天使の刻印 - 葉桜夏樹 Blog

もの書き:「踏まれたい」(単行本)「ハイヒールで踏まれ
て」(kindle版)など。 femdom、フェティシズム、アルトカ
ルシフィリア、クラッシュ、でも、そこに「美」への正当な
言い訳が用意できたら、耽美で、妖艶で、死への憧憬を抱か
せる快楽の物語が綴れたら。



テーマ:
携帯電話に、メールが入り、急に決まった仕事だった。 派遣会社に電話をすると、担当の正社員が出て、仕事の内容は、なんでも、 劇の舞台装置の搬入とかで、報酬も高く、割のいい仕事だと言ってはいたが、 たいてい、その手の話は眉唾だ。醜男は話半分にきいていた。

次の日、待ち合わせ場所の駅前ロータリーに着くと、 派遣会社のネームの入った車が、すでに迎えにきていた。 車はトヨタの古いハイエース。 中をのぞくと、運転手以外に、すでに四人ほどが乗っている。 助手席の窓を軽くたたき、運転手に派遣会社から渡された紙を見せた。 運転手は人差し指を下にすると、助手席に乗れ、と言った。 醜男が助手席に乗ると、車はすぐに走りだした。

着いた場所は地方のコンサートホールだった。すでにホールの入口には、公演される劇の 立て看板があった。 少女ばかりの有名なアイドル劇団で、 芸能界にうとい醜男でさえ、彼女らを知っていた。 車からおり、醜男たちは、演劇スタッフから搬入口に案内されると、そこに停まってる大型のトラックから、 舞台の設置機材などを搬入するように言われた。

醜男たちはたった五人で搬入に取りかかった。 中年の醜男にとっては、かなりハードだった。若い他の者たちがてキビキビ動いているのにたいし、 ゼエ・・・ゼエ・・・と肩で息をして、へたり込んでしまった醜男に、その姿を見ていた劇団スタッフが、 「バイト、こっちへ来い」と邪険に声をかけた。腰をあげ、醜男がスタッフのほうに行くと、続けて、 「バイト、お前は力がないから、舞台のほうでべつの仕事だ」と言われ、スタッフのあとについていった。

舞台には、アイドルらしき女性が三人。稽古中だった。白を基調に、フリルのついたコートを着ている。 足もとを見ると、黒のタイツに、踵の高い白のピンヒールブーツをはいている。 稽古とはいえ、はじめてみる、きらびやかな世界に醜男は圧倒された。

「バイト、お前は、あそこでひざまずいて丸くなっていろ」とスタッフが舞台の床より すこし高い壇を指さした。 醜男はスタッフから言われたとおり、壇の前に身をかがめ、 丸くなっていると、違う、違うと、手取り足取り、姿勢を指示される。 言われたとおり、壇のほうに尻をむけ、客席に土下座する格好で、額を床につける。頭部から臀部にむかってゆるい勾配をつくる。「いいか、お前は玄関口のスロープだ」とスタッフは醜男に言い、そして、今度はアイドルのほうをむくと、「どうぞ」と言った。醜男のときとは、まるで違う、スタッフのやたら愛想の良い声だった。

コツコツとピンヒールブーツの音を鳴らしながら歩いてくるのが、床すれすれの視界に入った。だんだん、目の前に迫ってくる。 まさか、踏んづけるのでは? と思った瞬間、いきなり、右のピンヒールブーツの踵が頭を突き刺していた。ゆっくり、左のブーツを 床から浮かせ、そのまま体重を右のピンヒールブーツに集めると、背中を踏んだ。踏んだところで、 背中が反れ、腹部が床につきそうになる。すると、「言っただろ? お前は玄関スロープだ。動くな」とスタッフの怒号が飛ぶ。 動くなと言われても、ピンヒールで背中を突き刺されたように踏まれ、体が床に沈む。 あまりの激痛に、ううっ・・・と苦悶の声をあげ、背中を反ると、 バランスをくずしそうになる。「ちょっと、何よ。しっかりしなさいよ」とアイドルが背中を踏んだまま言った。 アイドルは、最後に臀部を踏み、壇にあがった。

「コラー、バイト、ちゃんと踏み台になれ。もし彼女を落としたら、殺すぞ」 とスタッフの声が飛ぶ。踏み台? 殺す? 醜男は耳を疑った。 そこにきて、ようやく醜男は自分がアイドルたちが壇にあがるための踏み台にされていることに気づいた。 それも、勾配のある玄関スロープのような、頭を低くして身をかがめ、 尻を高くする姿勢で、ピンヒールブーツをはいた彼女たちが、壇にあがりやすくするためだけの踏まれる役目であることに。

次のアイドルのピンヒールブーツがすでに近づいている。これから踏み潰される虫の気分だった。 さっきの痛みを思い出して、怖くて体がガタガタふるえる。 泣きそうになる。 彼女は、醜男の頭の直前で、立ち止まると、両足をそろえ、 これから踏むわよ、というふうにゆっくりと彼の頭に、ピンヒールの踵を突き立てた。 じわじわとちいさな踵の面積に力を込め、頭部全体に痛みがひろがり、本底の踏圧で顔が潰されそうだったが、すぐに背中に踏みだし、重みをわける。 二人目のアイドルからは二歩踏まれただけだった。醜男は限界にきていた。なにしろ、相手はまだ少女とはいえ、ほとんど大人の女性の体格だ。 たぶん、自分よりも背も高い。ちいさな女の子に踏まれているのとはわけが違う。それも、踵のとがったピンヒール。

三人目のアイドルのピンヒールブーツの音が近づいてきた。 それを確かめようと、顔をあげようとした瞬間、思い切り頭を踏みつけられた。 どうも、彼女は下からのぞかれると思ったらしく、踏んでいるピンヒールにかなり力を込め、頭を片足で踏んだままだった。 「助けてください・・・」と情けない口調で醜男はこぼしたが、彼女には届かないようだった。 彼女たちにとっては、醜男はただの踏み台だった。アイドルの彼女らに、バイト風情の醜男の言葉が届くわけがなかった。 アイドルは頭を踏み越え、背中にも突き刺すようにピンヒールで踏んでいくと、壇にあがった。

そして、三人のアイドルたちは何事もなかったかのように稽古をはじめた。そのあとも、三人意外の別のアイドルたちからも、 彼女らが壇にあがるたびに、ピンヒールブーツで踏まれ続けた。背中の白いシャツにヒールで踏まれた血がにじみ、彼を気遣うアイドルもいるにはいたが、最初だけだった。 慣れると、誰も踏むことにためらいはなかった。スロープのように勾配をつくっていた醜男も、あまりに頻繁に踏まれすぎて、 腰がおきなくなり、潰れたまんじゅうのような、最後は、ただの、みじめな丸い大きな踏石になっていた。






小説(官能小説) ブログランキングへ



踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \ 784



天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784



ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ

KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、
各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。
Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。
もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます。

AD
 |  リブログ(0)

テーマ:
カーナビが指示するとおり、ハンドルを切り、小路に入ったところで、曲がりくねる道がしばらく続き、 ようやく、そのアパートを見つけると、クミはそこの駐車場に車を停めた。 助手席の桃子が、「うちの会社、こんなボロいアパートも管理してるの?」とあきれたので、「さまざまな人のニーズにこたえるのが、うちの会社の方針らしいから、まあ、いろいろあるのよ」とクミは皮肉まじりに、そう返した。

車の時計を見ると、予定よりはやく着き、約束の時間までは、まだしばらくある。 クミは車のエンジンを切ると、シートの背もたれを、わずかに倒し、ゆるりと体をあずけた。そして、フロントガラスをぼんやりとながめ、「もし、彼氏の住んでいるところがこんなボロいアパートだったら、どう?」 とクミはひとりごとのように口にした。 「別れます。どんなに好きな人でも、こんなアパートに住んでいたら幻滅すると思う」と桃子がこたえるとクミがそれに笑った。 まだ、いくらも時間は経っていなかったが、 「さっさと片づけて帰りましょう。こんなところにずっと居たくないわ」 とクミがシートから体をおこすと、ふたりは車をおりた。

足もとはアスファルトではなかった。砂利は敷いていたが、周囲を高い建物にかこまれ、ろくに陽も差さないせいで、昨日からの雨で まだ乾かないまま、ぬかるんでいる。そこにはクミたちがのってきた車の轍のあとが四本、深く残っている。クミが踏み出すたび、 地面に黒いパンプスの踵が突き刺さる。クミが靴の汚れを気にしながら、階段をあがっていると、前を行く桃子が、ふり返り、 「誰も住んでいないという話ですが、そんな場合はどうするんですか?」とたずねた。 「住んでいるかどうか、いちおう、部屋をあけて確認して、会社に報告するわね」とクミ。 すると、桃子は何を考えたのか、「まさか死体なんて、ありませんよねえ」と不安そうな顔をする。 「そういうこと言わないで。私、そういうの弱いんだから」とクミが返したところで、ふたりはその部屋の前に来ていた。

クミがドアをノックする。中からの反応はない。今度は、ノックしながら、「山田シゲルさ~ん、ニコニコ不動産です」と 声をかけてみるが、うんともすんとも言わない。「事前に電話したんでしょ?」と桃子がたずねる。「うん、でも携帯に伝言を入れただけ」とクミ。 桃子はドアの横の腰窓から中をのぞこうと背伸びしている。クミは鍵穴に鍵を通すとドアをあけた。

部屋にふくらむ悪臭が鼻をつき、「ゴミ屋敷じゃない。ほんとうに、こんなところに住んでいるのかしら?  もう出ていったあとの空き家じゃないの」とクミが鼻をつまんだ。モノが散乱し、床も畳も見えない。 部屋の真ん中には、フトンが敷きっぱなしになっている。桃子が、「どうします?」 とクミを見る。 それでも、いちおう、会社へは報告しなければ、とクミは思った。「とりあえず、入りましょう」とこたえた。

ふたりは中に入ると、ドアをとじた。ドアが完全にしまると、雨戸もとじられているせいか、 想像以上に暗く、クミは室内灯のスイッチを入れたが、明かりはつかない。 それでも決意をかためると、入居者らしき人が脱ぎ散らかした靴を踏みながら、ぬかるみを踏んだ土足で部屋へとクミはあがった。 桃子も、怖々と、先に行くクミの腕をつかむようにしてあとに続く。

部屋は散乱し、いったい足もとに何があるのか見当もつかない。何を踏んでいるのかもわからない。踏むたびにのめりそうになる。 そのたび、うっかりつまずいて汚物の中に手をつくような不安になる。 やがて、目もなれ、ぼんやりと、部屋の様子が薄く見えてくる。今、足もとで、何を踏んでいるのか、わかるようになった。 たいていがゴミが入ったスーパーの袋の類いで、衣服や雑誌も多かった。潰れたダンボールを踏むと、踵がブスっと突き刺さる。

とにかく、いつでも踵は返せるようにしながら、歩をすすめていると、食パンが数枚、袋に入って、これから踏もうとする位置にある。 ん? まだ人が住んでいるの? とクミは思いながら、パンプスのつま先でポンと蹴ると、 袋から出た食パンを、パンプスで、なんとなく踏んでいた。食べ物を踏んだという後ろめたさが残り、 身をくねらせ、食パンを見ると、ぬかるみの泥のついたパンプスの靴底の模様が残っている。 クミのうしろにいる桃子も、その上から、かまわず、パンプスをのせている。 クミが立ち止まったので、食パンを踏んだままの桃子がクミを見ている。 はやく、ここから出て行きたい、といった顔だった。

部屋の真ん中に敷かれたフトン。 見ると、足もとに枕がある。 暗い中でも、枕もフトンも、なんだか新しく見えた。それでも、かまわず、クミは枕に右のパンプスをのせると、そのまま、両方のパンプスで踏んだ。 すると、心の隅ではあったが、優越感にも似た、不思議な「快感」をおぼえた。人が頭をのせて 休む枕を踏んでいる。それも、外を歩いた靴で踏んでいる。 枕を足踏みすると、なんだか、人を踏みつけている気がする。 こんどは、フトンを踏んでみた。そのやわらかな踏み心地は、どんな高級なじゅうたんでも感じたことがないほどだった。 ふり返り、桃子を見ると、食パンを踏んでいた足を枕に運んでいる。 彼女は、足もとの不安定さから、クミが踏んだあとをなぞるように踏んでいた。

「臭くて息ができないわ。限界」とクミ。 「もう、出ましょう。会社へは空き家だって報告しましょう」と桃子。 ふたりは、パンプスでフトンをしばらく踏んでいたが、やがて、真ん中あたりのふくらみの踏み心地が違っていることに気づいた。 ふたりは顔を見合わせた。人の体を踏んでいる、と思った。 死体を踏んでいる、と。桃子の顔がひどく引きつっている。 クミは、まるで自分の顔を鏡で見ているようだった。 ふたりは無言のまま目で誘いあうと、フトンのふくらみからおりて、引き返すことにした。

こんどは桃子が前だった。彼女は逃げるような足取りで、足もとには、まったくかまっていない様子だった。 床のモノをぞんざいに踏みつけている。クミは、フトンを踏んだときの心地が、まだ靴底にまとわりついて、 生きた心地がしなかった。

ようやく、桃子がドアをあけた。パッと外の光が射し込み、まぶしさに、クミが目を伏せるように足もとに視線をおとしたとき、 リアルなネズミのぬいぐるみのようなモノが目に入った。 一瞬、ホンモノ? ネズミの死骸? とも思ったが、そのまま、勢いのついたパンプスの尖った踵で、その頭部を突き刺していた。 何かを踏み割る音がしたが、かまわず、その踵に、ぐいっと全体重を集めて踏んでいくと、ようやく、クミもドアの外に出た。 桃子を見ると肩で息をしている。 息もできないほど怖かったようだ。 クミはカバンから携帯電話を出すと、会社に電話を入れ、そのあと警察に通報した。






小説(官能小説) ブログランキングへ




踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \ 784



天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784



ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ

KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、
各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。
Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。
もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます。

AD
 |  リブログ(0)

テーマ:

朝というか、もう、ほとんど昼に近い時間だったが、いつもとじられた雨戸のせいで、 部屋は暗かった。醜男が、くるまったフトンから頭を出し、枕もとの目覚まし時計に、顔を近づけ、目をやったところ、 その脇で、携帯電話のランプが、ピカピカ、点滅していることに気づいた。 どうやら、寝ているあいだに、電話が入っていたらしく、手をのばし、携帯電話を取ると、 フトンの中で、伝言を再生してみた。相手は、醜男が借りているアパートの管理会社で、 優しそうな若い女性の声で午後からそちらにうかがいます、という内容だった。

フン、電話先では美人そうな若い女でも、どうせ、やってくるのは、体育会系のヒゲずらの横着な野郎に違いないとか、 想像しながら、そろそろ、起きようかとも思ったが、日雇いの仕事から足が遠のいたころから、引きこもりになった醜男は、 一日じゅう、パジャマがわりのジャージのままで過ごし、外出はおろか、フトンから出ることさえ、最近は、 億劫になっていた。

さて、どうするか、とフトンにくるまり、ひょいと顔だけ出して考えた。 べつに、払いたくなくて払わないわけじゃない、 働きたくても、仕事がないんだ、といつもの愚痴をこぼした。前々からというか、まあ、うすうす予感はしていたが、 いよいよ、ホームレスが現実味を帯びてきた。かといって、滞納した家賃を払うだけのカネもないし、カネを借りるあても なければ、信用もない。そもそも、コミュ障で、友達もいない。せめて、何か売るモノであれば、と異臭が熟した部屋の 中を見まわしたところで足の踏み場もないゴミ屋敷。カネになるモノなど、ある筈がない。

万事休す。それでも、人間、生きていると、腹は減る。食パンがまだ三枚残っていたことを思い出し、 枕もとにあるスーパーの袋から食パンの袋とペットボトルの水を出し、醜男はフトンにくるまったまま、 何もぬらずにパンを口にふくむと、ペットボトルの水で胃に流し込んだ。 途中、同居人でペットのオスのハムスター、スケキヨが、 食べ物の匂いをかぎつけたのか、小走りで、醜男のそばにやってきて、 それを、よこせ、という目をする。しかたなく、パンを適当にちぎってスケキヨに分けてやると、うれしそうに喰いはじめる。パンを二枚食べたところで、醜男は、よほど、あと一枚食べるかどうか悩んだが、 けっきょく、残りは夜のぶんに取って置くことにした。

腹が、満たされたところで、また眠くなる。フトンを頭からかぶる。それから、どのくらい経ったか、ちょうど、うとうとしかけたとき、 静かに部屋のドアを叩く音がした。 醜男は、そこで携帯電話の伝言のことを思い出し、居留守を使うことにした。ドアを叩く音が鳴りやむと、こんどは、カギをまわす音がした。 醜男はあせった。そして、フトンに深くもぐり、そのフトンのすき間から、玄関の様子をうかがった。

カギの音がやむと、ドアがひらき、白みがかった光が、外の新鮮な空気をまとい、射し込んできた。まぶしさに目を細め、 目を凝らすと、人影があらわれた。やがて、それは、みるみる、全体の輪郭を帯びると、会社の制服を着た若い女性がふたり、立っていた。 ふたりとも、かなりの美人だった。玄関先から、中をのぞき込んでいる。

「ゴミ屋敷じゃない。ほんとうに、こんなところに住んでいるのかしら? もう出ていったあとの空き家じゃないの」と女性のひとりが言った。 伝言に入っていた女性の声だった。 すると、もうひとりの女性が、「どうします?」と返した。 そんなやり取りを聞きながら、醜男は、フトンをかぶり、彼女たちの足もとを見ていた。 伝言の声の女性は、黒っぽいパンプスを、もうひとりの女性は、ベージュのパンプスをはいている。 ふたりとも踵は、それほど高くないが、先は尖っている。 「とりあえず、入りましょう」と伝言の女性は、ため息をつきながら、 そういうと、ドアをとじ、ふたりは靴をはいたまま土足で畳の部屋へあがった。

ドアがとじられると急に部屋が薄暗くなった。どちらかの女性が部屋の照明のスイッチを入れる音がするが、 部屋の電気はとうにとめられている。 しかたなく、ふたりは、手探りするように、ゆっくりと、歩をすすめるが、 踏み出すたび、何かを踏み潰す音が部屋じゅうに響く。 途中、「靴をはいていて良かったわね」と伝言の声の女性が言った。 「なんか、私たち、いろいろ踏んづけてるよ」ともうひとりの女性。 そんなやり取りを、フトンの中から、醜男は息をひそめ、聞いている。

やがて、黒いパンプスのかたほうが枕を踏んだところで、歩がとまり、もうかたほうのパンプスも枕を踏むと、 そこで黒いパンプスが足踏みのようなことをはじめた。 様子からすると、足踏みで、踏んでいるモノを確かめているようだった。そして、確認作業がすむと、黒いパンプスは、フトンを踏みはじめた。 そのうしろに続くベージュのパンプスも、同じように枕を踏んでいる。どうやら、 足もとの悪さから、ベージュのパンプスは、黒いパンプスが踏んだ場所をなぞるように踏んで歩をすすめている ようだった。ふたつの色のパンプスは、すぐ醜男のそばまで迫っていた。

醜男は、彼女たちに自分の存在が見つかってしまうことよりも、踏まれて大ケガするのではないかと、そっちの 身の危険を感じた。さすがに、踵の尖った靴をはいた大人の女性から、フトンの上からとはいえ、まともに踏まれたら、 ひとたまりもない気がした。しかし、自分の存在がバレてしまったら、滞納ぶんを請求されるだろう。 醜男が、迷っていると、 突然、頭に重い鈍痛がひろがった。掛けフトンごと、醜男は女性から パンプスで頭を踏まれていた。フトンからとはいえ、先の尖った踵の重い芯は、確実に後頭部に食い込んだ。 女性の生々しい肉体のすべての重みが、踵に集約されている。踏んだ女性は、部屋に入ったときから、いろいろなモノを踏みすぎたせいだろう。醜男を踏んだ感触を、なんとも思っていないようだった。 重みは頭部から背中へ移動し、こんどは、新たな重みが頭をおそった。ベージュのパンプスの女性が頭を踏んだようだった。

黒いパンプスの女性は、背中から臀部あたりで立ったまま歩をとめている。ベージュのパンプスは頭部と首筋あたりを踏んで 歩をとめている。醜男を踏んだまま、「臭くて息ができないわ。限界」と黒いパンプスの女性。それに、 「私もよ。もう、出ましょう。会社へは空き家だって報告しましょう」とベージュのパンプスの女性がそれにこたえる。 そのあいだも、醜男は目をとじ、こぶしをにぎり、ふたりの重みに必死にたえていたが、やがて、そんな苦痛 からも解放されると、ドアがひらく音がした。一瞬、部屋が明るくなり、ドアがとじると、また暗がりに戻った。

醜男は、しばらくフトンから出ることができなかった。億劫さからではなく、女性たちから靴のまま踏まれ、 けっこう、体の芯まで、こたえていたのだ。夕方くらいになって、フトンからやっと起きあがった。 玄関に行くと、部屋のドアをあけたまま、外の光を入れた。

部屋は、かなり踏み荒らされていた。カップラーメンの残り汁らしき液体を踏んだ2種類のパンプスの靴底 模様が、薄汚れた白い枕カバーやフトンに、はっきりと無数に刻まれていた。そればかりか、これから 食べようと思っていた夕食の食パンにさえ残っている。いや、そんなことより、さっきから、スケキヨがいない。 考えてみると、女性たちが入ってきたときから、彼の気配がなかった。

醜男はあせった。もしかして、踏み殺されたのでは? と思った。スケキヨの寝床にしていた菓子箱が玄関に転がっていた。 そして、そのすぐそばに彼がいた。だが、揺すっても動かない。醜男は、そっと彼を手の中に入れ、その顔を見て、 驚いた。

体はどうもなっていないにもかかわらず、両目が飛び出ていたからだった。よく見ると、 頭部がくぼんでいる。真上から、パンプスの踵でまともに踏まれたらしく、頭部がパンプスの踵の形のまま陥没している。 醜男は、自分が家賃を滞納したばかりに、彼をこんな無残な姿で、死なせてしまったことを悔いると、声をあげて号泣した。






小説(官能小説) ブログランキングへ



踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \ 784



天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784



ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ

KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、
各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。
Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。
もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます。

AD
 |  リブログ(0)

テーマ:
バレーボール部の早朝練習があるので、美央は駆け足で、校門をくぐった。 真新しい朝の誰もいない学校が美央は好きだ。 なんだか、身も心も、すごく、新しくなった気がするからだった。部室に入ると、すでに、早紀と舞がいて、 ふたりはバレーボールのウェアに着替えているところだった。ふたりの足もとに目がとまり、「ふたりとも新しいシューズ、買ったの?」と美央がたずねると、「まあね」と早紀が返した。 美央が「私も買おうと思っていたところだったんだあ」とすこし不満そうに言うと、舞は「ごめん、ごめん、こんど、 買うときは、必ず、言うよ」と笑った。そのうち、大勢の部員たちが、ぞろぞろ、部室に入ってきて、 着替えの邪魔になると思った三人は、先にグラウンドに出た。 バレーボール部全員が外に出てきたところで、みんなで、トラックを、ゆっくりと数回ほど 走ると、学校近くの海浜公園にむかった。

公園に着くと、すぐに砂浜を走る。足腰を鍛えるためだが、美央は苦手だった。まず、シューズの中に砂が入ることが 嫌だった。それに、ふくらはぎがだるくなり、そのうち、足の運びがだらしなくなり、うっかりすると、弾力をうしなった 両足がもつれそうになる。「ファイト」のかけ声も、だんだん、声がかすれ、苦痛になる。 それに、砂浜には海から打ちあげられたゴミが大量にあり、それをよけて走るのも、けっこう、大変だった。 それにしても、どうして、こんなにもゴミが多いのだろうと思う。美央の通う高校では、ときどき、 生徒達の手で、浜辺を清掃しているのに、まったく、きれいにならない。美央は、走りながら、だんだん腹は立ってきた。 誰よ、海にゴミを捨てるのは、と美央は、そのうち、ゴミをよけるのが面倒になると、わざと踏みつけて走った。

そんなふうな気持ちで走っていると、前を走る部員たちの道筋の延長に、白いものが、ぼうっと見え、近づくうち、 まだ真新しいタオルだとわかった。前を走る部員たちは、こんなところに落ちているのが悪いとでも言わんばかりに、 そうすることが秩序のように、タオルを淡々と踏んでいく。美央も、タオルに、歩幅を合わせ、狙いをさだめていたが、 すぐ前を走る部員が、タオルをシューズで踏みながらさらっていった。しかたなく、美央は、タオルがあった筈の砂地に シューズを踏みおろした。すると、砂地の筈なのに、グニャと、生き物を踏んだ妙な感触が、シューズの靴底から、はっきり伝わった。 タコや魚の死骸でも踏んだ? と思ったが、ふり返る余裕もなく、かまわず、美央は走った。

すると、こんどは、汚いリュックが落ちていた。それも、部員たちは決まりごとのように踏みつけていく。 美央が、それも踏んで、走っていると、砂の上にパンが裸のまま不自然に落ちている。 タオルやリュックと関係しているものらしかった。遠くへ蹴飛ばされたのか、タオルやリュックの位置から すこし離れている。だんだん近づいてきて、目を凝らすと、すでに前を走る部員たちから踏まれたあとで、ぺしゃんこに潰れている。 あんこのようなものも、はみ出ている。その表面の皮も、部員たちのシューズの靴底の模様が複雑に刻まれている。 そんなふうなパンが、じっさい、足もとにくると、美央も、やっぱり、そうしなければいけないような気がする。 右足のシューズを投げ出すようにしてパンを踏みつけた。ところが、面倒なことに、そのまま、 パンが靴底にくっついた。それでも、何度か踏んでいるうちに、パンは自然に離れていた。 踏んだ感触はなかった。かわりに、人が口に入れるものを踏んだという、わずかな罪悪感が心の内に残ったが、 そのいっぽうで、まさか、人が靴で踏んだ靴あとのついたパンなんて食べる人いないわよね、 地べたに落ちているモノを踏んで何が悪いの? とも思った。

ランニングを終え、部室に戻り、制服に着替えていると、早紀が、シューズの裏に赤いものがついている、と言いだした。 早紀の軽い狼狽ぶりに、舞がシューズの靴底を見ながら、「ほんとだ、なあに? これ? 血? 」と言うと、部室が大騒ぎになった。 部員の何人かの靴底にも、血がついていたからだった。「私たち、何か、踏んだ? 」と、部員たちは、顔を見合わせ、 砂浜でのランニングの風景を思い起こしてみたが、魚が落ちていたとか、犬や猫の死骸を踏んだかもとか、みんな、 どうも、はっきりしない。「そういえば、タオルとリュックとパンは踏んだよねえ?」と誰かが言うと、 「うん、うん、踏んだ、ぜんぶ、思い切り、踏んでやった」とまたべつの誰かがこたえた。 けっきょく、靴底の血はわからないままだったが、部室を出るころには、その話も、すっかり流れ、 最近、彼氏ができたという部員の話題になっていた。





小説(官能小説) ブログランキングへ




踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \ 784



天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784



ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ

KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、
各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。
Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。
もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます。
 |  リブログ(0)

テーマ:
醜男の寝床は、駅前のネットカフェだが、今夜、そこに入ると、 全財産というか、所持金が、13 円しか残らず、さすがに、それはまずい。 外で寝るかと考えたが、夏もおわり、夜は、けっこう、肌寒いし、 とりあえず、思いついたところに、足を運ぶと、どこもダンボールでかこんだ先客たちがいて、あっちへ行け、という邪険な目つきで醜男をにらむ。まるで、冬の準備をなまけたキリギリスの気分になる。 しかたなし、醜男は、それから、また、しばらく、寝床をさがし、ほっつき歩いた。

とうとう海浜公園にまで来ていた。砂浜に出て、体操座りをすると、しずかな波の音を聞きながら、ぼんやり、夜の海を見ていた。 遠くに光る向こう岸の街の明かりは、銀河がまばたくようで、それを見ているうち、 腹の虫が鳴き、背負っていたリュックをおろし、中をのぞくと、あんパンが一個残っていた。それを食べてしまうと、いよいよ、 もうなにも食べるものがなくなってしまう。醜男は、あんパンを袋から出し、しばらく、ながめていたが、 匂いをかぐと、皮をペロペロ舐めるだけで、食べるのは我慢することにした。

夜もふけると、体がだんだん重くなり、さて、どうしよう、と考えているうち、待てよ、と醜男は思った。 砂をフトンのかわりにして寝ればよいではないか、とひらめき、さっそく、近くに適当な流木を見つけると、 砂の地面に、20センチほどの深さで、自分の身長ぶんほどの長さの穴を掘った。それから、醜男は、自ら、そこにおさまると、 掘りおこしたまわりの土を集め、それを自分の体を埋めるようにしてかぶせた。最初は、どうかとも思ったが、じっさい、 寝てみると、砂のフトンは、あんがい快適で、しかも暖かく、醜男は気に入ると、すぐに眠気につかまった。

どのくらい眠っただろう。まわりが白んでくると、遠くから黄色い声が聞こえ、 それで目が覚めた。 砂の枕から、ひょいと頭をあげ、黄色い声のほうを見ると、高校生くらいの女の子たちが、 2、30人、バレーボール部らしき派手なウェアとパンツ、そして白のハイソックスをはき、 「ファイト」のかけ声で、ランニングをしている姿が見えた。はちきれんばかりの太ももやふくらはぎは、まさに健康美そのもので、どの子も、 たぶん、自分なんかより、ずっと、背も高く、体格も良く見えた。この近くに、下校時には校門に外車が並ぶことで有名なお嬢様学校があったことを思い出し、 そこの学校に通う生徒達の部活動だろうと思った。その日暮らしで、寝床すらなく、全財産が2、013円の醜男にとって、 自分とは違う世界の女の子たちだった。

雲のすきまから陽が差してくると、醜男は目を細めた。砂から手を出し、リュックの口をあけ、タオルを取ると、 それを顔の上に、ひょいとかぶせ、あげていた頭をもとに戻し、もうひと眠りすることにした。すると、 なんとなくだが、「ファイト」の、かけ声が、だんだん近づいてくる気がして、それが、いよいよ、すぐそばで聞こえると、 本気で身の危険を感じた。砂から出ようと頭をあげようとしたとき、醜男の胸部や腹部に、重みの鈍痛がひろがり、あげかけた頭を、 そのまま砂に押し倒されるようにして、タオルの上から、顔全体を、女子バレーボール部員の全体重ののったシューズでもろに踏みつけられた。

突然のことで声も出ない。それをいいことに、部員たちは、まるで、そこに醜男が埋っていることを、ひそかに知っていたかのように 見事に顔をタオルの上から踏んでいく。そうやって踏まれ続けているうちに、顔の上のタオルがめくれ、やっと顔を見せることができ、 醜男は、それこそ、死にものぐるいで声をあげようとしたが、自分の顔よりも大きな靴底が、次々に顔面に落ちてきては口を ひらくことができない。それどころか、部員たちが、醜男の顔を踏んだ瞬間、鋭利な滑り止めの溝が刻まれたシューズで、体重をのせたまま、ぐいっと踏みにじったり、顔の皮膚を後ろに 蹴りあげたりしたせいで、舌を切り、何度も何度も踏み潰された鼻からは、鼻血が出て、顔じゅうに血の幾重もの靴底模様を刻んでいる。 それでも、踏んだ感触に、おぼえがないのか、容赦なく、遠慮なく、部員たちは、醜男の顔を踏んでいく。

かけ声が遠のき、やがて消えていったが、醜男は、顔や全身の痛みで、砂から、しばらく立ち上がれずにいた。 それでも、砂から這い出た。 あたりを見ると、踏まれたのは、身体だけではなかった。リュックも当り前のように踏みつけられ、中身が散乱している。 そこで、醜男は、あんパンのことを思い出した。

あんパンは、どこだ? あせりが背中を駆け抜け、 まさか、あんパンを手に拾って持っていかれたのでは?と思ったが、お嬢様学校の女の子たちが、そんなものを拾う筈もなく、 すこし離れた場所で、それは無残に転がっていた。たぶん、サッカーボールのように蹴られたあとに、部員たちから、遠慮なく踏まれたのだろう。 昨夜、食べたくても口に入れることができなかったあんパン。見ると、パンの皮には、シューズの靴底の深い模様が、血と一緒に複雑に刻まれている。 醜男は、さすがに、あんパンを口に入れることを、一瞬、ためらったが、けっきょく、空腹には勝てなかった。







小説(官能小説) ブログランキングへ




踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \ 784



天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784



ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ

KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、
各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。
Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。
もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます。

 |  リブログ(0)

テーマ:


ここでは以下のkindle本の無料サンプルを公開しています。
(kindle本のサンプルは縦書きですがweb用に読みやすいよう横書きにし、ルビ等など再度編集していますので実際の文章とは違います。)






* この作品は、2006年4月に単行本として刊行された「踏まれたい/ 葉桜夏樹著」のkindle版です。一部、加筆・修正はしていますが内容に大きな変更はありません。

駅で降りたときから吐き気がしていた。駅前からバスに乗ると、すぐに車に酔ってしまい、窓から外を見ていた。町は都会的に洗練されてはいたものの、記憶にある風景と、たいして、変わってはいなかった。彼が住んでいた団地の近くで、バスを降り、しばらく歩くと、橋が見えた。その橋を渡りながら、欄干から下をのぞくと、川には魚がおよぎ、川べりもきれいに整備されている。

上流には高級住宅街があり、その足もとに団地がある。その団地に足を踏み入れると、想像以上に建物は老朽化していた。黒ずんだ外壁は、ひび割れ、窓の上についたコンクリートのひさしの所々は落ちて、ベランダの手すりも、錆びて腐っている。駐車場には、ナンバーの外れた廃車が、何台も放置され、薄汚い犬が、エサを嗅ぎまわるように歩いている。どこからともなく漂う、糞尿の臭いや、重く湿った空気のせいで、私は団地のブロック塀の陰にかくれると、今度こそ吐いてしまった。

電柱に、彼の葬儀を案内する看板を見つけ、それにしたがって歩いた。どうやら、葬儀は団地の集会場でやるらしく、花輪とで飾られた建物があらわれた。入口で受付を済ませ、建物の中に入ると、かんたんな祭壇があった。遺影を見ると、変わり果てた顔の彼が、不明慮な笑みを浮かべながら、私を見ている。私は会場にならべられたパイプイスの一番うしろの席に腰をおろした。

ほとんどの人が近所の寄り合いにでも来たような普段着の格好をしている。喪服を着ているのは葬儀屋らしき業者の人間が、数人と、若い女がひとりだけだった。女は不自然なほど目立っていた。遠くにいても、すぐに目に飛び込んでくるほど輝いていた。美しさに加え、気品もあり、葬儀場にいた人々は、死んだ彼との関係を想像しているようだった。女はうつむいていたが、そこに悲しみのようなものはなく、むしろ、清々しくさえ思えた。女は自分に注がれる人々の視線を平然と束ねていた。

葬儀が終わり、私はそそくさと会場をあとにした。バスには乗らず、歩いて、駅へとむかった。途中、湿った空気が、大粒の雨となり、白煙が地面を這う中を、私は駅へと駆けた。雨の中を傘もささず、死んだ親友を両手で持って歩いていた彼の姿を憶えている。 灰色の校庭で雨に溶けてゆく彼の輪郭。その彼も、この世には、もういないのだ。

私はぬれた視界の中で、だんだんと、彼の死を認識しはじめていた。そして、彼の存在の大きさを思った。彼からすり込まれた原理は、私の中で、今も機能していた。駅に着き、雨の餌食にされた私は、喫茶店で休むことにした。コーヒーとサンドイッチを注文し、窓際の席に腰をおろし、そこから外をながめながら、もうひとつの用事のことを思っていた。暗い感情が、濁流のように押し寄せ、しばらくたじろいでいたが、それでも、上着のポケットから携帯電話を取り出すと、思い切って、昔の恋人に電話をかけてみた。 お手伝いさんらしき人が最初に出て、それから、彼女の母親にかわると、私は自分の名前を告げた。そして、 「いますか?」とていねいな口調でたずねた。

母親は、私のことをまだ憶えていてくれたらしく、
「ちょっと待ってね」と彼女につないでくれた。
「いつ戻ってきたの?」
それが彼女の私への最初の言葉だった。
「今日…」と私はこたえた。
「そう…」
「駅前の喫茶店にいる。会えないか?」
返事はなかった。
「来てくれるまで待っている」と私は早口で言った。
「迷惑よ」
彼女の言葉を胸に飲み込み、
「迷惑はわかっている」と私はいっぽう的に電話を切った。

黒いネクタイをゆるめ、イスにもたれた。自分の身を支えるのも億劫になるほどの気だるさが、全身をおおった。死んだ彼の声が頭で鳴り響いている。私は、激しく首をふると、タバコに火をつけた。



彼をはじめて見たのは高校三年の春だった。クラス替えの際に、私の席の前に座っていたのが彼だった。彼はクラスで目立っていた。いや、学校全体でも、たぶん、そうだったと思う。それは容姿が良かったとか、性格が良かったからとかいう、彼の存在を肯定する理由からではなかった。

異常に背が低いわりには、やたら顔が大きく、頭には髪の毛がなかった。まぶたは火傷でただれたように垂れさがり、唇は腫れたようにめくれ上がっていた。彼がそのような容姿になった原因は、子供のころの大病にあった。  彼はほとんど誰とも口をきかなかった。無表情で、いつも下をむき、怯えていたのは、「いじめ」にあっていたせいだった。

休み時間になると、教室のうしろで、彼はいじめグループからおもちゃにされていた。プロレスの技をかけられたり、ボクシングのサンドバッグにされたりと、好き勝手にされていた。彼にとっては、子供時分から続く、「受難」という名の日課だった。  クラスの雰囲気にも慣れた制服の衣替えのころ、彼の噂を耳にした。興味深い内容だった。


無料サンプル②へ続く




踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \784


天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ
KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます


小説(官能小説) ブログランキングへ

 |  リブログ(0)

テーマ:
無料サンプル①の続き

 
彼に好きな女の子がいるというのだ。相手は同じクラスの佐伯奈美で、前から密かに想い続けているとのことだった。  佐伯奈美は、学内では知らない者がいないほどの美人だった。当然、男子たちからも人気のある女生徒だった。お嬢様ふうの清楚さ、さっぱりとした性格、女子たちにも評判が良かった。彼が、奈美を密かに想うのも無理のないことだった。だが、冷静に考えてみるとわかることだ。彼の容姿や暗い性格を好きになる女子が、この学校にいるとは思えなかった。ましてや、奈美から相手にされることなど、有り得ないことだった。  

彼はクラスの女生徒たちにも、よくからかわれていた。赤星、と呼び捨てにされ、その口ぶりには、強い蔑みが込められていた。女子の中には、赤星の持ち物に触れると、露骨に嫌な顔をする子も多かった。あるときなど、赤星が机から落としたノートを、数人の女子たちが、わざと踏みつけていったこともあった。ノートは、たちまち、彼女たちの上靴の靴底で汚れ、彼が書いた文字も、彼女たちの靴あとで見えなくなっていた。

そのような状況にあっても、なぜか、奈美だけは違っていた。彼女だけは赤星のことを「君付け」で呼んでいた。赤星に対して、そうすることが、不自然に思えるほど、普通に接していた。赤星がいじめグループから、それ以上のひどいことをされなかった理由も、奈美の存在が大きかった。男子たちは奈美に嫌われたくないために、彼女の前では、赤星に手を出さなかったのだ。

赤星の噂を知ってから、彼を観察しているうちに私はあることに気づいた。彼が奈美の足ばかりを見ていることだ。奈美が席を立って、教室を出ていくときも、授業中も、体育の時間も、彼の目は奈美の足に注がれていた。  赤星が奈美のことを好きだという噂は本当だと思った。足ばかり見ていることについても、彼にそのような性癖があるのだと解釈していた。

しかしながら、赤星の視線が追いかけていたのは、奈美の足ではなく、彼女の上靴だと気づいた。なぜ、それほどまでに奈美の上靴ばかりを見ているのか?  その謎が解けたのは、それから数日後のことだった。日直で最後に教室を出ようとしたとき、クラスの友人のひとりが、私をつかまえて言った。
「おもしろいものが見られるから来いよ」
「何だよ?」と私。
「滝沢が、また赤星にちょっかいを出しているぜ」  友人が声をころして耳打ちした。
「赤星?」 「いいから、来いよ」  
しかたなしに、私は教室の扉に南京錠をかけると、友人のあとについて歩いた。

廊下の窓から西日が射している。定期試験前日のせいもあってか、校舎に人の姿はなかった。校庭を、ちらちら見ると、サッカーボールが風で転がっている。どちらかといえば、赤星のことよりも、私は明日の定期試験のことが気になっていた。

連れてこられた場所は、生徒専用の下足箱がある玄関口だった。クラスの下足箱の前で、いじめグループがたむろしていた。私は友人とその様子を校舎の柱の陰から見ていた。体の大きな連中に囲まれた小柄な赤星は、まるで、小学生のようだった。背中を丸め、下をむいた赤星に、そばで滝沢がしきりに何かを指図している。

滝沢はいじめグループのリーダー格だった。 「どうする気だ?」と友人に私はたずねた。 「わからない」と友人は首を横にふった。  赤星が下足箱から誰かの上靴を取り出した。ふちに赤いゴムがついた女子用の上靴だった。 「クラスの女子のだ」  友人の言葉は緊張で乾いていた。

「誰のだろう?」と私がつぶやくと、  友人は目を細め、小声で、 「たぶん、奈美のだ」とこたえた。  赤星は、彼女の上靴を両方の手のひらに置いて、大事そうにながめている。 「何をする気だろう?」  友人が興味深そうな声を出した。私にもわからなかった。 赤星が奈美の上靴に顔を近づけ、舌を出した。 「汚ねえ」と友人が声をあげた。

赤星が奈美の靴底を舐めている。ときどき、にがそうに顔をゆがめたが、目を閉じると、また舌を動かし、靴底に付着した学校内の塵をぬぐうように、ゆっくりと、舌を這わせている。いじめグループも、赤星の様子を、それが神聖な儀式であるかのようにして見守っている。唾を飲み込むたび、赤星は咳き込み、苦しそうな表情をしていたが、彼の行為を止めに入る者はいなかった。

そこに居合わせた各々の残酷な好奇心がそれを拒んでいた。 「今日はここまでだ」 奈美の靴底を舐め終えた赤星の手から、滝沢が上靴を取りあげた。そして、奈美の上靴を、赤星の目線の高さに持ってくると、滝沢は、 「明日もこのくらいていねいにやれ。いいな。卒業式まで、毎日、奈美の上靴をきれいにしてやるんだ」 それに赤星がうなずいた瞬間、風船が割れたような音がした。滝沢が、奈美の上靴で、赤星の右の頬を打ったのだ。赤星は悲鳴をあげて、右の頬を手で押さえると、その場にうずくまってしまった。 いじめグループは、そんな彼を無理に立たせると、右の頬にある彼の手を強引に離し、その下にある赤く腫れた靴底の刻印を見て、いっせいに笑いはじめた。

しかし、滝沢の顔に笑いはなかった。 「左の頬も出せよ」と滝沢が言った。 その言葉に、いじめグループの笑い声が消えた。滝沢の目は本気だった。赤星は観念の臍(ほぞ)を固めたのか、左の頬をゆっくりと持ち上げると、滝沢に差し出した。赤星の行為に、滝沢の目が険しくなった。奈美の上靴を持った手が、小刻みに震え、滝沢が大きく目を見開いた。そして、その手を高くふりあげると、赤星の左の頬を、思い切り、上靴の靴底で叩いた。

そのようなことがあってから、私は奈美の靴底を目で追うようになっていた。奈美の席は私の斜め前で、見ようと思えば、いつでも見ることができる位置だった。赤星が自分の靴底を毎日きれいにしていることなど、奈美が知る由もなかった。奈美が女子トイレの床を踏むのを、廊下に落ちている塵を踏むのを、ときには上靴のまま外を歩くのを見ながら、彼女の靴底を舐めた赤星の気持ちを考えた。

奈美の靴底は、どれだけ汚れているのだろう、と女子が体育をしているとき、こっそりと彼女の上靴を手に取ってながめたことがある。汚れは想像以上だった。靴底の凸凹模様の表面には、黒い塵のようなものが、彼女の全体重で圧縮されたようにして付着している。いくら好きな女の子の靴底とはいえ、私にはとてもできないことだと思った。  赤星は学校を休みがちになっていた。無理もないことだと思った。奈美の靴底を毎日舐めているのだ。病気にもなるだろう。

赤星の欠席が長く続き、心配した彼の母親が学校に相談に訪れた。 「息子は学校から戻ると、家でいつも腹痛をおこすのですが、学校でいじめにあっているのではないでしょうか? あの子は子供のころから、いつもいじめにあっていましたから」  クラスの担任は、赤星の母親から聞いたままを、教室でみんなに話すと、英語の授業を取りやめ、クラス会を開いた。

皮肉なことにクラス会で司会を務めたのは奈美だった。赤星の病欠のことで意見は出なかった。担任は教室のすみにあるイスに座り、腕を組んだまま、ため息をついていた。赤星の病欠について本気で考えている者など誰もいなかった。机の下に隠した参考書をのぞく者や、私語をする者など、話し合いはまとまらなかった。けっきょく、病欠の理由は赤星の体に問題があるということで落ち着いた。

クラス会が終わったあと、私は担任から職員室に呼び出しを受けた。 「お前は生徒会だし、赤星の家とも近いし、悪いが、学校の帰りに赤星の家に行って様子を見てきてくれないか?」  担任は困り果てている様子だった。 しかし、私には関係のない、どうでもいい話だった。返事をしないでいると、 「今日は何か用があるのか?」と担任が私の顔をのぞき込んだ。 「塾がありますから…」と私はとっさに嘘をついた。 担任がうなだれた。

私が通っていた高校は私大付属の進学校だった。大学進学を何よりも重んじる校風で、学校で何か問題が起きたとしても、それを指導する教師たちも、どこか逃げ腰で、進学に関する問題以外は関わりたくないといった雰囲気を漂わせていた。また、今回の件にしても、生徒の立場からすれば、お仕着せの見え透いた友情やらより、優先すべきは、目の前に迫った大学受験であることくらい、担任もよく理解している筈だった。 「先生が行けば良いではありませんか?」と私は言った。それは、お前の仕事ではないかと言いたかったが、口にはしなかった。 「俺が行っても何も話してはくれないだろう」 「僕が行っても一緒ですよ。赤星とは口もきいたことがないのですから」  担任はさらにうなだれると、まるで、多額の借金でも背負い込んだような顔つきで、ため息をついた。

担任のそんな哀れな姿を見ていると、滑稽さを通り越し、それが担任のいつもの手だとわかってはいながらも、すこしばかり、気の毒になり、協力してやってもいいかという気になった。 「わかりました。塾に行く前に、すこし時間がありますから、彼の家に行ってみます」 「おお、そうか。行ってくれるか?」  担任の顔がほころんだ。 「ええ…」と私は曖昧にうなずいた。そして、僕も心配ですからね、と付け加えた。

もちろん心配などしていなかった。せっかく協力してやるのだから、せめて、内申書や大学進学の推薦枠の件で、すこしでも、有利に働けばと思っただけだった。  学校の帰り、担任が書いた地図を頼りに赤星の家にむかった。担任は、私の家から彼の家は近いと言ったが、けっして、そんなことはなかった。赤星の住んでいる団地は、ガラが悪い人たちが多いと言われる地域にあった。

子供時分、あの地域には行ってはいけないと親からきつく言われたことを憶えている。  泥水が流れる川の橋を渡ったところで、団地が見えてきた。外壁の黒ずんだ、古い団地だった。赤星の団地の棟にむかって歩いていると、突然、背後から犬が吼えた。ふり返ると、ベランダの格子から犬が私をにらみつけていた。公営の団地にもかかわらず、犬を飼っているのは、そこだけではなかった。よく見ると、まわりは犬や猫だらけで、どこからともなく、漂ってくる糞尿の匂いに、私は鼻をつまんで歩いた。

(無料サンプルはここまでです)

無料サンプル①に戻る



踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \784


天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ
KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます


小説(官能小説) ブログランキングへ
 |  リブログ(0)

テーマ:


* この作品は、2006年4月に単行本として刊行された「踏まれたい/ 葉桜夏樹著」のkindle版です。一部、加筆・修正はしていますが内容に大きな変更はありません。



内容紹介

(あらすじ)

女性に虐げられ、それでも女性を女神と崇める男たちの耽美な物語。その容姿の醜さ故に、幼い頃から、いじめを経験してきた赤星。女性たちからも、踏みつけにされ、虫同然に扱われる屈辱と苦痛の日々。しかし、彼にとって、それは「快楽」だった。やがて、彼のそんな生き方に傾倒していく私。女性の残酷さに翻弄された男たちに待っていた最後の悲劇とは......。

(内容より一部抜粋)

凛子は、私の指示通りに、部屋のすみに行くと、そこから私を見ていた。小柄な凛子がとても大きな女性に見えた。凛子がこっちへむかって歩いてくる。両手の甲には、さっきの痛みがまだ残っている。黒いブーツが迫り、私は目を閉じた。そして、踵の先が右手を直撃した瞬間、激痛が全身に走った。身体じゅうの血が逆流していくようだった。

凛子から与えられる「死」への憧憬と、罪悪感が、私の中で激しくクロスした。変わり果てた彼らのそばには、凛子のハイヒールがある。凛子は私や彼らを見下すようにして立っている。彼らの肉片で汚れたハイヒールが神々しくさえ思えた。私は彼らの「死」を自分の「死」としてとらえていた。凛子を、女神と見立て、その女神から与えられる「死」にエクスタシーを感じていた。 





踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \784


天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ
KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます


小説(官能小説) ブログランキングへ
 |  リブログ(0)

テーマ:
保育園で醜男は、ひとりだけ、裸足だった。貧困家庭だったこともあるが、 子育てに無関心な母親から、上靴を買ってもらえなかったのだ。 そればかりか、冬でさえ、靴下もはかせてもらえなかったので、 見かねた保育園側も、彼の母親に上靴を買え与えるように促したが、 子供は裸足が一番とか、そんな贅沢なものはとか、へ理屈をいうだけで、けっきょく、ムダだった。 保育園は、園にあった古い上靴を醜男にあてがったが、彼はそれをはかず、 冷たい保育園の床を、あいかわらず、ペタペタと素足で過ごしていた。

ところが、ある寒い日のこと、醜男は担任の美央先生から上靴で素足を 思い切り踏まれた。踵の靴底のギザギザの滑り止めが、醜男のちいさな足の甲に食い込んだ。 もちろん、美央先生はわざとではなかった。うっかりだ。うっかりで、たまたま足を後ろに引いたときに、そこに醜男の 素足があっただけのことだった。それでも、醜男にしてみると、大人の女性から上靴で思い切り踏まれ、 あまりの痛みに、大声をあげた。美央先生は驚いた。彼女は、自分が踏んだちいさな足に 上靴の模様が深く刻まれていることに胸が痛んだ。それから、踏んだちいさな足が大丈夫か確認すると、 彼を胸に抱きしめ、ごめんね、ごめんね、と何度もあやまった。

そのときの、美央先生の胸の「感触」や「ぬくもり」、そして甘い「女の匂い」が、幼い醜男の心に焼きついた。 醜男の家は母子家庭だった。母親はもう若くはなかったが、彼が生まれると、すぐに出ていった父親の代わりに、 次々と男を部屋に引き入れる色情狂で、それは、もう、「母親」ではなく、生々しい「女」だった。 何よりも、乳臭い育児を嫌悪し、醜男が甘えることを、いっさい、許さなかった。ものごころがついたころから、 風呂でさえ、ひとりでしか、入った憶えがなく、赤子のころから、母親の肌の「ぬくもり」を知らずに育った 彼が、大人の女性、それも若くて美人の女性に抱かれ、そこに「ぬくもり」を求めたのも自然だった。

しかし、美央先生は、醜男の魂胆に気づくと、すこしずつ、彼を避けるようになった。 足元に手を差し出してくる醜男に対し、うっかり、その手を踏んでも、上靴の靴底に彼の手を感じていたにもかかわらず、 知らぬふりをした。目が合っても、冷たく彼を一瞥するだけで、聞こえないような小声で、「キモい子」とつぶやいた。 それでも、醜男は美央先生が好きだった。どうにかして、彼女をふりむかせたかった。もう一度、美央先生の 胸に抱かれたかった。それには、もっと痛い目にあわなければいけないと幼い頭は考えた。

そんな、ある日の夕方、醜男は、ひとりで、保育園にむかった。保育園に着き、門扉から園舎をのぞくと、 園児はいなかった。先生たちだけが残っているようだった。しばらくすると、帰り支度を終えた、美央先生が 現れ、門扉にむかって歩いてきた。白いロングコートを羽織り、踵の細い黒いロングブーツをはいている。 醜男は門扉の柱の陰に身をかくすと、美央先生がやってくるのを待った。

途中、美央先生が小走りになる。そして、すぐ目の前に黒いブーツが現れたとき、醜男は右手を思い切りのばした。 右手の甲を美央先生のブーツのヒールがもろに踏んだ。それも、小走りだったので、片足のブーツの踵一点に全体重をのせた形で、 勢い良く、醜男のちいさな手に飛び乗った。醜男は、一瞬、何がおきたのか、わからなかった。 あまりの肉体苦で息がとまったのだ。酸欠状態が、しばらく続き、やがて強烈な痛みが襲うと、醜男は地面を転げまわりながら、 大きく目をひらいた。しかし、すでに美央先生の後ろ姿は遠く、彼の泣き声も届かなかった。



 

踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \784


天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784
 

kindle本を、スマートホン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ
KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます


小説(官能小説) ブログランキングへ
 |  リブログ(0)

テーマ:
夕暮れの静まり返った公園、大学生らしきカップルがいる。つい、いましがたまで、 仲良くベンチで並んで腰をおろし、ふたりは楽しそうに談笑していたが、女子学生が 帰ろうとベンチから腰を浮かせたとき、男子学生が、突然、彼女のロングブーツを頭にして うつぶせになってみせた。なんの真似かと女子学生は思ったが、はいているブーツで踏んでください、 と盛りのついた犬のような目で男子学生が言う。

女子学生は驚き、それには、すぐにこたえず、立ち尽くしたまま、足元の男子学生をながめた。 とりあえず、わけを訊いたところ、男子学生がぼそぼそと語りはじめた。 男子学生が言うには、女性から踏まれることに子供のころから憧れていた、そして、彼女ができたら、 まず一番に、そのことをやってもらうつもりだったらしい。

まず、一番? 女子学生は違うと思った。仮に、踏むにしても、踏まないにしても、それには流れというか、一連の手続きがある気がした。 まだキスもしていなければ、 セックスもしていない。手をにぎったことさえあやしい。つき合って、まだ一週間と経っていない。それなのに、 いきなり、自分の性癖を告白するだろうか? そう考えると、女子学生はだんだんと腹が立ち、男子学生が身勝手な気がした。 いっぽう、そんな女子学生の気持ちも知らず、男子学生はいかにも無防備な姿で、いまか、いまか、とすでに放心した顔つきでブーツで踏まれるのを待っている。

ほんとうに踏んで大丈夫なの? 痛いだけでは、すまないわよ、ケガするわよ、と女子学生は険しい顔つきで脅かしてみた。 これで改心してくれたら、と思ったが無駄だった。 男子学生は覚悟しているらしく、それに無邪気にうなずき返すだけで、その顔を見て、女子学生も冷めた。 そして、ただし、と付け加えた。踏んであげてもいいわよ、でも、そうしたら、あんたとは今日でお別れよ、 私は女から靴で踏まれて喜ぶような彼氏なんか、いらないわ、どうする? 踏んだら、即、お別れよ、と女子学生がそう言ってにらんだ。 男子学生にあたえた最後のチャンス、そして最後通告。もう、それ以上は、たずねることを許さない女子学生の目だった。

はじめて見せた女子学生の顔に、男子学生は迷った。彼女は本気だと思った。彼はこれまで女性に縁がない人生だった。 そんな彼にとって、女子学生ははじめての女性だった。それも、とびきりの美人で、性格もいい。 こんな美人のロングブーツで踏まれるなら、それこそ死んでもいい。 死ぬほどの価値がある。 でも、踏まれることで、彼女も失いたくない、ああ、僕はどうしたらいいんだ、と男子学生が考えあぐねていると、 後頭部に硬いものが突き刺さった。まさか? と思ったが、穴があいたような強烈な重みが後頭部の一点に集まり、 痛みが頭の芯から全体にひろがると、今度は背中に尖った激痛が襲ってきた。男子学生は、踵のちいさな靴をはいた大人の女性から踏まれることが、 これほどの肉体苦だとは思わなかった。もっと、甘美なものだと想像していた。ところが、現実は、尖った踵が身体の肉に食いこむたび、 えぐられるような激痛に、悲鳴をあげそうになる。すでに後悔していた。僕が悪かった、助けて、と悲痛な声が口からこぼれた。 しかし、女子学生は、それでも身体ぜんたいを両足のブーツで踏みまわり、最後に、終わりよ、とだけ冷たい口調で返すと、男子学生の身体からおりて公園の出口にむかった。






 

踏まれたい アルトカルシフィリア3 / 葉桜 夏樹 著  kindle版 \784


天使の踏みつけ アルトカルシフィリア2 / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784


ハイヒールで踏まれて アルトカルシフィリア / 葉桜 夏樹 著 kindle版 光英出版 \784
kindle本を、スマートフォン、PCでお読みいただくには無料Kindleアプリが便利です。
Kindle無料アプリ
KindleアプリはWindows PC、Macをはじめ、各種スマートフォンおよびタブレットでご利用いただけます。Kindleアプリがインストールされていれば、一度買った本をどの端末からでも読むことができます(*)。もちろんKindle端末をお持ちであれば、同じように読書を楽しめます


小説(官能小説) ブログランキングへ

Fire タブレット 8GB、ブラック/Amazon
¥8,980
Amazon.co.jp

 |  リブログ(0)

AD

Amebaおすすめキーワード

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス

ランキング

  • 総合
  • 新登場
  • 急上昇
  • トレンド

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。