今日1月30日午後、チューリッヒのスイス連邦工科大学で、アメリカ、ロシア、スイスの原子力専門家に私も加わり、「炉心溶融(メルトダウン)は仮想と考えられているがーチェルノブイリと福島は現実なのだ」と題する講演会が行われる。


  この講演会の題名はなかなか含蓄がある。福島原発で現実にメルトダウンがあったにもかかわらず、「仮想」であったかのように無視されている事に対する抗議ともとれる。


  1号機は地震発生から3時間ほどでメルトダウンが始っていた事が、その後の検証で分かっている。しかし、地震発生当日は地震発生7時間後まで東電から圧力容器内に水があり、メルトダウンが始っていないと、報告があった。それは現場が水位計の誤動作に気がつかなかったため間違った報告であった事が今では判明している。そしてそうした間違いは1号機の機能を現場関係者が完全には把握していなかったことが背景にあった事が分かっている。


  1号機はGMが単独で建設した原発だ。全電源が喪失した場合に備えて、電源がなくても原子炉を冷却できるアイソレーションコンデンサー(IC)が備えられていた。全電源喪失後、東電の現場が一度はICを動かしたが短時間で停止させていたことがその後の検証で分かっている。しかもその事、つまりICが停止されていた事を吉田所長自身認識していなかったと、調書で述べている。


  なぜこうした判断ミスが生じたのか。当時の現場にはICを動かす訓練をした事のある経験者が一人もいなかった事にあるという。ICを運転すれば轟音と大量の水蒸気が発生するので、経験者がいればすぐわかったはずだとその後の事故報告書に書かれている。つまり、「全電源喪失」など絶対に起こらないと考えていた東電は、40年間、それに備えた訓練を行ってこなかったということだ。


  

  福島原発事故のしっかりした検証とそれを踏まえた対策はまだまだ不十分だ。