大森靖子 & THE ピンクトカレフ 2014.04.18 @ 新宿ロフト


セットリスト:

1.デートはやめよう
2.あまい
3.Over The Party
4.背中のジッパー
5.絶対彼女
6.新宿
7.ミッドナイト清純異性交遊
8.最終公演
9.あたし天使の堪忍袋
10.歌謡曲

en-1.hayatochiri
en-2.Wonderful World End(ワンダフルワールドエンド)


※en-2.の曲名につきバンドのメンバーにお尋ねしましたところ、曲名表記は英語、カタカナ、どちらでも良いとのことでした。ご教示ありがとうございました。なおこの曲はこの文章の執筆時点では公式音源が存在しません。


ステージ前、観客の視線を遮るスクリーンに「SHINJUKU LOFT 15TH ANNIVERSARY ~乙女八十八夜~」と映し出されています。客席下手にカメラを構えたニノミヤさんが足台を持って登場、撮影の準備中。
スクリーンの隙間から赤いカットソーがのぞきます。大森さんかな。SEはツェッペリンのDancing Daysやボウイ(デヴィッドのほうね。暴威じゃないよ)など。考えてみれば高野さんの入ったピンクトカレフを見るのは初めてです。

ほぼ定時に客電が落ち、ドラムスを頭にメンバー登場。赤の半袖カットソーワンピースはやはり大森さん。頭の両脇に細い編みこみ。ほかのメンバーは上半身黒のシャツで揃えています。舞台奥のドラムス川畑さんはさらに黒のダービーハット。下手いっぱいに立つギター高野さんは目の周りを黒くしていておとぼけビ~バ~のギターさんのよう。薄めのブルーメタリックのストラトキャスター。その上手に位置するベース大内さんは右目に仮面ライダーのメイク(大内さんご教示ありがとうございました)、楽器はインカシルバーのカラー。上手いっぱいのギター小森さんはメイクなし、ギターは壊れかけのテープレコーダーズでも見慣れたSG。
大森さんのアコースティックギターから一曲目「デートはやめよう」。客席後ろの一段高いところから見ていたのですが観客に遮られて大森さんの抱えた楽器が見えにくいのですがギブソンのハミングバードですね。以前ステージで壊したものを修理したのでしょう。曲途中からハンドマイクになります。観客にも歌わせる大森さん、声の伸びが素晴らしい。ステージに立つことを楽しんでいる様子がはっきり伝わってきます。そんな大森さんの勢いに乗せられ、あっという間に大森さんと共犯関係になる観客たち。
切れ目なしに二曲目「あまい」、大森さんがひとふし歌ったところでバンドが入ります。赤いライト。観客に裏ピースサインをする大森さん。静かにドライブ、というよりグルーヴするTHE ピンクトカレフ。故・佐久間正英氏の著作に触れてからグルーヴという言葉を使うことに慎重になっていたのですが今日はなんのためらいもなく用いてしまいます。
二人のギターのコンビネーションがとてもよい。高野さんのトレモロはとげしさを感じさせません。小森さんのロング・サスティーンはロバート・フリップのよう。大森さんのアコースティックと合わせると三人もギターがいるわけなのですが必然性を感じさせる三本のギターアンサンブル。

高野さんのディストーションをかけたコード弾き、大森さんがハンドマイクになって三曲目「Over The Party」、頭を振るベース大内さん。体をひねったり沈めたりの高野さん。「進化する豚」と書かれた紙を示してひとりで歌った後その紙を切り裂いたかと思うとダイブする大森さん、ステージの前をしばらく運ばれたかと思うとステージに戻ります。いま触れられるアイドル・大森靖子。進化する豚、と観客に歌わせます。
大森さんとTHE ピンクトカレフは歌い手とバックバンドという関係ではありません。両者は一体となっています。エンディングでギターを持つ大森さん。

ドラムスから四曲目「背中のジッパー」、フロントのメンバーがジャンプ。この曲でも大森さんとTHE ピンクトカレフが切り離せない一つながりであることを強く感じます。髪をかきむしる大森さん、前へ出てソロを取る小森さん、観客が応えます。曲がスローダウンし大森さんと小森さんのツインボーカルに。ギターを外す大森さん、観客に背を向けたりくるくる回ったり。

五曲目「絶対彼女」、スタンドマイク。寒色系の照明。大森さんは観客を指さすパントマイムのような仕草。静かに着実にドライブするバンド。小森さんのカッティング、滑らかな高野さんのフレーズ。大森さんのカットソーの左肩が落ちてアンダーウエアのショルダー・ストラップが覗きますがカットソーをすばやく引き上げるのがパブリックイメージとは異なるような印象がありながらかえって大森さんらしい。大森さんのアクションはギターのフレーズを手の動きで表しているようにも、エア・ハーモニカのようにも見えます。

「こんばんは、大森靖子 & THE ピンクトカレフです…ここはわたしの街、新宿」、マイクを指先で触れてからキーボードに向かい六曲目「新宿」、やがてハンドマイクになります。
左手の甲に貼ってあったバンドパスを剥がし、観客に渡します。いくつもの手が伸びてきます。その手に触れる大森さん。歌詞に合わせて観客を指さし、指でハートを形づくって。新しき歌舞伎町の女王の誕生。伸びの良い裏声。

両手を挙げて挨拶「ありがとうございます。大森です。…三回くらい…イッちゃったんじゃないかな」
観客「イカせてくれよ!」
大森さん「ありがとう。…『ミッドナイト清純異性交遊』」
七曲目「ミッドナイト清純異性交遊」、観客が曲に合わせて飛び上がるのがアイドルのライブみたいですね…アイドルか。観客にハンドクラップを求める大森さん。一人のスーツ姿の観客が周囲の観客に抱え上げられ、一輪の赤い花…バラかな…を大森さんに渡します。花をおおったセロファンを破り、花を食べる大森さん。ラストでハミングバードを手に。

メンバー全員で短いチューニングタイム。
「わたし野菜食えないからメッチャまずかったんだけど」
アコースティックギターのイントロ、高野さんのトレモロ、八曲目「最終公演」、曲のキメで小森さんが大森さんを指さします。ミラーボール。サウンドにとても気を使っているバンドだなという思いが頭に浮かびますが、今日のライブに関して言うならロフトのサウンドと照明担当の腕がステージの素晴らしさを倍加しています。

アコースティックギターの重いカッティング。イントロだけで曲名がわかります。赤いライト。九曲目「あたし天使の堪忍袋」。歌詞に合わせて朝日のように明るくなったかと思うとふたたび暗くなる照明。カービィを振り回す高野さん。以前は「ご一緒に」と促されていたところ、今日は自然発生的に「あーあーあー」と歌いだす観客たち。「ギター!」で小森さんのソロ、小森さんは上手のモニター前に出てプレイ。エレキギター二人のキメ。「ありがとう!」

キーボードにつき十曲目「歌謡曲」、キーボードの弾き語りのように始まります。やがてバンドが加わります。大内さんと川畑さん、目立ちませんがとても良いリズム隊ですね。白主体の照明。小森さんが伸びのある音でソロを取ります。ソロと言い照明と言い、歌詞になぞらえてか朝のよう。曲と見事に呼応する照明が素晴らしい。
高野さんと小森さんのギターバトル、ボレロのリズム、キーボードを抱え上げる大森さん。ほかのフロント三人も楽器を振り回します。「ありがとうございました!」

メンバー退出後も鳴り止まぬ拍手。まず大森さん登場「ありがとうございます…まだガンガン行けますかー?」
観客「ヌイてくれー!」
大森さん「きたねえな…アイドルのイベントだろ…最初に言ったの、あたしか」
アコースティックギターのイントロ、アンコール一曲目「hayatochiri」、赤いライト。小森さんと高野さんのツインギター。
この曲の歌詞は、たとえ身はメジャーに行こうとも気持ちの上では常にストリートと繋がっていたい、繋がっていようという大森さんの決意表明のように思えます。かつて高円寺の、あるいはどこかよその、狭い狭いライブハウスで、あるいは路上で、大森さんの歌声に惹きつけられた観客との間に無言の裡に交わされていたひそやかな約束がここに示されているのでしょうか。今日ロフトに居たかもしれないそんな観客に、大森さんの気持ちは間違いなく伝わったことでしょう。高野さんのシーケンサー的なフレーズで曲終わり。

ドラムスからアンコール二曲目「Wonderful World End(ワンダフルワールドエンド)」、曲名表記は英語でもカタカナでもどちらでも良いそうです。未音源化の曲。逸脱を恥じ入る誰かを救おうとする歌詞でしょうか。「クソだ!」叫ぶ大森さん。痙攣する高野さん、吠える大森さん。楽器を外して倒れこむ高野さん。叫び続ける大森さん。アコースティックギターのみで観客との合唱。かきむしるような大森さんんのギターで終わり。

「ありがとうございました!」、大森さんの投げたのはピックかな?高野さんもウニを投げます、カービィも投げそうなそぶりを見せますがこちらは投げません。セットリストを観客に渡す高野さんと小森さん。
大森さん「ありがとうございました!」、観客にあげる物がもうないことを指してか「ロフトの機材ならいっぱいある…」

アンコールを含みおよそ50分余りに及ぶ大森靖子 & THE ピンクトカレフのステージでした。素晴らしかった。