この小説は以前も紹介した「風の市兵衛」シリーズの17冊目の本である。序は一人のうらぶれた浪人が、陸奥岩海領南城家の門前に立った。



そして昔の縁を頼り、百日咳で苦しむ幼い息子の薬料のため金子の用立てを頼むのであった。面会に応じた家士はさげすみながらも、上司との仲立ちをして、浪人藪下三十郎は施しを受けるのである。



一方主人公、風の市兵衛は飲み仲間の同心「鬼しぶ」こと渋井の口利きで、配下の蓮蔵から岡場所「麦飯」の女のことで、掛け合いを依頼される。市兵衛は気は進まないが、引き受けることとなり、「藪下」という岡場所に出かける。



手打ちがなり、市兵衛と三十郎はお互いの力と人柄を認め、二人は友情を持つようになる。市兵衛は三十郎の家で酒を酌み交わす仲となった。



三十郎は10数年前に主家を欠け落ちした侍であったが、ある日藪下の掛け取りの帰りに、昔なじみとすれ違う。そして後日二人は邂逅しかつての不祥事と向き合うことになるのだが、その際ともに不正に手を染めた上司たちの裏切りを知ることになる。



三十郎は市兵衛に会い自分の後顧を頼み、用人になってくれと依頼する。その必死の思いを感じて市兵衛はその依頼を引き受けるのだが…。

いつものように市兵衛の鮮やかでさわやかな捌きは、三十郎の命を賭した思いを実らせていく。