【解説】消費者契約法の一部改正について/過量な内容の契約の取消・重要事項の範囲拡大 | なか2656のブログ

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一.消費者契約法の一部を改正する法律が成立
2016年5月25日、消費者契約法の一部を改正する法律が成立しました。この改正は2017年6月3日より施行予定です。

今回の法改正の大まかな柱は、契約の取消しの部分に関して、①重要事項の範囲の拡大②過量な内容の契約の取消し、契約条項の無効の部分に関して、①無効となる条項の追加・新設②一般条項である法10条に例示を追加、などです。

・第190回国会(常会)提出法案|消費者庁サイト

・概要|消費者庁サイト

・新旧対照表|消費者庁サイト



二.契約の取消しについて
1.不実告知の対象となる「重要事実」の範囲の拡大(法4条5項関係)
消費者契約法は、事業者から契約に関する重要事実の不実告知などにより、契約内容を誤認などした場合には、当該契約を取消しすることができるとしています(法4条)。

今回の一部改正では、事業者の不実告知があった場合において、消費者がその意思表示を取消すことができる対象である「重要事実」として、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該契約者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危機を回避するために通常必要であると判断される事情」が追加されました(法4条5項3号)。

この追加された重要事項の具体例はつぎのようなものです。

・タイヤの勧誘において、真実に反して「溝が大きくすり減って、このまま走ると危ない」と告げた場合。

・ウイルス駆除ソフトの勧誘において、真実に反して「パソコンがウイルスに感染しており、情報がインターネット上に流出するおそれがある」と告げた場合。

・化粧品の勧誘において、真実に反して「このままだと2、3年後には必ず肌がぼろぼろになる」と告げた場合。

(第190回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会議事録第5号(平成28年4月28日)の政府側の答弁より)

・第190回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会議事録第5号(平成28年4月28日)|衆議院サイト

また、今回の法改正で追加された重要事項は、損害を回避するためのものですが、この損害は積極的な損害だけでなく、消極的な損害(逸失利益)を生じさせないために契約の目的となる物が通常必要と判断される事情をも含むとされています。

(例えば、実際には売却可能性がない山林の所有者に対して、今なら売却が可能であると不実の事実を伝え、測量や広告掲載などの契約を勧誘するような行為。)(松田知丈「消費者契約に関するトラブルの傾向と対策」『Business Law Journal』101号30頁)。

2.過量な内容の契約の取消しの新設(法4条関係)
今回の法改正で、当該消費者にとって著しく過度な量の契約であることを知りながら事業者が勧誘をすることが、新たな契約の取消事由として新設されました(法4条4項)。

消費者庁が法案段階で示した具体例は、認知症の高齢で判断能力の低下した女性に対して事業者が着物や宝石などを不必要なまでに、老後の生活に充てるべき資産のほとんどを使ってしまうほど購入させたような場合を挙げています。

そして、この過量契約は、①過量販売契約(法4条4項前段)②次々販売契約(法4条4項後段)、の2つの類型に分かれます。

①過量販売契約(法4条4項前段)は、当該消費者の事情に基づいて1回の契約で「当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超える」か否かを判断します。

②次々販売契約(法4条4項後段)は、同種の契約を複数回繰り返すもので、当該消費者の事情に基づいて過去の同種契約を含めて「当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超える」か否かを判断します。

この過量契約の取消しの条項が新設されたことにより、今後、消費者の生活の状況や過去の販売履歴を把握し、勧誘に利用している事業者などは、過量契約として取消しがなされる可能性があります(松田・前掲33頁)。

たとえばインターネット上のショッピングサイトは、消費者の過去の購入履歴に基づいて、消費者におすすめの商品を表示し勧誘を行う仕組みを活用しています。

今後、消費者庁から逐条解説やパンフレット等により、より具体的な説明がなされることとなっており、関係する事業者は注意が必要です。

3.取消権の行使期間の延長(法7条関係)
従来の消費者契約法の規定による取消権は、追認をすることができる時から6か月間行わなければ時効によって消滅するとされていました。この点、今回の法改正は、この期間を1年間に延長しました。

4.取消権を行使した消費者の返還義務の規定の明確化(法6条の2関係)
従来、消費者が消費者契約法に基づき取消権を行使すると、その効果として、民法の一般原則に従い、消費者は不当利得の返還義務(民法703条)を負うにとどまるとされてきました。(一方、事業者は受領した金銭を返還する。)(消費者庁消費者制度課『逐条解説 消費者契約法[第2版補訂版]』126頁)

ところが、こちらは未だ改正法案が国会で継続審議中の民法の改正民法第121条の2第1項に「無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う」との規定を新設してしまったため、この改正民法121条の2第1項があっても、消費者契約法は従来どおりの不当利得のスタンスを消費者契約法の取消しがとることを明らかにするために、この消費者契約法6条の2が新設されることとなったものです。

三.契約条項の無効について
1.消費者の解除権を放棄させる条項の無効の規定の新設(法8条の2)
消費者契約法は、契約書の契約条項・約款条項などで消費者の利益を不当に害するものは無効とします(法8条-10条)。

この点、今回の法改正は、①事業者の債務不履行があった場合に消費者の解除権を放棄させる条項②有償契約であって契約の目的物に隠れた瑕疵があった場合に消費者の解除権を放棄させる条項、の2点の解除に関する条項を無効の事由に追加しました(法8条の2第1号、2号)。

2.法10条に例示を追加(法10条関連)
法10条は、“消費者の利益を一方的に害する条項は無効”という一般条項(バスケット条項)です。

今回の法改正は、この一般条項に、具体例として、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をしたものとみなす条項」を規定しました。

3.法10条等から「民法の規定による」の文言の削除などの規定の整備(法10条など)
上の2.に関連する点ですが、法10条に関連し、敷金の賃貸借契約に関する最高裁判決が出されました(最高裁平成23年7月15日)。

そしてこの最高裁判決が、「消費者契約法10条…にいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれる」と判示しました。

そこで、法10条に「民法の規定による」という文言があることによって、法律の適用・解釈がせばめられないように、この「民法の規定による」の文言が今回削除されることになったものです。

四.消費者団体訴訟制度(差止請求)の規定の整備(法12条以下)
消費者契約法12条以下は、適格消費者団体が、事業者等が不特定多数の消費者に法4条に反する行為をした場合等は、当該事業者に対して差止請求をすることができるという制度を置いています。

そして、今回の法改正で、重要事項の範囲の拡大や、過量な内容の契約の取消しなどの規定が追加されたため、それに対応した規定の整備が法12条以下でも行われています。

■参考文献
・消費者庁消費者制度課『逐条解説 消費者契約法[第2版補訂版]』126頁
・松田知丈「消費者契約に関するトラブルの傾向と対策」『Business Law Journal』101号(2016年8月号)30頁
・磯村保「消費者契約である建物賃貸契約における更新料特約の効力」『平成23年度重要判例解説』66頁
・山本健司「消費者契約法」『ビジネス法務』2016年4月号60頁


逐条解説 消費者契約法〔第2版補訂版〕 (逐条解説シリーズ)



Business Law Journal(ビジネス ロー ジャーナル) 2016年 08 月号 [雑誌]



ビジネス法務 2016年 04 月号 [雑誌]





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