『夜より暗き闇』
マイクル・コナリー/著、古沢嘉通/訳、講談社文庫
LA市警ハリウッド署刑事ハリー・ボッシュ・シリーズ第7弾にして、テリー・マッケイレブ・シリーズ第2弾です。
テリー・マッケイレブは『わが心臓の痛み 』という作品の主人公で、心臓移植をした元FBI心理分析官です。
異なる小説の主人公が、同一作品に登場する。ダブル・キャスト作品・・・ということは、二人が協力し合って事件を解決に導く・・・?
当代随一のストーリー・テラー、マイクル・コナリーが描く物語がそんな単純なものになるはずがありません。
この作品では、マッケイレブがボッシュを追います。
マッケイレブから見たボッシュが描かれるのです。
知り合いの警官から殺人事件への協力を依頼されたマッケイレブ。やがて被害者と関係のあったボッシュ刑事の行動に疑惑が生じます・・・。
マッケイレブから見たボッシュ、それは、彼の実力は認めるものの、“俺が正義だ”的なアブナイ自警主義警官です。
マッケイレブのメモ、
・・・・・
使命感を持つ男―――復讐の天使
・・・・・
母
事件
司法制度―――“たわごと”
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神の手―――警察―――ボッシュ
夜より暗き闇―――ボッシュ
事件を追う過程でマッケイレブが掴む手掛かりは、犯人がボッシュであることを示していきます。
一方のボッシュは、全米の注目の的となっている別の殺人事件の法廷で、検察側証人として容疑者を追い詰める役割を担っています。しかし、裁判の最中、容疑者の態度はまったく揺らぐことがありません。何が容疑者に自信を与えているのか?裁判は思わぬ苦戦に陥ります。
法廷での争いの最中に、マッケイレブによって自分が別の殺人事件の容疑者に挙げられていることを知ったボッシュの行動は・・・。
マッケイレブとの再会に、ボッシュは・・・。
この物語の後半で、ボッシュはマッケイレブに打ち明けます。
第4作『ラスト・コヨーテ 』で起こった未解決事件の真相について・・・。
“夜より暗き闇”・・・ボッシュの心の奥に巣くう闇、について。
そして、ここから、ストーリーは一気にクライマックスに向かいます。
ボッシュの“心の闇”は、過去のトラウマ(ベトナム戦争、実母の死)から、現在の事件(第4作『ラスト・コヨーテ』と第6作『堕天使は地獄へ飛ぶ 』で起こった事件)が産み落とした闇へ、と変化してきています。
ところで、作者コナリーは、今作ではこれまでの作品と異なる新たな叙述方法を試みています。
第三者であるマッケレイブの視点から主人公ボッシュの言動を描いていることです。
しかし、この叙述方法、これまでのようにボッシュが自らの心情を語ることがないため、いまひとつ、ボッシュの心の揺れ動きについての描き方が弱いように感じます。
ボッシュが抱える“現在の心の闇”について、もう少し深く掘り下げて描いてほしかった・・・。このシリーズの最大の‘売り’は、そこ(ボッシュの心の闇、ついては社会の闇)にあるはず・・・。