


高田:あれは結構な修羅場でしたね。


坂本:でもその時に塾生の人たちは、僕を見捨てるんではなくて「このままじゃダメだよ。ここを直しなさい」と真剣に言ってくれたんです。僕はそれまでの人生でことごとく“逃げ癖”がついていたんです。でもあの時、みなさんから叱ってもらって「この塾に残りたい。それには、まずこの逃げ癖を直すしかない」と強く感じました。あそこで逃げていたら、今ここにいてませんからね。塾生の人には深く感謝しています。



『作劇的人々』

高田:では最後に今後の目標をお聞かせ下さい。

坂本:まず塾生を増やす事ですね。僕の名前で入ってきたという塾生を、作りたいですね。日夜、“塾生倍増計画”を考えてるんです。こうすれば新塾生が入ってくるんじゃないかという案がいくつかできたんで、近々行動に移したいと思います。


高田:そうそう、僕は今、ある企画を考えているんですよ。そこへ坂本さんにプロデューサーとして入ってもらえると凄く助かるんですよ。成功すれば塾も潤う話なんですが。


坂本:そういう話だったら、大歓迎です。


高田:今日もこの後、塾長宅で飲み会があるようなので、そこでお話してもいいですか?


坂本:もちろんです! ぜひ聞かせて下さい。


※次回の更新は、6月25日(木)の予定。ゲストは作家コースの木下くんです。