理解と実践及び経営判断について | 司法試験ブログ・予備試験ブログ|工藤北斗の業務日誌

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資格試験予備校アガルートアカデミーで司法試験・予備試験の講師をしている工藤北斗のブログです。司法試験・予備試験・法科大学院入試に関する情報を発信しています。時々弁理士試験・行政書士試験についても書いています。

Twitterで盛り上がっていた話題をヒントに,以下の2点について書いてみたいと思います。
Twitterで盛り上がっていた話題とは,ある予備校講師が二回試験に落ちたという話です。もともと二回試験に落ちる人は非常に少ないのですが,今年は例年より不合格者の数が少なかった(合格率が高かった)ため(この点についてはこちらのブログより),話題になっているという背景事情もありそうです。

ちなみに,私自身は,司法試験合格後司法修習に行っていないので(そして,下記のように,これからも行かないと思うので),二回試験について意見を述べるつもりはありませんし,また,彼の講義を受講した経験もないので,講義の内容や質等についてどうこう言うつもりもありません。

1 理解と実践
まず,講師目線から。

改めて思うのは,理解と実践は異なるということです。
もし,私が「明日司法試験を受験しろ」と言われたら,おそらく当時ほどの成績を残すことはできません。

司法試験合格後,講師になってから嫌というほど,受験生時代の何倍も法学の勉強をしています。理解のレベルは当時とは比べ物にならないくらい向上しています(そう思っています)。
そのため,時間無制限で,ある論点についてじっくりと書けと言われれば,当時よりはるかに優れた答案を書く自信があります。

しかし,制限時間内に答案を書くという文脈でいうと,その向上した理解がどの程度答案に反映されるのか,疑問です。
それよりも,問題文を読んで書くべき事項を瞬間的に思いつくことができるか,どれだけ事実を素早くピックアップすることができるか,そちらの方が点数に直結します。その力は,「受験生」という現場を離れてから,ここ数年で確実に落ちていると思います。

ちなみに,答案も,毎年何百通も書いています(司法試験型の答案でいっても,50通くらいは書いています)。しかし,文献を参照しながら,PCで,時間も気にせずに書いているので,六法以外参照文献なしの,制限時間2時間の手書きの答案とは別物です。

もし仮に,一定の準備期間が与えられるのなら,おそらく,毎日のように答案練習をします。
判例の言い回しなど細かい表現を暗記することもしますが,間違いなくウェイトは答案練習に置きます。それが点数に直結するからです。
一定の準備期間(やってみないとわかりませんが,2週間~1か月くらいでしょうか)をもらえれば,理解が深い分,当時より良い成績を残すことは可能だと思います。

逆に,基本書を読んだだけで,大した答案練習もせずに,司法試験に合格(しかも,上位合格)してしまう人は,本当に天才なのだと感じます。凡人の私にはできない芸当です。当時も,死ぬほど問題演習をしたからこそ,基本書も百選も読まずに,ある程度の成績を残すことができたのです。

受講生の皆さんにはいつも口を酸っぱくして言っていますが,とにかく大事なのは,実践です。
もちろん,最低限の理解は必要です。理解がなければ,実践もありません。だから,基礎・基本をしっかり身につけろとも言います。
しかし,その先は,実践あるのみなのです。

※ 仮に,私が司法修習に行った場合には,柴田先生など,二回試験で優秀な成績を収められた方に,起案の仕方を教えて頂いた上で,ひたすら起案の練習をしますね。ただ,会社経営と講師をやりながらそんな練習をする時間はとても取れないので,司法修習には行かないと思います。兼業全面解禁になれば話は別ですが。二回試験突破に不要な講義などは出席せず,起案練習だけすれば済むので。

2 経営判断
今度は,経営者目線で見てみます。

今回の事実関係を,時系列順にまとめると,私の認識に誤りがなければ,次のようになります。

12月15日 二回試験合格発表(詳しい時間まではわかりません)
12月19日02:39 彼のブログで講座販売について告知(配信元予備校では,告知の日時まで特定できず)
12月22日10:00 申込受付開始
12月26日00:19 彼のブログにて二回試験落ちの事実を公表(配信元予備校では公表の事実を確認できず)

Twitter上では意外と指摘されていませんでしたが,経営的に見て,今回の件の最大の問題は,二回試験合格発表から,26日の公表まで10日間以上の空白期間があることだと考えています。

仮に,今回のケースが申込受付開始後に二回試験不合格の事実が明らかになったというものであれば,一応理解はできます。
すでに申し込んでしまった方へ返金対応をすべきか,講義を視聴してしまっていた場合はどうするか,返金方法をどうするか,お詫びとして何かすべきか…などなど,予備校として実務レベルで対処しなければならない事項はたくさんあるからです。その協議にはある程度の日数を要するものと思われます。

しかし,今回のケースは違います。
二回試験不合格の事実が明らかになった後に,講座の告知及び申込受付開始が行われ,その後しばらくして公表されているからです。

これは,明らかに経営判断として重大なミスだと言わざるを得ません。
彼のミスというよりも,配信元の予備校のミスでしょう。
(事実関係の詳細を知らないのですが,彼が直ちに二回試験落ちの事実を配信元予備校に伝えなかったために対処が遅れたという事態も想定されます。しかし,仮にそうであったとしても,自社の商品に関わる問題である以上,配信元予備校には,直ちに二回試験の合否について問い合わせる義務があったというべきでしょう。)

なぜ,「重大な」ミスというべきなのか。
それは,予備校というビジネスが信用で成り立っているからです。
予備校の講義を受講したからといって,必ず試験に合格できるわけではありません。
合格した方もいらっしゃいますが,複数の予備校の講義を受講している,ロースクールの講義を受講している,それ以外のテキストを使っているなどなど様々な要因が絡むので,因果関係の有無・程度はわかりません。
それでも,なぜ受験生が予備校を利用するのかといえば,信用以外の何物でもありません。この先生についていけば合格できるだろうという信用,この予備校なら安心して受講料を支払えるという信用。
予備校が合格実績を出したがるのは,ビジネスが信用で成り立っていることをわかっているからです。信用という目に見えないものを裏付けるために,合格実績という目に見える数字を出し,因果関係があるかのように(本当にあるのかもしれませんが)見せているわけです。

上記のような事実関係では,自分に不都合な事実を意図的に隠ぺいした上で,顧客(受験生)に申込みを行わせたと疑われても仕方がありません。私が問題だと考えているのは,二回試験の合否でも,それが講師の資質に関わるか否かということでも,事実を公表すべきか否かということでもなく,公表するという決断をしたタイミングです。

これはビジネスの根幹たる信用に関わる問題だと思います。

※ ちなみに,私は講師出身の経営者なので,その目線からも言わせてもらうと,今回の配信元予備校の判断ミスは講師をも傷つけることになっています。批判の矛先が講師にも向くからです。もちろん公表が遅れた点について一切彼に責任がないとは思いませんが,自社の商品として販売している以上,第一次的な責任は予備校にあります。予備校が批判の矢面に立って然るべきです。仮に申込受付開始を遅らせていれば,二回試験落ちの事実は消せないとしても,試験は水モノだから仕方がないよね,そういうこともあるよね,また来年頑張ればいいじゃん,ということで話が済んだはずです。
目先の利益を重視し,申込受付開始に踏み切ったために,ただでさえショックを受けているであろう彼に,さらなる追い打ちをかける事態になってしまったのではないでしょうか。

私であればどう対処したのか。
想像の域を出ませんが,公表するのであれば,おそらく即日公表し,申込受付開始を延期したと思います。事実関係を整理して,対処方法を決めるまでに時間がほしいからです。
特に,今回のケースでは,二回試験合格発表の時点では,講座の告知も正式には行われていなかったので,申込受付開始の延期という判断をし易かったのではないでしょうか。

延期の期間ですが,予備校にとってあまり遭遇しない非常に対処の難しい案件なので,講師との協議も含め,最低5営業日(1週間)は時間がほしいところです。ただ,比較的緊急性が求められる案件であること,年末年始を挟むことを考えると,10営業日(2週間)は行き過ぎな気がします。

と客観的に見てみましたが,自分が当事者になった場合,そこまで冷静な判断ができるのかは定かではありません。

今回の案件は,レアではありますが,CSやリスクマネジメントといった大きな観点から見れば,勉強になります。
私も,クレーム対応マニュアルやリスク管理関係の本などは一通り読みますが,やはり現実のケースに接してみないとなかなか身につかないところです。

言うは易く行うは難し。
他人事ではないので,自分ならどうするのか,よく考えてみたいと思います。

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