記入サンプル:長崎一郎くん(その二) | 記入サンプル:熊本太郎のブログ

記入サンプル:長崎一郎くん(その二)

記入サンプル:熊本太郎のブログ-長崎2

前回(その一) のつづきです

新入社員研修が終わると
私は長崎くんら同期十人とともに
某研究所のコンピュータ運用に
携わる部署に配属となった。

それで
前述の小さな寮 に、
私も長崎くんも入ることになったのである。

仕事先の某研究所のコンピュータが
24時間運用であるため
我々も三交代制勤務でそれにあたる。

寮は、先輩と二人の相部屋であるが、
シフトが違えば顔を合わせることが少ない。

そのおかげで、
同部屋の先輩とは
朝から晩まで会社でも寮でも
いつも顔を合わせるということは少なく、
二人一部屋という条件の割に束縛が少なかった。

だが、ここでも長崎くんはやってくれた。

長崎くんの同部屋の先輩は
キツネのような釣り上った目に
金縁眼鏡をかけた神経質そうな人だった。

どうも長崎くんは、
その先輩と上手くいってないらしいというのだ。

私の耳に入るのが遅れたのには、
ふたつの理由がある。

ひとつは、長崎くんとはシフトが違っていたからだ。

長崎くんと同部屋のキツネ目先輩は、

一つ上の浜松先輩曰く

「最初は人当たりが良さそうにして
 近づいてくるから
 親しみやすくて良い人だなと思うんだけど

 なんだかしらんけど途中から突然、
 グチグチと神経質なことを言いだすから
 次第に遠ざけたくなるんだよな」

というような人物である。

どうもキツネ目先輩は、
人との距離感が上手く掴めない人のようで、
他の諸先輩からも
あまり好かれていないようだった。

そのキツネ目先輩が、
長崎くんの同部屋であり

私のシフトの班長でもあった。

そのため
私の目の前をいつもキツネ目先輩がうろつき
背後の長崎くんの姿が見えなくなっていたのだ。

それが、ふたりの関係が良くないらしいことを
知るのが遅れた理由のふたつめである。

「おい。熊本
 お前同期なんだからなんとかしろよ。
 長崎のこと」

闇雲に同部屋の宮城先輩にそう言われて
私は長崎くんとキツネ目先輩の中が上手くいっていないことを知った。

どうも、長崎くんはキツネ目先輩と一緒にいたくないと、
寮内のあちこちの部屋を
泊まり歩いているようなのだ。

「ここにも、
 泊めてさせてくれって言ってきたぞ」

普段私は、
キツネ目先輩とシフトが同じだから
私達の部屋を頼って来なかったが、

私が交代で取っていた夏休みの間に、
長崎くんが宮城先輩に泊めさせてくれと
頼んできたらしい。

「俺も、去年一年キツネ目先輩と
 一緒の部屋だったからわかるけどさ。
 たしかにとっつきにくい人だよ。
 だけどあの長崎の態度はひどいだろ」

同期の愛媛君も、長野君も、焼津君も、
鹿児島君も、小樽君も、富山君も、
それに浪速先輩、府中先輩、鳥取先輩、
大分先輩それに青森先輩なども
自分の部屋で寝るように諭すのだが、
長崎くんは決まって

「いいって、いいって
 大丈夫だから…」

両の手で外人さんがOh Noとするような
オーバーなアクションをとり
キューピーさんのような目玉を
クリクリと動かしてはエヘラエヘラと笑い、
部屋を渡り歩くのである。

このことは、
広島係長や仙台主任の耳にも入り
二人はそれなりにお小言を食らったようだ。

ある日曜日
ためしに長崎くんとキツネ目先輩の部屋に遊びに行ったことがある。

お小言をもらったせいか、
ふたり同じ部屋にいたが

結局

「今日はどこに泊まるんだ」

「ええ、今日は愛媛んとこです」

「そうかわかった」

長崎くんは顔面を表情だらけにして
キツネ目先輩とやり取りすると
布団を抱えて部屋を出て行った。

長崎くんの”寮内ホームレス生活”は
キツネ先輩が転勤になる翌年まで続いた。

つづく

*登場人物の名前は全て仮名です


ペタしてね