これは野人が丁度ブログを始めた頃の2年前に「昼下がりのジョーク」で紹介した記事だ。
今も野人のお気に入りで傑作。これをさらに詳しくリメイクした。
スターウォーズ同様、ふんどし紛争、サメに食われたセーターのプロローグと思って読んでいただければ良い。
笑いたくない人は読まないことだ・・・
黒いアワビのサンバ
越中ふんどし男の故郷は茨城県の大洗海岸で年中波が荒い。
夏休みに越中の彼女と三人で帰省した。
越中の父は高齢で耳が遠い。
戦時中は南方の島で魚を調達する係だった。
海に投げ込んだ手榴弾で浮いて来た魚を回収、その時の事故で鼓膜を破っていた。
越中の父が言うには、ある場所へ行くとアワビがうじゃうじゃいるらしい。
ところがその場所と浜との間に洗濯板みたいな幅広い岩礁が延々と続くからとても泳いで行けない。
船で大回りしても、いつも大きなうねりで波が砕け近づけない。
つまり誰も潜ったことがないのであくまで予想だった。
洗濯板と浜の間は静かだが 毎年何人か洗濯板に吸い込まれミンチになると言う。
六尺男の探究心と本能は燃え上がり、越中男もそれにつられた。
翌日、「アワビに命をかけよう」と越中と六尺は義兄弟の杯を交わした。
浜に立った二人の腰にはもはや「ふんどし」はなかった。
彼女が・・「私もうこの恥ずかしさに耐えられない!」と海水パンツを買ってきたのだ。
「人目を気にして人間がやれるか!」
二人とも憤慨したが泣く子と女には勝てない。
「やんなっちゃうよなあ~!」と・・
言いながら仕方なくそれにしたが・・越中は赤の花柄で六尺は紫の花柄・・競泳用のビキニパンツでペアだった。
恐怖の洗濯板に花柄パンツだけの徒手空拳で挑んだがまったく気合が入らない。
いつもと勝手が違って妙に締め付けられる・・・
水は濁って見えにくく、岩にぶつかりながらも何とか本能ですり抜けると外洋の水は澄んでいた。
そこはアワビの宝庫であちこちにアワビが・・・
ペタ
6mほど潜ってアワビをノックして浮上、驚いたアワビが移動を始めるから海面でその様子を見極め、素早く潜水して指先でタイミング良くちょいと起こすと簡単にひっくり返る。
掴めばアワビは硬く吸いついてしまうから力学のコツがいる。
これは小学生の時に考案した六尺の秘技、「省エネアワビ捕り」で、岩の上や石の下は徒手空拳で簡単に捕れる。岩の隙間のアワビだけ道具が必要だ。
越中は何度も失敗していたようだ。
しかし・・入れ物がない。
仕方なく無理やりパンツに詰め込んだが、5個も入れると前がモッコリどころかパンパンに膨らみ、しかも痛~い!・・
後ろにもアワビを入れると、お尻は快感なのだが、前は地獄になり腰が引けてへっぴり腰になる。
後ろで締め付けられたアワビはもがき、割れ目に入ろうとするから始末が悪い。
動き辛いしコーモンから海水が入りそうな気配だ。
毛をはさんだままアワビがパンツの前でも移動するからタマ乱・・
つい・・
「う・・動くんじゃねえ このアワビ!」
と叫びたくなる。
うねりは3m近くあるのですぐに気持ち悪くなり、水中で上下がわからなくなってきたので一端引き揚げた。
回復して再度挑戦、結局六尺が12個で越中がゲットしたのは2個、計14個の大きなアワビが捕れた。
パンツから取り出す時、「イテテ!」とやるものだから、越中の彼女は
「私・・そのアワビ 食べられない・・」
大漁アワビを見た越中父は感激、何度も「たいしたもんだあ・・」を連発、それ以来、訪ねると必ず「お~アワビの六尺君か~」だった。
その日の夕食はアワビのフルコースだったが、食べられないと言った彼女が一番旨そうにパクパク食べていた。女はわからない・・・
しつこく洗っていたからアワビに安全安心マークがついたようだ。
殻ごと煮つけたアワビを食べていた越中の父が・・・
「妙なもんじゃなあ このアワビ毛が生えとるぞ」
口から縮れた毛を取り出して・・言った
越中の彼女は下を向いたまま顔を上げない・・・
越中は・・知らん顔をしている。
何か言おうと思ったが
言葉が出てこない ・・・
う~ん ・・・ ・・
仕方なく・・言った・・
「お父さん・・アワビにも思春期が・・」
うつむいた越中の彼女の肩はふるえていた。
その心中は・・喜びか苦しみかはわからない。
女心よりもアワビのほうが・・よほど素直だった。
完