歴史小説家・永井路子さんの<平安朝三部作>をご紹介します。

いずれも再読(特に古い『この世をば』は何度目かな?)ですが、今回はじめて、ぶっ通しで三作品を読み通しました!


永井さんというと、直木賞受賞作品『炎環』やとりわけ女性の一代記『北条政子』など、中世のイメージも濃いのですが、私が最も影響を受けた作品のひとつ『美貌の女帝 』や女流文学賞受賞作品『氷輪』など、古代史にも力作が多くあります。


<平安朝三部作>とは、以下の作品をさしていいます(発表順、「全集」は『永井路子歴史小説全集』中央公論社)。

 .『この世をば』…発表年:1982~83年 ☆全集5巻・95年 ○単行本84年(新潮社) ◎文庫86年(同)

 .『王朝序曲 誰か言う「千家花ならぬはなし」と』…発表年:1991~92年 ☆全集4巻・94年 ○単行本93年(角川書店) ◎文庫97年(同)
 .『望みしは何ぞ 王朝-優雅なる野望』…発表年:1992~94年 ☆全集6巻・95年 ○単行本96年(中央公論社) ◎文庫99年(同)




これらに通底するテーマは「政治」です。いや、政治ではない、「政争」のように思います。

平安朝・平安時代というと、十二単だとか和歌だとか貴族たちの恋の駆け引きだとか、優雅なイメージがあるかと思います。この<三部作>によって、その軟弱なイメージは突き崩されます。確かに公的な死刑のない時代でした(水面下で私刑などはあったようですが)。奈良時代以前のように権力争いで人が死んだりだとかもありません。しかし、もしかするとそれ以上に冷酷な政治上のバトルがあったのです。どんなに惨めになっても、そこからは降りられないのですから。


三作品を時代順にならべると、2→1→3の順となります。


2の主役は平安初期の人物・藤原冬嗣、1の主役は超有名人・摂関政治全盛期の藤原道長、3の主役は道長の息子のひとり・藤原能信。


これらの作品の主眼については、三作品の最後に書き上がった3のあとがき「史料のことなど」に、永井さん自身によることばがあります。

時代順に、2では「真の意味での平安朝は、桓武天皇の平安遷都からではなく、嵯峨天皇の藤原冬嗣から始まることを」、1では「栄華を極めた横暴な権力者と見られている藤原道長の素顔を」、そして3では「摂関家内部にも激しい対立があり、中で屈折の思いを持つ能信に視点をあてて、院政に傾斜する時代を」書いた、とされています。



次回からは、各作品を具体的にながめたいと思います。

 クリップ永井路子<平安朝三部作>中編

 クリップ永井路子<平安朝三部作>後編