行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず
                  鴨長明「方丈記」
 
 鴨長明は神職の家系に生まれました。父親はそれなりに高い地位にいましたが、長明は青年時代長い間要職に就くことができませんでした。四十も半ばを過ぎて(当時としては高齢です)宮廷歌人の1人となりましたが、挫折を味わい、やがて出家します。
 
 「方丈記」は長明が58歳の時の作品で、原始経典の一つである「法句経(ダンマパダ)」の影響を受けているとも言われ、無常感が溢れ出ています。自身の人生を想い、この名作を生み出したのかもしれません。
 
 川は長い間流れ続けますが、その水は同じではありません。常に移り変わっています。我々も1人の人間ではありますが、内面は一瞬一瞬移り変わります。幸せな気持ちでいても、嫌な思い出が頭をよぎると怒りで満ちあふれます。怒りもまた些細なきっかけで消え別の感情へと変わります。こうした「瞬間の変化」もまた輪廻だとする考えもあります。
 
 誰もが悩み、苦しみ、落ち込む事がありますが、それもまた一時の事です。「悩みが続いている」と思える時期さえも、よくよく自分の心を観察してみると、苦しみを忘れている時間、何気ない喜びを感じている時間がきっとあります。 
 
 苦しい時期であっても、「やがてこの状況も変わっていく」と信じ、為すべき事をしていけば、幸せの割合が少しずつ増えていくと思うのです。