『記者魂』 | 本だけ読んで暮らせたら

『記者魂』

ROGUE ISLAND (2010)
『記者魂』  ブルース・ダシルヴァ/著、 青木千鶴/訳、 ハヤカワ・ミステリ1849(2011)


かつて、新聞記者を主人公としたハードボイルドの傑作に、ジョン・ウェルズという事件記者を主人公に据えたシリーズがあった。作者はキース・ピータースン。翻訳ミステリー業界には、そのシリーズの熱烈な信者がいて、私もそうした人たちの評価を切っ掛けに夢中になっていた・・・。

本作を読んでいる最中、そんなことを思い出していた。

で、この『記者魂』、そのジョン・ウェルズ・シリーズに匹敵する。



舞台はアメリカ東海岸のロードアイランド州プロヴィデンス市。現在、市内マウント・ホープ地区には放火事件が頻発している。
主人公は新聞記者リアム・マリガン。中年男。離婚訴訟中の妻あり。スクープを連発するヤリ手の美人記者と付き合っている。 過去には警察の不正を採り上げ、今回の連続放火事件でも警察の無能ぶりを記事にするマリガンは警察から目の敵にされている。仕事に関しては有能で頑固で信念を曲げないことから、新聞社の上司からは煙たがられている・・・。 ハードボイルドの主人公に相応しい人物設定。


連続放火事件を追う中で警察や新聞社上層部とひと悶着を起こし、事件の真相に迫りだしてからは敵方の罠に嵌まって絶体絶命の状況に追い込まれる。悔恨とニヒリズムに苛まれながら、それでもストイックに事件を追う主人公。そして、閃きと推理によって謎の全貌が明らかになり、起死回生の反撃を計画する。その計画は見事に達成され、後にはカタルシスとノスタルジーが漂う・・・。

と、まァ、プロットもハードボイルド小説として典型。


この小説、読み終わった今となっては、何から何までハードボイルドの定型だったと客観的に思える。

けどネ、それでも傑作と言っちゃう!

なぜなら、読んでいる最中は、私の中に存在する客観視する姿勢をブッ飛ばしてくれるから。この小説のプロットの細部にはオリジナリティがあり、主人公のマリガンは良い悪いを超越したコダワリがあり、ストイックであり続けるから。そんな人物を描く小説には不変の面白さがある。つまりは、私の偏った好みを満足させてくれる要素がテンコ盛りだから。。。


昔ながらのハードボイルド・フリークにはお薦めです。





そうそう、あと少し書いておこう。。。


アメリカのミステリーには、登場人物達がメジャーリーグの試合を観に行ったり、贔屓のチームや選手について一喜一憂する場面が描かれることが多い。作中のここぞという場面に、贔屓とするチームや選手の好不調をネタにして、洒落たセリフを主人公に言わせたりもする。ミステリーもスポーツも好きな読者としては、そんな場面を読むとニヤついてしまう。


野茂が活躍し、日本人選手の多くがメジャーリーグのチームに在籍することになってから、いつかアメリカのミステリー作品に日本人選手が登場する場面が描かれるだろうと思っていたのだが、なかなかそういった場面に遭遇することはなかった。

だが、ついに出くわした。本作では主人公が生粋のレッドソックス・ファンであることから、コトあるごとにベースボールに触れる場面がある。そして、ホンの1箇所、日本人メジャーリーガーが登場する。

ただ、それだけのことだが何だか嬉しかったものだから。。。