嵐が吹いている。風の音が夜の唸りをあげ、夜の静寂は吹き飛ばし、一晩中暴れている。七部咲き、八部咲きのさくらはきっと朝には残ってないだろうと思えるほど、嵐が吹いている。春の嵐の生温るさではなく、冷たい風が吹きまくっている。明日は花見と思っている人には気の毒な嵐が吹きまくっている。


春の嵐が吹いている。昨日ならエイプリルフールで嵐が吹くのかと、的外れな事を考えたかもしれないが、4月2日の日付になって吹き始めたと、妙に納得して嵐に舞うさくら吹雪を想像するが、さくら吹雪が、頭の中で映像になることはなく、子供たちの喚き声にも聞こえる嵐の音が頭の中に響き渡っている。


 春の嵐が吹いている。唸るような送電線のたてる金属音が神経を震わせる。嵐のリズムは荒々しく、一瞬の静寂も認めはしない。何時かは消えると思い、何時まで続くかと思い、七、八部咲きのさくらの映像を思い浮かべるのに必死になるが、怒りとも思える嵐の音だけがは頭の中でも吹き荒れているだけだ。


 明けやらぬ4月2日夜明け前、新聞配達のバイクの音が嵐の中へ微かな抵抗の意思を示している。花見の予定を嘲笑うように、嵐は吹きまくり、七、八部咲きのさくらは花吹雪と変わっているだろうと想像はつくが、さくら舞い飛ぶ映像は浮ばず、春の嵐の気まぐれも困ったものだと、嵐よ静まれと呟いている。