新自由主義批判言説の特徴とその源流 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

新自由主義批判言説の特徴とその源流

秘書です。

また、新自由主義批判がでてきているようですね。

4月28日、野田首相が参加した第83回メーデー中央大会でも、新自由主義に基づくさまさまな規制緩和による社会の格差拡大批判。

新自由主義というのは、おもしろい用語です。

①私は新自由主義者です、という人は小泉政権の政策運営に携わっている人の中にはいませんでした。

小泉首相も竹中大臣も自分は新自由主義者であると名乗ったことはありません。(竹中さん自身は「我々がやってきたことに対して『新自由主義』というラベリングが横行しているのですが、それは事実ではないということです。」と述べ、自らが新自由主義政策を推進したという見方を否定しています。(竹中平蔵・山口二郎(2008)「新自由主義か社会民主主義か」『中央公論』中央公論新社、2008年11月、p.58.)

②新自由主義批判は、小泉政権末期に登場し、小泉首相や竹中大臣が辞めてから活発化し、2009年の政権交代のときにピークを迎えています。 


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③新自由主義批判は、民営化路線により既得権益を失う官公労、構造改革により既得権益を失うグループ、左翼、反米主義者らが広汎な統一戦線を組むための共通の基盤を提示し、反対に、自民党に分断のくさびを打ち込む政治的ヘゲモニー言説であり、新自由主義批判なくして、保守の反改革派、官公労、社民主義者の統一戦線はありえなかったでしょう。

自民党は、いまだにこの新自由主義批判というくさびから解放されていないのでは?結果として、新自由主義批判勢力の中枢である官公労を中心とする反民営化路線を擁護する勢力が日本の主流になってしまっています。

今でも、民営化路線を推進する人には新自由主義者のレッテルがはられるようです。その原点はどこにあるのでしょうか?


④昨今の民営化路線に対する新自由主義批判言説の原点としての2002年9月PSIオタワ大会決議が注目されます。 

国際公務労連(PSI:Public Services International) とは、国・地方の行政当局、ガス・電気・水の生産と供給に従事する公益事業、保健医療、環境、社会福祉事業、教育・文化ならびにリクリエーション事業、その他の公共サービスを市民に提供することを目的とする機関に雇用される職員および労働者の団体の国際組織であり、世界156ヵ国、635組織、2000万人が加盟しています(2008年6月30日現在) 。
PSIに加盟する日本の労働組合と組合員数は自治労70万人、国公連合10万人、全水道2万5千人、全消協1万2千人、都市交1万人、ヘルスケア労協2500人であり、これらの労組は1988年7月22日に「PSI加盟組合日本協議会」(PSI-JC)を発足させました。

日本の官公労組は、国際公務労連(PSI)の労働運動と出会うことにより、世界的な市場原理主義に対する国際労働運動の一環として自らの運動を位置づけ、民営化路線に対抗する基軸を得て、『質の高い公共サービス』を展開し、日本国内の労働運動及び政治運動における官公労組の存在感を高めたと考えられます。

具体的には、2002年9月のPSIオタワ大会における“PSI global campaign for quality public service”決議に基づくキャンペーンを、日本国内において公務労協主導で運動展開したました。

この決議は、新自由主義に基づく民営化政策に反対し、民営化政策に対抗するための質の高い公共サービス(quality public service)の確立を求めるものです。


「この数年、新自由主義に基づく周知のような民営化計画や公共部門改革計画が進められてきたが、それらは重大な政策ミスであったことがわかってきた。言い換えればこれは、多くの政治家や政策立案者だけでなく公共サービスを利用しまたは必要としている大勢の人々が、社会や経済を発展させ持続的な成長を助ける上で強力かつ質の高い公共サービスが必要であることを、再認識し始めていることの現れである。」

「PSIは、あらゆるイデオロギーに基づく民営化には反対である。こうした民営化案に対して、PSIと加盟組織は断固反対していく。」


このように2002年9月のPSIオタワ大会決議は新自由主義に基づく民営化路線に反対することを明言しています。この新自由主義批判が2009年の政権交代時に日本で活発化する新自由主義批判の原点であると考えらます。

決議は「1980年代と90年代にサッチャー主義的政策によって公共サービスが打撃を受けた国は多い」とし、「こうした国で最も急がれる問題は、公共サービスの建て直し、公共サービス投資の大幅拡大、漸進的な社会政策目的に向けたサービスの開発である」とした。「これらの中には、公共部門労働者の賃金と労働条件の大幅な向上、そして労使協力のより一層の活用などが含まれる」とあるように、民営化路線に反対して公務労働者の賃金と労働条件の大幅な向上を図ることがキャンペーンの目的に含まれていたことを示しています。

国際公務労連の公式ホームページでは、「20年におよぶ民営化推進政策を経て、世界は以前よりも良くなっていないし、公平にもなっていない」と民営化路線を批判している。そして、「貧富の格差は拡大し、1990年代よりも貧しくなった国は54カ国もある」と民営化路線を格差拡大の原因としている 。その上で、「PSIの質の高い公共サービスキャンペーンは、それに代わる積極的な代案に関するものである」と、高い公共サービスキャンペーンを民営化路線の代案として位置づけています。貧富の格差拡大は民営化路線が原因であり、それに対抗する代案が質の高い公共サービスであるとのPSIの考え方は、日本国内では小泉構造改革が格差を拡大させたという言説の原型になったと考えられます。
 日本国内では、PSIの「公共サービスグローバルキャンペーン」の一環として、公務労協主催で2004年11月、「良い社会をつくる公共サービスを考える研究会」が発足しました。


「良い社会をつくる公共サービスを考える研究会」委員名簿

(主  査) 神野直彦・東京大学大学院経済学研究科教授
(幹  事) 宮本太郎・北海道大学公共政策大学院教授
(委  員) 稲沢克祐・関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科助教授
佐藤学・東京大学大学院教育学研究科教授
辻山幸宣・地方自治総合研究所主任研究員
(研究理事) 坪郷實・早稲田大学社会科学総合学術院教授
沼田良・作新学院大学総合政策学部教授
堀越栄子・日本女子大学家政学部教授
間宮陽介・京都大学大学院人間・環境学研究科教授
(専門委員) 小川正浩・生活経済政策研究所専務理事・研究部長
佐野幸次・地方自治総合研究所常務理事・事務局長
成川秀明・連合総合生活開発研究所上席研究委員


 (出典)良い社会をつくる公共サービスを考える研究会(2006)「公共サービスの再生と刷新で『不安社会』からの脱却を 安心を保障する有効な政府のために」

公務労協は2004年に良い社会をつくる公共サービスを考えるこの「研究会」を立ち上げ、この「研究会」の報告書をもとに全国キャンペーンを展開しました。
2004年に発足した「研究会」は、2004年5月と7月に開催された公務労協主催「市場原理主義・競争社会への対抗戦略ビジョンのためのブレーンストーミング」に基づき設置されたものです。

「研究会」の構成メンバーの注目点は以下の2点です。

第一に、「研究会」の主査と幹事が2009年に発足した民主党政権の経済財政政策の形成に重要な役割を担ったことです。研究会主査の神野直彦氏は、政権交代後に政府税制調査会専門家委員会委員長に、研究会幹事の宮本太郎氏は「社会保障改革に関する集中検討会議」幹事委員となったことです。

第二に、生活経済政策研究所、地方自治総合研究所、連合総合生活開発研究所の3つの連合系シンクタンクが「研究会」に関与したことです。


この「研究会」の報告書に基づき、公務労協は332万筆の署名を集めて国会に提出し、2009年の総選挙直前の5月13日に公共サービス基本法が成立しました。公共サービス基本法は、新自由主義に対する代案として公共サービスを位置づけるものであり、その基本認識には新自由主義批判が含まれています。同法制定の運動を展開してきた公務労協の公共キャンペーンサイトの「『公共サービス基本法』を活用しよう」では、同法の意義を以下のように説明しています。

「日本では、貧困の拡大や地域経済の疲弊など格差の拡大が進み、いまや雇用の危機が社会全体にひろがっています。その背景には新自由主義による市場万能論や『小さな政府論』にもとづいて、財政再建を最優先した諸政策が進められ、国民の生活と安心を支える公共サービスが著しく劣化してしまったことがあります。」

「雇用を守り、地域社会を支え、国民生活に安心と安全を取り戻すためには、いざというときに頼れるセーフティネットを国や自治体が責任をもって整備しなければなりません。そして、超高齢化社会への転換に当たり、誰もが生きがいのもてる社会を実現するためには、市民の参画で公共サービスを国民のニーズに応えるものに改革する必要があります。」

「そのために、わたしたちは“公共サービス基本法”のを活用することを目指して運動を進めています。」


公共サービス基本法が成立した2009年5月13日の連合事務局長談話は、「日本社会は、様々な局面で格差の拡大・固定化、将来不安の増大に直面しており公共サービスの果たすべき役割は重要になってきている」と、格差是正の手段として公共サービスを位置付けています。そして、「『基本法』の成立により、行政改革と効率化の名のもとで歳出削減が優先され、利用者の安全性の確保が失われてしまうことのないよう、公共サービスをどのように改革していくのかが今後の重要な課題となる」と、公共サービス基本法が行政改革に対する反転攻勢の根拠となる法律であるとの認識を示しました。

2009年5月13日の公共サービス基本法成立は、2002年の国際公務労連のオタワ大会の決議に始まったキャンペーンの日本国内における一つの結実といえるでしょう。

新自由主義政策が格差拡大の原因であるとの認識のもと、民営化路線の代案として公共サービスを位置付ける公共サービス基本法案に、自民党も賛成しました。政権交代が実現したのはそれから4カ月後のことです。


→格差は新自由主義者が生んだという人が多いです。

2009年に民主党は何といっていたか?

2009年6月2日の日本労働組合総連合会(連合)主催の「衆議院選挙・都議会選挙勝利6.2連合総決起集会」における挨拶の中で鳩山民主党代表は、小泉政権以降、新自由主義が吹聴されてきた結果マネーゲームがはびこり、弱肉強食の世の中になり、医療、教育、雇用等さまざまな格差が拡大したとして、政権交代による政治の転換の必要性をうったえました。

7月12日の長崎県佐世保市内における演説では、鳩山代表は「弱肉強食の間違った新自由主義の中で、金融資本主義、マネーゲームの中に入り込んでしまい、結果として、勝ち組、負け組がうまれてしまった」と、新自由主義と格差問題を結びつけて批判しています。

さらに、7月17日の神奈川県横浜市における演説で鳩山代表は、小泉政権以降推し進められてきた誤った構造改革、過度な新自由主義により国民生活は所得、雇用、医療、教育などあらゆる面で格差が拡大したとし、「今の日本を根本から変えなければならない。それには政権交代しかない」と政権交代の必要性をうったえました。

かれらがいうところの新自由主義者がいなくなれば、格差は是正されるはず。

が、では、なぜ、民主党政権下で非正規雇用が拡大しているのでしょうか?

民主党政権下の2010年の所得再分配調査報告書で、小泉政権前後では所得再分配後所得の格差は縮小していたことが明らかになっています。景気が拡大していたからでしょう。

連合も、2006年2月までは格差の原因は長期デフレにあると考えていたはず。それが真の格差の原因でしょう。正しい事実認識をしなければ問題の解決はできないでしょう。



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