ポストケインジアンへようこそ / イノベーションの本当の源は高賃金 | 批判的頭脳

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記事紹介第六弾は、ポストケインジアンに関する記事と、イノベーションと賃金の関係に関する記事である。


ポスト・ケインジアンへようこそ


ポストケインジアンとは、新しい古典派と新しい古典派の批判を受けて変質したケインジアン(ニューケインジアン)を批判し、本来のケインズ的見解を重視する経済学者たちの派閥である。

ポストケインジアンは、どちらかというと既存理論の批判をメインに行っているのがほとんどであるが、この記事は、そんなポストケインジアンが自ら構築した理論についての解説を行っている。

消費者理論では、財のバスケット(要するに、どの財をどれだけ買うかというバランス)が計算によって最適化され、また将来と現在の消費も選択的に最適化されている(異時点間最適化)とする新古典派理論の代わりに、他人をまねることや、これまでの消費を履歴的に繰り返すこと、および消費を階層的に考えることといった現実的な仮定を軸に消費者理論を組み立てなおす。

食べ物や住居費のような基本的な必需品は、何よりもまず第一に充足されるだろう。そして消費者が一つの分類に関しては満足すると、彼らは次の分類に移ることになる。こうした階層的な並びは、「代替効果」よりも「所得効果」が優勢だということを意味し、所得は需要の水準と種類の双方について相対価格よりも重要な決定要因だ。

消費者は、スカーフの価格のせいで部屋の賃貸をより好むようになるということはない。

生産者理論では、限界費用(一単位生産を増やす際かかる費用)と限界収入のバランスで生産量を決定する限界主義や、収穫逓減という仮定を批判し、現実には、企業は計算能力や予想能力の不足から生産費用に利潤分を追加する方式(マークアップ)で価格を決定しており、収益の予想を安定化させるためその価格を粘着的にすること、収穫一定あるいは収穫逓増のため、企業は需要に応じて数量を容易に調節することを示している。

内生的貨幣については、貨幣供給量は中央銀行が直接コントロールできるのではなく、民間の資金需要に大いに左右されるのであって、したがって中央銀行による金融操作は限定的であるという結論を導いている。このことから、財政政策の有効性が導かれるのであろう。特に不況化では、貨幣供給量は金融政策ではなく財政政策に左右されているのであり、財政政策が本当の意味での金融緩和政策になっているとすらいえる。
(このことについては、リチャード・クー(彼は別にPKではないが)の陰と陽の経済学で述べられていたので、参考にされたい)

国際貿易については、主流派経済学が比較優位に基づく最適化を想定するのに対し、生産性の低さから過小需要に直面した自由貿易国家は、固定的な失業の発生を被り、これが改善傾向に向かう理由はないとPKは考える。
また、資本移動の自由がある場合、資本は比較優位ではなく絶対優位を求めて海外を行き来する。この資本をとどめるためには、金利を高くして資本を呼び込む必要があり、このため金融政策は国内需要を達成するための総需要政策をとれなくなる。実際、資本移動制限の緩和が進むほど、各国の失業率と金利は上昇することとなっている。


こうしたアプローチは、既存経済理論を批判的に理解する上で非常に役立つものでもある。
これを足がかりにして、"有効な"経済学を考えていくことは極めて有益であると私は思う。


イノベーションの本当の源は高賃金 BY TIM HARFORD



この記事は、経済史家のロバート・アレンの研究結果を引用しつつ、何がイノベーションをもたらしたのかについての考察を行っている。

経済学者はイノベーションの土台として、きちんと機能する裁判所、ほどよい税を徴収したりインフラに支出できる政府のような制度の重要性を指摘する傾向があった。中国のような劇的なキャッチアップは稀で、資本主義の歴史の中では、その生産性格差が極めて大きいまま推移してきたからである。

しかしロバート・アレンは、生産性格差は、労働者と資源の希少性の相対的格差で証明できると述べた。

例えば、中国で産業革命が起きなかったのは、中国の文明レベルの問題ではなく、中国において石炭などの資源が希少で、逆に労働者が非常に低賃金で雇えたからである。もし紡績機をインドで導入できたとして、それはインドでは赤字を生んだだろう。しかしイギリスでは、それは莫大な収益を生んだ。イギリスでは労働者の賃金が十分に大きく、その節約が有効だったからである。

これによって、より高賃金の国ではイノベーションが進んでいき、低賃金の国では停滞して、やがて高賃金の国に産業が破壊されることになる。

中国とインドは、数世紀にわたって製造部門の発展に失敗してきた農業経済国ではなく、高度に機械化された英国の工業との競争によって国内産業が破壊された低賃金な製造国だった。なんとか英国と対等な条件を取り戻すのは積極的に産業政策を行い幼稚な産業を保護するために関税をかけた国々だった。それは英国が植民地には許していない戦略だったのだ。


この研究は非常に示唆的だ。もしこの研究が事実なら、労働者の賃金を低く抑えるであろう数々の諸政策は、イノベーションに対して良い影響を与えることはないからだ。



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