上半身に力みが入っている突きは効かない。下半身を意識した身体操作が質を変える | 中山隆嗣の「活殺自在」

中山隆嗣の「活殺自在」

武道と癒しを中心に、生き方、日々のことを綴ります。

 昨日の稽古の話です。


 とは言っても、全員で一緒に行なった稽古のことではなく、その前に個別に身体を動かしていた人のことに関係する話です。


 スタート前は、各自で思い思いの動きをし、稽古に備えます。準備運動・ストレッチなどが主ですが、そういうことを早々に済ませた人の場合、自身がレベルアップしたい技について一人稽古を行なう、というのが通常の稽古前風景です。


 この日も通常通りのパターンでしたが、当日の稽古はそういう様子を見てメニューを考えることがあります。もちろん、それに対して個別のアドバイスで終わることもありますが、この日の場合はそのパターンでした。


 その様子を見ていた別の道場生にも同じようなことをアドバイスし、実際にビフォー・アフターについてその違いを体験してもらいましたが、本来の稽古の前の出来事です。


 その時の様子をきちんと理解してもらうため、少しその背景をお話ししますと、稽古生は外国人で100キロくらいの体格です。直真塾で最も大柄で、パワーもあります。本国では警察官だったこともあり、戦うセンスは抜群です。


巻わら稽古















 さて、その時やっていた稽古ですが、実際にも異なるものの、その目的に近いイラストをアップしました。


 ご覧の通り、巻き藁を用いた稽古ですが、残念ながら直真塾にはその設備はありません


 しかし、拳の鍛錬法として「拳立て(けんたて)」を推奨し、こういう稽古は各自でやってもらっています。


 ですから、上のイラストは巻き藁稽古をやっていたからということではなくイメージとしてアップし、道場生がやっていたのはその稽古の効果の一部を得ようという意図で行なっていた、と理解してください。


 分かりにくいと思いますので具体的にお話ししますが、一般に巻き藁稽古というのはイラストにあるように「正拳(せいけん)」や「手刀(しゅとう)」、その他、武技として使用する部位の鍛錬のために行なわれます。その対象は手そのものになりますが、他にも鍛錬できることがあります


 それは当たった時に生じる反作用に対して、全身でどう受け止め、武技の質をより高めることができるか、ということです。


 物理学の初歩的な概念ですが、ものに対して何かしらのパワーをかけた時、それと同じパワーで押し返されることになります。


 これが反作用ですが、それに抗しきれず姿勢を崩したりした時には、自身が武技として伝えた威力が激減し、およそ武術の技という内容にはならなくなります


 武技が武技であるためには、パワーを伝える意識だけでなく、そこに生じる反作用までしっかりと支え、逆にそのパワーすらももう一度相手に伝えるくらいのイメージで行なう必要があります。


 そしてその実践のためには、全身のフォームをきちんと見直し、前述の目的を果たす為に必要なポイントがきちんと意識されているか、そして武術体としてそれが担保されているか、ということを確認しなければなりません。


 その時の身体意識の一つが身体の中心軸であり、腰や下半身の意識なのです。


 こういうことの養成には、前述の巻き藁稽古もありますが、例えば壁を押す、という方法もあります。


 この日、今日のテーマになった道場生がやっていたことがまさにそれですが、そこでは最初に挙げた様子とちょっと違いました。


中段順突き  冒頭のイラストの場合、「逆突き(ぎゃくづき)」で行なっていますが、今回は「順突き(じゅんづき)」だったのです。


 その違いによって生じる身体意識の相違に注目しなければなりませんが、それによって生じた問題点が気になったのです。


 具体的にお話ししましょう。


 「逆突き」の場合、しっかり武技として効かせようとすれば、腰の使い方を意識することになりますが、「順突き」の場合、しっかり腰を切ってパワーを出そうという感じにはなりにくいものです。


 ではどういう意識になるかですが、体重を活用し、「正拳」に自重を乗せるようなイメージで突くことになります。もちろん、「逆突き」の場合も体重を意識することは必要ですが、腰を切るという身体操作もありますし、実際の身体操作としては「順突き」ほどの感じにはならないでしょう。上級者になれば、身体操作の意識も違ってきますので、その活用法にも違いが出てくるでしょうが、今回はそこまでは至っていません。


 だからこそ、この時点でのアドバイスを行なったわけですが、この時は変な体重の掛け方になっており、上肢や上半身に力みが生じていました。腕力的な優位性がある人に見られがちな傾向ですが、一見して腰や下半身の意識が抜けている、という状態でした。


 これではせっかくのパワーや体重が武技に活かせていないことになりますので、その証明をしつつ改善点をアドバイスする必要性があります。


 それが今日のブログのテーマになったわけですが、具体的には上半身の変な力みを抜き、奥足でしっかり踏ん張るようにというアドバイスをしました。


 意識のポイントは丹田で、下肢の踏ん張りを丹田で感じ、しっかりした中心軸を通じて肩から上肢にパワーを伝えるということですが、体幹部から上肢へのつなぎ目となる肩部のコントロールも重要です。


 具体例としては脇の締めがありますが、こういうつなぎ目の部分の意識も、パワーの伝達に大きく影響しますので要注意です。


打ち込み  左のイラストもこの後のアドバイスのイメージとしてアップしましたが、「突き」を相手の胸部に当てている様子と解釈してください。


 この場合、前述の壁を相手にした稽古を人に置き換えて行なった時の状態になりますが、こういう時はアドバイス前後の様子を比較してもらうことで理解を促します。


 まずは最初に行なっていた悪いパターンでやってもらいます。


 私とその道場生には根本的な体格差が歴然ですので、前述の通り、一般的な力比べでは私が負けます。


 しかし、悪い身体操作の意識で押した場合、その体格差がしっかり発揮できず、いたずらに力みが増すだけで、私を崩すことはできません


 その様子を体感するとますます力みが生じることになりますが、それでも崩せません。


 続いてアドバイスした通りの意識でやってもらいますと、それこそ意図的にやっているのではないかと思えるようなことになります


 元々結構な体格差があるわけですから、それにしっかりしたスキルが身に付けば、根本的な部分の差がそのまま結果に現われます。つまり、アドバイス通りの意識で押されれば、私の姿勢は崩れてしまうのです。


背手受け  全身的な身体操作の違いによる武技の質の差、ということを理解してもらった後は、悪いパターンでやっていた場合のもう一つの問題点について体験してもらいました。


 それは力みが過ぎることによる自身の姿勢の崩れです。


 そのことを理解してもらうために行なったことですが、力んだ状態で押してもらいました。


 その場合、前述の通り、私の姿勢が崩れることはありませんので、ある意味余裕があります。でも、相手は一生懸命体重をかけようとして前のめりになります。


 そこで上のイラストに示したように、背手(はいしゅ)」を相手の手首に当て、上半身をわずかに捻ります


 すると、いとも簡単に姿勢が崩れてしまいます。それまで支えられていた相手の身体の存在が薄れるわけですし、「突き」のベクトルが逸らされるようになりますので当然です。


 しかし、アドバイスした通りの意識で押されると、そもそもこちらの姿勢が崩されますので、「突き」を逸らそうとすることすらできず、結果的にこちらのほうが技をもらったようなことになります


 東洋医学の考え方に、健康的な状態について「上虚下実」を求めますが、上半身に力みが入るというのは、その反対です。身体の正しい認識は、武・医を問わず共通項なのです。


 昨日はこういう話とちょっとした稽古を経て、本来の稽古に入りました。長くなりますので、その話は改めたいと思います。







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