『パイド・パイパー』 | 本だけ読んで暮らせたら

『パイド・パイパー』

PIED PIPER (1942)
『パイド・パイパー - 自由への越境』  ネビル・シュート/著、 池 央耿/訳、 創元推理文庫(2002)


イギリス冒険小説。

舞台は第二次世界大戦に突入したフランス。

主人公は弁護士を引退した70歳のイギリス男、ジョン・シドニー・ハワード。


プロットはシンプルだ。戦火のフランスを脱出し、イギリスに帰国すること。

だが・・・。


過去を背負い、たった一人でフランスの片田舎に釣に訪れていたハワードが、ひょんな事から知り合いになった国連職員の子供2人を伴い、戦争の足跡が聴こえてきたフランスの田舎から故国イギリスに帰還を果さねばならなくなった。

8歳と5歳の兄妹を連れてイギリスへ向けて出発したハワード。途中、幼い妹が熱をだしたため、数日間ホテルに逗留せざるを得なくなる。その間にドイツ軍はフランス各地に侵攻しだし、イタリア軍もフランスに侵入する。

子供の容態が回復し、やっとのことでホテルを出発できるようになった一行には、もう一人、10歳の娘が付き従うこととなる。

一行の乗っていた路線バスは、ドイツ軍戦闘機の機銃掃射で動けなくなった。子供たちの手を引き、歩き始めたハワードの行く手には、またしても、孤独で身寄りの無い子供達が加わることになる・・・。


戦渦のフランスを、老人が子供たちを引き連れて旅をする。幾多の障害に遭いながらも、一歩一歩進む一行。

その推進力は、一人の老人の機知と子供達に向ける圧倒的な優しさ。そして、約束したことは守り抜く、男としての意地。さらに、途中から一行を助ける若い女性の存在。


老人と彼を助ける若い女性。旅を続けるうちに2人の間に徐々に築かれる情愛と信頼。2人の関係が強固なものとなっていく過程を描く会話場面が物凄くイイ。特に彼女の言葉。

実は、2人の出会いには運命が介在していた。ここのところは少々創り過ぎの感もあるが、それでもホッとさせてくれる。


アクションもない。派手なドンパチなどいっさいない。でも、紛れもない冒険小説。その王道を行く作品。

主人公のハワードさん、男(漢)だねぇ~っ!


なかなかのお薦めです。




そうそう、この本の訳者、 『星を継ぐもの』 の訳者です。 イイ作品には、イイ訳者(かな!?)。