広く浅くは性に合わない。「万人と適当につきあうより、ただひとつでも絶対の友愛を築けた人生こそ、価値がある」

そう信じる藤原行成が、唯一価値ある存在として心にきめていたのが、年上の女性・清少納言でした。


そんなわけで、この男、ほかの女房たちからは評判はよろしくありませんでした。

当時は女房たちの評判も出世にかかわりましたし、彼女たちの推挙により役が決まることもありました。心配して、ほかの女房とも仲良くしないと……と忠告した清少納言への返答が上の台詞です。


今回の「少納言と行成」のお話は、『枕草子』でけっこうカバーできます。

実際、ほかの女房たちが行成を「ただ言ひにくみ、見苦しき事になむ、つくろはず言ふ」(ひたすら悪く言ってにくらしがり、見苦しいことだと容赦なく言っている)<職の御曹司の立蔀のもとにての段>とあります。中宮定子への取次ぎも、清少納言以外の女房には頼まなかったことがはっきり記されています<同段>。ほかの女房とも仲良くしなよ→イヤです、の応答らしきものも同時に描かれていますよ。 「わが心の本性」とのみのたまひつつ、「改まざる物は心なり」とのたまへば……


漫画・アニメでも、行成が打ち解けて顔を見せてくれない清少納言の扇をさっとつかむシーンがありドキッとしますが、やはり同じ段に、顔を見せて、いーえ見せられないわ、という応酬が書いてあります(あと、起き抜け顔覗き見の一件も)。百人一首にも載る「夜をこめて…」 の歌に関するやりとり(これも『枕草子』<頭の弁の職に参り給ひての段にあり。行成をしめす「頭の弁」とは蔵人頭のうち弁官を兼ねる者の呼称>もそうですが、友情の中に男女のときめきがちらりとほの見えます。チラリズム音譜


仕事の能力はあるけれど、プライベートでは不器用、で一途。

「三蹟」とうたわれた名筆家・藤原行成ですが、こんなふうに息遣いを感じるように、魅力的に描かれています。

私としては、行成というと、「能吏」のイメージが強いのですが、それはまた次回に……


次回は「名古曽の滝 大納言公任」らしいですので。おお、公任回があるとは!(漫画の公任、なかなかカワイイラブラブ←趣味ワルイ?)と驚いたけど、考えてみたらこれも行成×清少納言回だわ、なので。