カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の行動規範とコンプライアンス #公設ツタヤ問題 | なか2656のブログ

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本日(10月20日)、武雄市、海老名市などで問題となっているツタヤ図書館に関連して、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下「CCC」という)をアドバイザーとして市立の新図書館の建設計画を進めることが10月4日の住民投票で否決された愛知県小牧市は、CCCとのアドバイザリー契約を解消することを発表したそうです。

・「ツタヤ図書館」を白紙撤回 愛知・小牧、住民反対多数|朝日新聞

・市議会への協力要請について(平成27年10月20日)(PDF)|小牧市サイト

・新小牧市立図書館 アドバイザリー業務委託契約について|CCC


(小牧市の新図書館のイメージ図)

2013年に佐賀県武雄市がCCCを地方自治法に基づく指定管理者に指定し、市立図書館の運営を任せることとし、CCCにより公立図書館が図書館ではなくスタバのある本屋となってしまった、いわゆるツタヤ図書館の問題は、海老名市、小牧市などに波及しましたが、これで少しはまともな方向に向いてゆくのだろうかと思います。

ツタヤ図書館については、貴重な郷土資料を大量に廃棄してしまった問題、不当な選書の問題、ネットで「海老名分類」などと揶揄される独善的で意味不明な図書の分類の問題等など、CCCの違法・不当な行為のオンパレードとなっています。

このようななか、ネットをみていたところ、「CCCのサイト上にはコンプライアンスに関する記載がまったくない」との指摘があり、試しに見てみたところ、本当に、すがすがしいまでにありませんでした。

たしかに、CCCの経営理念・行動規範のページをみても、法令遵守に関する事柄がまったく記載されていません。

・CCCの理念|CCCサイト

【CCCの行動規範】

(CCCサイトの「CCCの理念」ページより)

CCCの行動規範をみると、これは企業組織の行動規範のレベルに達していません。行動規範というよりは、社長の訓示集、あるいは「今月の目標は対前年度○%必達!」といった感じのスローガンの類です。

あるいは、居酒屋で新米サラリーマンをパワハラぎみにお説教しているおじいさんサラリーマンの酔っ払ったお説教のレベルです。

6条の「その場で決断」、9条の「勇気、勇気、勇気」、同じく9条の「失敗を恐れない」等、会社経営のアクセルを踏むフレーズばかりです。

まともな企業であれば、行動規範のなかに、「法令遵守」の条文を用意します。また、同時に、「個人情報・顧客情報を守る」、「企業市民として企業の社会的責任(CSR)を果たす」等の条文も規定します。

CCCの行動規範は法令遵守の条文がないどころか、2条で「顧客の言うことを聞くな、顧客のためになることをなせ。」ととんでもないことを規定し、そのうえで3条で、「顧客に「ありがとう」と言われる仕事をする。」と規定します。

お客さまや市民の要望を聞かず、法律も無視し、CCCが勝手に思うところの「顧客のため」になることを為して、そのうえで、お客さま・市民に「ありがとう」と言うことを強要させるとは、ツタヤ図書館で、CCCが独善的に図書を分類し、その理由として「顧客の発見性を重視している」と親切顔をして市民・利用者からの「ありがとう」を要求するCCCの行動にぴったりとあてはまります。

この2条、3条は消費者契約法4条が「困惑」類型として禁止する、いわゆる「押し売り」のニュアンスすら感じられます。

(なお、現在、政府は消費者契約法改正のために専門委員会による審議を行っており、本年8月に「中間取りまとめ」が発表されました。そのなかでは、この「困惑」類型も規制される行為がより拡大される予定となっています。)

また、CCC行動規範の1条に、「顧客を一番知っている人間になる」とあり、7条に「現場・現物・現実の情報を組み合わせる」とあるのも非常に怖いなと思います。

このあたりは、Tポイントを使って、個人情報保護法や、国民・市民のプライバシー権を無視して、提携しているあらゆる業界・業種の事業者の顧客の個人情報を根こそぎ収集し、マーケティングに利用し、第三者提供しているCCCの本音がよくでていると思います。

ツタヤ図書館においても、CCCは図書館の利用カードにTポイントをつけています。図書の貸出履歴などの、個人の思想・信条を推認できるセンシティブな個人情報が、CCCに渡ってしまっている危険性が指摘されています。

しかし、改めて、9条の、「企画、企画、企画。勇気、勇気、勇気。失敗を恐れない、その先に成長がある」、そして10条の、「出を制して、入るを図る」をみると、イケイケどんどん系の、脳みそ筋肉主義の会社なんだなあと改めて思います。

もともと、どの会社でも営業部門・販売部門・企画部門の部署の社内における力は強いものです。

それをここまで企画部門・販売部門を持ち上げ「失敗を恐れない」とまでお墨付きを与え、チャレンジ精神先取の精神を煽っては、社内で企画部門・販売部門や経営陣に意見を言える部署は存在しないでしょう。

CCCの社内にそもそも法務部コンプライアンス部総務部などがあるかどうかすら疑問ですし、もし法務部などがあったとしても、企画部門や経営陣がその意見をまともに聞く社風とはとても思えません。

なお、CCCは楽天が代表理事を務める経済団体の「新経済連盟」に所属しています。

同じ経済団体でも、経団連などは、コンプライアンスなどに関して「企業行動憲章」を制定し、会員の個々の企業に対して、それに準拠した行動規範を制定するよう促しています。

・企業行動憲章|経団連サイト

しかし、新経済連盟はそのようなものは制定していません。政府・与党に対して様々な分野での規制緩和を要求する文書を作成することには熱心ですが、自分達のコンプライアンスには関心がないようです。

このようなCCC(あるいは新経済連盟)の、”法令遵守やモラルなんかどうでもいい、自社の利益のためにガンガン行こうぜ”という姿勢をみていて連想するのは、一昔前であればライブドアのホリエモン氏、最近ですと、ワタミ、たかの友梨ビューティクリニック、そして、昨年の2014年3月頃に全国の大量の店舗が一斉にイレギュラーな閉店状態となり、社会問題となった、ブラック企業のゼンショーホールディングすき家です。

同社は同年7月に弁護士・公認会計士らで構成された第三者委員会による調査報告書を発表しました。

・第三者委員会調査報告書(PDF)|ゼンショーホールディング

同報告書は、すき家の問題を、1.慢性的な人手不足という労務問題が危機的状況にあったにもかかわらずそれを理解する幹経営部がいなかったという問題、2.重大な労務問題を是正する仕組みがなかったという企業統治上の問題、3.経営幹部の意識・行動パターンの問題の3つに分類して分析していました。

同報告書では、ある取締役への一問一答の部分で、「我々には違法という知識が足りず、正そうという意識も足りなかった」という取締役の回答が記載されています。

自分達が行っている行為が適法なのか違法なのかという知識が足りず、正そうという意識も足りないというのは、すき家だけでなく、ツタヤ図書館のCCCの経営幹部や、企業組織のあり方にもそのまま当てはまります。

また、CCCは行動規範で常に全社をあげて「勇気、勇気、勇気」とアクセルを全開で踏む方向性を強調しています。

むろん、営利企業が利益をあげて市場社会で生き残ってゆくにはアクセルは当然必要ですが、自分達の経営・業務が正しいのかと立ち止まって考えたり、間違っていたらブレーキを踏む必要があります。

この、立ち止まって考えたり、ブレーキを踏むという行為が、CCCには致命的に欠落しています。

これは常にアクセルを踏み続けるべきだ・しなければならないという経営幹部の意識・行動パターンの問題でしょう。

このように、すき家に関する第三者委員会の調査報告書の分析に照らしても、CCCは、経営方針や行動規範などを改めない限り、現在も既にツタヤ図書館が「炎上」していますが、今後、さらに大やけどをすることになるでしょう。

なお、すき家の第三者委員会の調査報告書は、企業の経営理念とコンプライアンスとの関係について、つぎのように、わかりやすく述べています。

「当委員会はすき家の「24 時間、365 日営業」との経営理念の当否を論ずる立場にはない。」

「しかし、これを実行するには、法令遵守が不可欠の前提となる。すき家は「企業市民」として、法令を遵守した上で「24 時間、365 日営業」の実現を目指さなければならない。これが現在の社会常識であり、企業に対する社会的要請である。」

「にもかかわらず、経営幹部は「24 時間、365 日営業」を金科玉条にした思考停止に陥り、法令を軽視した結果、重大リスクを招くことになった。」

「コンプライアンスは、法令遵守を含むがそれに限定されず、社員を尊重することを通じて企業が社会的責任を果たすための概念である。コンプライアンスは企業経営の「前提条件」である。しかし、経営幹部にはそのような意識はなく、「24 時間、365 日営業」を絶対的価値としていた。」(ゼンショー・すき家の第三者委員会調査報告書34頁)

この調査報告書が指摘するとおり、コンプライアンスとは、一般に、「法令の文言のみならず、その背景にある精神まで遵守・実践していく活動」と定義されます。つまり法令遵守だけでなく企業倫理の遵守も含む概念です(高巌『コンプライアンスの知識』38頁)。

また、コンプライアンスを怠り、不祥事が発生した場合、取締役は会社法上、損害賠償責任を負うことになり、また、企業が行政処分や刑事罰を受けるだけでなく、顧客からの不買運動、取引先、株主、銀行等からの信頼喪失など、企業の存亡にかかわるリスクに直面することとなります。

一方、コンプライアンスに真摯に取り組む企業はブランド価値が高まるだけでなく、人材が集まり、役職員の士気もより高まり、企業の競争力はより高まります(高巌『コンプライアンスの知識』63頁、65頁、70頁、77頁)。

CCCが、「「カルチュア・インフラ」をつくっていくカンパニー」を企業ブランドとし、「世界一の企画会社」をビジョンに掲げ、事業として「生活提案」を行うとしても、まずはその前提条件として、企業市民としてコンプライアンス経営を行い、また、ステークホルダーの声に耳を傾け、さらに、企業市民としての各種の社会的責任(CSR)を果たす必要があります。

■関連するブログ記事
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・Tサイト(CCC)から来た「アンケート」のメールが個人情報的にすごかった/利用目的の特定

・牛丼の「すき家」に第三者委員会が調査報告書を提出


コンプライアンスの知識<第2版>(日経文庫)



倫理・コンプライアンスとCSR



企業法とコンプライアンス―“法令遵守”から“社会的要請への適応”へ



企業法務の教科書: ビジネスパーソンのための (文春新書 862)



図書館と法―図書館の諸問題への法的アプローチ (JLA図書館実践シリーズ 12)



公務の民間化と公務労働 (自治と分権ライブラリー)





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