「ヤベーよ、ヤベーよ」

誰かが慌てふためいている。

それでもそれ以上、何かをするヤツはいない。

「熱い、熱いぃいいい!!!」

叫び、転げまわるユウキが、炎と格闘している。

これだけゴウゴウと燃え盛る炎の中に、人間がいるなんて信じられない。

カイトは手先や足先が冷たくなっているのを感じた。

吉田さんは、人が死ぬことなんてどうとも思っちゃいない。

むしろ…

愉しんでいる…

ヴェルファイアの男とぶつかるのは十分ヤバイ気がするが、目の前でこんだけリアルにいたぶられてるのを見たら、こっちから抜け出す方が相当ヤバイ気がする。

燃え盛るユウキに降り注がれる、ゾクゾクとするような視線。

誰もがカイトと同じように思ったはずだ。

ゴクリ、ゴクリと、喉の奥に溜まった感覚の唾液を飲み込もうとするがうまくいかない。

これが生き地獄ってやつか…

炎を前に呆然と立ち尽くしていたカイトの横顔を吉田が殴って怒鳴る。

「気に入らねぇ、そう言ってんだよ!」

吉田はそう言うと、カイトの腹に数発拳をねじ込ませ、

「お前ら、ここにベルファイア乗ったヤツ、連れて来いや」

安全靴仕様のシューズで、カイトを蹴り飛ばした。

つま先に詰められた鉄板が、思いっきり腹部にめり込んだ。

殺す気かよ…

カイトはゆっくりと床から這いあがると、

「…了解…」

不満たっぷりの声でそう応えた。




「…純太、もう大丈夫だぞ」

周りが静かになって随分たったが、純太はブルブルと震えたまま、助手席のダッシュボード部分で小さくなっている。

「おい」

シンヤが何度か声をかけてやると、やっとのことで顔を上げたが、全身がヤバイぐらいに震えている。

「すまん、」

申し訳なさそうに謝ると、純太が震えながら、

「シンヤさん…何があったんですか…?ちゃんと話してください」

涙声でそう言った。

純太の表情を見ていると、少しだけヤスオの気持ちが分かった気がした。

気持ちは全く中坊のときと変わらない。

イラっとする箇所もキレる部分も。

ちょっとは抑えが効くようになったとは思うが、たいして変わりはない。

それでも、守らなきゃいけないものの数はダントツで増えた。

ヤスオが生徒を守らなきゃいけないと思っているように、俺も…

「純太…」

つづく