『逃亡のガルヴェストン』 | 本だけ読んで暮らせたら

『逃亡のガルヴェストン』

GALVESTON (2010)
『逃亡のガルヴェストン』  ニック・ピゾラット/著、  東野さやか/訳、 ハヤカワ・ポケット・ミステリ(2011)



ハヤカワ・ポケット・ミステリが推す新世代作家の第3弾。  第1弾作品の記事はコチラ。   第2弾はコチラ。



主人公ロイ・ケイディは、ギャンブル代金の取立てなど荒っぽい仕事を請け負うギャングの一員である。

物語は、ロイが胸の痛みを医者に診てもらい癌を宣告されるところから始まる。

癌を宣告されたその日の夜、ボスに命じられて、ある男の所に出向いたところを3人組の男達に襲われる。反撃が敵い、男達3人を殺して逃げることに成功するが、その際、成りゆきで若い娼婦のロッキーを助けた。

死を宣告され、今また、ボスの裏切りに遭って全てを失った孤独な中年男は、全てを捨てて家出してきた娘を連れて州外への逃亡を図る。


逃げた先はテキサス州ガルヴェストン。

ガルヴェストンに向かう途中、ロッキーは実家に寄って4歳の妹ティファニーを連れ出す。

こうして、死の淵に立つ強面の中年男、美貌の少女とあどけない幼女、この3人の逃避先での奇妙な生活が始まる・・・。



暴力と流血の世界を舞台にしたノワール作品であるにも係わらず、物語の描かれ方は物凄く上品だ。

死を前にしてギャング社会からの裏切りに遭った中年男。そんな男が未来のある少女達と過ごす中で変わって行く微妙な心情が淡々とさり気なく描かれる。 直接的な言葉を使うことなく、裏の世界で生きてきた男が表立ってみせることのない良心のようなものを行間に漂わせる。

18歳の少女ロッキーの美貌に戸惑うロイ。過酷な家庭環境で育ち身を売る以外に生きる術を知らないロッキーの再生を願い、あどけないティファニーの将来に想いを馳せるロイ。このようなロイの感情が文字で表されることはないが、それでも読者はロイの感情を慮ることができる。彼らの行動と直接的ではないが重ねられた言葉の隙間に垣間見える余韻が彼の想いを読者に伝える。素晴らしい描き方だ。

クライマックスでロイとロッキーが迎えるのは過酷な状況だ。このクライマックスは甘くない。ノワール小説の面目躍如たる場面が描かれる。

ハリケーンに襲われるガルヴェストンで迎えるラストシーン。この場面では一筋の光明がロイには見えたはずだ・・・。 そう思って本を閉じることができた。

お薦めです。