野人がエテ彦を相棒に選んだのは驚異的な馬力だった。
観音崎の潮流を乗り切るには人並み外れた馬力かスピードしかない。
潜る方はからっきしダメな男だが、浅い場所なら問題ない。
観音崎で潜った男はいないから背が届きそうな場所にもうじゃうじゃサザエがいるはずだ。
エテ彦がガラにもなく言った。
「おい 本当に大丈夫か? バチ 当たらんかのう」
「バチなんぞ当たるかい それに秘策もある」
「なんじゃ・・それ」
「観音様に向かって言うんじゃい」
「なんて・・・?」
「貝・・・頂戴ね・・と」
「それ・・が・・秘策か?」
「それで十分! あんなとこ誰も潜れんし獲っても誰も困らん」
「観音様は?」
「お前・・仏様のラクガンや果物・・頂戴したことないんか?」
「気持ちだけ伝え 口が無くて食べられない仏様に代わって食ってあげるのだろうが」
「神主さんだってお払いが終われば供物のタイ持ち帰って食うだろうが」
「わかったか 観音様だって食うに食えず 特大のサザエやアワビ目の前にしてストレスが溜まっちょるはずなんじゃい」
「観音様が家までついてきて一緒に味わうんか」
「そうよ 観音様の為に潜るんじゃ 感謝されるに決まっちょるわ」
「恐れ多いのう・・」
「積み重ねた罪を償え そのバカ馬力 観音様の為に使うんじゃ わかったか」
「・・・ ・・」
木造のポンコツ船は一路観音崎を目指した。