「シチュエーション:映画館 はじめのデート」
映画館のなかは僕たち以外にも数人の客がいた。席に着き、彼女との席のあいだのミニテーブルをおこし、その上にポップコーンとフライドポテト、そしてコーラを置いたところで場内が暗くなった。
上映中も映画の内容など、まったく頭に入ってはいなかった。それどころか、目はスクリーンさえむいてはいなかった。映画を観ているふりをしながら、目は彼女の足もとのブーツを見ている。ブーツも僕を意識している。僕を踏みたがっている。踏んであげる、と僕を誘ってくる。
映画のあいだ、妄想していた。彼女がはいているブーツの靴底に貼りついている妄想だ。過去に彼女が踏み殺したトカゲになっていた。僕は今、その死んだトカゲとしてよみがえり、彼女の右のブーツの靴底に貼りついている。胴体を本底部分。頭部は面積がちいさいヒールの踵部分。舌を使い、彼女のブーツを踵の裏をきれいに舐めている。
やがて映画が終わり、明かりがつく。横にいるはずの僕がいないので、背もたれから体をおこし、まわりを見まわしながら、彼女がゆっくりと腰をあげる。前に突き出した両足のブーツがかるく床を踏む。完全には彼女は立ちあがってはいないので単純に足とブーツの重みだけである。それには、なんとかたえられる。が、それでもトカゲの僕にとってはかなりの重みである。
イスのひじかけに彼女が両手をつき、前に体をたおすと、両方のブーツに体重が移る。想像以上の踏圧に、これはまずい、と後悔する。僕の頭は彼女のブーツの踵で確実にぺしゃんこになる。と思ったとき、激しい衝撃に体全体がおおわれた。彼女が完全に立つと僕の頭の中身は彼女の踵からはみ出ている。靴底の鋭利な線模様で全身の皮膚は刻まれている。(下書き原稿)
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