被写体~それは真偽 【肆】 | 晴侍と雨女…時々猫

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街は変化し続ける。
古いものは取り残される。

俺はそんな風景の寂れた街のはずれでシャッターをきっていた。
もちろん、それが罪であるが故に人から遠ざかっての行為でもあった。

彼女は突然舞い降りてきたのだ。

シャッターをきる俺の目の前に。

まるでダンスをするように。
風の止まった、時の止まったこの街を楽しむように。
彼女の体が、彼女の髪の毛が揺れ動くたび、俺のシャッターは押される。

彼女の動きの1分1秒を留めようと。
この写真の中に時を留めようと。

たった一瞬のその時間は俺のカメラの中で数十枚と言う【時】となって留まった。

名前も知らぬ彼女は俺の写真の中で未だその体を揺れ動かしているようで。
現像した写真は俺の宝物になった。

だが、そんな楽しい時がそう長続きするわけが無い。
廃墟に構えた俺のアトリエに人が押し寄せてきた。

そう、始めはこのカメラを取り上げると言う、それだけの目的だった。
俺の手元からは全ての物が取り上げられた。

カメラは勿論。
フィルムに、ネガ、写真……
俺の時を留めたそのさまざまなものは全て俺の手元から失われてしまった。

そして……俺は罪人になる。

カメラを使っていたからじゃない。
写真を撮ったからじゃない。

俺が……
彼女の時を奪ってしまったから……

俺が……
彼女の時を止めてしまったから……

それ以来、俺は罪人として拘束された。

同時に、彼女の時を動かす方法を探らなければならなくなった。
監視下の元、カメラを手に、俺は彼女の時を動かす方法を探す。

……いいや。違うな。
探す振りをしているだけだ。

監視下といっても24時間縛られているわけではない。
ただ、この部屋から出れないだけ。
出る必要は無い。必要なものは全て配給される。
かえって快適だ。

彼女の事件があってから、俺のカメラに好んで写ろうとする者はいなくなった。
【噂】って言うヤツは嘘であろうと無かろうと、その背景がより真に満ちていれば【真実】となるのだ。

窓から眺める風景を日々、俺は俺のカメラで撮り続ける。
そして、この街が変化していく中で俺は別の場所に移動する。
そんな日々がもう何年も続いていた。


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