天使の刻印 - 葉桜夏樹 Blog

もの書き:「踏まれたい」(単行本)「ハイヒールで踏まれ
て」(kindle版)など。 femdom、フェティシズム、アルトカ
ルシフィリア、クラッシュ、でも、そこに「美」への正当な
言い訳が用意できたら、耽美で、妖艶で、死への憧憬を抱か
せる快楽の物語が綴れたら。



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ブーツで、部屋の畳を踏みしめた。下男の男部屋とはいえ、土足であがることに奇妙な感じもしたが、ここは地べたなのだ、と意識が上書きされる。歩き回っていると、仏壇にあった、みかんや菓子などを、醜男から踏んでくださいと足元に差し出された。

背中に手をまわすと、皮膚の表面がヒールのあとでくぼんでいる。手の甲を見ると、傷あとが血でにじんでいる。彼 の背中を思い出し、私の背中も彼のように傷だらけになっているのだろうと想像した。





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 踏みたがっているブーツが地面をはなれ、ちいさな踵の靴底ににらまれると、すでに、そこは死の領域だった。
潰れまいと抗うも、一瞬で、醜虫は全身を地面にひろげた。

 私は踏むことで、ちいさな命を奪うことに『快楽』を感じ、あなたも擬似的な『死』を求めるようなる。そしてその先に あるものは何?




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僕はね、奈美さんの靴底を舐めながら心で泣いていたんだ。でもね、それは悲しかったからじゃない。嬉しかったからだよ。

ブーツが私の頭を踏みにじった。頭を踏み越え、そのまま、背中や臀部を踏みつける。大人の女性に踏まれることが、これほどの苦痛だとは想像さえしなかった。




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平素は、拙著をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
 
さっそくですが、 最近、私の電子書籍の無料ダウンロードを装った、フィッシング詐欺の危険性のある違法サイトがあるとの報告を受けました。私の場合、有料作品は、AmazonのKindle以外には公開しておりませんので、怪しいサイトには、くれぐれもご注意くださるようよろしくお願い申し上げます。

葉桜夏樹

 
 
                       
                             

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ハイヒールと人間マットと蟲男(上): メタモルフォーシス kindle版 光英出版 ¥784
 


若い女性ばかりが社員の婦人靴会社。そこの女子トイレの戸口に、ひっそりと敷かれたマットがある。女性から踏まれるだけの、その存在に、清掃員の長野カイチロウはあこがれていた。中年で独身。おまけに清掃派遣会社の契約社員。そんな自分と、毎日毎日、制服姿の若い女性社員たちのハイヒールやパンプスで踏みにじられるマットと、どっちがシアワセだろう、と本気で考える日々がしばらく続いた。

そして、とうとう、女子トイレのマットを、ときどきではあるが、アパートに持ち帰るまでになった。 寝る前に、一日じゅう彼女たちのハイヒールやパンプスで踏まれて、汚れたマットを、シーツのかわりに敷きフトンにかぶせると、眠り込む際までマットとたわむれた。 まずは、頬ずりする。鼻先に、マットの表面がふれると、特有のゴムの匂いがする。女性社員たちのハイヒールやパンプスの靴底をぬぐい続けたあとの残り香は、カイチロウにとって「女の匂い」だった。

マットの表面の繊維部分に手のひらで優しくふれてみる。そして、毛なみをつくろうようにしてなでる。埃や砂をかんでいると、舌で優しく拾いあげる。彼女たちの靴底についていたゴミをおいしくいただくのである。 カイチロウは女性の身体にふれたことなどなかった。 生まれたときからの醜い容姿や、子供のころに右手の小指を潰して、それがコンプレックスだったことで、人間関係にも自信がなく、とくに女性には常に逃げ腰だった。

そのくせ、女性への興味だけは、子供のころから人一倍強かった。持てあました性欲は、とうぜん、ひどくゆがむと、その矛先は、女性が身につけたモノにむかった。 とくに、カイチロウの性欲の対象は女性がはいた靴だった。若く美しい女性たちのハイヒールやパンプスにふれてみたい、からはじまり、最後は、踏まれたい、となった。だから、カイチロウが、女性たちのハイヒールやパンプスの靴底にふれた女子トイレのマットを持ち帰ったのも自然な成り行きだった。

カイチロウは、その持ち帰ったマットにふれることで、シアワセを感じ、そこに深く顔をうずめた。制服姿の女性社員たちのハイヒールやパンプスで踏まれる甘美な「痛み」を想い、うれしさで涙をマットにこぼすと、至福の眠りにおちた。 朝一番、婦人靴会社に行き、女子トイレの戸口にマットをうやうやしく敷く。 すると、まわりのにぶい光の中で、マットを中心に、そこだけが輝いている。

一晩かけて、カイチロウの手で優しくなでられ、舌で磨かれたマットは、すでに彼の生命を帯びて生きていた。生きて宙に浮いているようにさえ見えた。それを、何も知らない制服姿の女性社員たちは、ハイヒールやパンプスでふつうに踏んでいく。マットの上で立ち話をする女性社員たちもいる。カイチロウは、清掃の手を休めず、その様子をチラチラと見ている。

マットは彼女たちに踏まれながらも懸命に靴底をきれいにしている。 うらやましい、とカイチロウは思う。 そして、どんなに痛くてもホンモノの女性に踏まれてみたい、とも。 ところが、そんなカイチロウの盛んな性欲を裏切り、彼が死んだのはそれから数ヶ月後のことで、突然のことだった。脳の血管が切れたのだ。もともと持病の糖尿病もあり、加えて血圧も高かったことが原因だったらしい。

彼の葬儀は、火葬場でかんたんにすませるというやり方で、そこに身内の姿はなく、そろった顔ぶれも清掃派遣会社で彼を知る数人だけだった。 それも、参列したというより、なかば好奇心で、ただ死顔をのぞきにきたというふうで、喪服を着ていたのは、カイチロウと一番ウマがあった山田シゲルという同僚ただひとりだけだった。

シゲルは、行き場のないカイチロウの位牌と遺骨を、押しつけられるように受け取ると、とりあえず、自分の安アパートへ彼を連れて帰った。 部屋に入り、書棚の空いた場所に位牌と骨壺を置いた。 シゲルの部屋には、亡くなった両親の仏壇があったが、さすがに中に一緒に入れるわけにはいかない。コップに水を入れると、シゲルはカイチロウの位牌に手を合わせた。

シゲルが他人のカイチロウに律儀だったのにはわけがあった。 カイチロウは死ぬ数週間ほど前から、やたら、弱気だった。最近、頭痛が激しい、それに全身の筋肉の劣化もひどいと彼はこぼしていた。 「病院に行けよ」とシゲルがうながすと、 「カネがかかる」と彼は返した。 そして、カイチロウはこう言った。 「万が一、オレが死んだら、カネはお前に全部やる。そのかわり、死んだあとの始末と、遺書を書いておくから、そこに書かれた願いをかなえてくれないか」と。

カイチロウの死後、シゲルは彼のロッカーから紙袋を見つけた。そして、誰にも見られないようにアパートに持ち帰った。 紙袋をあけると、郵便局のカードと通帳、あと、印鑑と封筒が入っていた。 通帳の額を見ると三万円ほどだった。封筒の中には便せんが入っていた。遺書だった。ひどく汚い字で郵便局の暗証番号と彼の願い事が書かれている。 その願い事を読んで、シゲルは腕を組んでしばらく考え込んだ。というより、頭をかかえた。

あまりに突拍子もない、ふざけた願いだったからだ。それでも、シゲルを突き動かしたのは、これでオレは成仏できる、頼む、と便せんに書かれたカイチロウの最後の言葉だった。 まず、シゲルは、勤め先である清掃派遣会社に、清掃する職場の配置転換を申し出た。

会社側は、シゲルがカイチロウの葬儀で骨を折ってくれたこともあり、あっさりと、それを認めた。シゲルはカイチロウが働いていた婦人靴会社に派遣されることになった。 それから、ある日の夜。シゲルは、婦人靴会社の女子トイレのマットをこっそりと持ち帰った。 部屋でマットをひろげると、砂や埃に混じったゴムの匂いが部屋じゅうにひろがった。

一日じゅう、女子トイレを行き来する女性社員たちのハイヒールやパンプスで踏まれ続けたマットだ。シゲルは、それに手でふれるのも気がひけたが、彼のためと思って我慢した。 彼の遺書によると、マットの表面の繊維部分と裏面のゴムは、糸で縫うように貼り合わせてあり、そのあいだに入れてくれ、と彼は望んでいた。入れてくれとは、もちろん、彼の骨のことで、まじめに考えると、狂っている、とシゲルは思うのだが、まあ、それで成仏できるのであれば、しかたあるまい、と思いなおす。

マットの表面と裏面を三十センチほど無理にひきはがす。そこへ骨壺をひっくり返すと、ジャラジャラとうれしそうに音をたてながら、箸より軽い骨となった彼は、その中にあっさりおさまった。はがしたところをボンドでくっつける。マットの表面は、骨のせいで、不自然に所々ふくらんでいる。これでカイチロウの望み通り、彼はマットに生まれ変わった。

次の日の早朝。シゲルは、カイチロウが入ったマットを自転車の荷台に積むと、職場へとむかった。 会社に着いて、いつもの定位置に彼を敷いたところで、ふり返ると、早くから出社していた制服姿の女性社員たちが、三人、こっちへむかって歩いてくる。

彼女たちがすぐ近くにくると、シゲルは柱の陰にかくれ様子を見守った。三人の女性社員たちのハイヒールやパンプスがマットを踏みつけた。と、同時に、骨の砕けるにぶい音が廊下に響いた。すぐに踏み心地と音に気づき、三人はマットを見てから、怪訝な表情で顔を見合わせた。 「なによ? これ?」とひとりの女性社員がマットを踏んでいる自分のハイヒールに視線を落とした。 三人は、踏みなおすたびに、なぜか泣くような音がするマットを不思議がった。

そして、しばらくのあいだ、その泣く音をおもしろがり、マット全体をくまなく踏みまわった。 しかし、それにもあきると、 「変なマット」とひとりの女性がそう吐き捨て、三人は女子トイレに消えていった。 しばらくして、三人が女子トイレから出てきたが、マットにすでに関心はなかった。足もとのマットを見ることもなく、ふつうに踏んでいってしまった。 そのあとも、マットは女性社員たちのハイヒールやパンプスで踏まれ続けた。

午後をすぎたころには、マットを踏んでも泣く音がしないほど、骨は粉々に踏み砕かれ、おそらく、彼は骨粉になっていた。 シゲルは仕事もせずに、時間さえあれば、女子トイレの近くで、彼を弔うようにマットを見張っていた。 「痛かろう・・・、痛かったろう・・、あんなに踏まれて・・・、かわいそうに・・・」とシゲルは柱の陰で合掌した。   その日の夕方。シゲルは仕事を終え、清掃派遣会社に戻ると、自分よりずっと若い担当社員から呼ばれ、いきなり、クビを言い渡された。

呆気にとられ、理由をきくと、クライアントである婦人靴会社の社長自らクレームがきたという。 シゲルがさらに詳しくきこうとすると、担当社員は、 「お前にこたえる義務はない」と言い放った。 担当社員は怒っていた。無理もなかった。クレーム先の婦人靴会社に派遣されていた男が、突然、死んで、彼の後釜にというシゲルの希望をきき、せっかく、その願いをかなえてやったのに、このザマだ。

担当社員にすると信頼を裏切ったわけである。そんな憤怒の目でにらむ担当社員に、シゲルはもう何も言えなかった。お世話になりました、とだけ言って、頭をさげるしかなかった。 安アパートへの帰り道、シゲルは放心状態だった。どこをどう帰ったのかさえ、おぼえていなかった。精根尽き果てたまでとは言わないが、かなり、それに近い状態だった。友人のためにしたことなのに、これはないよな、と思った。

部屋に戻り、万年床でごろりと横になる。 自らの行く末を想ってみる。だが、頭の中が真っ白で何も浮かばない。 そもそも、家族はみんな死んでしまい、親戚とも縁が切れ、孤独の身だ。今さら、何を想う、何を憂う、と強がってはみたが、不安で不安でしかたがない。

ところが、こんなときでも、律儀なシゲルは、昼間、婦人靴会社の女性社員のひとりから、女子トイレのマットを交換してください、と言われたことを思い出した。シゲルにしても、まさか、今日、突然、クビになるとは思ってもいなかったので、そのことを清掃派遣会社に伝えることをうっかりと忘れていた。 いや、問題はそこじゃない、とシゲルは激しく首を横にふった。

そんなことより、あのマットはふつうのマットではない。カイチロウの骨が入ったマットだ。さすがに、あのまま放置するのはマズイ。もし、マットから人骨が出てきたら大騒ぎになる。マットを回収しなければ・・・ 万年床から跳ね起き、時計を見ると、まだ夜の七時をまわったところだ。

今から、急いで自転車で行けばマットを回収できる。シゲルは自転車にまたがると、婦人靴会社に急いだ。 会社に着くと、窓にはまだ明かりがついている。 社屋の横にある社員専用駐車場を見ると、車は二台しかなく、社員もほとんど帰ってしまったようだった。

駐車場に自転車を停める。帽子を深くかぶりなおすと、自転車のハンドルについていた懐中電灯を持ち、シゲルは、監視カメラから撮られる覚悟で、玄関から堂々と中に入った。女子トイレに行くと、薄暗い蛍光灯のせいで、壁とか、床とか、風景が黄ばんで見える。

そんな中、床に敷かれたマットだけが蛍光灯の光を集め、やたらまぶしく映える。シゲルは、マットに近づき、それをくるくると巻くと玄関を出た。 駐車場に戻る。マットを自転車のうしろの荷台にのせ、ゴムひもでくくっていると、ふと、カイチロウの骨を、このままアパートに持ち帰るのも、マズイのではないか、と思った。そこで、マットを自転車の荷台からおろすと、ボンドでつけた部分を無理にはがした。

暗闇の中、懐中電灯を照らしながら、マットの中をのぞくと、骨もあるにはあったが、ほとんどが粉末になっている。 会社の外だが骨はこのあたりにまいてやろう。 散骨だ。 「ここなら会社の女性社員たちが車を停めている場所だから、ここを行き来する女性たちから踏まれるだろう」とシゲルはカイチロウにそう語りかけながら、マットのひらいた口を地面にむけた。

すると、突然、風が吹き、骨の形のものはそのまま地面に落ちたものの、それ以外の骨粉は雑草が生い茂る近くの草むらへと風で飛ばされ、消えていった。 シゲルは、マットの口を地面にむけたまま、マットの表面をはたき、すべて地面に落とすと、自転車のうしろの荷台にマットを積み、安アパートに戻った。 良い供養ができた、と思った。

カイチロウがマットとして女子トイレの戸口に敷かれた日の朝。 会社の更衣室で、神谷美香が制服に着替えていると、ちょうど、そこへ同僚の村上桜子と佐々木メグが小声で喋りながら入ってきた。 おはよう、とふたりがあいさつしたので、美香が、おはよう、と返し、更衣室を出ようとしたときだった。美香は桜子の表情の暗さが気になった。

そして、 「何か、あった?」とたずねた。 「う、うん・・・」と桜子が言葉をにごした。  横にいるメグは知っている様子だった。 「ねえ、言っていい?」とメグが言うと、桜子は、しかたなさそうに、うなずいてみせた。 「桜子ね、ストーカーにあっているのよ」とメグが小声で言った。

「誰に?」と美香が驚いて返す。 「彼氏よ」とメグ。 「彼氏?」と美香。 「それにね・・・」と、メグが言いかけると、 「すこし変態なの」と桜子がやっと口をひらいた。 「それがね・・・」と具体的にその性癖を言いかけたところで、桜子が口をつぐんだので、その様子から、よほど変態趣味の話なのだろうと美香は察した。 「言いたくなければ、言わないほうがいいよ」と美香は桜子にうながした。

美香にしても、他人の彼氏の性癖など、べつに興味はない。 それでも、桜子は話したくてしかたがない顔つきで美香を見ている。その横では、メグが気の毒そうな顔をしている。 美香が耳をかたむけると、桜子は、 「先週の土曜日、彼のアパートに行ったのだけど、夜、私がうとうと眠りかけていたとき、横を見ると彼がいないのよ」と言った。

「いない? 彼はどこに行ったの?」と美香がたずねると、 「それがね・・・、それが、玄関で私の靴を舐めていたの」と桜子はそこだけ早口でこたえた。  美香は、ため息をつき、同情の目で桜子をながめまわした。 「そのあと、土下座するの」と桜子が続けた。 「ただ、土下座しただけなの?」と美香。

桜子は首を横にふり、それから、言いにくそうに、 「ハイヒールで踏んで欲しいって」  それを聞いて、美香は驚くべきか、ちょっと迷ってから、いちおう、驚いてはみせたが、とくべつ変なこととも思えなかった。そういう性癖の男性は、あんがい、多いことを知っていたからだった。 美香たちが勤める会社は婦人靴を扱っている。

日ごろから、自社の商品であるエレガントなハイヒールやパンプスやブーツをはいていて、桜子の彼が欲情しないわけがない、そういう性癖があれば、我慢できず、踏んでください、と言っても無理のない話だと思う、とそんなふうなことを美香はふたりに話した。 すると、それにたいして、ふたりは微妙な顔をした。 メグのほうはすぐに困惑から出てきた感じだったが、桜子は、まだ、その中で弱々しくうずくまっている感じだった。

そんなふたりの顔を交互に見ながら、 「踏んであげたの?」と美香はたずねた。 「彼のアパートの部屋から飛び出してきたわ」と桜子はきっぱりと否定した。無料サンプル作品「ハイヒールと人間マットと蟲男(下) メタモルフォーシスへ
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婦人靴会社で、挙動不審だったことから、派遣会社をクビになり、仕事を失ったシゲルは、さっそく、次の日にはハローワークに足を運んだ。 気力も体も衰えた四十すぎの男に、派遣以外に求人などあるわけもなく、その派遣の求人にしても、最近では、もっぱら、若年が相手だった。

貯金はいくらもない。 今月いっぱいに仕事を見つけなければ、アパートから追い出される羽目になる。 その日も、いろいろ考えながら、ハローワークから肩を落とし、アパートに帰ると、シゲルは万年床でごろりと横になった。そばには婦人靴会社から持ち帰ったマットが、まだ、くるくる巻かれたままの状態で畳に転がっている。 カイチロウの骨が入っていたマット。 シゲルにしても、その置き場に困っていた。

そこに理由があったにせよ、要するに、そのマットは、盗んできたわけで、よほど、どこかへ捨てようかとも迷ったが、けっきょく、そのまま部屋の中に放置したままである。 そのせいで、シゲルの狭い六畳の部屋は、女性社員たちのハイヒールやパンプスの靴底の匂いとか、踏まれた土足の匂いとか、埃っぽい匂いとか、ゴムの匂いで、いつも充満している。 シゲルは万年床から体をおこすと、くるくる巻かれたマットをひろげた。

狭い部屋でひろげてみると、前に持ち帰ったときには、そうも思わなかったが、けっこう、大きく見える。 表面に顔を近づけ、よく見ると、あたりまえだが、埃まみれだった。それは、そうだろうと思った。素足ではなく、女性社員たちが靴をはいて踏んづけていたものなのだ。婦人靴会社では、全員が女性社員で、踵の高いハイヒールやパンプスをはいている。

オフィスの床は、硬質な木質の床材にもかかわらず、床面から数ミリ程度沈んだ、くぼみが無数にあり、かなり痛んでいた。女性社員たちのはいたハイヒールやパンプスの踵の踏圧が原因だ。そんな、すさまじい破壊力をもったハイヒールやパンプスで、マットは踏まれ続けたのだ。硬質の床材さえ、へこましてしまうほどの踵の踏圧力。その力をマットは吸収してきたのである。

マットの中にいたカイチロウはどんなに痛かったことか・・・ いや、痛いどころではない。 それどころか、粉になるほど、女性たちの靴で踏み砕かれたのだ。 それでも、彼にはいい供養になったに違いない、とシゲルは思う。 聞いた話、カイチロウも女性には縁の無い男だったらしい。たった一日だったが、あれだけ若い女性たちから踏みつけにされて、靴底とはいえ、女性にふれることができて、「至福」だったに違いない、とそんなことを、つらつら、考えてみる。

すると、目の前のマットがとくべつなモノに見えてくる異様さをおぼえる。 女性社員たちのはいた靴の革の匂い、靴底の匂い、そういった匂いからくる妄想もある。狂いかけていると思うが、そのもとにあるものが、何かムズムズとする、性欲だと気づくのに時間はかからなかった。

これまで若い女性たちの無神経な言葉で、どれだけ傷つけられたことか、と思い返せば、狂いかけているのも無理はない。ここまで、女性にモテないというか、相手にされないと、とうぜん、性欲のはけ口として、ゆがんだ性癖が出てしまうのは、至極、あたりまえのことで、まだ女性から踏んでもらえるだけ、靴底にふれられるだけ、マットのほうが自分よりマシに見えるのも、因果というものだ。 シゲルはテーブルの上をかたづけた。

そして、そこに婦人靴会社から持ち帰って、はじめてマットをテーブルでひろげてみた。ちょうど、テーブルクロスのような感じになる。マットについた女性たちのハイヒールやパンプスの靴底の匂いが、ふわっと、さらにひろがり、シゲルは激しい性欲におそわれた。婦人靴会社の若く美しい女性たちが、この上で、ハイヒールをはいて土足で踏んでいたと思うと爆発しそうだった。

マットで何をしよう。 あれこれと考えをめぐらすうち、ハローワークの帰りに、コンビニで弁当とカップ焼きそばを買ったことを思い出した。コンビニの袋から出して、マットの上にならべる。台所から電気ポットを持ってきて、カップ焼そばにお湯を注ぎ、畳にごろりと横になる。三分間、シゲルは天井をながめながら、なぜ自分はこんなバカなことをしているのだろうと思う。

女性社員たちが靴で踏みつけたマット。 それも女子トイレ前に敷かれていたマットをテーブルクロスにして、ハイヒールやパンプスの靴底の匂いの中で、食事をしようとしているのだ。はたから見たら、わけがわからないだろう、と思う。じっさい、やっている本人でさえ、そう思うのだから。

女子トイレのマットが鼻をつく中、弁当を食べていると、うっかり、箸から卵焼きをマットに落としてしまった。ふつうは、それを、また口に入れるなど、あり得ないことだろうが、シゲルはそうも思えなくなっていた。卵焼きが神聖なものに思えた。卵焼きをマットから拾うと頬ばった。 女性のハイヒールの靴底にふれた卵焼き。砂のようなものがまじってはいたが、それでも美味に思えた。こんな気持ち、はじめてだった。興奮した。久しぶりの性欲でもあった。

シゲルは味を占めると、弁当のご飯や、総菜、そしてカップ焼きそばの中身をマットにならべた。 マットにじかにふれた食べ物。それらを平らげる。最後はマットに頬ずりしたり、皿を舐めるように舌を這わせる。シアワセな気持ちになれる。カイチロウが、なぜマットになりたがったのかも、じゅうぶん理解できる。

どうせ、自分たちのような底辺の中年男なんて、まともに女性から相手にされないのである。ならば、せめて女性の踏むマットにでも生まれ変わりたいと願うのはとうぜんだ。 女性に踏まれたい・・・ シゲルは、死んだカイチロウの亡霊からインスパイアされていた。

  そんなふうな想いが、だんだんエスカレートすると、やもたてもたまらず、マットを脇にかかえ、元の派遣先だった婦人靴会社に頻繁に足がむくようになっていた。 会社が施錠するすこし前くらいに忍び込む。婦人靴会社の女子トイレには、シゲルが持ち帰ったあと、違うマットが敷かれていた。マットは計二枚あることになる。 シゲルは、女子トイレに敷かれたマット(一日じゅう女性社員たちから踏まれたマット)と、彼が部屋でテーブルクロスとして使用したマット(皿がわりに食べ物をじかに置いたり、頬ずりしたり、舐めたりしたマット)を交換する。

そうやって、ほぼ毎晩のように、婦人靴会社に忍び込んでは、汚れたほうをアパートに持ち帰り、そのマットにむしゃぶりついた。 一日じゅう、女性たちから靴で踏まれると、マットはかなり汚れる。どんなにマットの表面をきれいに舐めあげたところで、一日も経つと、埃や砂でざらつき、女性たちの靴底の独特の匂いがする。シゲルは、そんなマットをながめては、ああ、こんなに汚して・・・とか、そんなふうなことを口にしながら、それを皿にして食事をとり、最後は犬のように舐めまわしてきれいにする。 ふたつのマットは、色も大きさも、微妙に違っていたが、トイレの前に敷かれ、靴で踏みつけるマットに注意をはらう女性はいなかった。

とうぜん、マットがきれいになっていることに気づく女性社員もいなかった。そもそも、土足で踏むものに関心などないのがふつうだ。たとえば、踏まれた虫が、そのままマットにこびりついていることもある。踏まれすぎて原形はなかったが、そのシミは、あきらかに虫だとわかる。

しかし、虫は踏まれたままマットに残っている。虫も、マット同様、踏んでも関心がない、そんなものだった。 そんな踏み潰された虫を見ると、無職で求職中、女性に縁のない今の自分と、こうやって女性たちから踏み殺された虫と、いったい、どっちがシアワセだろうとさえ考えることもある。孤立しているシゲルにとって、マットが唯一の社会とのつながりであり、女性との接点だった。

とはいえ、シゲルのしていることは犯罪行為だ。 もし、そのマットの交換を女性社員に目撃されたら、間違いなく、警察に通報されるだろう。だが、シゲルはかまわないと思う。 守るべき家族もいないし、すでに人生は捨てている。 自暴自棄だった。   ある夜のこと。 社屋に入った瞬間、若い女性の残り香を嗅ぎながら、女子トイレに行くとマットが輝いていた。シゲルは女子トイレに敷かれたマットを、急いで、くるくる丸めると、持ってきたきれいなマットと交換した。

廊下の奧では、オフィスの明かりがついている。シゲルはその光にいつも誘われそうになる。そこにいるのが、日ごろ、自分が舐めているマットをハイヒールやパンプスで踏んでいる女性たちだからだ。 それでも我慢し、いつも通り、会社の玄関から出た。アパートに逃げて帰るつもりだった。しかし、オフィスの明かりの下に、女性社員がいると想うと、その日は、どうしてもやもたてもたまらず、ちょっとだけという気持ちになった。

窓から中をのぞいた。 若い女性社員がひとり、パソコンにむかっていた。見覚えのある顔だった。ツンとした感じの美人の横顔。シゲルは彼女に見とれた。 あんな美人が踏んだマットで食事をし、また彼女が踏んだマットを舌で、じかに、きれいにしている秘め事にシアワセな気持ちになる。死んだら、カイチロウのように自分の骨もこの会社のマットの中に入れてもらえたら、と思った。

今思うと、カイチロウの遺書にあった希望は、なんと贅沢なことだろうとも思った。 彼女の姿を、しっかりと目に焼きつけているうち、視界のすみの人影に気づいた。女性の足もとに若い男がいる。靴もはかず、四つん這いで床に額をこすりつけている。男の姿は、オフィスの風景から切り離され、そこだけが、やたら奇妙に見える。 視線をたぐり寄せると男は床を舐めている。 すぐそばでは、女性社員が男の行為を気にもとめず、仕事をしている。

女性社員が席を立つ。そして、男のそばを通るとき、ハイヒールのとがった踵で、狙いすまして踏んでいく。男は我慢の限界を越えたのか、情けない死にそうな声をあげる。床を転げまわる。その苦痛が空気にひろがり、シゲルに伝わる。 そのときの苦悶の男の顔がアパートに帰ってからも残っていた。シゲルはそのときのことを思い返し、それからというもの、婦人靴会社の女子トイレのマットを交換すると、社屋の外からオフィスをのぞき見ることが習慣になった。

毎日というわけでもなかったが、オフィスでは、女性社員による男への虐待が、たびたび行われているようだった。はじめのうち、女性社員もひとりだったが、いつのまにか、ふたりに増えていた。ふたりの女性社員がひとりの男をいたぶる構図だった。   いつものようにシゲルがマットを脇にかかえ、婦人靴会社に行ったある夜のこと。 その日、会社は休みで、玄関の扉はとじられていた。オフィスのほうにまわったが、明かりはなかった。

あきらめて、シゲルがアパートに戻ろうとしたときだった。婦人靴会社の敷地から出ようとしたところで、その顔に出くわした。その顔とは、オフィスで女性社員たちから虐待を受けている男の顔だった。男のことを会社関係者だと思っていたので、シゲルは顔を伏せた。シゲルがそそくさとその場から去ろうとすると、男が呼びとめた。 「まあ、待ってください」と男。

それでも、シゲルが男に背をむけ、無理に去ろうとすると、 「私のことをずっと見ていたでしょ?」と男はたずねた。 しかたなく、シゲルは覚悟して踵を返した。 よなよな、会社に侵入していたこともバレている。会社の監視カメラをうまくかわしていたとはいえ、姿はうつっている筈だ。それに脇にかかえているマットのことを、だいいち、なんて言い訳する? いずれにせよ、逃げたところで、警察に通報されれば、すぐにつかまってしまうだろう。

シゲルは観念し、男を見た。目と目が合い、視線がつながるが、男のほうはシゲルを怪しみ、凝視するわけでもなく、むしろ鈍い感じの目つきで、ぼんやりと見ているだけだった。この男、婦人靴会社の関係者ではないな、とシゲルは直感した。 「安心していいですよ。警察には言わないから」と急に女の子じみた声で男が言った。

男にしては妙に優しい声だった。オフィスの窓からのぞいているときは遠くてわからなかったが、よく見ると男はシゲルよりかなり小柄だ。服装からも、今ふうの若造だ。ふたまわりは歳がはなれている気がする。 「いつも窓からのぞいていたけど、ああいうの、興味あります?」と男。

シゲルが、それに、どうこたえて良いやら迷っていると、 「今日は会社は休みだから、ありませんよ」と男は笑った。 それから、自分のことを、 「タザキと言います」とていねいな口調で名乗った。  シゲルは男の名を知っていた。オフィスで女性社員たちが、タザキ、タザキ、と犬のように呼び捨てにしているのを何度も聞いたことがあるからだ。

タザキが自分の名を名乗ったことで、シゲルはすこし安心していた。すくなくとも、自分のことを警察に突き出したり、婦人靴会社の人間に告げ口したりはなさそうだ。 シゲルが自分の名を告げると、タザキは妙にうれしそうな顔をした。 「今日は会社も休みだから、私と飲みに行きませんか?」とタザキが言った。
 
だしぬけにおかしなことを言われ、 「飲みに?」とシゲルが驚いて聞き返す。  それにタザキがうなずいた。  じっさい、シゲルは持ち合わせがなかった。 「あ、あのう、お金が・・・」とシゲルがぼそぼそ言うと、 「私におごらせてください」とタザキがあっさりと返した。 シゲルが、 「ほんとうに、いいのですか・・・」とタザキの顔をのぞき込むと彼の顔は笑っている。 いつのまにか、シゲルのほうも、言葉がていねいになっていた。

シゲルとタザキは、ふたり並んで繁華街のほうへ歩いた。 シゲルは自転車を押し、荷台にはマットをゴムひもでくくりつけていた。並んで歩くと、やはり、どこか気まずい。中年のシゲルと若造のタザキでは会話もふくらまない。それでも、途中で、ひとことふたこと、タザキと言葉をかわしたが、まだ暑いですねえ、とか、そんなたわいもないことだった。

よく考えなくても、女性たちに虐待された男と、それを毎晩のようにのぞき見していた自分が一緒に歩いている構図はかなり奇妙だ。 安そうな居酒屋チェーン店に入ると店員にボックス席に案内された。 人の声や、明るいざわめきに圧倒され、あたりをきょろきょろ見まわすシゲルに、 「どうかしましたか? べつの店のほうが良かったですか?」とタザキがたずねる。シゲルが首を横にふり、 「ずっとアパートの部屋でひとりで飯を食っていたもので戸惑っています・・・・・」と正直に打ち明けると、タザキは楽しそうに笑った。

その顔は、シゲルにとって深く見覚えがある顔になっていた。と同時に、この先、話を進めるのは年上の自分の役目だろうとも思うが、話すとなると、何から話せば良いのか、何を語り合えば良いのかと迷ってしまう。 タザキにしても同じようだった。オフィスでの奇異な光景を人に見られていたという負目というか、気まずさというか、どこから話せば良いやら、わからないといった様子は見て取れる。ふたりのいる席だけが周囲から孤立したように静かだった。
ハイヒールと人間マットと蟲男(下): メタモルフォーシス kindle版 光英出版 ¥784
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ハイヒールと人間マットと蟲男(上): メタモルフォーシス kindle版 光英出版 ¥784



新作「ハイヒールと人間マットと蟲男(上) メタモルフォーシス」

【内容紹介】

 (あらすじ)

若くて美しい女性ばかりの婦人靴会社がある。カイチロウは、前からそこの女子トイレのマットになって踏まれたいと願っていた。病が彼をおそい、死期が迫ると、カイチロウは、自分が死んだら女子トイレのマットの中に骨を入れてくれ、とシゲルに残し、死んでしまう。希望通り、女子トイレのマットになったカイチロウだったが そこから出されて散骨されると、こんどは婦人靴会社の社屋近くの虫に転生する。虫となったカイチロウは、仲間をハイヒールで踏み殺され、はじめてその残酷さと悲しみを知る。そして、そのあたりの虫たちのあいだで、まことしやかにささやかれている言い伝えを知る。それは「生きているうちに若い美人の女性から踏まれて死ぬと極楽浄土に行ける」というものだった。


(内容より一部抜粋)

そんなことを思い返しながら、机の下の奈緒先生の足もとで、カイチロウは自分の素足を踏んだ上靴の靴底を目の前に見ていた。上靴で踏まれたいと思った。痛い目にあえば、奈緒先生から優しくされる。そう思った。すると奈緒先生の上靴の靴底が神聖なものに思えた。薄汚れた靴底のギザギザの滑り止めには、たくさんの黒いゴミが付着していた。カイチロウは、気づくと、靴底に舌を這わせていた。

タザキの背中を見ると、白いシャツには血がにじんでいる。踏みすぎたせいで、背中の皮膚は踏み破られている。ハイヒールの靴底に血をつけたくない美香は、比較的きれいな場所を見つけると、そこに右のハイヒールの踵を突き立てた。踵の先で踏み台の硬さをたしかめると、左足で床を蹴り、背中に飛びのった。

美香は踏んだモノの潰れ具合を確認すると、その死骸に、浮かしていた右のハイヒールのちいさな面積の踵をあわせた。そして死骸を踵で踏みつけると、踏んだまま、反対の左のハイヒールを浮かし、こんどは足がすくんで動けない虫の上にかざした。彼女のハイヒールの影で虫がいる床が暗くなる。


 



ハイヒールと人間マットと蟲男(下): メタモルフォーシス kindle版 光英出版 ¥784

新作「ハイヒールと人間マットと蟲男(下) メタモルフォーシス

【内容紹介】

(あらすじ)

カイチロウへの義理から、清掃派遣会社をクビになったシゲルだったが、プライベートでは、婦人靴会社で女性社員たちから虐待されるタザキと親交を深める。また、女性アイドルグループの映画のエキストラの仕事で、複雑な過去を背負った美少女ミルクと知り合い、彼女から優しくされたことで、シゲルは生れてはじめて人の情を知る。撮影とはいえ、ブーツでシゲルの顔を踏むことをためらうミルクたちアイドルグループ。しかし、シゲルの説得で、しぶしぶ、彼女たちはそれに応じる。シゲルはそのことで顔に大ケガをするが、彼はミルクの役に立てたことがうれしかった。と同時に、ミルクのシアワセを祈るシゲルだったが、彼女を不幸にする原因にたいし、命を投げ出す覚悟をした。

(内容より一部抜粋)

どこを踏もうかと考えていた少女は、鼻に狙いをさだめた。ブーツの本底を鼻に軽くあて、靴底のギザギザで鼻先をこする。体重はまったくかかっていない。少女は、じらすようにして、いつまでも踏まない。それが逆にシゲルには残酷だった。死刑執行の日を、当日まで知らされない死刑囚の心情だった。少女の気まぐれで、シゲルの鼻は踏み潰されるのだ。少女の目に衝動の光が宿り、シゲルの鼻は形を失った。痛みより鼻の骨が折れた感覚が先だった。少女はそのまま鼻に重心を集める。それから、踏んでないほうのブーツを高々とあげ、鼻に全体重がかかっていることをアピールする。ブーツの下で鼻の形は完全に消えている。血が口に入る。血の味がする。たぶん鼻は鼻血で血まみれなのだろう。窒息感の中で、かろうじてまだある意識につかまる。

その足もとに跪き、彼女のハイヒールに唇でふれるタザキ。美しい外国映画のワンシーンのようだった。窓辺から射し込んだ光で、ふたりのいるところだけが明るい日だまりになっている。そこだけが永遠に時間がとまっているようだった。さっきまで、あれほど残酷に見えた桜子の表情が、いつのまにか、優しくほどけている。それどころか、子供を見る母親の目になっている。それを、女の色気と美香は見る。タザキは桜子の両方のハイヒールの靴底を舐め終えると、疲れたらしく、彼女の足もとで、うつ伏せになった。桜子はそんなタザキの姿をいとおしそうにながめている。それから、ゆっくりと、桜子は立ちあがった。

パンプスのヒールが頬に食い込む。もし、顔に傷がついたら、と思った。ミルクのブーツでつけられた顔の傷がべつの傷で消えたら生きてはいけない。体をおこそうとした。背中を誰かが踏んでいる。複数の女性のパンプスで背中を踏まれている。踏まれている重みの感覚がない。涙があふれる。床がぬれる。それにもかかわらず、顔を片足で踏んでいた女性が、シゲルの横顔の上で、両足のパンプスをそろえる。パンプスの鋭利な靴底模様を頬の皮膚に感じ、顔はさらに床に押し潰される。床と一体化してしまった錯覚がする。

 

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携帯電話に、メールが入り、急に決まった仕事だった。 派遣会社に電話をすると、担当の正社員が出て、仕事の内容は、なんでも、 劇の舞台装置の搬入とかで、報酬も高く、割のいい仕事だと言ってはいたが、 たいてい、その手の話は眉唾だ。醜男は話半分にきいていた。

次の日、待ち合わせ場所の駅前ロータリーに着くと、 派遣会社のネームの入った車が、すでに迎えにきていた。 車はトヨタの古いハイエース。 中をのぞくと、運転手以外に、すでに四人ほどが乗っている。 助手席の窓を軽くたたき、運転手に派遣会社から渡された紙を見せた。 運転手は人差し指を下にすると、助手席に乗れ、と言った。 醜男が助手席に乗ると、車はすぐに走りだした。

着いた場所は地方のコンサートホールだった。すでにホールの入口には、公演される劇の 立て看板があった。 少女ばかりの有名なアイドル劇団で、 芸能界にうとい醜男でさえ、彼女らを知っていた。 車からおり、醜男たちは、演劇スタッフから搬入口に案内されると、そこに停まってる大型のトラックから、 舞台の設置機材などを搬入するように言われた。

醜男たちはたった五人で搬入に取りかかった。 中年の醜男にとっては、かなりハードだった。若い他の者たちがてキビキビ動いているのにたいし、 ゼエ・・・ゼエ・・・と肩で息をして、へたり込んでしまった醜男に、その姿を見ていた劇団スタッフが、 「バイト、こっちへ来い」と邪険に声をかけた。腰をあげ、醜男がスタッフのほうに行くと、続けて、 「バイト、お前は力がないから、舞台のほうでべつの仕事だ」と言われ、スタッフのあとについていった。

舞台には、アイドルらしき女性が三人。稽古中だった。白を基調に、フリルのついたコートを着ている。 足もとを見ると、黒のタイツに、踵の高い白のピンヒールブーツをはいている。 稽古とはいえ、はじめてみる、きらびやかな世界に醜男は圧倒された。

「バイト、お前は、あそこでひざまずいて丸くなっていろ」とスタッフが舞台の床より すこし高い壇を指さした。 醜男はスタッフから言われたとおり、壇の前に身をかがめ、 丸くなっていると、違う、違うと、手取り足取り、姿勢を指示される。 言われたとおり、壇のほうに尻をむけ、客席に土下座する格好で、額を床につける。頭部から臀部にむかってゆるい勾配をつくる。「いいか、お前は玄関口のスロープだ」とスタッフは醜男に言い、そして、今度はアイドルのほうをむくと、「どうぞ」と言った。醜男のときとは、まるで違う、スタッフのやたら愛想の良い声だった。

コツコツとピンヒールブーツの音を鳴らしながら歩いてくるのが、床すれすれの視界に入った。だんだん、目の前に迫ってくる。 まさか、踏んづけるのでは? と思った瞬間、いきなり、右のピンヒールブーツの踵が頭を突き刺していた。ゆっくり、左のブーツを 床から浮かせ、そのまま体重を右のピンヒールブーツに集めると、背中を踏んだ。踏んだところで、 背中が反れ、腹部が床につきそうになる。すると、「言っただろ? お前は玄関スロープだ。動くな」とスタッフの怒号が飛ぶ。 動くなと言われても、ピンヒールで背中を突き刺されたように踏まれ、体が床に沈む。 あまりの激痛に、ううっ・・・と苦悶の声をあげ、背中を反ると、 バランスをくずしそうになる。「ちょっと、何よ。しっかりしなさいよ」とアイドルが背中を踏んだまま言った。 アイドルは、最後に臀部を踏み、壇にあがった。

「コラー、バイト、ちゃんと踏み台になれ。もし彼女を落としたら、殺すぞ」 とスタッフの声が飛ぶ。踏み台? 殺す? 醜男は耳を疑った。 そこにきて、ようやく醜男は自分がアイドルたちが壇にあがるための踏み台にされていることに気づいた。 それも、勾配のある玄関スロープのような、頭を低くして身をかがめ、 尻を高くする姿勢で、ピンヒールブーツをはいた彼女たちが、壇にあがりやすくするためだけの踏まれる役目であることに。

次のアイドルのピンヒールブーツがすでに近づいている。これから踏み潰される虫の気分だった。 さっきの痛みを思い出して、怖くて体がガタガタふるえる。 泣きそうになる。 彼女は、醜男の頭の直前で、立ち止まると、両足をそろえ、 これから踏むわよ、というふうにゆっくりと彼の頭に、ピンヒールの踵を突き立てた。 じわじわとちいさな踵の面積に力を込め、頭部全体に痛みがひろがり、本底の踏圧で顔が潰されそうだったが、すぐに背中に踏みだし、重みをわける。 二人目のアイドルからは二歩踏まれただけだった。醜男は限界にきていた。なにしろ、相手はまだ少女とはいえ、ほとんど大人の女性の体格だ。 たぶん、自分よりも背も高い。ちいさな女の子に踏まれているのとはわけが違う。それも、踵のとがったピンヒール。

三人目のアイドルのピンヒールブーツの音が近づいてきた。 それを確かめようと、顔をあげようとした瞬間、思い切り頭を踏みつけられた。 どうも、彼女は下からのぞかれると思ったらしく、踏んでいるピンヒールにかなり力を込め、頭を片足で踏んだままだった。 「助けてください・・・」と情けない口調で醜男はこぼしたが、彼女には届かないようだった。 彼女たちにとっては、醜男はただの踏み台だった。アイドルの彼女らに、バイト風情の醜男の言葉が届くわけがなかった。 アイドルは頭を踏み越え、背中にも突き刺すようにピンヒールで踏んでいくと、壇にあがった。

そして、三人のアイドルたちは何事もなかったかのように稽古をはじめた。そのあとも、三人意外の別のアイドルたちからも、 彼女らが壇にあがるたびに、ピンヒールブーツで踏まれ続けた。背中の白いシャツにヒールで踏まれた血がにじみ、彼を気遣うアイドルもいるにはいたが、最初だけだった。 慣れると、誰も踏むことにためらいはなかった。スロープのように勾配をつくっていた醜男も、あまりに頻繁に踏まれすぎて、 腰がおきなくなり、潰れたまんじゅうのような、最後は、ただの、みじめな丸い大きな踏石になっていた。






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踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \ 784



天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784



ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


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カーナビが指示するとおり、ハンドルを切り、小路に入ったところで、曲がりくねる道がしばらく続き、 ようやく、そのアパートを見つけると、クミはそこの駐車場に車を停めた。 助手席の桃子が、「うちの会社、こんなボロいアパートも管理してるの?」とあきれたので、「さまざまな人のニーズにこたえるのが、うちの会社の方針らしいから、まあ、いろいろあるのよ」とクミは皮肉まじりに、そう返した。

車の時計を見ると、予定よりはやく着き、約束の時間までは、まだしばらくある。 クミは車のエンジンを切ると、シートの背もたれを、わずかに倒し、ゆるりと体をあずけた。そして、フロントガラスをぼんやりとながめ、「もし、彼氏の住んでいるところがこんなボロいアパートだったら、どう?」 とクミはひとりごとのように口にした。 「別れます。どんなに好きな人でも、こんなアパートに住んでいたら幻滅すると思う」と桃子がこたえるとクミがそれに笑った。 まだ、いくらも時間は経っていなかったが、 「さっさと片づけて帰りましょう。こんなところにずっと居たくないわ」 とクミがシートから体をおこすと、ふたりは車をおりた。

足もとはアスファルトではなかった。砂利は敷いていたが、周囲を高い建物にかこまれ、ろくに陽も差さないせいで、昨日からの雨で まだ乾かないまま、ぬかるんでいる。そこにはクミたちがのってきた車の轍のあとが四本、深く残っている。クミが踏み出すたび、 地面に黒いパンプスの踵が突き刺さる。クミが靴の汚れを気にしながら、階段をあがっていると、前を行く桃子が、ふり返り、 「誰も住んでいないという話ですが、そんな場合はどうするんですか?」とたずねた。 「住んでいるかどうか、いちおう、部屋をあけて確認して、会社に報告するわね」とクミ。 すると、桃子は何を考えたのか、「まさか死体なんて、ありませんよねえ」と不安そうな顔をする。 「そういうこと言わないで。私、そういうの弱いんだから」とクミが返したところで、ふたりはその部屋の前に来ていた。

クミがドアをノックする。中からの反応はない。今度は、ノックしながら、「山田シゲルさ~ん、ニコニコ不動産です」と 声をかけてみるが、うんともすんとも言わない。「事前に電話したんでしょ?」と桃子がたずねる。「うん、でも携帯に伝言を入れただけ」とクミ。 桃子はドアの横の腰窓から中をのぞこうと背伸びしている。クミは鍵穴に鍵を通すとドアをあけた。

部屋にふくらむ悪臭が鼻をつき、「ゴミ屋敷じゃない。ほんとうに、こんなところに住んでいるのかしら?  もう出ていったあとの空き家じゃないの」とクミが鼻をつまんだ。モノが散乱し、床も畳も見えない。 部屋の真ん中には、フトンが敷きっぱなしになっている。桃子が、「どうします?」 とクミを見る。 それでも、いちおう、会社へは報告しなければ、とクミは思った。「とりあえず、入りましょう」とこたえた。

ふたりは中に入ると、ドアをとじた。ドアが完全にしまると、雨戸もとじられているせいか、 想像以上に暗く、クミは室内灯のスイッチを入れたが、明かりはつかない。 それでも決意をかためると、入居者らしき人が脱ぎ散らかした靴を踏みながら、ぬかるみを踏んだ土足で部屋へとクミはあがった。 桃子も、怖々と、先に行くクミの腕をつかむようにしてあとに続く。

部屋は散乱し、いったい足もとに何があるのか見当もつかない。何を踏んでいるのかもわからない。踏むたびにのめりそうになる。 そのたび、うっかりつまずいて汚物の中に手をつくような不安になる。 やがて、目もなれ、ぼんやりと、部屋の様子が薄く見えてくる。今、足もとで、何を踏んでいるのか、わかるようになった。 たいていがゴミが入ったスーパーの袋の類いで、衣服や雑誌も多かった。潰れたダンボールを踏むと、踵がブスっと突き刺さる。

とにかく、いつでも踵は返せるようにしながら、歩をすすめていると、食パンが数枚、袋に入って、これから踏もうとする位置にある。 ん? まだ人が住んでいるの? とクミは思いながら、パンプスのつま先でポンと蹴ると、 袋から出た食パンを、パンプスで、なんとなく踏んでいた。食べ物を踏んだという後ろめたさが残り、 身をくねらせ、食パンを見ると、ぬかるみの泥のついたパンプスの靴底の模様が残っている。 クミのうしろにいる桃子も、その上から、かまわず、パンプスをのせている。 クミが立ち止まったので、食パンを踏んだままの桃子がクミを見ている。 はやく、ここから出て行きたい、といった顔だった。

部屋の真ん中に敷かれたフトン。 見ると、足もとに枕がある。 暗い中でも、枕もフトンも、なんだか新しく見えた。それでも、かまわず、クミは枕に右のパンプスをのせると、そのまま、両方のパンプスで踏んだ。 すると、心の隅ではあったが、優越感にも似た、不思議な「快感」をおぼえた。人が頭をのせて 休む枕を踏んでいる。それも、外を歩いた靴で踏んでいる。 枕を足踏みすると、なんだか、人を踏みつけている気がする。 こんどは、フトンを踏んでみた。そのやわらかな踏み心地は、どんな高級なじゅうたんでも感じたことがないほどだった。 ふり返り、桃子を見ると、食パンを踏んでいた足を枕に運んでいる。 彼女は、足もとの不安定さから、クミが踏んだあとをなぞるように踏んでいた。

「臭くて息ができないわ。限界」とクミ。 「もう、出ましょう。会社へは空き家だって報告しましょう」と桃子。 ふたりは、パンプスでフトンをしばらく踏んでいたが、やがて、真ん中あたりのふくらみの踏み心地が違っていることに気づいた。 ふたりは顔を見合わせた。人の体を踏んでいる、と思った。 死体を踏んでいる、と。桃子の顔がひどく引きつっている。 クミは、まるで自分の顔を鏡で見ているようだった。 ふたりは無言のまま目で誘いあうと、フトンのふくらみからおりて、引き返すことにした。

こんどは桃子が前だった。彼女は逃げるような足取りで、足もとには、まったくかまっていない様子だった。 床のモノをぞんざいに踏みつけている。クミは、フトンを踏んだときの心地が、まだ靴底にまとわりついて、 生きた心地がしなかった。

ようやく、桃子がドアをあけた。パッと外の光が射し込み、まぶしさに、クミが目を伏せるように足もとに視線をおとしたとき、 リアルなネズミのぬいぐるみのようなモノが目に入った。 一瞬、ホンモノ? ネズミの死骸? とも思ったが、そのまま、勢いのついたパンプスの尖った踵で、その頭部を突き刺していた。 何かを踏み割る音がしたが、かまわず、その踵に、ぐいっと全体重を集めて踏んでいくと、ようやく、クミもドアの外に出た。 桃子を見ると肩で息をしている。 息もできないほど怖かったようだ。 クミはカバンから携帯電話を出すと、会社に電話を入れ、そのあと警察に通報した。






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踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \ 784



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朝というか、もう、ほとんど昼に近い時間だったが、いつもとじられた雨戸のせいで、 部屋は暗かった。醜男が、くるまったフトンから頭を出し、枕もとの目覚まし時計に、顔を近づけ、目をやったところ、 その脇で、携帯電話のランプが、ピカピカ、点滅していることに気づいた。 どうやら、寝ているあいだに、電話が入っていたらしく、手をのばし、携帯電話を取ると、 フトンの中で、伝言を再生してみた。相手は、醜男が借りているアパートの管理会社で、 優しそうな若い女性の声で午後からそちらにうかがいます、という内容だった。

フン、電話先では美人そうな若い女でも、どうせ、やってくるのは、体育会系のヒゲずらの横着な野郎に違いないとか、 想像しながら、そろそろ、起きようかとも思ったが、日雇いの仕事から足が遠のいたころから、引きこもりになった醜男は、 一日じゅう、パジャマがわりのジャージのままで過ごし、外出はおろか、フトンから出ることさえ、最近は、 億劫になっていた。

さて、どうするか、とフトンにくるまり、ひょいと顔だけ出して考えた。 べつに、払いたくなくて払わないわけじゃない、 働きたくても、仕事がないんだ、といつもの愚痴をこぼした。前々からというか、まあ、うすうす予感はしていたが、 いよいよ、ホームレスが現実味を帯びてきた。かといって、滞納した家賃を払うだけのカネもないし、カネを借りるあても なければ、信用もない。そもそも、コミュ障で、友達もいない。せめて、何か売るモノであれば、と異臭が熟した部屋の 中を見まわしたところで足の踏み場もないゴミ屋敷。カネになるモノなど、ある筈がない。

万事休す。それでも、人間、生きていると、腹は減る。食パンがまだ三枚残っていたことを思い出し、 枕もとにあるスーパーの袋から食パンの袋とペットボトルの水を出し、醜男はフトンにくるまったまま、 何もぬらずにパンを口にふくむと、ペットボトルの水で胃に流し込んだ。 途中、同居人でペットのオスのハムスター、スケキヨが、 食べ物の匂いをかぎつけたのか、小走りで、醜男のそばにやってきて、 それを、よこせ、という目をする。しかたなく、パンを適当にちぎってスケキヨに分けてやると、うれしそうに喰いはじめる。パンを二枚食べたところで、醜男は、よほど、あと一枚食べるかどうか悩んだが、 けっきょく、残りは夜のぶんに取って置くことにした。

腹が、満たされたところで、また眠くなる。フトンを頭からかぶる。それから、どのくらい経ったか、ちょうど、うとうとしかけたとき、 静かに部屋のドアを叩く音がした。 醜男は、そこで携帯電話の伝言のことを思い出し、居留守を使うことにした。ドアを叩く音が鳴りやむと、こんどは、カギをまわす音がした。 醜男はあせった。そして、フトンに深くもぐり、そのフトンのすき間から、玄関の様子をうかがった。

カギの音がやむと、ドアがひらき、白みがかった光が、外の新鮮な空気をまとい、射し込んできた。まぶしさに目を細め、 目を凝らすと、人影があらわれた。やがて、それは、みるみる、全体の輪郭を帯びると、会社の制服を着た若い女性がふたり、立っていた。 ふたりとも、かなりの美人だった。玄関先から、中をのぞき込んでいる。

「ゴミ屋敷じゃない。ほんとうに、こんなところに住んでいるのかしら? もう出ていったあとの空き家じゃないの」と女性のひとりが言った。 伝言に入っていた女性の声だった。 すると、もうひとりの女性が、「どうします?」と返した。 そんなやり取りを聞きながら、醜男は、フトンをかぶり、彼女たちの足もとを見ていた。 伝言の声の女性は、黒っぽいパンプスを、もうひとりの女性は、ベージュのパンプスをはいている。 ふたりとも踵は、それほど高くないが、先は尖っている。 「とりあえず、入りましょう」と伝言の女性は、ため息をつきながら、 そういうと、ドアをとじ、ふたりは靴をはいたまま土足で畳の部屋へあがった。

ドアがとじられると急に部屋が薄暗くなった。どちらかの女性が部屋の照明のスイッチを入れる音がするが、 部屋の電気はとうにとめられている。 しかたなく、ふたりは、手探りするように、ゆっくりと、歩をすすめるが、 踏み出すたび、何かを踏み潰す音が部屋じゅうに響く。 途中、「靴をはいていて良かったわね」と伝言の声の女性が言った。 「なんか、私たち、いろいろ踏んづけてるよ」ともうひとりの女性。 そんなやり取りを、フトンの中から、醜男は息をひそめ、聞いている。

やがて、黒いパンプスのかたほうが枕を踏んだところで、歩がとまり、もうかたほうのパンプスも枕を踏むと、 そこで黒いパンプスが足踏みのようなことをはじめた。 様子からすると、足踏みで、踏んでいるモノを確かめているようだった。そして、確認作業がすむと、黒いパンプスは、フトンを踏みはじめた。 そのうしろに続くベージュのパンプスも、同じように枕を踏んでいる。どうやら、 足もとの悪さから、ベージュのパンプスは、黒いパンプスが踏んだ場所をなぞるように踏んで歩をすすめている ようだった。ふたつの色のパンプスは、すぐ醜男のそばまで迫っていた。

醜男は、彼女たちに自分の存在が見つかってしまうことよりも、踏まれて大ケガするのではないかと、そっちの 身の危険を感じた。さすがに、踵の尖った靴をはいた大人の女性から、フトンの上からとはいえ、まともに踏まれたら、 ひとたまりもない気がした。しかし、自分の存在がバレてしまったら、滞納ぶんを請求されるだろう。 醜男が、迷っていると、 突然、頭に重い鈍痛がひろがった。掛けフトンごと、醜男は女性から パンプスで頭を踏まれていた。フトンからとはいえ、先の尖った踵の重い芯は、確実に後頭部に食い込んだ。 女性の生々しい肉体のすべての重みが、踵に集約されている。踏んだ女性は、部屋に入ったときから、いろいろなモノを踏みすぎたせいだろう。醜男を踏んだ感触を、なんとも思っていないようだった。 重みは頭部から背中へ移動し、こんどは、新たな重みが頭をおそった。ベージュのパンプスの女性が頭を踏んだようだった。

黒いパンプスの女性は、背中から臀部あたりで立ったまま歩をとめている。ベージュのパンプスは頭部と首筋あたりを踏んで 歩をとめている。醜男を踏んだまま、「臭くて息ができないわ。限界」と黒いパンプスの女性。それに、 「私もよ。もう、出ましょう。会社へは空き家だって報告しましょう」とベージュのパンプスの女性がそれにこたえる。 そのあいだも、醜男は目をとじ、こぶしをにぎり、ふたりの重みに必死にたえていたが、やがて、そんな苦痛 からも解放されると、ドアがひらく音がした。一瞬、部屋が明るくなり、ドアがとじると、また暗がりに戻った。

醜男は、しばらくフトンから出ることができなかった。億劫さからではなく、女性たちから靴のまま踏まれ、 けっこう、体の芯まで、こたえていたのだ。夕方くらいになって、フトンからやっと起きあがった。 玄関に行くと、部屋のドアをあけたまま、外の光を入れた。

部屋は、かなり踏み荒らされていた。カップラーメンの残り汁らしき液体を踏んだ2種類のパンプスの靴底 模様が、薄汚れた白い枕カバーやフトンに、はっきりと無数に刻まれていた。そればかりか、これから 食べようと思っていた夕食の食パンにさえ残っている。いや、そんなことより、さっきから、スケキヨがいない。 考えてみると、女性たちが入ってきたときから、彼の気配がなかった。

醜男はあせった。もしかして、踏み殺されたのでは? と思った。スケキヨの寝床にしていた菓子箱が玄関に転がっていた。 そして、そのすぐそばに彼がいた。だが、揺すっても動かない。醜男は、そっと彼を手の中に入れ、その顔を見て、 驚いた。

体はどうもなっていないにもかかわらず、両目が飛び出ていたからだった。よく見ると、 頭部がくぼんでいる。真上から、パンプスの踵でまともに踏まれたらしく、頭部がパンプスの踵の形のまま陥没している。 醜男は、自分が家賃を滞納したばかりに、彼をこんな無残な姿で、死なせてしまったことを悔いると、声をあげて号泣した。






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踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \ 784



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