日銀総裁の企業海外生産増加を基調と考えデフレの原因を企業に求める思考を学習しよう | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

日銀総裁の企業海外生産増加を基調と考えデフレの原因を企業に求める思考を学習しよう

秘書です。
今朝の読売新聞1面の企画記事「車産業は今①」に、

国内生産の8割が輸出向けのマツダは1円円高になると25億円の利益が消え、山内孝社長は、

「糸が切れる寸前だ」

と語っています。そして、トヨタの豊田章男社長は、

「石にかじりついても日本のもの作りを守る」

といっています。さらに、東大ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏教授は、

「生産性やカイゼンの力で海外に勝る日本の工場は何としても守るべきで、国は『ものづくりの現場』を支えることをはっきり打ち出すべきだ」

と語っています。

こうした考え方を日銀総裁は共有しているのでしょうか。

昨日、日本のモノづくり拠点の名古屋における白川日銀総裁の発言をみると、こうした考え方を共有していないように思います。

日銀総裁が円高、企業の海外移転、デフレについてどう考えているのか、みてみましょう。



日本経済:現状、見通し、課題── 名古屋での経済界代表者との懇談における挨拶 ──
白川方明日本銀行総裁 2011年11月28日
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko111128b1.pdf

日本経済の見通しとリスク

(白川総裁)「・・・夏場以降、今度は新たな懸念材料が出てきました。言うまでもなく、欧州情勢の緊張を背景とした海外経済の減速と急速な円高の進展です。その結果、わが国の景気の持ち直しテンポは緩やかなものになっています。さらに、タイの洪水という新たな事態も加わり、当面、わが国の景気は、そうしたマイナス材料の影響を受けるとみられます。もっとも、世界経済の牽引役を務めてきた新興国の高い成長ポテンシャルを踏まえると、適切な政策対応によりソフトランディングが図られるという条件付きではありますが、海外経済の成長率も新興国に支えられる形でいずれ再び高まっていくと考えられますまた、国内では震災復興関連の需要も徐々に顕在化していくと考えられます。このため、わが国経済は当面減速した後、緩やかな回復経路に復していくというのが現在の私共の中心的な見通しです。日本銀行が先月末に公表した見通しの数字に即して申し上げると(図表1)、実質GDP成長率は、2011 年度は+0.3%と低めの成長にとどまるものの、2012 年度は+2.2%、2013 年度も+1.5%と、プラス成長を続けていくとの見通しを示しています。」

(白川総裁)「→懸念材料は欧州と円高、そして今後の成長シナリオの前提条件は新興国が適切な政策対応をするという条件付き。円高を除けばすべて外的要因です。日銀の政策で日本経済をどうしようということはありません。成長シナリオが崩れたときの原因も、新興国の政策が適切ではなかったといえるように最初からできています。

(白川総裁)「この間、消費者物価の前年比をみると、2009 年夏に下落幅のピークを付けた後、徐々にマイナス幅が縮小し、現在はゼロ%近傍で推移しています。先行きについては、マクロ的な需給バランスの改善傾向を反映して、2013 年度にかけてゼロ%台半ばになっていくとみています。」

→物価上昇率は、2013年度にかけてゼロ%台半ばと。世界的にみれば、1%を超えなければ物価の安定とはいえません。1%をこえなければ再びマイナスになるリスクがあるからです。2013年度にもデフレ脱却宣言はできないということですね。

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(白川総裁)「このように日本経済はやや長い目でみて物価安定のもとでの持続的成長経路に復していくと考えていますが、こうした中心的な見通しには様々な不確実性があることは十分認識しています。」

→日銀は物価の安定の理解を0-2%と低くみていますから、2013年度には物価安定のもとでの持続的成長経路にのったというのでしょうか?デフレ脱却宣言ができないことこそ最大の不確実性でしょう。

(白川総裁)「最大のリスク要因は、欧州ソブリン問題、欧州の当局者が公式文書で使っている表現を借りると「ソブリン債務危機」ですが、その今後の展開とそれが国際金融資本市場や世界経済に与える影響です。「

→最大のリスク要因をまた海外におしつけています。最大のリスク要因は。デフレ脱却宣言ができない日銀の金融政策運営ではないですか?

日本銀行の金融政策運営

(白川総裁)「日本銀行では、こうした海外経済の減速や円高進行の下、先行きのわが国の景気減速やそのリスクに対する警戒を強め、8月と10 月の2度にわたって金融緩和の強化措置を講じました(図表3)。・・・」

(白川総裁)「・・・ご承知の方も多いと思いますが、日本銀行は昨年10 月に採用した「包括的な金融緩和政策」という枠組みに基づく強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3つの措置を通じて、日本経済がデフレから脱却し、できるだけ早く物価安定の下での持続的成長経路に復帰するために、中央銀行としての貢献を粘り強く続けています

→日本経済がデフレから脱却し、できるだけ早く物価安定の下での持続的成長経路に復帰する目標はいつでしょうか?日銀は責任が発生するので絶対に期限の目標は掲げません。デフレ脱却が100年先になっても責任は発生しません。期限の目標があれば、行使した政策が適切かどうかがわかります。中央銀行としての「貢献」という言葉の中に、デフレ脱却は日銀の責任ではありませんが貢献はいたします、という含意がありますね。では、デフレは誰のせいで誰が解決できるのか?日銀の解釈では企業なんですね。

(白川総裁)「只今申し上げた3つの措置のうち、第1の「包括的な金融緩和政策」に基づく強力な金融緩和ですが、日本銀行は、政策金利の誘導目標を実質ゼロ金利と言える0~0.1%とした上で、これを物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで継続すると約束しています。・・・」

→実質ゼロ金利とはゼロ金利ではありません。利子がついています。そして役員に日銀OBが天下っている短資会社で運用されることになります。ゼロ金利ならば量的緩和になりますが利子がついていると量的緩和には限界があるようですね。

(白川総裁)「この点を議論する際には、金融政策の波及経路を2段階に分けて考えることが必要です(図表6)。第1段階は、金融政策から金融環境への波及です。すなわち、企業や家計が借入を行う際の金利水準や資金の調達可能性が、どの程度緩和方向に変化しているかということです。第2段階は、金融環境から実体経済への波及経路です。すなわち、企業や家計が緩和した金融環境を活用して、投資や支出をどの程度増やしているかということです。・・・」

(白川総裁)「他方、先ほど申し上げた金融政策の効果波及の第2段階をみますと、残念ながら、極めて緩和的な金融環境にもかかわらず、民間の経済主体が投資や支出を積極的に増やしていくという動きには繋がっていません。日本銀行の、そして日本経済にとっての悩みは、正にこの点にあります

→物価が下落していますから企業家にとってみれば、名目金利は低くても、実質金利は高い。だからキャッシュでもっていたほうが得になっている。そうした状況をつくっておきながら、日銀は投資や支出をしないと嘆く!物価上昇目標が明示されれば、物価上昇期待がおこり、まず、手持ちのキャッシュが動く。左派政党が批判する企業の手持ち資金がこのときはじめて動く。そして数年後、企業は銀行からおカネを借りようになる。日銀はその前にバブルがおこるとフォワードルッキングに引き締めるから、そこまでいかない。そして企業は投資する気がないと嘆く・・・悩みを抱えて仕事をするのはよくないから、交代してはいかがですか?日銀にはやれることがあるという人と。

(白川総裁)「このような状況への対応の仕方として、日本銀行がもっと積極的に行動すれば、やがては経済活動が刺激される筈であるという考え方があり得ます。しかし、各種の金利、特に民間経済主体にとっての実際の資金調達金利をみると、わが国は先進国では最も低い水準となっていますし、足もとも緩和方向の動きが続いています。」

→物価が下落しているのは日本だけ。実質金利は高い。キャッシュでもっているほうが得で、まず、企業の手持ち資金から動く。経済が縮小する見通しの中で、投資できますか?

(白川総裁)「量的な指標という点で、中央銀行の供給する通貨であるマネタリーベースや、家計や企業が保有する通貨であるマネーストックの対名目GDP比率をみても、日本は米国やユーロ圏を大きく上回り、先進国で最大となっています(図表8)。米国はリーマン・ショック後に資金供給量を大幅に増やしましたが、日本は金融危機をより早く経験したこともあって、そうした積極的な資金供給をいち早く行っています。そのため、日本銀行の積極姿勢が目立ちにくくなっているのかもしれませんが、マネタリーベースの対名目GDP比は、米国が現在到達している水準には既に2002 年に到達し、ここ数年さらにこの水準が上がっているというのが客観的な事実です。」

→リーマンショック後の貨幣供給量の差が円高の原因でしょう?

各国のバランスシート拡大の推移

日銀のバランスシートの拡大(単位:千円)
2007年2月28日 117,694,792,897
2008年2月29日 114,247,788,328 ( 97.1%)
2009年2月28日 122,173,046,901 (103.8%)
2010年2月28日 126,767,525,950 (107.7%)
2011年2月28日 130,118,156,512 (110.6%)
(資料:日本銀行)

イングランド銀行のバランスシートの拡大(単位:百万ポンド)
2007年2月28日  39363
2008年2月29日  72001 (183.0%)
2009年2月28日  147928 (375.8%)
2010年2月28日 223084 (588.7%)
2011年2月28日 229599 (583.3%)
(資料:イングランド銀行)

FRBのバランスシートの拡大(単位:百万ドル)
2007年2月21日 873,056 
2008年2月27日  896,599 (102.7%)
2009年2月25日 1,917,927 (219.7%)
2010年2月24日 2,289,504 (262.2%) 
2011年2月23日 2,537,314 (290.6%)
(資料:FRB)

スウェーデン中央銀行(RIKSBANK)のバランスシートの拡大(単位:百万スウェーデン・クローナ)
2007年2月28日 199071
2008年2月29日 215429 (108.2%)
2009年2月28日 683974 (343.6%)
2010年2月28日 712178 (357.8%)
2011年2月28日 327563 (164.5%)
(資料:RIKSBANK)


(白川総裁)「日本銀行は現在も金融緩和を強化していますが、以上のような緩和的な金融環境を前提としますと、そうした環境を活かすための努力がより重要な課題として浮かび上がってきます。すなわち、成長力強化に向けた取り組みです。この点については、後ほど詳しく申し上げますが、その前に、この問題とも密接な関係があり、また、当地にとって特に大きな関心事項と思われる円高の影響やこれへの対応について申し上げます。」

→日本銀行の金融緩和の強化が足りないことが日本のリスクでしょう。そして、金融的現象であるデフレの原因を日本の中央銀行は企業の責任にしている。企業のみなさん!この考え方を許容されますか?

円高への対応

(白川総裁)「為替相場は2000 年代半ばにかけては大きく円安方向に振れ、その後は逆に大きく円高に振れています。現在問題となっている円高にはメリットもあればデメリットもあり、かつ両者の現れ方は局面によっても時間の経過によっても異なります。結論から申し上げますと、日本銀行は、海外経済の先行きを巡る不確実性が大きい現局面においては、円高が輸出や企業収益の減少、企業マインドの悪化などを通じ、景気の下振れ要因となる可能性には十分な注意が必要だと考えています。日本銀行が夏以降、2回にわたって金融緩和に踏み切ったのも、正にそうした判断に基づくものです。」

→日銀は円高にはメリットもあると考えていますよということですね。では円高のデメリットをどう考えているのか?日銀は、海外経済の先行きを巡る不確実性が大きい局面と判断したから金融緩和したのであって、円高の基本的方向をデメリットと考えているわけではありません、ということですね。

(白川総裁)「円高に関連して、現在、特に問題となっているのは、これにより企業の海外生産シフトが加速し、国内産業が空洞化する可能性です。日本企業による海外生産の増加という流れ自体は、基本的には、世界の成長センターが新興国に移っているという大きな構造変化のもとで、企業の成長戦略の一環として、需要の拡大している市場の近くに生産拠点を設ける動きであると理解しています。ただ、そのペースはその時々の為替相場の動向にも左右されます。皆さまもご記憶のように、2000 年代半ば過ぎにかけて大きく円安に振れ、国内生産の採算が一時的に大幅に好転した局面では、海外シフトの動きが一服して生産の国内回帰がみられました。しかし、リーマン・ショックの余波や欧州ソブリン問題が長引く中で、それらが表面化する前に比べて円高な水準が定着するにつれ、もともとグローバル市場の拡大に合わせて進められてきていた海外生産シフトへと、企業の戦略が再び戻りつつあります。」

→日銀総裁は、国内産業空洞化をどう考えているのか?ここは重要です。熟読してください。まず、基本は海外生産の増加とみていることです。そして、小泉・安倍政権期の円安でこの流れがとまり、リーマンショック後の円高でもとの海外生産増加の基調に戻ったということです。つまり、リーマンショック後の企業対応こそが正常な動きであると。

(白川総裁)「従って、この戦略過渡期においては、海外生産シフトは傾向として過去の平均的なペースに比べて速まることになります。その際、海外生産シフトがあまりに急速に進展すれば、国内で新たな雇用吸収の場を生み出すペースが追いつかなくなる可能性がありますし、長い目でみて競争力がある中核的な企業や工場までもが海外シフトしてしまった場合、あとで円高が是正されてもその国内復帰は難しくなります。これらのリスクを含めて、最近の円高が日本経済に与える影響については十分注意する必要があると考えています

→海外移転については、スピードの問題だということですね。なぜスピードが速まるのか。戦略過渡期の意味な何でしょう。それは、ずっと円高ならいいのに、小泉・安倍政権期に円安になるから、かえって、海外移転のスピードが速まるじゃないか、だから円安にしてはいけないんだ、ということでしょうか?

→日銀は雇用のことも考えているようにみえますが、基本的には海外生産増加を基調として、雇用の他への移転ができるスピードにしましょうということですね。


(白川総裁)「一方で、円高には、原燃料の輸入コストの抑制などを通じて企業や家計の対外購買力を高めるなどのメリットもあります。震災発生以降、原発の稼働停止に伴う火力発電の増加から、原油やLNG の輸入金額が拡大し貿易収支も赤字に転じていますが、円高はそうした海外への所得流出というデメリットを相殺する側面も有しています。もちろん、そうしたメリットはすべての企業や業種に一様に及ぶわけではありませんが、日本経済全体として考えた場合、そうしたメリットを活用し、新たな事業展開や産業構造の変革へとつなげていく発想も必要だと思います。残念ながら現在はそうした前向きな動きがなかなか起きてきていません。」

→デフレで経済が縮小しては前向きな動きなどでるはずもないのですが、日本銀行は企業が前向きにならないことに責任をおしつけています。そして企業が前向きになろうとすると、バブル懸念だ、インフレ懸念だといってフォワードルッキングに引き締めるわけですが。

(白川総裁)「個人や企業のレベルで考えてもそうですが、一時的な運を除けば、稼ぐ力はそれを可能にする実体的な努力なしには実現しません。変化する環境への積極的な対応が不可欠です。先ほどの海外生産シフトを例にとると、海外で可能な生産・営業活動は海外拠点の一層の拡充で対応する一方、国内では技術水準やブランド価値の高い財・サービスを中心に開発・生産体制を再構築していくことや、多様化するニーズに目を向けて国内市場も掘り起こしていくことが、収益と雇用の拡大均衡へつながる道だと思います。」

→1ドル=70円台で、自動車産業ですら努力の限界を超えているというのに、他の産業にどうしろというのでしょうか。

(白川総裁)「・・・さらに、変化への適応が成長の鍵を握りますので、活発な新陳代謝を前向きに捉える価値観を社会全体として共有していくことも重要です。」

→仕事をかえろ、転業しろ、転職しろ、ということなのでしょう。しかし、デフレのもとでどこにいけというのでしょう?

おわりに

(白川総裁)「・・・冒頭でも申し上げたとおり、当面、日本経済は輸出面を中心に厳しい局面が予想されます。日本銀行は、そうした認識をしっかり持って、強力な金融緩和を引き続き推進し、日本経済が持続的な成長経路に復する過程を支えてまいります。そのうえで、日本経済が中長期的に活力を取り戻し、デフレ傾向から明確に脱却していくためには、デフレ傾向を生みだしている根源的な原因である成長力の低下に歯止めをかける取り組みが不可欠です日本銀行としては、現在のきわめて緩和的な金融環境を存分に活かしきる様々なチャレンジがなされることを期待しています

→デフレの原因は、企業にあり、企業がチャレンジしてください、ということですね。

努力の限界を超える円高に苦しむ製造業のみなさん!製造業で働くみなさん!小泉・安倍時代の円安を否定する日銀の政策をいつまで許容され続けますか?金融的現象であるデフレの原因を企業に求める日銀をいつまで許容しますか?

円高・デフレ・増税統一戦線派は、日本に製造業拠点がなくなっても仕方ないと考え(日銀総裁も広い意味で価値観を共有しているのでしょうか?)、その後のビジョンを描きはじめています。投資収益で成りたつ国家?日本に投資収益をもどす国や人がいたとして、どうやって国民に富を還元するのでしょう?重税国家、公務員と生活保護者しかいない国?そんな国に、企業は本社を残すのでしょうか?円高・デフレ・増税統一戦線派の国づくりは、本当に責任ある考え方なのでしょうか。