『すべての美しい馬』 | 本だけ読んで暮らせたら

『すべての美しい馬』

All the Pretty Horses (1992)  
  
『すべての美しい馬』   コーマック・マッカーシー/著、  黒原敏行/訳、 早川書房(1994)



『国境3部作』と呼ばれるシリーズの第1弾。

コーマック・マッカーシーが描くテキサスとメキシコの国境地帯に広がる大自然と馬を愛する16歳の少年ジョン・グレイディー・コールの物語。


ジョン・グレイディーが親友レイシー・ロリンズと供に故郷テキサスからメキシコに不法入国し、メキシコの大牧場で牧童として働き、牧場主の娘に恋をする。それを切っ掛けに牧場主の怒りを買い、旅の途中でのある出来事が元で暴力の支配する監獄に入れられる。監獄を脱し、故郷に戻る旅をし、そしてまた故郷を離れる。

あらすじは単純だが、その物語の過程と様々なシーンが力強く、かつ美しく描かれる。

中でも、荒野を抜ける風や音、地平線の彼方に見える明かりや夜空の描き方は特段だ。

また、主人公達がやたらとコーヒーを飲むシーンやジョン・グレイディーが野生馬を躾けるシーンなどはかなり詳細に描かれ、著者のコダワリが感じられる。


そして、登場人物たち・・・、
ジョン・グレイディーとレイシー・ロリンズが旅の途中で出会った少年ジミー・ブレヴィス、牧場主の娘アレハンドラ、娘の大叔母で隻眼の老婆アルフォンサ、判事。ジョン・グレーディーに関わる人物達は皆魅力的である。

特に、老婆アルフォンサの造形がイイ。ジョン・グレイディーに語り聞かせるメキシコの歴史や自らの生い立ちを通して垣間見せる彼女のキャラクターは深い。クライマックスに登場する老判事もそうだが、この作者は老齢に達した人間を実に味わい深く描き出す。

登場人物たちの言動を描く筆致は決して扇情的ではない。極力感情を抑えた静謐さの漂う描き方であると言えるかもしれない。それでも読者は、主人公ジョン・グレイディーの魂の奥底に存在する熱い信念と馬に抱く絶対的なまでの愛情を感じとり、共感することができる。


熱い少年のハードボイルド・ストーリー。余韻をもって心静かに読み終えることができた。お薦めです。



本作は bookbathさんの記事 に触発されて読みました。 bookbathさん、イイ作品に出会えました。感謝です。